落ちこぼれギフト【ダメージ反射】は諦めない ~1割返しから始まる異世界冒険譚~

シマセイ

文字の大きさ
35 / 125

第36話 崖上の死闘と空の脅威

しおりを挟む
Eランク冒険者。
その新しい響きに、アルトは身が引き締まる思いだった。

ギルドの依頼掲示板には、Fランクの頃には見られなかった、より挑戦的な依頼が並んでいる。
アルトは、その中から、ギルドマスターが昇格の目安の一つとして挙げていた依頼――「崖地に生える希少薬草の採取」――に挑戦することを選んだ。
戦闘だけでなく、登攀という新たなスキルが求められる、未知への挑戦だ。

ギルドマスターから依頼の詳細を聞き、アルトは必要な準備を整えた。
薬草の名は「クリフハング」。
東の山脈にある「風切り崖」と呼ばれる険しい崖の中腹に生えているという。

「足場が悪く、常に強風が吹いている。滑落には十分すぎるほど注意しろ。それに、あの崖には獰猛な鳥の魔物、『ロックホーク』が巣を作っているという話もある。薬草に気を取られて、空からの襲撃に気づかない、なんてことのないようにな」

マスターの忠告は、アルトの気をさらに引き締めた。
アルトは、登攀用に丈夫な麻のロープと、岩の隙間に打ち込むための簡易的なハーケン(岩釘)、そして滑り止めの効果が高い革手袋を用意した。
リナには、改めてクリフハングの特徴――岩に張り付くように生え、青紫色の小さな星のような花をつける――を教わり、万全の体制を整えて出発した。

村から山道を歩くこと数時間。
アルトは、目的の「風切り崖」の麓に到着した。
目の前にそそり立つのは、文字通り、天を突くかのような巨大な岩壁。
吹き付ける風が、ゴウゴウと音を立てて崖肌を削り、アルトの外套を激しくはためかせる。
見上げるだけで、その険しさに圧倒され、足がすくむ思いだった。

「……よし」

アルトは一度深く息を吸い込み、覚悟を決めた。
ロープの一端を、麓にある最も頑丈そうな大岩に、解けないよう何度も確認しながら固く結びつける。
そして、ハーケンと小さなハンマーを腰の道具袋に入れ、滑り止めの手袋をはめ、崖への第一歩を踏み出した。

一歩、また一歩。
アルトは、手掛かりになりそうな岩のわずかな突起や、足をかけられるくぼみを慎重に選びながら、ゆっくりと高度を上げていく。
全身の筋肉を使い、バランスを取りながら、慎重に、確実に。
岩肌は予想以上にもろく、時折、掴んだ岩がポロリと崩れ落ち、ヒヤリとさせられる。
吹き付ける強風は容赦なく体温を奪い、集中力を削ごうとする。

眼下に広がる景色は、息をのむほど壮大だったが、アルトにそれを楽しむ余裕はなかった。
今はただ、足元と手元、そして上へ、上へと意識を集中させるだけだ。
恐怖心と戦いながら、アルトは着実に崖を登っていった。

どれくらいの時間を登っただろうか。
崖の中腹、わずかに風が和らぐ、岩棚のような場所に出た。
そして、アルトはその岩棚の隅に、目的のものを発見した。
岩肌に、まるで張り付くようにして生えている、小さな植物。
風に揺れる、青紫色の星のような花。

「あった……!クリフハングだ!」

アルトは安堵し、思わず声が出た。
苦労して登ってきた甲斐があった。
アルトは、不安定な足場に気をつけながら、薬草を傷つけないよう、根元から慎重にナイフで切り取り、用意していた採取袋にそっと収めた。
依頼の目標数を確保し、これで任務は完了だ。

目的を達成し、あとは慎重に下山するだけ。
アルトが、ロープを伝って降り始めようとした、まさにその時だった。

キィィィーーーーッ!!

空気を切り裂くような、甲高く鋭い鳴き声が、崖全体に響き渡った。
アルトが驚いて顔を上げると、巨大な影が、太陽を背にしてアルトに向かって一直線に急降下してくるところだった!

翼を広げると3メートルはあろうかという、巨大な猛禽。
灰色と茶色の混じった羽毛、鋭く尖った鋼のようなクチバシ、そして獲物を掴むための、太く頑丈な脚と鋭利な爪。
ギルドマスターが警告していた魔物、ロックホークだ!
どうやら、アルトが彼らの縄張りを侵したことに気づき、怒り狂っているらしい。

「まずい!」

狭い岩棚の上では、まともな回避行動は取れない。
アルトは咄嗟に背中を崖の岩肌につけ、ショートソードを抜き放ち、構えた。
ロックホークは、恐ろしいスピードでアルトに襲いかかってくる。
その鋭い爪が、アルトの身に着けた革鎧を掠めた!

ガキンッ!
硬い革鎧が、爪の直撃を防いでくれたが、その衝撃は凄まじく、アルトの体勢が大きくぐらつく。
ロックホークは、一度アルトの上空を通り過ぎると、すぐに旋回し、再び急降下攻撃の体勢に入る。

空中を自在に飛び回る敵。
不安定で狭い足場。
これは、これまでのどの戦闘よりも厳しい状況かもしれない。
アルトは剣で攻撃を受け流し、あるいは鎧と反射で耐えるしかない。
しかし、相手は空中を高速で移動するため、攻撃を当てることすら難しい。

「こうなったら……!」

アルトは一瞬の判断で、ギフトの応用を試みることにした。
ロックホークが、再び鋭い爪を立てて急降下してくる。
アルトは、相手が攻撃範囲に入るギリギリまで引きつけた。
そして、ロックホークが目前に迫った瞬間、アルトは右腕を突き出し、集中力を高め、例の「衝撃波(仮)」を至近距離で放った!

「――ッ!!」

ドンッ!という鈍い衝撃音と共に、不可視の力がロックホークの顔面付近を直撃する。
狙い通り、ロックホークは一瞬、飛行のバランスを崩し、動きが乱れた。
ほんの一瞬の隙。
しかし、アルトにとって、それは千載一遇の好機だった!

「今だっ!」

アルトは、体勢を崩したロックホークの、がら空きになった翼の付け根あたりを目掛け、渾身の力を込めてショートソードを突き出した!
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

修復スキルで無限魔法!?

lion
ファンタジー
死んで転生、よくある話。でももらったスキルがいまいち微妙……。それなら工夫してなんとかするしかないじゃない!

備蓄スキルで異世界転移もナンノソノ

ちかず
ファンタジー
久しぶりの早帰りの金曜日の夜(但し、矢作基準)ラッキーの連続に浮かれた矢作の行った先は。 見た事のない空き地に1人。異世界だと気づかない矢作のした事は? 異世界アニメも見た事のない矢作が、自分のスキルに気づく日はいつ来るのだろうか。スキル【備蓄】で異世界に騒動を起こすもちょっぴりズレた矢作はそれに気づかずマイペースに頑張るお話。 鈍感な主人公が降り注ぐ困難もナンノソノとクリアしながら仲間を増やして居場所を作るまで。

最遅で最強のレベルアップ~経験値1000分の1の大器晩成型探索者は勤続10年目10度目のレベルアップで覚醒しました!~

ある中管理職
ファンタジー
 勤続10年目10度目のレベルアップ。  人よりも貰える経験値が極端に少なく、年に1回程度しかレベルアップしない32歳の主人公宮下要は10年掛かりようやくレベル10に到達した。  すると、ハズレスキル【大器晩成】が覚醒。  なんと1回のレベルアップのステータス上昇が通常の1000倍に。  チートスキル【ステータス上昇1000】を得た宮下はこれをきっかけに、今まで出会う事すら想像してこなかったモンスターを討伐。  探索者としての知名度や地位を一気に上げ、勤めていた店は討伐したレアモンスターの肉と素材の販売で大繁盛。  万年Fランクの【永遠の新米おじさん】と言われた宮下の成り上がり劇が今幕を開ける。

辺境貴族ののんびり三男は魔道具作って自由に暮らします

雪月夜狐
ファンタジー
書籍化決定しました! (書籍化にあわせて、タイトルが変更になりました。旧題は『辺境伯家ののんびり発明家 ~異世界でマイペースに魔道具開発を楽しむ日々~』です) 壮年まで生きた前世の記憶を持ちながら、気がつくと辺境伯家の三男坊として5歳の姿で異世界に転生していたエルヴィン。彼はもともと物作りが大好きな性格で、前世の知識とこの世界の魔道具技術を組み合わせて、次々とユニークな発明を生み出していく。 辺境の地で、家族や使用人たちに役立つ便利な道具や、妹のための可愛いおもちゃ、さらには人々の生活を豊かにする新しい魔道具を作り上げていくエルヴィン。やがてその才能は周囲の人々にも認められ、彼は王都や商会での取引を通じて新しい人々と出会い、仲間とともに成長していく。 しかし、彼の心にはただの「発明家」以上の夢があった。この世界で、誰も見たことがないような道具を作り、貴族としての責任を果たしながら、人々に笑顔と便利さを届けたい——そんな野望が、彼を新たな冒険へと誘う。

クラス転移したら種族が変化してたけどとりあえず生きる

アルカス
ファンタジー
16歳になったばかりの高校2年の主人公。 でも、主人公は昔から体が弱くなかなか学校に通えなかった。 でも学校には、行っても俺に声をかけてくれる親友はいた。 その日も体の調子が良くなり、親友と久しぶりの学校に行きHRが終わり先生が出ていったとき、クラスが眩しい光に包まれた。 そして僕は一人、違う場所に飛ばされいた。

チート魔力を持ったせいで世界を束ねる管理者に目を付けられたが、巻き込まれたくないので金稼ぎします

桜桃-サクランボ-
ファンタジー
金さえあれば人生はどうにでもなる――そう信じている二十八歳の守銭奴、鏡谷知里。 交通事故で意識が朦朧とする中、目を覚ますと見知らぬ異世界で、目の前には見たことがないドラゴン。 そして、なぜか“チート魔力持ち”になっていた。 その莫大な魔力は、もともと自分が持っていた付与魔力に、封印されていた冒険者の魔力が重なってしまった結果らしい。 だが、それが不幸の始まりだった。 世界を恐怖で支配する集団――「世界を束ねる管理者」。 彼らに目をつけられてしまった知里は、巻き込まれたくないのに狙われる羽目になってしまう。 さらに、人を疑うことを知らない純粋すぎる二人と行動を共にすることになり、望んでもいないのに“冒険者”として動くことになってしまった。 金を稼ごうとすれば邪魔が入り、巻き込まれたくないのに事件に引きずられる。 面倒ごとから逃げたい守銭奴と、世界の頂点に立つ管理者。 本来交わらないはずの二つが、過去の冒険者の残した魔力によってぶつかり合う、異世界ファンタジー。 ※小説家になろう・カクヨムでも更新中 ※表紙:あニキさん ※ ※がタイトルにある話に挿絵アリ ※月、水、金、更新予定!

現代錬金術のすゝめ 〜ソロキャンプに行ったら賢者の石を拾った〜

涼月 風
ファンタジー
御門賢一郎は過去にトラウマを抱える高校一年生。 ゴールデンウィークにソロキャンプに行き、そこで綺麗な石を拾った。 しかし、その直後雷に打たれて意識を失う。 奇跡的に助かった彼は以前の彼とは違っていた。 そんな彼が成長する為に異世界に行ったり又、現代で錬金術をしながら生活する物語。

異世界転生おじさんは最強とハーレムを極める

自ら
ファンタジー
定年を半年後に控えた凡庸なサラリーマン、佐藤健一(50歳)は、不慮の交通事故で人生を終える。目覚めた先で出会ったのは、自分の魂をトラックの前に落としたというミスをした女神リナリア。 その「お詫び」として、健一は剣と魔法の異世界へと30代後半の肉体で転生することになる。チート能力の選択を迫られ、彼はあらゆる経験から無限に成長できる**【無限成長(アンリミテッド・グロース)】**を選び取る。 異世界で早速遭遇したゴブリンを一撃で倒し、チート能力を実感した健一は、くたびれた人生を捨て、最強のセカンドライフを謳歌することを決意する。 定年間際のおじさんが、女神の気まぐれチートで異世界最強への道を歩み始める、転生ファンタジーの開幕。

処理中です...