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第八話:凱旋、王都への序曲
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数ヶ月ぶりに「エルムの薬草店」のある懐かしい街並みが見えてきた時、アリアドネの胸には様々な感情が込み上げてきた。
辺境伯領での出来事は、彼女にとって大きな試練であると同時に、かけがえのない経験と自信を与えてくれた。
店の前に馬車が着くと、扉を開けて最初に出迎えてくれたのは、やはりゼノだった。
彼の顔には深い安堵と、隠しきれない喜びが浮かんでいる。
「アリアドネ君!よくぞ……よくぞ無事に戻ってきてくれた!」
ゼノはアリアドネの両肩を掴み、その声は感極まって震えていた。
「ただいま戻りました、ゼノ様。ご心配をおかけいたしました。」
アリアドネが微笑むと、店の奥や近所の家々から、彼女の帰還を知った顔なじみの客たちが次々と集まってきた。
「アリアドネさん、お帰りなさい!」
「辺境伯様のお妃様の病気を治したって、本当かい!?」
「街の誇りだよ!」
口々に祝福と歓迎の言葉をかけられ、アリアドネは改めてこの街の人々の温かさを感じ、胸が熱くなった。
その日の夜、店の片付けを終えた後、アリアドネはゼノに辺境伯領での出来事の一部始終を詳しく語って聞かせた。
セレスティーナ夫人の病の原因、治療の経過、そして辺境伯からの破格の報酬と、今後も賓客として遇するという約束まで。
ゼノは、時折驚きの声を上げ、時には目に涙を浮かべながら、アリアドネの話に聞き入っていた。
「……そうか、君はそれほどの大事を成し遂げてきたのだな。本当に、よく頑張った。君のような弟子を持てて、私は心から誇らしいよ。」
ゼノは、皺の刻まれた手でアリアドネの手をそっと握りしめた。
その温かさが、アリアドネの心を優しく包み込む。
アリアドネの不在中も、ゼノは一人で懸命に店を守り続けていた。
彼女の評判は地元でもさらに高まり、「エルムの薬草店」は相変わらず多くの客で賑わっていたという。
「さて、ゼノ様。実は、今後のことについてご相談したい儀がございます。」
アリアドネは居住まいを正し、切り出した。
「辺境伯様から頂いたこの資金を元手に、この店を改装し、さらに高品質な薬草やハーブ製品を専門に扱う店として、新たな一歩を踏み出したいのです。そして……」
アリアドネは一度言葉を切り、ゼノの目を真っ直ぐに見つめた。
「いつかは、王都にも支店を出したいと考えております。」
その言葉に、ゼノは息を呑んだ。
王都への進出。
それは、一介の街の薬屋にとっては、あまりにも大きな夢物語に聞こえるかもしれない。
しかし、アリアドネの瞳には、確固たる意志と実現への自信が満ち溢れていた。
しばらくの沈黙の後、ゼノはふっと顔を綻ばせた。
「……君らしいな、アリアドネ君。君がそこまで考えているのなら、私に否やはない。むしろ、全力で応援させてもらおう。この老いぼれの知識と経験が、少しでも君の役に立つのであればな。」
「ゼノ様……!ありがとうございます!」
アリアドネの心は、新たな希望と決意で満たされた。
数日後、辺境伯領の執事エルネストから、アリアドネ宛に一通の手紙が届いた。
そこには、セレスティーナ夫人がその後も順調に回復していることへの感謝と共に、例の「毒」の件に関するその後の調査状況が記されていた。
『……奥様の身の回りにあったいくつかの品物の出所を辿った結果、特定の侍女が関与していた可能性が浮上いたしました。しかし、その侍女は数日前に突如姿をくらまし、行方が掴めておりません。背後に何者かの指示があったのか、あるいは侍女単独の犯行だったのか、未だ判明しておりませぬが、引き続き調査を進めております……』
手紙を読み終えたアリアドネの表情は険しかった。
やはり、偶然ではなかったのだ。
そして、悪意を持った人間が、まだ捕まっていない。
(許せない……人の命を何だと思っているの……)
彼女の胸に、再び義憤の炎が燃え上がった。
真相究明への協力を改めてエルネストに伝える返信をしたためながら、アリアドネは貴族社会の闇の深さを改めて感じていた。
そして、その闇は、かつて自分を陥れたエリオットやリディアにも繋がっているのかもしれない。
王都進出への計画は、早速具体的に動き始めた。
アリアドネはまず、辺境伯から得た資金の一部を使い、店の奥にある使われていなかった倉庫を改装し、新たな調合室と研究室を設けることにした。
より高度な薬やハーブ製品を開発するためには、それに適した環境が必要だったからだ。
また、契約栽培を進めていた農家との連携をさらに強化し、高品質な薬草の安定供給ルートを確立。
ゼノの助けも借りながら、新しいハーブティーのブレンドや、美容効果の高いハーブオイル、そして特定の症状に特化した塗り薬などの開発にも精力的に取り組んだ。
それと並行して、アリアドネは王都に関する情報収集も密かに開始した。
辺境伯から拝領した通行証は、彼女の行動範囲を大きく広げる助けとなるだろう。
まずは、王都の薬草市場の動向、有力な薬問屋、そして貴族街の薬局の評判などを調べる必要がある。
そして何よりも、アシュフォード公爵家と、公爵夫人となったリディアの最近の動向。
彼らの情報を得るためには、信頼できる協力者を見つけなければならない。
(焦ることはないわ……でも、時間は有限よ……)
アリアドネは、窓の外に広がる夜空を見上げた。
辺境伯領での出来事は、彼女にとって大きな試練であると同時に、かけがえのない経験と自信を与えてくれた。
店の前に馬車が着くと、扉を開けて最初に出迎えてくれたのは、やはりゼノだった。
彼の顔には深い安堵と、隠しきれない喜びが浮かんでいる。
「アリアドネ君!よくぞ……よくぞ無事に戻ってきてくれた!」
ゼノはアリアドネの両肩を掴み、その声は感極まって震えていた。
「ただいま戻りました、ゼノ様。ご心配をおかけいたしました。」
アリアドネが微笑むと、店の奥や近所の家々から、彼女の帰還を知った顔なじみの客たちが次々と集まってきた。
「アリアドネさん、お帰りなさい!」
「辺境伯様のお妃様の病気を治したって、本当かい!?」
「街の誇りだよ!」
口々に祝福と歓迎の言葉をかけられ、アリアドネは改めてこの街の人々の温かさを感じ、胸が熱くなった。
その日の夜、店の片付けを終えた後、アリアドネはゼノに辺境伯領での出来事の一部始終を詳しく語って聞かせた。
セレスティーナ夫人の病の原因、治療の経過、そして辺境伯からの破格の報酬と、今後も賓客として遇するという約束まで。
ゼノは、時折驚きの声を上げ、時には目に涙を浮かべながら、アリアドネの話に聞き入っていた。
「……そうか、君はそれほどの大事を成し遂げてきたのだな。本当に、よく頑張った。君のような弟子を持てて、私は心から誇らしいよ。」
ゼノは、皺の刻まれた手でアリアドネの手をそっと握りしめた。
その温かさが、アリアドネの心を優しく包み込む。
アリアドネの不在中も、ゼノは一人で懸命に店を守り続けていた。
彼女の評判は地元でもさらに高まり、「エルムの薬草店」は相変わらず多くの客で賑わっていたという。
「さて、ゼノ様。実は、今後のことについてご相談したい儀がございます。」
アリアドネは居住まいを正し、切り出した。
「辺境伯様から頂いたこの資金を元手に、この店を改装し、さらに高品質な薬草やハーブ製品を専門に扱う店として、新たな一歩を踏み出したいのです。そして……」
アリアドネは一度言葉を切り、ゼノの目を真っ直ぐに見つめた。
「いつかは、王都にも支店を出したいと考えております。」
その言葉に、ゼノは息を呑んだ。
王都への進出。
それは、一介の街の薬屋にとっては、あまりにも大きな夢物語に聞こえるかもしれない。
しかし、アリアドネの瞳には、確固たる意志と実現への自信が満ち溢れていた。
しばらくの沈黙の後、ゼノはふっと顔を綻ばせた。
「……君らしいな、アリアドネ君。君がそこまで考えているのなら、私に否やはない。むしろ、全力で応援させてもらおう。この老いぼれの知識と経験が、少しでも君の役に立つのであればな。」
「ゼノ様……!ありがとうございます!」
アリアドネの心は、新たな希望と決意で満たされた。
数日後、辺境伯領の執事エルネストから、アリアドネ宛に一通の手紙が届いた。
そこには、セレスティーナ夫人がその後も順調に回復していることへの感謝と共に、例の「毒」の件に関するその後の調査状況が記されていた。
『……奥様の身の回りにあったいくつかの品物の出所を辿った結果、特定の侍女が関与していた可能性が浮上いたしました。しかし、その侍女は数日前に突如姿をくらまし、行方が掴めておりません。背後に何者かの指示があったのか、あるいは侍女単独の犯行だったのか、未だ判明しておりませぬが、引き続き調査を進めております……』
手紙を読み終えたアリアドネの表情は険しかった。
やはり、偶然ではなかったのだ。
そして、悪意を持った人間が、まだ捕まっていない。
(許せない……人の命を何だと思っているの……)
彼女の胸に、再び義憤の炎が燃え上がった。
真相究明への協力を改めてエルネストに伝える返信をしたためながら、アリアドネは貴族社会の闇の深さを改めて感じていた。
そして、その闇は、かつて自分を陥れたエリオットやリディアにも繋がっているのかもしれない。
王都進出への計画は、早速具体的に動き始めた。
アリアドネはまず、辺境伯から得た資金の一部を使い、店の奥にある使われていなかった倉庫を改装し、新たな調合室と研究室を設けることにした。
より高度な薬やハーブ製品を開発するためには、それに適した環境が必要だったからだ。
また、契約栽培を進めていた農家との連携をさらに強化し、高品質な薬草の安定供給ルートを確立。
ゼノの助けも借りながら、新しいハーブティーのブレンドや、美容効果の高いハーブオイル、そして特定の症状に特化した塗り薬などの開発にも精力的に取り組んだ。
それと並行して、アリアドネは王都に関する情報収集も密かに開始した。
辺境伯から拝領した通行証は、彼女の行動範囲を大きく広げる助けとなるだろう。
まずは、王都の薬草市場の動向、有力な薬問屋、そして貴族街の薬局の評判などを調べる必要がある。
そして何よりも、アシュフォード公爵家と、公爵夫人となったリディアの最近の動向。
彼らの情報を得るためには、信頼できる協力者を見つけなければならない。
(焦ることはないわ……でも、時間は有限よ……)
アリアドネは、窓の外に広がる夜空を見上げた。
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