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第40話 洞窟からの決死行
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背後から迫るのは、数えきれないほどの敵意。
ゴブリンたちのけたたましい鬨の声と、硬い地面を踏み鳴らす無数の足音が、狭く暗い洞窟通路に反響し、アルトの鼓膜を激しく打つ。
息はとっくに上がり、肺は焼けつくように痛む。
それでも、少年は足を止めるわけにはいかなかった。
Eランク冒険者としての初陣に近いこの威力偵察任務は、今や、命懸けの逃走劇へと変貌していた。
振り返る余裕など、どこにもない。
だが、肌を刺すような殺気と、地響きにも似た足音は、追手の数が尋常でないことを物語っていた。
少なくとも十数匹、いや、それ以上か。
そして、そのおぞましい合唱の中に、時折混じる、ひときわ重々しい足音と低い唸り声。
あれは、間違いなく巣の主、ホブゴブリンのものだ。
捕まればどうなるかなど、想像するまでもない。
冷たい汗が、アルトの額から首筋へと流れ落ちた。
洞窟の壁が、追手のゴブリンたちが掲げる松明の不安定な光を受けて、まるで生きているかのように歪んで見える。
鼻をつく悪臭と、彼らの興奮しきった荒い呼気が、洞窟内の空気を重く、息苦しくさせていた。
このまま逃げ続けるだけでは、体力が尽きるのが先か、追いつかれるのが先か。
(やるしかない…!)
アルトは意を決した。
通路がわずかに狭まった場所で、彼は勢いを殺さずに急停止し、即座に振り返った。
そして、追手の先頭を駆けてきたゴブリン数匹に向け、腰のショートソードを閃かせた。
バルガスとの訓練で叩き込まれた剣閃は、速く、鋭い。
狭い空間での近接戦闘においては、大振りの棍棒を振り回すゴブリンよりも、むしろアルトに分があった。
キィ!ギャッ!
短い悲鳴が二つ、三つと上がり、先頭集団が崩れる。
後続のゴブリンたちが、仲間の死体に躓き、一瞬、その勢いが鈍った。
アルトはそのわずかな隙を見逃さず、再び背を向けて駆け出した。
しかし、ゴブリンたちの数は多い。
一時的な足止めにしかならないことは分かっていた。
すぐに新たな追手が迫ってくる。
アルトは走りながら、今度はギフトの力を利用することにした。
狙いを定めたのは、通路の天井近くにある、もろくなっている岩盤だ。
(衝撃波ッ!)
腕を突き出し、ギフトの力を集中させる。
目には見えない微弱な力が放たれ、岩盤の一部を打つ。
パラパラと土砂が舞い、続いてゴロゴロと音を立てて数個の岩が落下した!
「グギャア!?」
運悪く直撃を受けたゴブリンの悲鳴が聞こえる。
通路が完全に塞がったわけではないが、これで少しは時間を稼げるはずだ。
さらに、アルトは洞窟の分岐点に差し掛かると、咄嗟の判断で行動した。
壁際にある、ゴブリンたちが積み上げていたガラクタの山――壊れた木箱や武器の残骸――に向かって、あえて体を強く打ち付け、反射を発動させる。
その衝撃で、ガラクタの山が大きな音を立てて崩れ落ち、通路を部分的に塞いだ。
これも、気休め程度の時間稼ぎにしかならないかもしれない。
だが、今のアルトにとっては、一秒でも長く逃げる時間が必要だった。
「グオオオォォォ!逃がすなァァ!捕まえろォォ!」
後方から、ホブゴブリンの怒りに満ちた咆哮が響き渡る。
その声には、他のゴブリンたちを強制的に従わせるような、異様な力がこもっているように感じられた。
先ほどまで少し乱れていたゴブリンたちの足音が、再び統率を取り戻し、執拗にアルトを追ってくる。
ホブゴブリン自身が直接追ってくる気配はない。
だが、その圧倒的な存在感が、アルトの精神に重く、重くのしかかってくる。
(出口は…もうすぐのはずだ!)
息も絶え絶えになりながら、アルトは事前に頭に入れておいた撤退経路をひた走る。
足は鉛のように重く、視界も霞んできた。
それでも、諦めるわけにはいかない。
生きて帰るのだ。
そして、ついに。
暗闇の先に、かすかな、しかし希望に満ちた外の光が見えてきた!
洞窟の出口だ!
アルトは最後の力を振り絞り、その光に向かって、文字通り転がり込むようにして洞窟の外へと飛び出した。
「はぁっ…はぁっ…げほっ、げほっ…!」
新鮮な森の空気を胸いっぱいに吸い込み、アルトは激しく咳き込んだ。
体は泥と汗と、そしてわずかな血で汚れ、ボロボロだった。
精神も、極限までの緊張と恐怖で擦り切れている。
それでも、生きている。
洞窟から脱出できたのだ。
だが、安堵する暇はなかった。
背後の洞窟からは、依然としてゴブリンたちの喚き声と、追ってくる気配が伝わってくる。
彼らは、巣穴の外までアルトを追ってくるつもりのようだ。
なんとかゴブリンの巣窟から生還したものの、危機はまだ去ってはいない。
森の中での、逃走劇の第二幕が始まろうとしているのか。
それとも、ここで最後の抵抗を試みるべきなのか。
偵察任務は、ある意味で成功したと言えるかもしれない。
しかし、その代償はあまりにも大きかった。
Eランク依頼の本当の厳しさ、そしてホブゴブリンという新たな強敵の存在。
アルトは、疲労困憊の体で、次なる決断を迫られていた。
彼の戦いは、まだ終わることを許されなかった。
ゴブリンたちのけたたましい鬨の声と、硬い地面を踏み鳴らす無数の足音が、狭く暗い洞窟通路に反響し、アルトの鼓膜を激しく打つ。
息はとっくに上がり、肺は焼けつくように痛む。
それでも、少年は足を止めるわけにはいかなかった。
Eランク冒険者としての初陣に近いこの威力偵察任務は、今や、命懸けの逃走劇へと変貌していた。
振り返る余裕など、どこにもない。
だが、肌を刺すような殺気と、地響きにも似た足音は、追手の数が尋常でないことを物語っていた。
少なくとも十数匹、いや、それ以上か。
そして、そのおぞましい合唱の中に、時折混じる、ひときわ重々しい足音と低い唸り声。
あれは、間違いなく巣の主、ホブゴブリンのものだ。
捕まればどうなるかなど、想像するまでもない。
冷たい汗が、アルトの額から首筋へと流れ落ちた。
洞窟の壁が、追手のゴブリンたちが掲げる松明の不安定な光を受けて、まるで生きているかのように歪んで見える。
鼻をつく悪臭と、彼らの興奮しきった荒い呼気が、洞窟内の空気を重く、息苦しくさせていた。
このまま逃げ続けるだけでは、体力が尽きるのが先か、追いつかれるのが先か。
(やるしかない…!)
アルトは意を決した。
通路がわずかに狭まった場所で、彼は勢いを殺さずに急停止し、即座に振り返った。
そして、追手の先頭を駆けてきたゴブリン数匹に向け、腰のショートソードを閃かせた。
バルガスとの訓練で叩き込まれた剣閃は、速く、鋭い。
狭い空間での近接戦闘においては、大振りの棍棒を振り回すゴブリンよりも、むしろアルトに分があった。
キィ!ギャッ!
短い悲鳴が二つ、三つと上がり、先頭集団が崩れる。
後続のゴブリンたちが、仲間の死体に躓き、一瞬、その勢いが鈍った。
アルトはそのわずかな隙を見逃さず、再び背を向けて駆け出した。
しかし、ゴブリンたちの数は多い。
一時的な足止めにしかならないことは分かっていた。
すぐに新たな追手が迫ってくる。
アルトは走りながら、今度はギフトの力を利用することにした。
狙いを定めたのは、通路の天井近くにある、もろくなっている岩盤だ。
(衝撃波ッ!)
腕を突き出し、ギフトの力を集中させる。
目には見えない微弱な力が放たれ、岩盤の一部を打つ。
パラパラと土砂が舞い、続いてゴロゴロと音を立てて数個の岩が落下した!
「グギャア!?」
運悪く直撃を受けたゴブリンの悲鳴が聞こえる。
通路が完全に塞がったわけではないが、これで少しは時間を稼げるはずだ。
さらに、アルトは洞窟の分岐点に差し掛かると、咄嗟の判断で行動した。
壁際にある、ゴブリンたちが積み上げていたガラクタの山――壊れた木箱や武器の残骸――に向かって、あえて体を強く打ち付け、反射を発動させる。
その衝撃で、ガラクタの山が大きな音を立てて崩れ落ち、通路を部分的に塞いだ。
これも、気休め程度の時間稼ぎにしかならないかもしれない。
だが、今のアルトにとっては、一秒でも長く逃げる時間が必要だった。
「グオオオォォォ!逃がすなァァ!捕まえろォォ!」
後方から、ホブゴブリンの怒りに満ちた咆哮が響き渡る。
その声には、他のゴブリンたちを強制的に従わせるような、異様な力がこもっているように感じられた。
先ほどまで少し乱れていたゴブリンたちの足音が、再び統率を取り戻し、執拗にアルトを追ってくる。
ホブゴブリン自身が直接追ってくる気配はない。
だが、その圧倒的な存在感が、アルトの精神に重く、重くのしかかってくる。
(出口は…もうすぐのはずだ!)
息も絶え絶えになりながら、アルトは事前に頭に入れておいた撤退経路をひた走る。
足は鉛のように重く、視界も霞んできた。
それでも、諦めるわけにはいかない。
生きて帰るのだ。
そして、ついに。
暗闇の先に、かすかな、しかし希望に満ちた外の光が見えてきた!
洞窟の出口だ!
アルトは最後の力を振り絞り、その光に向かって、文字通り転がり込むようにして洞窟の外へと飛び出した。
「はぁっ…はぁっ…げほっ、げほっ…!」
新鮮な森の空気を胸いっぱいに吸い込み、アルトは激しく咳き込んだ。
体は泥と汗と、そしてわずかな血で汚れ、ボロボロだった。
精神も、極限までの緊張と恐怖で擦り切れている。
それでも、生きている。
洞窟から脱出できたのだ。
だが、安堵する暇はなかった。
背後の洞窟からは、依然としてゴブリンたちの喚き声と、追ってくる気配が伝わってくる。
彼らは、巣穴の外までアルトを追ってくるつもりのようだ。
なんとかゴブリンの巣窟から生還したものの、危機はまだ去ってはいない。
森の中での、逃走劇の第二幕が始まろうとしているのか。
それとも、ここで最後の抵抗を試みるべきなのか。
偵察任務は、ある意味で成功したと言えるかもしれない。
しかし、その代償はあまりにも大きかった。
Eランク依頼の本当の厳しさ、そしてホブゴブリンという新たな強敵の存在。
アルトは、疲労困憊の体で、次なる決断を迫られていた。
彼の戦いは、まだ終わることを許されなかった。
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