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第123話 空の王者の洗礼
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王都アステリアの北門をくぐり、アルトは一路、北部山岳地帯を目指していた。
平坦な街道から次第に勾配がきつくなり、緑豊かな丘陵地帯はやがて、岩肌が目立つ険しい山道へと変わっていく。
空気は澄み、ひんやりとした風がアルトの頬を撫でた。眼前にそびえる山々は、まるで空を衝くかのように高く、その頂付近には万年雪が白く輝いている。
アーマーライノのような地を駆ける獣とは違う、空を支配する魔獣、グリフォン。アルトは気を引き締めながら、一歩一歩、確実に歩を進めた。道中、ギルドマスターやエリアーヌから得た情報を反芻する。
視覚、風を読む能力、空中からの奇襲…。どれも、これまでの相手にはなかった要素だ。新生「夜鏡」と黒曜の剣、そして自身のギフトが、この未知の脅威にどこまで通用するのか。
期待と、それ以上の緊張感がアルトの胸を満たしていた。
山岳地帯に入って半日ほど経った頃だろうか。アルトは、登山道の脇に散らばる、見慣れぬほど大きな鳥の羽根を見つけた。
白と茶の美しい縞模様を持つそれは、間違いなくグリフォンのものだろう。
さらに進むと、鋭い爪で抉られたような跡が、道沿いの大木に残されている。
そして、微かに漂う獣の匂い。縄張りに入ったことを、アルトは肌で感じていた。
(近い…!)
アルトは警戒レベルを最大に引き上げ、周囲、特に上空への注意を怠らなかった。
岩陰や木々を利用し、できる限り身を隠しながら進む。
しかし、エリアーヌが言っていた通り、グリフォンの優れた視覚からは、完全に身を隠すことは難しいのかもしれない。
その時だった。
甲高い、空気を切り裂くような鋭い鳴き声が、頭上高くから響き渡った。
見上げると、紺碧の空を背景に、巨大な影が旋回している。
鷲の鋭い眼光、力強い翼、そしてライオンの猛々しい体躯。
太陽の光を浴びて輝くその姿は、神話の生き物が現実に飛び出したかのように荘厳で、同時に圧倒的なプレッシャーを放っていた。
(あれが、グリフォン…!)
ロックホークなどとは比較にならない威容と存在感。
アルトは息を呑んだ。
グリフォンは、明らかにアルトの存在に気づいているようだった。空中で円を描きながら、地上で小さく見える獲物を、値踏みするように観察している。
次の瞬間、グリフォンは翼を大きく広げ、風を捉えると、ほとんど音もなく滑空を始めた。その動きは、恐ろしく滑らかで、速い。
(来る…!)
アルトは即座に「夜鏡」を構え、腰を落とした。黒曜の剣を抜き放ち、いつでも反撃に移れる体勢を取る。
狙いは正確だった。グリフォンはアルトの真上近くまで迫ると、翼をわずかにすぼめ、急降下を開始した。目指すはアルトの頭上。
岩をも砕くという、鋭利なくちばしによる一撃だ。
「させない!」
アルトは「夜鏡」を頭上に掲げ、迫りくるグリフォンのくちばしを正面から受け止める。
ゴッ!という鈍い衝撃音と共に、凄まじい圧力が盾を通じて腕に伝わる。だが、新生「夜鏡」はその衝撃の大部分を吸収し、アルトの体勢を崩させない。
(硬い!そして、この安定感…!)
ボルガン親方の仕事に改めて感謝しながら、アルトは即座に反撃を試みた。
しかし、グリフォンは一撃を防がれると見るや、瞬時に翼を打ち、再び高度を上げる。
地上での戦闘を続ける気はないようだ。
その判断の速さ、空中での機動力は驚異的だった。
「くっ…!」
アルトは、牽制のために用意していた投擲ナイフを一本抜き、上昇するグリフォン目掛けて投げつけた。しかし、グリフォンは軽々と身を翻し、ナイフは空を切る。
(やはり、小手先の攻撃は通用しないか…)
グリフォンは再びアルトの頭上で旋回を始め、次の攻撃の機会をうかがっている。
その動きには、一切の無駄がない。空の王者と呼ばれるだけのことはある。
アルトは思考を巡らせた。地上に引きずり下ろさなければ、まともな戦いにならない。エリアーヌが言っていた、インパクト・パルスによる飛行バランスの攪乱。あるいは、投げ縄での捕縛。
(だが、あのスピードと高度だ。インパクト・パルスが届くか?投げ縄が絡まる前に避けられる可能性も高い…)
グリフォンは、アルトの逡巡を見透かしたかのように、二度目の攻撃に移った。
今度は、急降下からの鋭い爪による薙ぎ払いだ。
ライオンの脚力から繰り出される一撃は、くちばし以上の破壊力を秘めているだろう。
アルトは、今度はバックステップで爪撃を回避しつつ、「夜鏡」で受け流す。
盾の表面を爪が滑り、火花が散った。
受け流した勢いを利用し、アルトは黒曜の剣でグリフォンの脚を狙うが、これもまた素早く後退され、浅く切り裂くにとどまった。
ギャアァッ!と、グリフォンが苦痛と怒りの混じった鳴き声を上げる。わずかだが、ダメージは与えられたようだ。しかし、決定打には程遠い。
(このままじゃ、ジリ貧だ…!何か、決定的な一手を…!)
アルトは「夜鏡」を構え直し、グリフォンを睨みつけた。
盾に刻まれたドワーフのルーンが、まるでアルトの闘志に呼応するかのように、微かに光を帯びているように見えた。
(反射…この空の敵に、俺の反射はどこまで通用する…?)
グリフォンもまた、手傷を負わされたことで、アルトを単なる獲物ではなく、排除すべき敵と認識したようだった。その眼光が、先ほどよりも鋭く、殺意を帯びてアルトを射抜く。
三度目の攻撃。
今度は、これまでとは違う。
グリフォンは高度を保ったまま、翼を激しく羽ばたかせた。
すると、その翼から、剃刀のように鋭い風の刃――「ウィンドカッター」が複数、アルト目掛けて放たれた!
「魔法攻撃…いや、風の刃か!」
物理攻撃だけではない。遠距離からの攻撃手段も持っているのだ。
アルトは咄嗟に「夜鏡」を前面に構え、飛来する風の刃を防ぐ。
バキン!バキン!と、硬質な音を立てて風の刃が盾に弾かれる。新生「夜鏡」の魔法防御力は確かに向上しており、風の刃を受けてもびくともしない。
(これなら…受け止められる!そして…!)
アルトは好機と見た。
物理的な打撃だけでなく、こうしたエネルギー攻撃も反射できるはずだ。
アルトは、盾に伝わるウィンドカッターのエネルギーを感じ取り、自身のギフト【ダメージ反射】を発動させる。
「リフレクト!」
「夜鏡」の表面が、受けた風のエネルギーを吸収し、漆黒の輝きを増す。そして、増幅されたエネルギーが、アルトの意思に従い、空中のグリフォンへと指向性を持って撃ち返された!
目には見えない、しかし強力な衝撃波を伴った反射エネルギーが、ウィンドカッターを放った直後でわずかに体勢の隙ができたグリフォンへと直撃する。
「!?」
予期せぬ反撃に、グリフォンは驚き、体勢を大きく崩した。
空中でバランスを失い、よろめくように高度を下げる。
(今だ!)
アルトはこのチャンスを逃さなかった。
目標は、ギルドマスターが言っていた弱点の一つ、翼の付け根。
あるいは、エリアーヌが示唆した、インパクト・パルスによる追撃。
アルトは地面を強く蹴り、体勢を崩して降下してくるグリフォンへ向かって、黒曜の剣と共に躍りかかろうとしていた。
空の王者を地上に引きずり下ろす、絶好の機会が訪れたのだ。
平坦な街道から次第に勾配がきつくなり、緑豊かな丘陵地帯はやがて、岩肌が目立つ険しい山道へと変わっていく。
空気は澄み、ひんやりとした風がアルトの頬を撫でた。眼前にそびえる山々は、まるで空を衝くかのように高く、その頂付近には万年雪が白く輝いている。
アーマーライノのような地を駆ける獣とは違う、空を支配する魔獣、グリフォン。アルトは気を引き締めながら、一歩一歩、確実に歩を進めた。道中、ギルドマスターやエリアーヌから得た情報を反芻する。
視覚、風を読む能力、空中からの奇襲…。どれも、これまでの相手にはなかった要素だ。新生「夜鏡」と黒曜の剣、そして自身のギフトが、この未知の脅威にどこまで通用するのか。
期待と、それ以上の緊張感がアルトの胸を満たしていた。
山岳地帯に入って半日ほど経った頃だろうか。アルトは、登山道の脇に散らばる、見慣れぬほど大きな鳥の羽根を見つけた。
白と茶の美しい縞模様を持つそれは、間違いなくグリフォンのものだろう。
さらに進むと、鋭い爪で抉られたような跡が、道沿いの大木に残されている。
そして、微かに漂う獣の匂い。縄張りに入ったことを、アルトは肌で感じていた。
(近い…!)
アルトは警戒レベルを最大に引き上げ、周囲、特に上空への注意を怠らなかった。
岩陰や木々を利用し、できる限り身を隠しながら進む。
しかし、エリアーヌが言っていた通り、グリフォンの優れた視覚からは、完全に身を隠すことは難しいのかもしれない。
その時だった。
甲高い、空気を切り裂くような鋭い鳴き声が、頭上高くから響き渡った。
見上げると、紺碧の空を背景に、巨大な影が旋回している。
鷲の鋭い眼光、力強い翼、そしてライオンの猛々しい体躯。
太陽の光を浴びて輝くその姿は、神話の生き物が現実に飛び出したかのように荘厳で、同時に圧倒的なプレッシャーを放っていた。
(あれが、グリフォン…!)
ロックホークなどとは比較にならない威容と存在感。
アルトは息を呑んだ。
グリフォンは、明らかにアルトの存在に気づいているようだった。空中で円を描きながら、地上で小さく見える獲物を、値踏みするように観察している。
次の瞬間、グリフォンは翼を大きく広げ、風を捉えると、ほとんど音もなく滑空を始めた。その動きは、恐ろしく滑らかで、速い。
(来る…!)
アルトは即座に「夜鏡」を構え、腰を落とした。黒曜の剣を抜き放ち、いつでも反撃に移れる体勢を取る。
狙いは正確だった。グリフォンはアルトの真上近くまで迫ると、翼をわずかにすぼめ、急降下を開始した。目指すはアルトの頭上。
岩をも砕くという、鋭利なくちばしによる一撃だ。
「させない!」
アルトは「夜鏡」を頭上に掲げ、迫りくるグリフォンのくちばしを正面から受け止める。
ゴッ!という鈍い衝撃音と共に、凄まじい圧力が盾を通じて腕に伝わる。だが、新生「夜鏡」はその衝撃の大部分を吸収し、アルトの体勢を崩させない。
(硬い!そして、この安定感…!)
ボルガン親方の仕事に改めて感謝しながら、アルトは即座に反撃を試みた。
しかし、グリフォンは一撃を防がれると見るや、瞬時に翼を打ち、再び高度を上げる。
地上での戦闘を続ける気はないようだ。
その判断の速さ、空中での機動力は驚異的だった。
「くっ…!」
アルトは、牽制のために用意していた投擲ナイフを一本抜き、上昇するグリフォン目掛けて投げつけた。しかし、グリフォンは軽々と身を翻し、ナイフは空を切る。
(やはり、小手先の攻撃は通用しないか…)
グリフォンは再びアルトの頭上で旋回を始め、次の攻撃の機会をうかがっている。
その動きには、一切の無駄がない。空の王者と呼ばれるだけのことはある。
アルトは思考を巡らせた。地上に引きずり下ろさなければ、まともな戦いにならない。エリアーヌが言っていた、インパクト・パルスによる飛行バランスの攪乱。あるいは、投げ縄での捕縛。
(だが、あのスピードと高度だ。インパクト・パルスが届くか?投げ縄が絡まる前に避けられる可能性も高い…)
グリフォンは、アルトの逡巡を見透かしたかのように、二度目の攻撃に移った。
今度は、急降下からの鋭い爪による薙ぎ払いだ。
ライオンの脚力から繰り出される一撃は、くちばし以上の破壊力を秘めているだろう。
アルトは、今度はバックステップで爪撃を回避しつつ、「夜鏡」で受け流す。
盾の表面を爪が滑り、火花が散った。
受け流した勢いを利用し、アルトは黒曜の剣でグリフォンの脚を狙うが、これもまた素早く後退され、浅く切り裂くにとどまった。
ギャアァッ!と、グリフォンが苦痛と怒りの混じった鳴き声を上げる。わずかだが、ダメージは与えられたようだ。しかし、決定打には程遠い。
(このままじゃ、ジリ貧だ…!何か、決定的な一手を…!)
アルトは「夜鏡」を構え直し、グリフォンを睨みつけた。
盾に刻まれたドワーフのルーンが、まるでアルトの闘志に呼応するかのように、微かに光を帯びているように見えた。
(反射…この空の敵に、俺の反射はどこまで通用する…?)
グリフォンもまた、手傷を負わされたことで、アルトを単なる獲物ではなく、排除すべき敵と認識したようだった。その眼光が、先ほどよりも鋭く、殺意を帯びてアルトを射抜く。
三度目の攻撃。
今度は、これまでとは違う。
グリフォンは高度を保ったまま、翼を激しく羽ばたかせた。
すると、その翼から、剃刀のように鋭い風の刃――「ウィンドカッター」が複数、アルト目掛けて放たれた!
「魔法攻撃…いや、風の刃か!」
物理攻撃だけではない。遠距離からの攻撃手段も持っているのだ。
アルトは咄嗟に「夜鏡」を前面に構え、飛来する風の刃を防ぐ。
バキン!バキン!と、硬質な音を立てて風の刃が盾に弾かれる。新生「夜鏡」の魔法防御力は確かに向上しており、風の刃を受けてもびくともしない。
(これなら…受け止められる!そして…!)
アルトは好機と見た。
物理的な打撃だけでなく、こうしたエネルギー攻撃も反射できるはずだ。
アルトは、盾に伝わるウィンドカッターのエネルギーを感じ取り、自身のギフト【ダメージ反射】を発動させる。
「リフレクト!」
「夜鏡」の表面が、受けた風のエネルギーを吸収し、漆黒の輝きを増す。そして、増幅されたエネルギーが、アルトの意思に従い、空中のグリフォンへと指向性を持って撃ち返された!
目には見えない、しかし強力な衝撃波を伴った反射エネルギーが、ウィンドカッターを放った直後でわずかに体勢の隙ができたグリフォンへと直撃する。
「!?」
予期せぬ反撃に、グリフォンは驚き、体勢を大きく崩した。
空中でバランスを失い、よろめくように高度を下げる。
(今だ!)
アルトはこのチャンスを逃さなかった。
目標は、ギルドマスターが言っていた弱点の一つ、翼の付け根。
あるいは、エリアーヌが示唆した、インパクト・パルスによる追撃。
アルトは地面を強く蹴り、体勢を崩して降下してくるグリフォンへ向かって、黒曜の剣と共に躍りかかろうとしていた。
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