落ちこぼれギフト【ダメージ反射】は諦めない ~1割返しから始まる異世界冒険譚~

シマセイ

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第39話 ゴブリンの巣窟、潜入と脱出

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Eランク昇格後、初の本格的な討伐(威力偵察)任務。
アルトは、以前偵察した西の森の奥深く、ゴブリンの巣があるとされる古い洞窟へと再び足を運んでいた。

腰には信頼できるショートソード、体には念願の革鎧。
装備の充実は、アルトの心に確かな自信を与えていたが、同時に、未知の巣窟へ潜入することへの緊張感も高まっていた。

洞窟の入り口には、前回アルトが無力化した見張りとは別の、新たなゴブリンが数匹うろついていた。
アルトはバルガスのアドバイス通り、風向きを読み、岩陰に身を隠しながら彼らの動きを観察する。
そして、見張りの交代のわずかな隙を突き、音を立てずに素早く洞窟内部へと滑り込んだ。

洞窟の中は、ひんやりとした湿った空気が淀み、獣や汚物の腐敗臭が混じり合った、強烈な悪臭が鼻をついた。
入り口から差し込む光はすぐに届かなくなり、奥はほとんど完全な暗闇に近い。

アルトは壁に手をつき、暗闇に目を慣らしながら、一歩一歩、慎重に進んでいく。
通路は狭く、天井も低い。
時折、ゴブリンたちの甲高い話し声や、誰かのいびきのようなものが、洞窟の壁に反響して聞こえてくる。

曲がり角を慎重に覗き込んだところで、アルトは松明を持った一体のゴブリンと鉢合わせになった。
ゴブリンは驚き、口を開けて叫び声を上げようとする。
しかし、アルトの方が一瞬早かった。
素早く踏み込み、ショートソードを一閃させる。
剣術訓練の成果が、動きの速さと正確さに現れていた。
ゴブリンは声もなくその場に崩れ落ちる。
アルトはすぐにその体を物陰に引きずり込み、燃えさしの松明を足で踏み消した。
狭い通路での戦闘は、大振りな動きはできない。
速さと正確さが命だ。

さらに奥へと進むと、少し開けた空間に出た。
そこでは、数匹のゴブリンが粗末な焚き火を囲み、何か動物の骨のようなものにかじりついている。
アルトは物陰に隠れ、やり過ごそうとした。
だが、運悪く、骨をしゃぶっていた一匹が、ふと顔を上げてアルトの隠れている方向を見た。
そして、他のゴブリンとは違う匂いに気づいたのか、怪訝な顔をして立ち上がろうとした。

「キィィ!」
見つかった!
アルトは覚悟を決め、隠れていた場所から飛び出した。
不意を突かれたゴブリンたちは、一瞬反応が遅れる。
アルトはその隙を逃さない。
ショートソードで一番近くのゴブリンを斬り伏せ、続く棍棒での攻撃を革鎧で受け止め、即座に反射!

カウンター気味の反射を受けたゴブリンは、壁に叩きつけられて動かなくなる。
残る一匹も、アルトの素早い剣捌きと、的確な反射の連携の前に、なすすべもなく沈黙した。
ものの数秒で、3匹のゴブリンを無力化することに成功した。
鎧と、向上した剣術、そしてギフトの連携。
その効果は絶大だった。

戦闘音を聞きつけられていないか、細心の注意を払いながら、アルトはさらに洞窟の奥へと進んだ。
通路の床には、明らかに人工的な、しかし稚拙な罠が仕掛けられている場所もあった。
地面に隠された落とし穴の目印らしき小枝や、踏むと大きな音が出るように仕組まれた石の鳴子。
アルトは訓練で培った観察眼でそれらを見抜き、慎重に回避していく。

洞窟の最深部に近づくにつれて、ゴブリンの気配はさらに濃密になり、そして、ひときわ大きく、野太い唸り声が、洞窟の壁を震わせて響いてくるようになった。
リーダー格がいるのは間違いない。
アルトは息を殺し、最後の角を曲がった。

そこは、洞窟の中でも最も広い空間だった。
中央には大きな焚き火が燃え盛り、その周りを10匹近いゴブリンたちが取り囲んでいる。
そして、そのゴブリンたちを見下ろすように、一段高くなった岩の上に、ひときわ巨大な影が鎮座していた。

身長はアルトよりも頭一つ分は高く、筋骨隆々とした体つき。
緑色の肌は他のゴブリンよりも色が濃く、知性を感じさせる(とはいえ、ゴブリン基準だが)鋭い目が、ギロリと光っている。
手には、人間の兵士が使うような、金属製の大きな戦斧を握りしめ、体の一部には継ぎ接ぎだらけだが革製の防具を身に着けていた。
ホブゴブリン。
ゴブリンたちを統率する、上位種だ。

ホブゴブリンは、アルトの存在にすぐに気づいた。
その鋭い目が、侵入者を正確に捉える。
周囲のゴブリンたちも、一斉に武器を構え、敵意と殺意をむき出しにしてアルトを睨みつけた。
空気が、一気に張り詰める。

(まずい……!)

アルトは瞬時に状況を判断した。
ホブゴブリン一体だけでも、今の自分にとってはかなりの強敵だろう。
それに加えて、10匹近いゴブリン兵。
この状況で、リーダー格を無力化するなど、到底不可能だ。
下手をすれば、自分が袋叩きにされて終わる。

依頼内容は「可能であれば無力化」。
リーダー格の特定はできた。
巣の内部構造、おおよその戦力も把握できた。
偵察任務としては、十分な成果だ。
ここは、無理をせず、確実に情報を持ち帰るべきだ。

「……引くしかない!」

アルトは冷静に決断した。
ホブゴブリンとゴブリンたちの意識が、完全に自分に集中している。
その一瞬の隙を突き、アルトは素早く身を翻し、来た道を引き返し始めた。
洞窟の出口へと、全速力で駆ける!

しかし、アルトが広間を出ようとした、まさにその瞬間だった。
運悪く、別の通路から巡回を終えて戻ってきたゴブリンの一隊(3匹ほど)が、アルトの姿を発見してしまったのだ。

「キシャアアアアアッ!!侵入者だ!!」

甲高い、けたたましい警報が、洞窟全体に響き渡った!
その声に反応し、広間にいたゴブリンたち、そして怒りの咆哮を上げたホブゴブリンまでもが、一斉にアルトの後を追ってきた!
狭い洞窟通路に、無数のゴブリンたちの怒号と、地鳴りのような足音が響き渡る!

リーダー格の特定はできた。
しかし、その代償として、アルトは巣の全てのゴブリンを敵に回し、絶体絶命の窮地に陥ってしまった。
狭く、暗い洞窟の中で、彼はこの圧倒的な数の追手から逃げ切ることができるのか?
剣術、ギフト、そして培ってきた経験と機転。
アルトの持つ全ての力が、今、この瞬間に試されようとしていた。

Eランク依頼の本当の厳しさを、アルトは骨身にしみて味わうことになった。
彼の決死の脱出劇が、今、始まろうとしていた。
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