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第41話 森を駆ける死線
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洞窟の暗闇から、光の中へと転がり出た。
しかし、安堵する間もなく、背後からはゴブリンたちの怒り狂った雄叫びが迫る。
数は10匹以上。
森の中での、絶望的とも思える鬼ごっこが幕を開けた。
少年――アルトは、ただ闇雲に走るのではなかった。
息を切らしながらも、頭は冷静に回転している。
事前に頭に入れておいた森の地形。
木々が密集し、視界の悪いエリア。
起伏が激しく、足場の悪い斜面。
そういった場所を選び、アルトは巧みに走行ルートを変えていく。
開けた洞窟内とは違い、障害物の多い森の中では、追手のゴブリンたちの足並みは自然と乱れた。
木々にぶつかる者、木の根に足を取られる者。
集団としての統制が崩れ、先行する数匹と後続の集団との間に、わずかながら距離が生まれ始めた。
(今だ!)
アルトはその機を逃さなかった。
急な斜面を駆け下りる途中で、素早く反転。
勢い余って追い抜こうとした、先行グループのゴブリン3匹に襲いかかった。
森の中での戦闘は、洞窟内よりもフットワークを活かせる。
アルトは訓練で培った軽やかなステップで相手を翻弄し、ショートソードを閃かせる。
狙いは的確に急所を捉え、一体目を瞬時に斬り伏せる。
残る二匹が棍棒を振りかぶるが、アルトはそれを冷静に見極め、一体の攻撃を腕で受け止め、即座に反射!
カウンター気味に放たれた力は、ゴブリンを後方の木に叩きつけた。
最後の一匹も、アルトの素早い剣閃の前に、なすすべもなく崩れ落ちた。
森の中に、短い断末魔が三度響き、そして消えた。
最初の迎撃を成功させると、アルトはすぐにその場を離れ、再び逃走に移る。
追いついてきた後続のゴブリンたちに対しても、同様の戦術を繰り返した。
地形を利用して引き離し、少数を相手に反撃する。
ヒットアンドアウェイ。
それは、数で劣る者が、多数の敵を相手にする際の定石だった。
幸いだったのは、あのホブゴブリンが洞窟の外まで追ってくる気配がないことだった。
巣の守りを優先したのか、それとも森の中での追跡は不得手なのか。
理由は定かではないが、最大の脅威がいないことは、アルトにとって大きなアドバンテージとなっていた。
それでも、戦いは過酷だった。
ヒットアンドアウェイを繰り返すたびに、アルトの体力は確実に削られていく。
革鎧はゴブリンの棍棒による打撃をいくらか防いでくれるが、衝撃は体に響く。
ショートソードを持つ腕は重くなり、足はもつれそうになる。
全身を駆け巡る疲労感と、無数の切り傷や打撲の痛みが、彼の意識を朦朧とさせようとした。
(まだだ…まだ終われない…!)
気力だけで、アルトは足を動かし続けた。
追ってくるゴブリンの数は、確実に減ってきている。
あと少し、あと少しだ。
そして、ついに。
開けた場所で、追いついてきた最後の一匹のゴブリンと対峙した時。
アルトは、残された最後の力を振り絞り、ショートソードを構えた。
相手もまた、必死の形相で棍棒を振りかぶってくる。
両者の攻撃が交錯し――勝負は一瞬で決した。
アルトの剣が、ゴブリンの心臓を正確に貫いていた。
ゴブリンが力なく倒れると、森には風の音と、アルト自身の荒い呼吸の音だけが残された。
静寂。
長かった追跡劇の、終焉だった。
「……終わった……」
アルトはその場に崩れるように倒れ込み、大きく息をついた。
空を見上げると、木々の隙間から青い空が見える。
勝ったのだ。
逃げ切った。
そして、生きている。
その実感が、じわじわと体中に広がっていった。
全身は泥と汗、そして血にまみれていた。
服は破れ、革鎧にも無数の傷がついている。
体力も精神力も、文字通り限界まで使い果たしていた。
それでも、アルトは立ち上がった。
最後の力を振り絞り、村への道を、一歩、また一歩と歩き始めた。
生きて帰ること。
それが、この過酷な任務を完遂させるための、最後の条件なのだから。
ボロボロの姿で冒険者ギルドにたどり着いた時、中にいた冒険者たちは皆、息をのんだ。
その凄惨な姿は、彼がどれほど過酷な状況から生還したかを物語っていた。
ギルドマスターは、アルトの無事な姿(と言える状態ではなかったが)に、まず安堵の表情を浮かべ、すぐにカウンターへと招き入れた。
アルトは、震える声で、しかしはっきりと、依頼の顛末を報告した。
洞窟内部の構造、ゴブリンの数、装備、リーダー格であるホブゴブリンの存在とその特徴。
そして、見張りの無力化から始まり、洞窟内での戦闘、発見と追跡、そして森の中での決死の逃走劇まで。
収集した情報を記した(血で少し滲んだ)メモも提出した。
ギルドマスターは、アルトの報告を驚きと共に、そして次第に感嘆の表情へと変えながら聞き入った。
報告が終わると、マスターは提出されたメモを注意深く確認し、深く、深く頷いた。
「……信じられん。よくぞ生きて戻った、アルト。そして、これほど正確で詳細な情報を持ち帰るとは……」
マスターの声には、抑えきれないほどの称賛がこもっていた。
「危険な状況下で冷静に判断し、任務を遂行しただけでなく、あの数の追手から生還した。見事だ。実に、見事と言うほかない!」
マスターは力強く言った。
「アルト、君の【Eランク】への昇格は、もはや疑いようのないものだ。いや、Eランクとしても、これは特筆すべき大功績と言えるだろう!」
そう言うと、マスターは依頼の基本報酬に加え、危険な任務に対する手当と、貴重な情報提供に対する特別報酬として、アルトがこれまでに手にしたことのない額の銀貨を手渡した。
「これは君の勇気と、類稀なる実力に対する正当な対価だ。胸を張って受け取るがいい」
ギルド内からは、アルトの功績と生還を称える、自然発生的な拍手が沸き起こった。
その音は、アルトの疲れた心に、温かく染み渡った。
過酷極まる威力偵察任務。
それを乗り越え、アルトは正式にEランク冒険者としての地位を確立した。
大きな達成感。
しかし同時に、ホブゴブリンという明確な強敵の存在と、集団戦における自身の限界も、彼は痛いほどに感じていた。
次なる目標は明確だ。
まずは、この疲弊しきった体を、時間をかけて完全に回復させること。
そして、手に入れた資金で防御力――盾を必ず手に入れること。
剣術とギフトの連携をさらに磨き上げ、いつか、あのホブゴブリンとも渡り合えるだけの力をつけること。
Eランクという新たなステージに立ち、アルトはさらなる高みを目指して、決意を新たにする。
彼の成長は、これからも止まることはないだろう。
今はただ、この激闘を生き延びた体を休ませ、次なる戦いに備える必要があった。
アルトは、仲間たちの称賛の声に包まれながら、安堵の息をついた。
しかし、安堵する間もなく、背後からはゴブリンたちの怒り狂った雄叫びが迫る。
数は10匹以上。
森の中での、絶望的とも思える鬼ごっこが幕を開けた。
少年――アルトは、ただ闇雲に走るのではなかった。
息を切らしながらも、頭は冷静に回転している。
事前に頭に入れておいた森の地形。
木々が密集し、視界の悪いエリア。
起伏が激しく、足場の悪い斜面。
そういった場所を選び、アルトは巧みに走行ルートを変えていく。
開けた洞窟内とは違い、障害物の多い森の中では、追手のゴブリンたちの足並みは自然と乱れた。
木々にぶつかる者、木の根に足を取られる者。
集団としての統制が崩れ、先行する数匹と後続の集団との間に、わずかながら距離が生まれ始めた。
(今だ!)
アルトはその機を逃さなかった。
急な斜面を駆け下りる途中で、素早く反転。
勢い余って追い抜こうとした、先行グループのゴブリン3匹に襲いかかった。
森の中での戦闘は、洞窟内よりもフットワークを活かせる。
アルトは訓練で培った軽やかなステップで相手を翻弄し、ショートソードを閃かせる。
狙いは的確に急所を捉え、一体目を瞬時に斬り伏せる。
残る二匹が棍棒を振りかぶるが、アルトはそれを冷静に見極め、一体の攻撃を腕で受け止め、即座に反射!
カウンター気味に放たれた力は、ゴブリンを後方の木に叩きつけた。
最後の一匹も、アルトの素早い剣閃の前に、なすすべもなく崩れ落ちた。
森の中に、短い断末魔が三度響き、そして消えた。
最初の迎撃を成功させると、アルトはすぐにその場を離れ、再び逃走に移る。
追いついてきた後続のゴブリンたちに対しても、同様の戦術を繰り返した。
地形を利用して引き離し、少数を相手に反撃する。
ヒットアンドアウェイ。
それは、数で劣る者が、多数の敵を相手にする際の定石だった。
幸いだったのは、あのホブゴブリンが洞窟の外まで追ってくる気配がないことだった。
巣の守りを優先したのか、それとも森の中での追跡は不得手なのか。
理由は定かではないが、最大の脅威がいないことは、アルトにとって大きなアドバンテージとなっていた。
それでも、戦いは過酷だった。
ヒットアンドアウェイを繰り返すたびに、アルトの体力は確実に削られていく。
革鎧はゴブリンの棍棒による打撃をいくらか防いでくれるが、衝撃は体に響く。
ショートソードを持つ腕は重くなり、足はもつれそうになる。
全身を駆け巡る疲労感と、無数の切り傷や打撲の痛みが、彼の意識を朦朧とさせようとした。
(まだだ…まだ終われない…!)
気力だけで、アルトは足を動かし続けた。
追ってくるゴブリンの数は、確実に減ってきている。
あと少し、あと少しだ。
そして、ついに。
開けた場所で、追いついてきた最後の一匹のゴブリンと対峙した時。
アルトは、残された最後の力を振り絞り、ショートソードを構えた。
相手もまた、必死の形相で棍棒を振りかぶってくる。
両者の攻撃が交錯し――勝負は一瞬で決した。
アルトの剣が、ゴブリンの心臓を正確に貫いていた。
ゴブリンが力なく倒れると、森には風の音と、アルト自身の荒い呼吸の音だけが残された。
静寂。
長かった追跡劇の、終焉だった。
「……終わった……」
アルトはその場に崩れるように倒れ込み、大きく息をついた。
空を見上げると、木々の隙間から青い空が見える。
勝ったのだ。
逃げ切った。
そして、生きている。
その実感が、じわじわと体中に広がっていった。
全身は泥と汗、そして血にまみれていた。
服は破れ、革鎧にも無数の傷がついている。
体力も精神力も、文字通り限界まで使い果たしていた。
それでも、アルトは立ち上がった。
最後の力を振り絞り、村への道を、一歩、また一歩と歩き始めた。
生きて帰ること。
それが、この過酷な任務を完遂させるための、最後の条件なのだから。
ボロボロの姿で冒険者ギルドにたどり着いた時、中にいた冒険者たちは皆、息をのんだ。
その凄惨な姿は、彼がどれほど過酷な状況から生還したかを物語っていた。
ギルドマスターは、アルトの無事な姿(と言える状態ではなかったが)に、まず安堵の表情を浮かべ、すぐにカウンターへと招き入れた。
アルトは、震える声で、しかしはっきりと、依頼の顛末を報告した。
洞窟内部の構造、ゴブリンの数、装備、リーダー格であるホブゴブリンの存在とその特徴。
そして、見張りの無力化から始まり、洞窟内での戦闘、発見と追跡、そして森の中での決死の逃走劇まで。
収集した情報を記した(血で少し滲んだ)メモも提出した。
ギルドマスターは、アルトの報告を驚きと共に、そして次第に感嘆の表情へと変えながら聞き入った。
報告が終わると、マスターは提出されたメモを注意深く確認し、深く、深く頷いた。
「……信じられん。よくぞ生きて戻った、アルト。そして、これほど正確で詳細な情報を持ち帰るとは……」
マスターの声には、抑えきれないほどの称賛がこもっていた。
「危険な状況下で冷静に判断し、任務を遂行しただけでなく、あの数の追手から生還した。見事だ。実に、見事と言うほかない!」
マスターは力強く言った。
「アルト、君の【Eランク】への昇格は、もはや疑いようのないものだ。いや、Eランクとしても、これは特筆すべき大功績と言えるだろう!」
そう言うと、マスターは依頼の基本報酬に加え、危険な任務に対する手当と、貴重な情報提供に対する特別報酬として、アルトがこれまでに手にしたことのない額の銀貨を手渡した。
「これは君の勇気と、類稀なる実力に対する正当な対価だ。胸を張って受け取るがいい」
ギルド内からは、アルトの功績と生還を称える、自然発生的な拍手が沸き起こった。
その音は、アルトの疲れた心に、温かく染み渡った。
過酷極まる威力偵察任務。
それを乗り越え、アルトは正式にEランク冒険者としての地位を確立した。
大きな達成感。
しかし同時に、ホブゴブリンという明確な強敵の存在と、集団戦における自身の限界も、彼は痛いほどに感じていた。
次なる目標は明確だ。
まずは、この疲弊しきった体を、時間をかけて完全に回復させること。
そして、手に入れた資金で防御力――盾を必ず手に入れること。
剣術とギフトの連携をさらに磨き上げ、いつか、あのホブゴブリンとも渡り合えるだけの力をつけること。
Eランクという新たなステージに立ち、アルトはさらなる高みを目指して、決意を新たにする。
彼の成長は、これからも止まることはないだろう。
今はただ、この激闘を生き延びた体を休ませ、次なる戦いに備える必要があった。
アルトは、仲間たちの称賛の声に包まれながら、安堵の息をついた。
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