【完結】ホラー短編集「隣の怪異」

シマセイ

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廃車

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これは、俺がまだ専門学校生だった頃、友人のAと体験した話だ。

俺もAもバイクが好きで、よく二人でツーリングに出かけてた。

その日も、特に当てもなく、県境に近い山道を走ってたんだ。

古い峠道で、今はもうほとんど使われてないような寂れた道だった。

カーブが連続する道を抜けた先の、少し開けた場所に、それはあった。

一台の、錆びついた軽トラック。

どう見ても何年も放置されてる感じで、タイヤはパンクしてるし、荷台には枯れ葉や土砂が積もってる。

「うわ、なんだこれ…」

俺とAはバイクを停めて、その廃車に近づいてみた。

運転席のドアは半開きになってて、窓ガラスも割れてる。

車内を覗き込むと、シートは破れてカビが生えてるし、ダッシュボードもホコリまみれ。

ただ、妙に生活感があるっていうか、誰かがつい最近まで乗ってたような雰囲気も少しだけあった。

助手席には、色褪せた交通安全のお守りがぶら下がってたし、灰皿には吸い殻が何本か残ってた。

「不法投棄かな…」

Aが言った。

「こんな山奥にわざわざ捨てに来るなんて、悪質だよな」

俺もそう思った。

でも、それだけじゃない、何か嫌な感じがしたんだ。

車全体から、なんとも言えない重苦しいオーラが出てるっていうか。

俺たちが廃車をジロジロ見てたら、Aがふと、荷台の方に目をやった。

「ん?あれ、なんだろう…」

荷台の隅、積もった土砂に半分埋もれるようにして、何か箱のようなものが見える。

俺たちは興味本位で、その箱を掘り出してみることにした。

木の枝とか手で土をかき分けて、ようやく取り出したのは、古びたブリキの缶だった。

お菓子が入ってたような、よくある四角い缶。

でも、やけに重い。

振ってみると、中でカラカラと何かが動く音がする。

「開けてみようぜ」

Aが言う。

俺も中身が気になって、二人で缶の蓋をこじ開けようとした。

錆び付いててなかなか開かなかったけど、力任せに引っ張ったら、バコッて音を立てて蓋が外れた。

中に入ってたのは…大量の、人間の歯だった。

黄ばんだり黒ずんだりした、大小様々な歯が、缶の中にぎっしりと詰まってたんだ。

俺とAは、声も出せずに固まった。

なんだこれ、なんだこれ、なんだこれ…

頭の中で同じ言葉がぐるぐる回る。

異様な光景と、鼻をつくような、甘ったるいような、それでいて腐ったような匂い。

「…うわあああああっ!」

我に返った俺たちは、缶をその場に放り投げて、バイクに飛び乗って一目散に逃げ出した。

あの峠道をどうやって下りてきたのか、ほとんど覚えてない。

家に帰ってからも、あの歯の感触と匂いが頭から離れなくて、吐き気が止まらなかった。

Aも同じだったらしい。

次の日、俺たちは二人とも、高熱を出して寝込んだ。

数日後、ようやく体調が戻った俺たちは、もう一度あの場所に行ってみることにした。

もちろん、昼間に。

あの廃車がまだあるのか、そして、あの缶がどうなってるのか、確かめないと気が済まなかったんだ。

恐る恐るあの峠道に入って、廃車のあった場所まで行ってみた。

…廃車は、なくなってた。

跡形もなく。

俺たちが掘り出したブリキの缶も、もちろんない。

まるで、最初から何もなかったみたいに、そこにはただ、草木が生い茂ってるだけだった。

「…どういうことだよ…」

Aが呆然と呟く。

俺も、狐につままれたような気分だった。

あれは、夢だったのか…?

でも、あの手の感触も、匂いも、あまりにもリアルだった。

俺たちは何も言わずに、その場を後にした。

それ以来、俺たちは二人とも、山道や峠道には近づかないようにしてる。

そして、時々、ふとした瞬間に、あの錆びた軽トラックと、ブリキの缶に詰まってた無数の歯を思い出して、ゾッとすることがあるんだ。

あれは一体、誰の歯だったんだろうか。

そして、あの廃車は、どこへ消えてしまったんだろうか。
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