【完結】望まれなかった代役婚ですが、投資で村を救っていたら旦那様に溺愛されました。

ivy

文字の大きさ
54 / 89
第三章 貴方となら何でも出来る気がしました

53・毒対毒の戦い

しおりを挟む
 それは、よく晴れた気持ちの良い朝だった。

 テグナル子爵家の令嬢ペンネ・テグナルは、いそいそと新しいドレスを身にまとい、迎えの馬車を待っていた。

「ペンネ、どこかに出かけるの?」

 姉のマルゲリータが訝しげな顔で尋ねる。

「そうよ。アルヴェリオ様のところに行くの」

「なんですって?ダメに決まってるでしょう。迷惑をかけないで」

 マルゲリータの言葉に、ペンネはむっとして声を荒らげた。

「アルヴェリオ様に迷惑なんてかけてないわ!私はただ、おそばにいたいだけなの!」

「それがご迷惑だと言ってるのよ。アルヴェリオ様が屋敷に人が来るのを好まないのは知ってるでしょう」

「お姉さまは黙っていて!私の恋を邪魔するのは許さないわ!」

 ペンネはそう叫ぶと、馬車に向かって駆け出した。

(お姉さまは何もわかってない。私がどれだけ長い間、あの人に恋をしてきたか)

 馬車の窓から流れる景色を見ながら、ペンネは初めてアルヴェリオに会った日のことを思い出していた。

 ──それは自分がまだ子供だった頃。
 親戚筋にあたるバロウズ男爵が突然養子を迎えた。

 妻を亡くした後、どれだけ勧められても後妻を取らず、ただ仕事に邁進していた男爵が、「息子だ」と紹介したのがアルヴェリオだった。

「はじめまして」

 そう言って差し出された手は、今まで見たどんな少年よりも美しく、高貴だった。
 その瞬間、ペンネは一目惚れしてしまったのだ。

 アルヴェリオは同年代の少年とは違い、無意味に騒いだり、女の子をからかったりもしない。
 だが大人しいわけでもなく、頭の回転が速く、剣の腕も優れていた。どれほど努力して彼があの品格を身につけているのかは一目でわかった。

 それなのに、いつの間にか彼のそばには、あの平民の少年がいた。

「……アルヴェリオ様にベタベタして。本当に許せない」

 アルヴェリオは、基本的に誰の訪問も好まない。
 どうしてもという時は、先に用件を書いた手紙を送り、返事をもらってからでなければ会ってさえもらえない。

 だからこそ姉のマルゲリータは「絶対に行ってはダメ」と言い続けてきた。
 しかしペンネは確信していた。

 自分は別だ。
 幼い頃からの従姉妹なのだから、邪険になどされるはずがない──と。

(お姉さまが勝手なことを言ってるだけ。アルヴェリオ様だって寂しいに決まってる。だからあんな子についよそ見したのよ。この機会に正式に私との結婚をお父様に申し出てもらおう。きっと私の言うことを聞いてくれるわ)

 ペンネの頭には、夢のような結婚生活が広がっていく。

 そんな甘い想像を抱いたまま男爵邸に着き、馬車を降りたペンネを迎えたのは──アシュレイだった。

「どのようなご用件で?」

「えっ、その……」

 目の前に立つ男を見て、ペンネは言葉を失った。

 今まで見たこともないほど整った顔。
 物腰は上品で、上質な衣をまとい、冷たい目で自分を見下ろしている。

「アルヴェリオ様は?あなた、誰?」

 驚くあまり礼儀も吹き飛び、子供のような態度で問いただす。

「アルヴェリオ様なら、今日は仕事で外出しております。……ご挨拶が遅れました。私はアシュレイ・グランチェスター。侯爵家からバロウズ男爵家に嫁いで参りました」

「え……?」

 ペンネは耳を疑った。

 さっきの舞踏会にいた少年ではない。
 そして今、「アルヴェリオと結婚した」と言った。

「そんなわけないわ!何も聞いてない! 私は従姉妹よ?!黙って結婚なんてするはずない!それにアルヴェリオと結婚するのは私なの!」

 ペンネが叫んだ瞬間、アシュレイの瞳はさらに冷たく光った。

「あー、勘違いしてる?馬鹿な女だね」

「な、なんですって?!」

 あまりの態度の変化に、ペンネは怒りで震えた。

「アルヴェリオ様がお前みたいなブス相手にするわけないだろ。鏡見てみろよ。俺に勝てるところが一つでもあるか?それに礼儀作法も知らない。その程度でよく彼に近づけたね」

 次々と浴びせられる罵倒。
 ペンネは言い返すことができなかった。

 アシュレイの言葉は──悔しいけれど、すべて正論だった。

 何も言い返せず、悔しさに涙が出てきた。

「ほら、そうやってすぐ泣く。言いたいことがあるなら言えよ。ないならさっさと帰れ」

 アシュレイは、そう言うと踵を返して屋敷のドアを閉めた。

「待ちなさいよ!」
しおりを挟む
感想 151

あなたにおすすめの小説

冤罪で追放された悪役令息、北の辺境で幸せを掴む~恐ろしいと噂の銀狼将軍に嫁いだら、極上の溺愛とモフモフなスローライフが始まりました~

水凪しおん
BL
「君は、俺の宝だ」 無実の罪を着せられ、婚約破棄の末に極寒の辺境へ追放された公爵令息ジュリアン。 彼を待ち受けていたのは、「北の食人狼」と恐れられる将軍グリーグとの政略結婚だった。 死を覚悟したジュリアンだったが、出会った将軍は、噂とは真逆の不器用で心優しいアルファで……? 前世の記憶を持つジュリアンは、現代知識と魔法でボロボロの要塞を快適リフォーム! 手作りスープで将軍の胃袋を掴み、特産品開発で街を救い、気づけば冷徹将軍から規格外の溺愛を受けることに。 一方、ジュリアンを捨てた王都では、破滅の足音が近づいていて――。 冤罪追放から始まる、銀狼将軍との幸せいっぱいな溺愛スローライフ、ここに開幕! 【オメガバース/ハッピーエンド/ざまぁあり/子育て/スパダリ】

姉の聖女召喚に巻き込まれた無能で不要な弟ですが、ほんものの聖女はどうやら僕らしいです。気付いた時には二人の皇子に完全包囲されていました

彩矢
BL
20年ほど昔に書いたお話しです。いろいろと拙いですが、あたたかく見守っていただければ幸いです。 姉の聖女召喚に巻き込まれたサク。無実の罪を着せられ処刑される寸前第4王子、アルドリック殿下に助け出さる。臣籍降下したアルドリック殿下とともに不毛の辺境の地へと旅立つサク。奇跡をおこし、隣国の第2皇子、セドリック殿下から突然プロポーズされる。

身代わり召喚された俺は四人の支配者に溺愛される〜囲い込まれて逃げられません〜

たら昆布
BL
間違って異世界召喚された青年が4人の男に愛される話

悪役会計様に転生した俺は、生徒会長に媚び売って生き残る

桜城 寧
BL
処刑された記憶とともに、BLゲームに登場する悪役会計に転生したことに気付く。処刑されないために、チャラ男としての仮面を被り、生徒会長に媚び売ったり、どうにか能力を駆使したりして生きてたら、色々な人に構われる話。

【エルド学園】俺はこの『親友』が、ただの学生だと思っていた

西園 いつき
BL
エルド王国第一王子、レオンは、唯一の親友ノアと日々研鑽を重ねていた。 文武共に自分より優れている、対等な学生。 ノアのことをそう信じて疑わなかったレオンだが、突如学園生活は戦火に巻き込まれ、信じていたものが崩れ始める。 王国と帝国、そして王統をめぐる陰謀と二人の関係が交錯する、王子×親友のファンタジーBL。

【8話完結】僕の大切な人はBLゲームの主人公でした。〜モブは主人公の幸せのためなら、この恋も諦められます〜

キノア9g
BL
転生先は、まさかのBLゲームの世界。 モブであるリセルは、恋を自覚した瞬間、幼馴染・セスがこの世界の“主人公”だと気づいてしまう。 このまま一緒にいても、いつか彼は攻略対象に惹かれていく運命——それでも、今だけは傍にいたい。 「諦める覚悟をしたのに、どうしてこんなにも君が愛おしいんだろう」 恋の終わりを知っているモブと、想いを自覚していく主人公。 甘さと切なさが胸を締めつける、すれ違いから始まる運命の物語。 全8話。

「自由に生きていい」と言われたので冒険者になりましたが、なぜか旦那様が激怒して連れ戻しに来ました。

キノア9g
BL
「君に義務は求めない」=ニート生活推奨!? ポジティブ転生者と、言葉足らずで愛が重い氷の伯爵様の、全力すれ違い新婚ラブコメディ! あらすじ 「君に求める義務はない。屋敷で自由に過ごしていい」 貧乏男爵家の次男・ルシアン(前世は男子高校生)は、政略結婚した若き天才当主・オルドリンからそう告げられた。 冷徹で無表情な旦那様の言葉を、「俺に興味がないんだな! ラッキー、衣食住保証付きのニート生活だ!」とポジティブに解釈したルシアン。 彼はこっそり屋敷を抜け出し、偽名を使って憧れの冒険者ライフを満喫し始める。 「旦那様は俺に無関心」 そう信じて、半年間ものんきに遊び回っていたルシアンだったが、ある日クエスト中に怪我をしてしまう。 バレたら怒られるかな……とビクビクしていた彼の元に現れたのは、顔面蒼白で息を切らした旦那様で――!? 「君が怪我をしたと聞いて、気が狂いそうだった……!」 怒鳴られるかと思いきや、折れるほど強く抱きしめられて困惑。 えっ、放置してたんじゃなかったの? なんでそんなに必死なの? 実は旦那様は冷徹なのではなく、ルシアンが好きすぎて「嫌われないように」と身を引いていただけの、超・奥手な心配性スパダリだった! 「君を守れるなら、森ごと消し飛ばすが?」 「過保護すぎて冒険になりません!!」 Fランク冒険者ののんきな妻(夫)×国宝級魔法使いの激重旦那様。 すれ違っていた二人が、甘々な「週末冒険者夫婦」になるまでの、勘違いと溺愛のハッピーエンドBL。

悪役令息を改めたら皆の様子がおかしいです?

  *  ゆるゆ
BL
王太子から伴侶(予定)契約を破棄された瞬間、前世の記憶がよみがえって、悪役令息だと気づいたよ! しかし気づいたのが終了した後な件について。 悪役令息で断罪なんて絶対だめだ! 泣いちゃう! せっかく前世を思い出したんだから、これからは心を入れ替えて、真面目にがんばっていこう! と思ったんだけど……あれ? 皆やさしい? 主人公はあっちだよー? ユィリと皆の動画をつくりました! インスタ @yuruyu0 絵も動画もあがります。ほぼ毎日更新 Youtube @BL小説動画 アカウントがなくても、どなたでもご覧になれます。動画を作ったときに更新 プロフのWebサイトから、両方に飛べるので、もしよかったら! 名前が  *   ゆるゆ  になりましたー! 中身はいっしょなので(笑)これからもどうぞよろしくお願い致しますー! ご感想欄 、うれしくてすぐ承認を押してしまい(笑)ネタバレ 配慮できないので、ご覧になる時は、お気をつけください!

処理中です...