【完結】追放王女は辺境へ

シマセイ

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第八話:夜明けの後の誓い、そして芽生える絆

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夜明けと共にミモザ村に鳴り響いた救援の角笛は、悪夢のような一夜を戦い抜いた村人たちにとって、まさに天の福音だった。

グリューネヴァルト辺境伯家の獅子の紋章を染め抜いた軍旗を先頭に、屈強な騎士たちの一団が、朝日を浴びて力強く村へと入ってくる。

その数、およそ五十騎。

辺境伯領の主力部隊の一部であり、彼らの到着は、ミモザ村の安全が確保されたことを意味していた。

救援部隊を率いていたのは、レオンハルト辺境伯の右腕と名高い、壮年の騎士団長ゲルハルトだった。

彼は、村の惨状と、負傷した主君の姿を目の当たりにし、その顔に痛憤の色を浮かべたが、すぐに冷静さを取り戻し、的確な指示を飛ばし始めた。

「第一分隊は村の周囲を警戒し、残党がいないか徹底的に掃討せよ!第二分隊は負傷者の救護!軍医は辺境伯様の治療を最優先、他の者は村の負傷者の手当てにあたれ!第三分隊は、村の防衛設備の修復と、見張りを強化!」

ゲルハルト騎士団長の厳格な号令一下、騎士たちは一糸乱れぬ動きでそれぞれの任務に取り掛かる。

その練度の高さは、辺境の地で常に脅威と対峙してきた精鋭部隊ならではのものだった。

ミモザ村の村人たちは、ようやく訪れた安全に安堵の涙を流し、騎士たちの力強い姿に希望の光を見出していた。

フィリアもまた、集会所の窓からその様子を見守り、深く息をついた。

彼女の懸命な応急処置によって、レオンハルト辺境伯は一命を取り留めていたが、依然として予断を許さない状況だった。

救援部隊に同行してきた軍医が、すぐに辺境伯の治療に取り掛かる。

軍医は、フィリアが施した薬草による処置の的確さに驚き、彼女に感謝の言葉を述べた。

「……素晴らしい応急処置です。この薬草の選択と処置がなければ、辺境伯様の命は危うかったでしょう。あなたは何者ですかな?」

「私はフィリアと申します。薬草の知識が少しあるだけですわ。」

フィリアは謙遜したが、軍医は彼女の並々ならぬ知識と技術を既に見抜いていた。

村には、辺境伯以外にも多くの負傷者がいた。

騎士たちの奮戦も虚しく、魔物の牙や爪によって傷を負った村人、そして果敢に戦った騎士たち自身も、多くが血を流していた。

軍医一人では到底手が足りない状況で、フィリアは自ら申し出て、負傷者たちの治療を手伝った。

彼女は、村の女性たちに指示を出し、手持ちの薬草と、村の周辺で採れる薬草を組み合わせ、次々と治療薬を調合していく。

傷口を清め、薬草の湿布を施し、痛みを和らげるハーブティーを飲ませる。

その手際の良さと、負傷者に優しく寄り添う姿は、多くの兵士や村人たちに深い感銘を与え、「まるで本物の薬師のようだ」「いや、聖女様かもしれない」と囁かれるほどだった。

数時間が経過し、村の周辺の魔物の残党は完全に掃討され、負傷者たちの応急処置も一段落した。

ミモザ村には、破壊の爪痕が生々しく残ってはいたものの、ひとまずの平穏が訪れた。

レオンハルト辺境伯は、軍医とフィリアの治療により、昼過ぎには意識をはっきりと取り戻した。

まだ体は思うように動かせなかったが、その金色の瞳には、以前と変わらぬ強い光が宿っている。

彼が最初に求めたのは、フィリアとの面会だった。

集会所の奥、簡素な寝台に横たわる辺境伯の前に、フィリアは静かに進み出た。

「……フィリア、と名乗ったな。」

レオンハルトの声はまだ弱々しかったが、その響きには領主としての威厳があった。

「はい、辺境伯様。」

フィリアは、恭しく頭を下げた。

「顔を上げよ。君には、礼を言わねばならん。私の命を救ってくれたこと、そして……この村を守るために、身を挺して戦ってくれたこと。騎士団長から全て聞いた。君の機転と勇気がなければ、ミモザ村は今頃……いや、私自身も、こうして生きてはいなかっただろう。」

レオンハルトの言葉には、偽りのない深い感謝の念が込められていた。

「もったいないお言葉でございます。私は、ただ自分にできることをしたまでですわ。」

「謙遜は無用だ。君は、ただの村娘ではないな?その薬草の知識、冷静な判断力、そして何よりも、絶望的な状況でも決して諦めないその強い瞳……。一体、何者なのだ?」

レオンハルトの鋭い金色の瞳が、フィリアの青い瞳を真っ直ぐに見据える。

フィリアは一瞬、息を呑んだ。

自分の素性を明かすべきか、それとも……。

しかし、彼の眼差しには、疑念よりも、純粋な興味と、そして命の恩人に対する敬意のようなものが感じられた。

「……私は、フィリア。ただの、フィリアでございます。訳あって故郷を離れ、このミモザ村に流れ着きました。」

フィリアは、核心には触れず、そう答えるに留めた。

レオンハルトは、それ以上深く追求することはせず、ただ静かに頷いた。

「そうか……。ならば、フィリアよ。君のその勇気と知恵に、グリューネヴァルト辺境伯として、改めて心からの感謝を捧げる。そして、君が望むのであれば、この私にできる限りの報奨を与えよう。何なりと申すがよい。」

「報奨など、とんでもございません。辺境伯様が無事ご回復されることが、私にとって何よりの喜びです。」

フィリアの言葉に、レオンハルトは微かに目を見張り、そして、ふっとその口元に穏やかな笑みを浮かべた。

それは、彼がこの村に来てから初めて見せる、心からの笑みだったかもしれない。

その時、騎士団長のゲルハルトが、深刻な表情で部屋に入ってきた。

「辺境伯様、ご報告申し上げます。今回の魔物の襲撃ですが、どうやら尋常のものではございません。村の周辺を調査した結果、魔物たちの行動には、何者かに統率されていたかのような不自然な点が見受けられました。また、これほど多様な種類の魔物が、同時に、しかもこれほど大規模に一つの村を襲うなど、前代未聞にございます。」

「……何者かに、統率されていただと?」

レオンハルトの表情が、再び険しいものに戻った。

「はい。そして、森の奥深くで、奇妙な祭壇のようなものと、不気味な魔力の残滓を発見いたしました。これは……あるいは、何者かが意図的に魔物を操り、このミモザ村を襲わせた可能性も……」

ゲルハルトの言葉は、部屋にいた全員に衝撃を与えた。

魔物の大量発生が、自然現象ではなく、人為的なものかもしれない。

その目的は?そして、その黒幕は一体誰なのか?

ミモザ村を襲った悪夢は、まだ終わってはいなかった。

新たな、そしてより深い闇が、彼らの前に横たわっていることを予感させた。

フィリアは、その不穏な空気を敏感に感じ取りながらも、今はただ、目の前で傷を負っている辺境伯の回復に全力を尽くそうと、改めて心に誓うのだった。

そして、レオンハルトもまた、自分の命を救ってくれたこの謎多き女性フィリアに対し、感謝と共に、抗いがたいほどの強い興味と、そして保護欲にも似た特別な感情が芽生え始めているのを、自覚せずにはいられなかった。
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