落ちこぼれギフト【ダメージ反射】は諦めない ~1割返しから始まる異世界冒険譚~

シマセイ

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第61話 王都の洗礼、光と影

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天を衝く巨大な城門をくぐり抜けた瞬間、アルトは経験したことのない圧倒的なエネルギーの奔流に飲み込まれた。
王都アステリア。
国の中心であるこの大都市は、アルトが生まれ育ったアッシュフォード村とは、何もかもが違っていた。

どこまでも続くかのような広い石畳の道。
その両脇にひしめき合う、高く、壮麗な建物。
道を埋め尽くし、絶えず流れ続ける、雑多な人々の波。
行き交う豪華な馬車の立てるけたたましい音、様々な言語や訛りが混じり合った喧騒、そして、香辛料、食べ物、家畜、生活排水…あらゆるものが混じり合った、濃厚で複雑な匂い。
五感の全てが、一度に処理しきれないほどの情報の洪水に晒され、アルトはしばし、その場に立ち尽くしてしまった。

(ここが……王都……)

期待と共に、場の持つ巨大なエネルギーに少し気圧されるような感覚を覚えながら、アルトはまず、アッシュフォード村のギルドマスターから託された推薦状を手に、王都の冒険者ギルド本部を目指すことにした。
地図を広げ、現在地を確認しようとする。
しかし、地図上に描かれた線と、実際に目の前に広がる、複雑に入り組んだ無数の路地や、絶えず動き続ける人の流れとが、頭の中でうまく結びつかない。
ほんの数分歩いただけで、彼は自分が今どこにいるのか、完全に方向感覚を見失ってしまっていた。

「すみません、ちょっとお尋ねしたいのですが……冒険者ギルド本部はどちらの方向でしょうか?」

意を決し、近くを通りかかった、いかにも裕福そうな、恰幅の良い商人風の男に声をかけてみる。
しかし、男はアルトの着古した旅装と、田舎者然とした雰囲気を一瞥するなり、鼻で笑った。

「ふん、そんなことも知らんのか。邪魔だ、どけ田舎者」

そう吐き捨てると、男はアルトを押しのけるようにして、足早に人混みの中へと消えていった。
アルトは、そのあまりにもあからさまな侮蔑に、言葉を失った。

次に、道の角で見張りをしていた、立派な鎧を身に着けた衛兵に尋ねてみた。

「冒険者ギルド本部を探しているのですが…」

衛兵は、ちらりとアルトに視線を向けただけで、面倒くさそうに顎で大通りの方向をしゃくった。

「あっちの方だろ。自分で探せ。くだらんことで衛兵の手を煩わせるな」

取り付く島もない、冷たい対応。
王都の人間は、皆こうも不親切なのだろうか。
アルトの心に、早くも不安と孤独の影が差し始めていた。

道端で途方に暮れ、地図とにらめっこしていると、不意に背後から明るい声がかかった。

「あらあら、坊や、どうしたんだい?顔に『困ってます』って書いてあるよ」

振り返ると、色とりどりの果物を山積みにした露店の中から、人の良さそうなおばちゃんが、にこにこと笑いながらこちらを見ていた。

「あ、あの、冒険者ギルド本部を探しているんですが、道に迷ってしまって…」

アルトが事情を話すと、おばちゃんは「ああ、ギルドさんかい!」と手を叩いた。

「それなら簡単さね。この大通りを、ほら、あの大きな時計塔が見えるだろ?あそこまで真っ直ぐ行って、三つ目の大きな広場に出たら、右に曲がるんだよ。広場の真ん中に、でーっかいグリフィンの石像が立ってるから、すぐ分かるさ。ギルド本部は、その像の向かい側だよ」

おばちゃんは、大きな手で方向を示しながら、身振り手振りを交えて丁寧に教えてくれた。

「ありがとうございます!本当に助かります!」

アルトは心からの感謝を述べた。
冷たい対応を受けた後だっただけに、おばちゃんの親切が、ことさら心に染みた。
人の温かさに触れ、アルトは少しだけ元気を取り戻し、教えられた道を進み始めた。

教わった通りに進むと、やがて視界が開け、巨大な広場に出た。
広場の中央には、天に向かって翼を広げる、荘厳なグリフィンの石像がそびえ立っている。
そして、そのグリフィン像が見据える先に、アルトは息をのんだ。
神殿か、あるいは城かと見紛うほどに、巨大で壮麗な石造りの建物。
壁には、冒険者ギルドの紋章が大きく掲げられている。
ここが、王都アステリア冒険者ギルド本部か…!
アッシュフォード村の、素朴で小さなギルドとは、何もかもが比較にならない。

アルトは、深呼吸を一つして、緊張しながらその巨大な扉を押し開けた。
内部は、外観以上に広大で、天井も高く、まるで大聖堂のようだった。
数えきれないほどの冒険者たちが行き交い、その熱気と喧騒で満ち溢れている。
壁一面に貼られた依頼書は、その数も種類も、アッシュフォードとは桁違いだ。
カウンターもいくつも並び、それぞれに鎧姿の屈強な男や、ローブを着た魔術師風の人物などが順番を待っている。

行き交う冒険者たちの装備も、アルトが見たこともないような、見事で、そして明らかに高価そうなものばかり。
自分の使い込んだ革鎧と、Dランクを示す青銅のプレートが、ひどく場違いなものに感じられ、アルトは思わず気後れしそうになった。

なんとか受付カウンターの一つにたどり着き、アルトはアッシュフォード村のギルドマスターから預かった推薦状を差し出した。
受付を担当していた、眼鏡をかけた知的な雰囲気の女性は、最初は事務的な口調で対応していたが、推薦状に目を通すと、その表情をわずかに変えた。

「……アッシュフォード村ギルドマスター、エルリック殿からのご紹介ですね。アルト様、Dランクへの昇格、誠におめでとうございます。キングキャップ及びホブゴブリン討伐の功績、こちらでも確認いたしました。素晴らしいご活躍です」

どうやら、推薦状にはアルトのこれまでの功績が、かなり詳細に記されていたらしい。
受付嬢の口調は、先ほどよりも明らかに丁寧なものに変わっていた。
彼女はテキパキと登録手続きを進め、アルトに王都ギルドの身分証と、ギルド内の施設利用に関する簡単な説明をしてくれた。

ギルドでの手続きを終えたアルトは、日が暮れる前に、今夜の宿を探さなければならなかった。
ギルドで紹介された、比較的安価な冒険者向けの宿をいくつか訪ねてみる。
しかし、王都の物価は高い。
アルトの予算では、選択肢はかなり限られてしまう。

ようやく手頃な値段の宿を見つけたと思ったら、いかにも強面な宿の主人が、アルトの若さと、まだ真新しいDランクプレートを見て、鼻で笑った。

「へっ、Dランクのひよっこが泊まる宿じゃねえんだよ、ここは。最低でもCランクからだ。他を当たってくれや」

にべもなく、追い返されてしまう。
ランクによって、泊まれる宿まで違うのか…。
王都の厳しさを、アルトはまた一つ思い知らされた。

仕方なく、安宿が集まっているという地区へと足を向けた。
しかし、そこは日が暮れ始めると共に、薄暗い路地に怪しげな人影がちらつき始め、お世辞にも治安が良いとは言えない雰囲気だった。

「おい、坊主、宿を探してるのか?安くていい部屋があるぜ」
「ちょっと兄ちゃん、いい情報があるんだけどよぉ…」

うさんくさい客引きたちが、次々と声をかけてくる。
アルトは危険な匂いを察知し、早々にその場を離れることにした。

(宿探しも、こんなに大変なのか……)

途方に暮れかけ、今日の野宿も覚悟し始めたアルトだったが、諦めずに探し続けた結果、ようやく大通りから一本入った、比較的静かな路地裏に、古風だが清潔感のある、小さな下宿屋を見つけることができた。
扉を開けると、中から人の良さそうな年配の女将さんが出てきた。

「あら、いらっしゃい。旅の方かい?」
「あ、はい。冒険者なのですが、今夜泊まれる部屋を探していて…」
「まあ、冒険者さん!大変だったねぇ。うちは本当に小さいし、ベッドと簡単な朝食くらいしか出せないけど、それでも良ければ、ゆっくりしていきなさいな。お代はこれくらいでいいよ」

女将さんは、アルトのDランクプレートを見ても態度を変えることなく、温かく迎え入れてくれ、手頃な料金で部屋を貸してくれた。
ようやく安息の場所を見つけ、アルトは心の底から安堵した。

下宿屋の、質素だが清潔な小さな部屋。
アルトは、固い木製のベッドに腰を下ろし、窓の外に広がる王都の夜景――無数に灯る家々の明かりと、遠くに見える王城のシルエット――を眺めながら、長く、そして目まぐるしかった一日を振り返っていた。

大都市の圧倒的な喧騒と規模。
人の冷たさと、そして人の温かさ。
その両方を、身をもって体験した。
ここ王都での冒険は、アッシュフォード村でのそれとは、何もかもが違うのだろう。
厳しさも、危険も、そしてきっと、得られる経験や報酬も。

明日から、この巨大な都市で、自分は何をすべきか。
どうやって、冒険者として生きていくか。
期待と不安が入り混じる中、アルトの王都での物語が、静かに、しかし確実に始まろうとしていた。
アルトは、新たな決意を胸に、深い眠りへと落ちていった。
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