【完結】ホラー短編集「隣の怪異」

シマセイ

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手長足長

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これは、俺が大学のサークル仲間と山登りに行った時の話だ。

夏休みだったけど、その年は天候不順で、俺たちが行った山も、登り始めてしばらくしたら、あっという間に霧が出てきて、雨まで降ってきた。

「やべえな、これ…」

リーダー格の先輩が言った。

視界も悪いし、雨で足元も滑る。

このまま進むのは危険だって判断で、とりあえず近くにあった古い避難小屋で雨宿りすることになったんだ。

小屋は木造で、かなり古びてた。

中は板張りの床があるだけで、薄暗くてカビ臭い。

まあ、雨風しのげるだけマシか、って感じで、みんなでザックを下ろして休憩してた。

雨は一向に止む気配がなくて、結局、その日はその小屋で一泊することになった。

夜になって、雨音だけが響く中、俺たちはシュラフに潜り込んだ。

でも、俺はなんだか寝付けなくて、ずっと小屋の壁を叩く雨音を聞いてた。

深夜一時を回った頃だったと思う。

ふと、雨音に混じって、何か別の音が聞こえてきたんだ。

ザザ…ザザ…って、何かを引きずるような音。

最初は風で木の枝でも擦れてるのかと思ったけど、その音はだんだん小屋に近づいてくる気がする。

俺は隣で寝てた友人を揺り起こそうとしたけど、そいつは爆睡してて全然起きない。

そのうち、音は小屋のすぐ外で止まった。

静かになったな、と思った瞬間。

ドンドン!って、小屋の壁を強く叩く音がした。

それも一箇所じゃない。

小屋の周りから、あちこちで壁を叩く音がする。

俺はもうパニック寸前だったけど、声も出せない。

すると今度は、小屋の屋根が、ミシミシ…ギシギシ…って軋み始めた。

まるで、何か重いものが屋根の上を歩いてるみたいに。

その時、小屋の壁板の隙間、ほんの数ミリの隙間から、何かがスルスルっと入ってきた。

細くて、茶色くて、まるで枯れ木みたいなもの。

でも、その先端は、明らかに指の形をしてた。

異常に長い、骨張った指。

その指が、隙間から出てきて、中の様子を窺うように、ゆっくりと動いてる。

俺は息を殺して、その指から目を離せなかった。

指はしばらく部屋の中を探るように動いた後、またスルスルと隙間に戻っていった。

ホッとしたのも束の間、今度は、小屋の唯一の窓、雨戸が閉まってて外は見えないんだけど、その雨戸を外からガリガリと引っ掻く音がし始めた。

まるで、鋭い爪で無理やりこじ開けようとしてるみたいに。

そして、その音と共に、低い唸り声のようなものが聞こえてきた。

「ウゥ…グルルル…」

人間じゃない。

獣でもない。

もっと得体の知れない何かの声。

俺はもう、恐怖で全身が動かなかった。

ただ、仲間たちが起きないように、必死で自分の口を押さえてた。

どれくらいの時間が経っただろうか。

気づいたら、外の音は止んでた。

空が白み始めて、雨もいつの間にか上がってた。

俺は震える手で、仲間たちを叩き起こした。

そして、夜中の出来事を必死で話した。

最初はみんな半信半疑だったけど、小屋の外に出てみて、全員言葉を失った。

小屋の周りの地面には、人間のものではない、巨大な足跡がいくつも残ってたんだ。

それも、異常に足の指が長い、不気味な足跡。

そして、小屋の壁や雨戸には、鋭い爪で引っ掻いたような傷が無数についていた。

特に、俺が寝ていた場所のすぐ外側の壁は、まるで何かを探すように、集中的に傷つけられていた。

俺たちは、荷物もそこそこに、一目散に山を下りた。

下山してから、地元の古い資料館みたいなところで、あの山のことを調べてみた。

そしたら、一つの記述を見つけたんだ。

「その山には古来より異形の者共が棲まうと云う。手足長く、夜な夜な山中を徘徊し、迷い込んだ旅人を襲う。里人はそれを畏れ、手長足長と呼び、決して山に分け入ることはなかった…」

俺たちは、とんでもないものに遭遇してしまったのかもしれない。

今でも、キャンプとかで山小屋に泊まることがあるけど、夜中にふと物音がすると、あの時の恐怖が蘇ってくる。

そして、壁板の隙間から、あの細長い指が伸びてくるんじゃないかって、眠れなくなるんだ。
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