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第十一話:王都への旅立ち、新たな舞台の幕開け
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バルトフェルド辺境伯領から戻り、王都の物件が見つかったという知らせを受けたアリアドネは、すぐさま王都への出発準備に取り掛かった。
彼女の心は、新たな挑戦への期待と、未知なる大都市での生活への微かな不安、そして何よりも、復讐の舞台へと近づくことへの高揚感で満ち溢れていた。
出発の日が近づくにつれ、「エルムの薬草店」には、アリアドネの旅立ちを惜しむ街の人々がひっきりなしに訪れた。
誰もが彼女の才能と人柄を愛し、その成功を心から願っていた。
「アリアドネさん、王都に行っても、私たちのことを忘れないでおくれよ。」
「あなたの作る薬のおかげで、うちの婆さんの膝の痛みがすっかり良くなったんだ。本当にありがとう。」
「王都でもきっと、あなたの薬はたくさんの人を救うことになるでしょうね。」
温かい言葉の数々に、アリアドネは何度も目頭を熱くした。
ゼノは、表向きはいつもと変わらぬ落ち着いた態度でアリアドネに接していたが、その瞳の奥には深い寂しさと、娘を送り出す父親のような愛情が滲んでいた。
「アリアドネ君、王都は大きな街だ。誘惑も多いだろうし、君の才能を妬む者も現れるかもしれん。だが、君なら大丈夫だ。常に自分を信じ、薬草の声に耳を澄ませていれば、道に迷うことはないだろう。」
それは、長年薬草と共に生きてきた師からの、何よりの餞(はなむけ)の言葉だった。
「はい、ゼノ様。必ず、王都で成功してみせます。そして、いつかゼノ様をお招きできるような、立派な店を構えてご覧にいれます。」
アリアドネは力強く応えた。
弟子のサラは、アリアドネとの別れを誰よりも悲しんだ。
「アリアドネ先生……私も、いつか必ず、先生のお役に立てるような薬師になります。だから……だから、王都のお店が大きくなったら、私も呼んでください!」
涙を浮かべながらも、サラは懸命に前を向こうとしていた。
アリアドネはサラの頭を優しく撫で、彼女の成長を心から楽しみにしていると伝えた。
出発の朝。
街の人々に見送られ、アリアドネは辺境伯が手配してくれた数名の屈強な護衛と共に、王都へと向かう馬車に乗り込んだ。
その手には、ゼノとサラ、そして街の人々から贈られた小さな薬草のお守りが、固く握りしめられていた。
数日間に及ぶ旅路は、辺境伯の紋章が刻まれた通行証のおかげで、驚くほど順調だった。
関所の厳しい検問も顔パス同然で通過でき、大きな街では貴族専用の宿舎に案内されることもあった。
辺境伯アルフレッドの人脈と影響力の大きさを、アリアドネは改めて実感した。
そして、ついにその日が来た。
馬車の窓から、遠くに見えてきたのは、天を突くような高い城壁と、その内側に広がる無数の建物群。
世界有数の大都市、王都アステリアだ。
城門をくぐり、再び王都のメインストリートへと足を踏み入れたアリアドネは、改めてその圧倒的なスケールと変わらぬ活気に息を呑んだ。
追放されてから過ごした穏やかな地方都市とは比べ物にならない道幅。
かつては当たり前のようにその中を行き来していたはずの、磨き上げられた貴族たちの豪華な馬車が、今はどこか遠い世界の光景のように目に映る。
沿道に軒を連ねる華やかな商店の数々も、以前とは違う感慨をもって彼女の胸に迫った。
人々の喧騒は、公爵夫人として守られた立場では感じることのなかった生々しいエネルギーに満ちており、アリアドネは背筋が伸びる思いだった。
大通りを少し進むと、かつて自分が暮らしたアシュフォード公爵家の屋敷がある方角が視界に入る。胸の奥がチリリと痛んだが、すぐにその感情を意志の力で押さえ込んだ。
(ここが……王都……私が全てを失い、そして全てを取り戻す場所……エリオットとリディアがいる街……)
アリアドネは、馬車の中からその光景を見つめながら、新たな決意を胸に刻んだ。
この華やかな大都市で、自分は必ず成功を掴むのだと。
王都でアリアドネを待っていたのは、辺境伯から紹介された商会に籍を置く、初老の代理人だった。
彼は丁寧な物腰でアリアドネを迎え、早速、確保したという物件へと案内してくれた。
物件は、アリアドネが希望した通り、貴族街と庶民街の中間に位置する、比較的新しい商業地区の一角にあった。
人通りもそこそこあり、近隣には様々な種類の専門店が並んでいる。
建物は、石造りのしっかりとした二階建てで、一階部分は店舗として使うのに十分な広さがあり、大きな窓からは明るい光が差し込んでいる。
二階はいくつかの部屋に分かれており、住居兼研究室として使うのに申し分ない造りだった。
多少の古さは感じられるものの、手入れをすれば見違えるようになるだろうと、アリアドネは直感した。
「素晴らしいわ……ここなら、私の夢を形にできるかもしれない。」
アリアドネは、埃っぽい床にそっと手を触れながら、感慨深げに呟いた。
彼女の頭の中には、既にこの場所で新しい「瑠璃色の薬草店」が営業を始める光景が、鮮やかに思い描かれていた。
その夜、アリアドネは二階の一室に簡素な寝床を用意してもらい、初めて王都の夜を迎えた。
窓の外からは、遠く賑やかな街の音が微かに聞こえてくる。
そして、その遥か先には、アシュフォード公爵家の壮麗な屋敷があるはずだ。
(待っていなさい、エリオット、リディア……。あなたたちが私から奪った全てを、私はこの王都で、それ以上のものとして取り返してみせるわ……!)
アリアドネは、遠い夜空に浮かぶ月を見上げながら、静かに、しかし確かな闘志を燃やした。
翌朝、アリアドネは早速行動を開始した。
まずは、この新しい店を本格的に始動させるための改装計画を具体的に練り、腕の良い職人を探す手配を代理人に依頼した。
それと同時に、王都の薬草市場の視察、有力な薬問屋への挨拶回り、そして何よりも、辺境伯から紹介状を預かっている王都の有力者たちへの表敬訪問の準備に取り掛かった。
情報収集と人脈作り。
それが、この大都市で成功を掴むための、そして復讐を果たすための、最初の重要な一歩となる。
アリアドネの、王都での新たな戦いが、今まさに始まろうとしていた。
彼女の心は、新たな挑戦への期待と、未知なる大都市での生活への微かな不安、そして何よりも、復讐の舞台へと近づくことへの高揚感で満ち溢れていた。
出発の日が近づくにつれ、「エルムの薬草店」には、アリアドネの旅立ちを惜しむ街の人々がひっきりなしに訪れた。
誰もが彼女の才能と人柄を愛し、その成功を心から願っていた。
「アリアドネさん、王都に行っても、私たちのことを忘れないでおくれよ。」
「あなたの作る薬のおかげで、うちの婆さんの膝の痛みがすっかり良くなったんだ。本当にありがとう。」
「王都でもきっと、あなたの薬はたくさんの人を救うことになるでしょうね。」
温かい言葉の数々に、アリアドネは何度も目頭を熱くした。
ゼノは、表向きはいつもと変わらぬ落ち着いた態度でアリアドネに接していたが、その瞳の奥には深い寂しさと、娘を送り出す父親のような愛情が滲んでいた。
「アリアドネ君、王都は大きな街だ。誘惑も多いだろうし、君の才能を妬む者も現れるかもしれん。だが、君なら大丈夫だ。常に自分を信じ、薬草の声に耳を澄ませていれば、道に迷うことはないだろう。」
それは、長年薬草と共に生きてきた師からの、何よりの餞(はなむけ)の言葉だった。
「はい、ゼノ様。必ず、王都で成功してみせます。そして、いつかゼノ様をお招きできるような、立派な店を構えてご覧にいれます。」
アリアドネは力強く応えた。
弟子のサラは、アリアドネとの別れを誰よりも悲しんだ。
「アリアドネ先生……私も、いつか必ず、先生のお役に立てるような薬師になります。だから……だから、王都のお店が大きくなったら、私も呼んでください!」
涙を浮かべながらも、サラは懸命に前を向こうとしていた。
アリアドネはサラの頭を優しく撫で、彼女の成長を心から楽しみにしていると伝えた。
出発の朝。
街の人々に見送られ、アリアドネは辺境伯が手配してくれた数名の屈強な護衛と共に、王都へと向かう馬車に乗り込んだ。
その手には、ゼノとサラ、そして街の人々から贈られた小さな薬草のお守りが、固く握りしめられていた。
数日間に及ぶ旅路は、辺境伯の紋章が刻まれた通行証のおかげで、驚くほど順調だった。
関所の厳しい検問も顔パス同然で通過でき、大きな街では貴族専用の宿舎に案内されることもあった。
辺境伯アルフレッドの人脈と影響力の大きさを、アリアドネは改めて実感した。
そして、ついにその日が来た。
馬車の窓から、遠くに見えてきたのは、天を突くような高い城壁と、その内側に広がる無数の建物群。
世界有数の大都市、王都アステリアだ。
城門をくぐり、再び王都のメインストリートへと足を踏み入れたアリアドネは、改めてその圧倒的なスケールと変わらぬ活気に息を呑んだ。
追放されてから過ごした穏やかな地方都市とは比べ物にならない道幅。
かつては当たり前のようにその中を行き来していたはずの、磨き上げられた貴族たちの豪華な馬車が、今はどこか遠い世界の光景のように目に映る。
沿道に軒を連ねる華やかな商店の数々も、以前とは違う感慨をもって彼女の胸に迫った。
人々の喧騒は、公爵夫人として守られた立場では感じることのなかった生々しいエネルギーに満ちており、アリアドネは背筋が伸びる思いだった。
大通りを少し進むと、かつて自分が暮らしたアシュフォード公爵家の屋敷がある方角が視界に入る。胸の奥がチリリと痛んだが、すぐにその感情を意志の力で押さえ込んだ。
(ここが……王都……私が全てを失い、そして全てを取り戻す場所……エリオットとリディアがいる街……)
アリアドネは、馬車の中からその光景を見つめながら、新たな決意を胸に刻んだ。
この華やかな大都市で、自分は必ず成功を掴むのだと。
王都でアリアドネを待っていたのは、辺境伯から紹介された商会に籍を置く、初老の代理人だった。
彼は丁寧な物腰でアリアドネを迎え、早速、確保したという物件へと案内してくれた。
物件は、アリアドネが希望した通り、貴族街と庶民街の中間に位置する、比較的新しい商業地区の一角にあった。
人通りもそこそこあり、近隣には様々な種類の専門店が並んでいる。
建物は、石造りのしっかりとした二階建てで、一階部分は店舗として使うのに十分な広さがあり、大きな窓からは明るい光が差し込んでいる。
二階はいくつかの部屋に分かれており、住居兼研究室として使うのに申し分ない造りだった。
多少の古さは感じられるものの、手入れをすれば見違えるようになるだろうと、アリアドネは直感した。
「素晴らしいわ……ここなら、私の夢を形にできるかもしれない。」
アリアドネは、埃っぽい床にそっと手を触れながら、感慨深げに呟いた。
彼女の頭の中には、既にこの場所で新しい「瑠璃色の薬草店」が営業を始める光景が、鮮やかに思い描かれていた。
その夜、アリアドネは二階の一室に簡素な寝床を用意してもらい、初めて王都の夜を迎えた。
窓の外からは、遠く賑やかな街の音が微かに聞こえてくる。
そして、その遥か先には、アシュフォード公爵家の壮麗な屋敷があるはずだ。
(待っていなさい、エリオット、リディア……。あなたたちが私から奪った全てを、私はこの王都で、それ以上のものとして取り返してみせるわ……!)
アリアドネは、遠い夜空に浮かぶ月を見上げながら、静かに、しかし確かな闘志を燃やした。
翌朝、アリアドネは早速行動を開始した。
まずは、この新しい店を本格的に始動させるための改装計画を具体的に練り、腕の良い職人を探す手配を代理人に依頼した。
それと同時に、王都の薬草市場の視察、有力な薬問屋への挨拶回り、そして何よりも、辺境伯から紹介状を預かっている王都の有力者たちへの表敬訪問の準備に取り掛かった。
情報収集と人脈作り。
それが、この大都市で成功を掴むための、そして復讐を果たすための、最初の重要な一歩となる。
アリアドネの、王都での新たな戦いが、今まさに始まろうとしていた。
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