【完結】ホラー短編集「隣の怪異」

シマセイ

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隣人

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なあ、ちょっと聞いて欲しいんだけどさ。
俺、去年の秋から渋谷に近い、ちょっと古いアパートに住んでるんだ。
家賃安いし、まあまあ便利だし、最初はラッキーとか思ってたんだけど…。

隣の部屋の奴。203号室の奴が、どうもヤバい気がするんだよ。

引っ越しの挨拶に行った時も、ドアチェーンしたまま、目だけ出してきてさ。
「ああ…どうも…」って、蚊の鳴くような声で。
男だと思うけど、背高くて、痩せてて、いつもマスクして帽子深く被ってるから、顔とか全然わかんない。

まあ、隣付き合いなんてどうでもいいんだけど、問題は、夜中の「音」なんだよ。

最初は、夜中の2時とか3時くらいに、壁の向こうから、
ズル…ズルル…って、何か重いものを引きずるような音が聞こえてきた。
家具の移動かな? とか思ったけど、それが、ほぼ毎晩続くんだ。

そのうち、音の種類が増えてきた。
トン…トン…トン…って、低い位置で、何か硬いものを、一定のリズムで叩くような音。
釘を打つ音とは違う。もっと、こう、儀式的な感じ?

かと思えば、ボソボソ、ボソボソ…って、壁一枚隔てた向こうで、ずーっと、何かを呟いてるような声が聞こえたり。
お経? 呪文? 何言ってるか全然わかんないけど、とにかく気味が悪い。

一番ヤバいと思ったのは、先週。
夜中に、ザクッ…ザクッ…って、何かを、こう、湿ったものを、何度も切り刻むような音が聞こえてきたんだよ。
生々しい音でさ…。
その後に、また、あの、ズル…ズル…って引きずる音。
さすがに怖くなって、警察呼ぼうか迷ったけど、音が止んじゃって…。
なんか、証拠もないし、気のせいかもって思ったら、通報できなかった。

一回だけ、あまりにうるさい時に、壁ドンしてみたんだ。
そしたら、ピタッ!と音が止んでさ。
ああ、やっと静かになった、と思った瞬間、

——— カリカリカリカリ……!!

俺が壁ドンした、まさにその場所の、壁の向こう側から、何か鋭いもので、壁を内側から引っ掻くような音が、すげえ勢いで聞こえてきたんだよ!
鳥肌立って、それ以来、もう怖くて何もできない。

で、昨日。土曜の夜な。
また例の、ザクザク音と、引きずる音が酷くてさ。俺、もう、イヤホンで音楽ガンガンかけて、無理やり寝ようとしてたんだ。
そしたら、午前3時前くらいかな。
突然、全ての音が、ぴたり、と止んだんだ。

あれ? と思って、イヤホン外して、耳を澄ます。
シーン…としてる。

静かになったな、と思った、その時。

——— スン……スン……フン……。

壁の、俺のベッドのすぐ横あたりから、何か、匂いを嗅ぐような、鼻をすするような音が、聞こえてきたんだよ。
犬か猫でも飼ってんのか? いや、ペット禁止だし…。

その、スンスン…って音が、だんだん、壁の、俺がいる場所に近づいてくる気がして…。
俺、息もできないくらい、固まってた。

そしたら、聞こえたんだ。
壁の、本当にすぐ向こうから。俺の、耳元に、直接囁くみたいに。

低い、掠れた、男の声で。

「……いい匂いだな……みぃつけた……」

俺、もう、マジで、腰抜けるかと思った。
声が出なかった。金縛りみたいに、体も動かせなかった。

その後、音は、何も聞こえなくなった。
でも、俺、昨夜は一睡もできなかった。
隣の奴は、俺が、この部屋にいるって、気づいてるんだ。俺が、聞いてるって、知ってるんだ。
そして、「見つけた」って…。

マジでどうしよう。
引っ越す金もないし。これ、ヤバいよな?
誰か、マジで、助けてくれよ……。
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