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第42話 広がる世界と新たな盾
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ゴブリンの巣での死闘から数日。
アルトは自宅のベッドで、深い眠りと休息の中にあった。
体中に刻まれた無数の傷は、母親やリナの献身的な看病のおかげで急速に癒え、失われた体力も徐々に、しかし確実に回復しつつあった。
時折、洞窟の暗闇や、迫りくるゴブリンたちの形相が悪夢となって蘇ることもあったが、生還したという揺るぎない事実が、彼の精神を力強く支えていた。
十分な休息を経て、アルトは真新しいEランクを示す銀色のプレートを胸に飾り、冒険者ギルドへと向かった。
足取りには、以前にはなかった確かな自信が感じられる。
ギルドの扉を開けると、中の空気が明らかに変わっていることに気づいた。
DランクやCランクといった、格上の冒険者たちが、すれ違いざまに軽く会釈をしてきたり、「よう、アルト。体の具合はどうだ?」などと声をかけてきたりする。
彼らはもう、アルトを単なる物珍しい新人としてではなく、同じギルドに所属する一人の「冒険者」として、対等に、あるいは将来有望な若手として見ているのだ。
バルガスは、アルトの姿を見ると、いつものようにニヤリと笑ったが、その言葉には確かな重みがあった。
「おい、アルト。Eランクになったからって、浮かれてるんじゃねえぞ。ここからが本当の勝負だ。ランクが上がれば、それだけ危険な依頼も増える。常に気を引き締めておけ」
「はい!肝に銘じます!」
アルトは背筋を伸ばし、師の言葉に力強く応えた。
ギルドの談話スペースに腰を下ろし、他の冒険者たちの会話に耳を傾けていると、アッシュフォード村の外の世界の話題が自然と耳に入ってきた。
それは、アルトがこれまでほとんど知らなかった、広大な世界の断片だった。
「聞いたか?王都から来た商隊の話だが、南にある大きな港町、グランポートの近海で、巨大な海獣…クラーケンみたいな化け物に襲われたらしいぞ。船は沈没寸前、積荷はほとんど海の藻屑になったそうだ」
「北の方も物騒らしいな。ドワーフたちが住む鉱山都市、ドゥリンホルムじゃ、オークの部族連合が坑道を狙って、ここ数十年で最大規模の侵攻を仕掛けてるって話だ。ドワーフの奴らも必死で応戦してるらしいが…」
「へえ、争い事ばかりじゃないぜ。東の商業都市連合の中心、シルヴァンスターじゃ、新しい魔法学院が開校して、評判になってるそうだ。なんでも、実践的な魔法技術を教えるとかで、優秀な魔法使いがどんどん育ってるらしい」
まだ見ぬ土地の名前。
そこで繰り広げられる、活気あふれる日常や、あるいは壮絶な戦いの物語。
アルトが生まれ育ったアッシュフォード村が、この広大で多様な世界の中の、ほんの一点に過ぎないことを、彼は改めて実感した。
いつか自分も、この村を出て、そうした未知の世界へ旅立つ日が来るのだろうか。
アルトの胸に、漠然とした、しかし確かな憧れの念が静かに芽生え始めていた。
世界の広さに思いを馳せつつも、アルトは目の前にある課題から目を逸らすことはない。
次なる目標は、防御力のさらなる強化――盾の購入だ。
ゴブリンの巣での経験、そしてバルガスとの相談を重ねた結果、アルトは取り回しの良さと剣との連携を重視し、「バックラー」を選ぶことに決めた。
腕に装着する、比較的小型の円盾だ。
バルガスにその決意を伝えると、「バックラーか。良い選択かもしれん。防御範囲は狭いが、お前の動きを殺さない。使い方次第では、防御だけでなく、相手の攻撃を弾いたり、武器として打ちつけたりすることもできるぞ」と、その選択を評価してくれた。
そして、隣町で開催される市場に、腕の良い革細工師が時々、質の良い中古のバックラーを出品している、という貴重な情報を教えてくれた。
アルトは、初めて隣町へと足を運んでみた。
アッシュフォード村よりもずっと大きく、様々な人種や服装の人々が行き交い、活気に満ちている。
市場には、見たこともない品物を扱う露店が所狭しと軒を連ね、喧騒と熱気に包まれていた。
バルガスに教えられた革細工師の露店を探し当てると、そこには様々な革製品と共に、いくつかの盾が並べられていた。
アルトはそこで、一つのバックラーに目を奪われた。
硬い革をベースに、縁の部分が頑丈な鉄で補強されている。
中央には、シンプルな紋章のようなものが刻まれていた。
手に取ってみると、驚くほど軽く、そして自分の腕にしっくりと馴染む。
店主と交渉し、キングキャップの素材売却で得た資金を使い、アルトはそのバックラーを納得のいく価格で購入することができた。
初めて手にする、自分専用の盾。
それは、革鎧を手に入れた時とはまた違う、新たな力を得たような高揚感をアルトにもたらした。
村に戻ったアルトは、早速バックラーを左腕に装着してみた。
軽い。
これなら、ショートソードを振るう右腕の動きを、ほとんど阻害することはないだろう。
アルトはすぐにバルガスの元へ行き、バックラーの基本的な使い方について指導を受け始めた。
構え方、攻撃の受け止め方、そして剣との連携。
バックラーで相手の攻撃を受け止め、体勢を崩したところに剣で斬り込む。
あるいは、剣で攻撃を受け流しつつ、バックラーで予期せぬ角度からの攻撃を防ぐ。
そして、もちろん、ギフト【ダメージ反射】との連携も模索し始めた。
バックラーで衝撃を受け止め、そこから反射を放つことは可能なのか?
あるいは、バックラー自体を、反射のエネルギーを込めて打ち出すような使い方は…?
防御の選択肢が増えたことで、アルトの戦術の幅は、これから大きく広がっていく可能性を秘めていた。
新しい盾、バックラー。
それは、アルトの防御力を補強し、新たな戦術の扉を開く、頼もしい味方となるだろう。
ギルドで耳にした、まだ見ぬ世界の広がりは、彼の冒険心を静かに、しかし強く刺激し、さらなる成長への意欲をかき立てる。
Eランク冒険者として、そして一人の剣士として。
アルトは、盾と剣、そしてギフトという三つの力を融合させ、自分だけの、誰にも真似できない戦い方を確立するために、再び地道な訓練の日々へと戻っていくことを決意した。
焦らず、一歩ずつ、着実に。
彼の物語は、新たな装備と共に、より深く、そしてより広い世界へと、その歩みを進めていく。
アルトは自宅のベッドで、深い眠りと休息の中にあった。
体中に刻まれた無数の傷は、母親やリナの献身的な看病のおかげで急速に癒え、失われた体力も徐々に、しかし確実に回復しつつあった。
時折、洞窟の暗闇や、迫りくるゴブリンたちの形相が悪夢となって蘇ることもあったが、生還したという揺るぎない事実が、彼の精神を力強く支えていた。
十分な休息を経て、アルトは真新しいEランクを示す銀色のプレートを胸に飾り、冒険者ギルドへと向かった。
足取りには、以前にはなかった確かな自信が感じられる。
ギルドの扉を開けると、中の空気が明らかに変わっていることに気づいた。
DランクやCランクといった、格上の冒険者たちが、すれ違いざまに軽く会釈をしてきたり、「よう、アルト。体の具合はどうだ?」などと声をかけてきたりする。
彼らはもう、アルトを単なる物珍しい新人としてではなく、同じギルドに所属する一人の「冒険者」として、対等に、あるいは将来有望な若手として見ているのだ。
バルガスは、アルトの姿を見ると、いつものようにニヤリと笑ったが、その言葉には確かな重みがあった。
「おい、アルト。Eランクになったからって、浮かれてるんじゃねえぞ。ここからが本当の勝負だ。ランクが上がれば、それだけ危険な依頼も増える。常に気を引き締めておけ」
「はい!肝に銘じます!」
アルトは背筋を伸ばし、師の言葉に力強く応えた。
ギルドの談話スペースに腰を下ろし、他の冒険者たちの会話に耳を傾けていると、アッシュフォード村の外の世界の話題が自然と耳に入ってきた。
それは、アルトがこれまでほとんど知らなかった、広大な世界の断片だった。
「聞いたか?王都から来た商隊の話だが、南にある大きな港町、グランポートの近海で、巨大な海獣…クラーケンみたいな化け物に襲われたらしいぞ。船は沈没寸前、積荷はほとんど海の藻屑になったそうだ」
「北の方も物騒らしいな。ドワーフたちが住む鉱山都市、ドゥリンホルムじゃ、オークの部族連合が坑道を狙って、ここ数十年で最大規模の侵攻を仕掛けてるって話だ。ドワーフの奴らも必死で応戦してるらしいが…」
「へえ、争い事ばかりじゃないぜ。東の商業都市連合の中心、シルヴァンスターじゃ、新しい魔法学院が開校して、評判になってるそうだ。なんでも、実践的な魔法技術を教えるとかで、優秀な魔法使いがどんどん育ってるらしい」
まだ見ぬ土地の名前。
そこで繰り広げられる、活気あふれる日常や、あるいは壮絶な戦いの物語。
アルトが生まれ育ったアッシュフォード村が、この広大で多様な世界の中の、ほんの一点に過ぎないことを、彼は改めて実感した。
いつか自分も、この村を出て、そうした未知の世界へ旅立つ日が来るのだろうか。
アルトの胸に、漠然とした、しかし確かな憧れの念が静かに芽生え始めていた。
世界の広さに思いを馳せつつも、アルトは目の前にある課題から目を逸らすことはない。
次なる目標は、防御力のさらなる強化――盾の購入だ。
ゴブリンの巣での経験、そしてバルガスとの相談を重ねた結果、アルトは取り回しの良さと剣との連携を重視し、「バックラー」を選ぶことに決めた。
腕に装着する、比較的小型の円盾だ。
バルガスにその決意を伝えると、「バックラーか。良い選択かもしれん。防御範囲は狭いが、お前の動きを殺さない。使い方次第では、防御だけでなく、相手の攻撃を弾いたり、武器として打ちつけたりすることもできるぞ」と、その選択を評価してくれた。
そして、隣町で開催される市場に、腕の良い革細工師が時々、質の良い中古のバックラーを出品している、という貴重な情報を教えてくれた。
アルトは、初めて隣町へと足を運んでみた。
アッシュフォード村よりもずっと大きく、様々な人種や服装の人々が行き交い、活気に満ちている。
市場には、見たこともない品物を扱う露店が所狭しと軒を連ね、喧騒と熱気に包まれていた。
バルガスに教えられた革細工師の露店を探し当てると、そこには様々な革製品と共に、いくつかの盾が並べられていた。
アルトはそこで、一つのバックラーに目を奪われた。
硬い革をベースに、縁の部分が頑丈な鉄で補強されている。
中央には、シンプルな紋章のようなものが刻まれていた。
手に取ってみると、驚くほど軽く、そして自分の腕にしっくりと馴染む。
店主と交渉し、キングキャップの素材売却で得た資金を使い、アルトはそのバックラーを納得のいく価格で購入することができた。
初めて手にする、自分専用の盾。
それは、革鎧を手に入れた時とはまた違う、新たな力を得たような高揚感をアルトにもたらした。
村に戻ったアルトは、早速バックラーを左腕に装着してみた。
軽い。
これなら、ショートソードを振るう右腕の動きを、ほとんど阻害することはないだろう。
アルトはすぐにバルガスの元へ行き、バックラーの基本的な使い方について指導を受け始めた。
構え方、攻撃の受け止め方、そして剣との連携。
バックラーで相手の攻撃を受け止め、体勢を崩したところに剣で斬り込む。
あるいは、剣で攻撃を受け流しつつ、バックラーで予期せぬ角度からの攻撃を防ぐ。
そして、もちろん、ギフト【ダメージ反射】との連携も模索し始めた。
バックラーで衝撃を受け止め、そこから反射を放つことは可能なのか?
あるいは、バックラー自体を、反射のエネルギーを込めて打ち出すような使い方は…?
防御の選択肢が増えたことで、アルトの戦術の幅は、これから大きく広がっていく可能性を秘めていた。
新しい盾、バックラー。
それは、アルトの防御力を補強し、新たな戦術の扉を開く、頼もしい味方となるだろう。
ギルドで耳にした、まだ見ぬ世界の広がりは、彼の冒険心を静かに、しかし強く刺激し、さらなる成長への意欲をかき立てる。
Eランク冒険者として、そして一人の剣士として。
アルトは、盾と剣、そしてギフトという三つの力を融合させ、自分だけの、誰にも真似できない戦い方を確立するために、再び地道な訓練の日々へと戻っていくことを決意した。
焦らず、一歩ずつ、着実に。
彼の物語は、新たな装備と共に、より深く、そしてより広い世界へと、その歩みを進めていく。
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