落ちこぼれギフト【ダメージ反射】は諦めない ~1割返しから始まる異世界冒険譚~

シマセイ

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第124話 地上の爪牙、反射の追撃

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反射の一撃を受け、空中で体勢を崩したグリフォン。高度を落としながら、苦しげな翼の動きでなんとか制御を取り戻そうとしている。その巨体が、急速に地上へと近づいていた。

(今しかない!)

アルトはこの千載一遇の好機を逃さなかった。
地面を強く蹴り、落下してくるグリフォンの予測地点へと、弾丸のように疾走する。
手にした黒曜の剣の切っ先を、ギルドマスターが言っていた弱点の一つ、翼の付け根へと定める。新生「夜鏡」は左腕に確かな重みを与え、アルトに絶対的な防御への信頼感をもたらしていた。

しかし、空の王者は、ただ墜ちるだけの存在ではなかった。
落下しながらも、その鋭い眼光は地上で迫るアルトを捉えている。体勢を立て直すのは難しいと判断したのか、あるいは接近するアルトを迎撃するためか、グリフォンは落下する勢いを殺さず、逆に利用するように、大きく口を開き、岩をも砕くというくちばしをアルト目掛けて突き出してきた!

(墜ちながらも反撃を!?)

予測より早いカウンターに、アルトは一瞬驚愕する。だが、アーマーライノとの死闘を乗り越えた反射神経は、即座に対応を可能にした。
突進の勢いをわずかに殺し、半身になってくちばしの一撃を「夜鏡」で受け流す。ガギン!と金属同士が擦れ合うような激しい音が響き、アルトの腕に衝撃が走るが、盾の性能とアルト自身の体捌きで、致命的なダメージは回避した。

そして、ついにグリフォンが地面に激突するように着地した。土煙が舞い上がる。
翼の動きはまだ不安定だが、そのライオンの如き下半身は、大地をしっかりと踏みしめている。地上においても、その威圧感は少しも衰えていない。

「グルルルァァァッ!」

地に足がついたグリフォンは、怒りに満ちた咆哮を上げ、即座に反撃に移った。狙いは、間近にいるアルト。太い前脚が振り上げられ、鋭利な爪がアルトの胴体を薙ぎ払わんと迫る。空からの攻撃とは比較にならない、近距離での圧倒的な質量とパワーだ。

アルトはバックステップで爪撃を躱しつつ、グリフォンの前脚側面を黒曜の剣で斬りつけた。しかし、分厚い筋肉と硬い体毛に阻まれ、深く斬り込むには至らない。

(地上でも、この強さ…!)

グリフォンは休む間を与えず、連続して爪撃、噛みつきを繰り出してくる。アルトは「夜鏡」を巧みに使い、それらを捌き、受け流し、時には反射を織り交ぜて牽制するが、決定打を与える隙を見つけられない。盾がなければ、一撃で致命傷を負っていてもおかしくない猛攻だった。


グリフォンが再び翼を広げ、体勢を立て直して飛び立とうとする気配を見せた瞬間、アルトは好機と見た。
「夜鏡」を構え、盾の中央に意識を集中させる。

「インパクト・パルス!」

盾の表面から、不可視の衝撃波が放たれ、飛び立とうとしていたグリフォンの頭部側面を直撃した。

「ギャウッ!?」

グリフォンは短い悲鳴を上げ、頭を振ってよろめいた。飛行の試みは完全に中断され、その動きが一瞬、明らかに鈍る。視界も一瞬、定まらなかったようだ。

(効いた!)

アルトはこの隙を見逃さない。
踏み込み、狙いを定めるのは、先ほど浅く斬りつけた前脚、そしてそのすぐ上にある翼の付け根。
黒曜の剣に、自身の体重と踏み込みの勢いを乗せ、渾身の力を込めて振り抜いた!

ザシュッ!

鈍い手応えと共に、剣はグリフォンの体毛と皮膚を裂き、翼を支える筋肉の一部を断ち切った。

「ギャアアアアァァァーーーッ!!」

これまでにない、絶叫に近い悲鳴を上げてグリフォンが後退する。傷ついた翼は力なく垂れ下がり、もはや飛行は不可能だろう。その黄金の瞳が、憎悪と苦痛に燃えながら、アルトを睨みつけていた。

勝機は見えた。だが、相手は手負いの猛獣。ここからが、最も危険な局面かもしれなかった。
グリフォンは翼の機能を失ったことを悟ると、残された武器――爪と牙に全ての力を込めるかのように、再びアルトへと襲いかかってきた。その動きは、先ほどよりも荒々しく、捨て身の様相を呈している。

アルトは冷静だった。
「夜鏡」で致命的な攻撃を確実に防ぎ、黒曜の剣で的確に反撃を加える。
グリフォンの攻撃は苛烈だが、翼の負傷によりバランスを欠き、動きにわずかな隙が生まれていた。アルトはその隙を確実に見極め、ダメージを蓄積させていく。

何度目かの交錯。
グリフォンが、最後の力を振り絞るように、巨大な体躯でアルトに体当たりを仕掛けてきた。
アルトはこれを正面から受け止めず、半身で「夜鏡」に受け流す。
そして、体勢を崩したグリフォンのがら空きになった胸元――心臓部を目掛け、黒曜の剣を逆手に持ち替え、深く突き立てた。

グフッ…と、グリフォンの喉から空気が漏れる音がした。
あれほど荒れ狂っていた動きが、ぴたりと止まる。
黄金の瞳から、急速に光が失われていく。

やがて、巨体はゆっくりと横に傾き、ズシン、という重い音を立てて、完全に動かなくなった。

「……はぁ……はぁ……」

アルトは、グリフォンの亡骸の傍らで、荒い息をついた。
全身は汗で濡れ、腕にはグリフォンの猛攻を受け止めた衝撃がまだ残っている。しかし、深刻な怪我はない。これも、新生「夜鏡」の高い防御力と、自身の成長の証だろう。

見下ろすグリフォンの亡骸は、その威容を失ってもなお、力強く、美しい魔獣だった。
空の王者との死闘。それは、アーマーライノ戦とは全く異なる、新たな次元の戦いだった。
そして、アルトはそれに勝利したのだ。

「やった…」

Bランク冒険者としての、そして新たな相棒「夜鏡」との、本格的な初仕事。
アルトは、確かな達成感と共に、静かに呟いた。

彼はグリフォンから討伐の証となる鋭い爪をいくつか丁寧に採取し、依頼達成の証拠とした。
周囲を見渡せば、激しい戦闘の跡が生々しく残っている。

(ここも長居は無用だな)

アルトは、疲労した体に鞭打ち、亡骸を後にした。
王都への帰路、彼の足取りは、来た時よりも少しだけ、しかし確実に力強くなっていた。
この勝利は、彼に大きな自信と、さらなる高みを目指すための新たな糧を与えたのだ。
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