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第三章 貴方となら何でも出来る気がしました
53・毒対毒の戦い
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それは、よく晴れた気持ちの良い朝だった。
テグナル子爵家の令嬢ペンネ・テグナルは、いそいそと新しいドレスを身にまとい、迎えの馬車を待っていた。
「ペンネ、どこかに出かけるの?」
姉のマルゲリータが訝しげな顔で尋ねる。
「そうよ。アルヴェリオ様のところに行くの」
「なんですって?ダメに決まってるでしょう。迷惑をかけないで」
マルゲリータの言葉に、ペンネはむっとして声を荒らげた。
「アルヴェリオ様に迷惑なんてかけてないわ!私はただ、おそばにいたいだけなの!」
「それがご迷惑だと言ってるのよ。アルヴェリオ様が屋敷に人が来るのを好まないのは知ってるでしょう」
「お姉さまは黙っていて!私の恋を邪魔するのは許さないわ!」
ペンネはそう叫ぶと、馬車に向かって駆け出した。
(お姉さまは何もわかってない。私がどれだけ長い間、あの人に恋をしてきたか)
馬車の窓から流れる景色を見ながら、ペンネは初めてアルヴェリオに会った日のことを思い出していた。
──それは自分がまだ子供だった頃。
親戚筋にあたるバロウズ男爵が突然養子を迎えた。
妻を亡くした後、どれだけ勧められても後妻を取らず、ただ仕事に邁進していた男爵が、「息子だ」と紹介したのがアルヴェリオだった。
「はじめまして」
そう言って差し出された手は、今まで見たどんな少年よりも美しく、高貴だった。
その瞬間、ペンネは一目惚れしてしまったのだ。
アルヴェリオは同年代の少年とは違い、無意味に騒いだり、女の子をからかったりもしない。
だが大人しいわけでもなく、頭の回転が速く、剣の腕も優れていた。どれほど努力して彼があの品格を身につけているのかは一目でわかった。
それなのに、いつの間にか彼のそばには、あの平民の少年がいた。
「……アルヴェリオ様にベタベタして。本当に許せない」
アルヴェリオは、基本的に誰の訪問も好まない。
どうしてもという時は、先に用件を書いた手紙を送り、返事をもらってからでなければ会ってさえもらえない。
だからこそ姉のマルゲリータは「絶対に行ってはダメ」と言い続けてきた。
しかしペンネは確信していた。
自分は別だ。
幼い頃からの従姉妹なのだから、邪険になどされるはずがない──と。
(お姉さまが勝手なことを言ってるだけ。アルヴェリオ様だって寂しいに決まってる。だからあんな子についよそ見したのよ。この機会に正式に私との結婚をお父様に申し出てもらおう。きっと私の言うことを聞いてくれるわ)
ペンネの頭には、夢のような結婚生活が広がっていく。
そんな甘い想像を抱いたまま男爵邸に着き、馬車を降りたペンネを迎えたのは──アシュレイだった。
「どのようなご用件で?」
「えっ、その……」
目の前に立つ男を見て、ペンネは言葉を失った。
今まで見たこともないほど整った顔。
物腰は上品で、上質な衣をまとい、冷たい目で自分を見下ろしている。
「アルヴェリオ様は?あなた、誰?」
驚くあまり礼儀も吹き飛び、子供のような態度で問いただす。
「アルヴェリオ様なら、今日は仕事で外出しております。……ご挨拶が遅れました。私はアシュレイ・グランチェスター。侯爵家からバロウズ男爵家に嫁いで参りました」
「え……?」
ペンネは耳を疑った。
さっきの舞踏会にいた少年ではない。
そして今、「アルヴェリオと結婚した」と言った。
「そんなわけないわ!何も聞いてない! 私は従姉妹よ?!黙って結婚なんてするはずない!それにアルヴェリオと結婚するのは私なの!」
ペンネが叫んだ瞬間、アシュレイの瞳はさらに冷たく光った。
「あー、勘違いしてる?馬鹿な女だね」
「な、なんですって?!」
あまりの態度の変化に、ペンネは怒りで震えた。
「アルヴェリオ様がお前みたいなブス相手にするわけないだろ。鏡見てみろよ。俺に勝てるところが一つでもあるか?それに礼儀作法も知らない。その程度でよく彼に近づけたね」
次々と浴びせられる罵倒。
ペンネは言い返すことができなかった。
アシュレイの言葉は──悔しいけれど、すべて正論だった。
何も言い返せず、悔しさに涙が出てきた。
「ほら、そうやってすぐ泣く。言いたいことがあるなら言えよ。ないならさっさと帰れ」
アシュレイは、そう言うと踵を返して屋敷のドアを閉めた。
「待ちなさいよ!」
テグナル子爵家の令嬢ペンネ・テグナルは、いそいそと新しいドレスを身にまとい、迎えの馬車を待っていた。
「ペンネ、どこかに出かけるの?」
姉のマルゲリータが訝しげな顔で尋ねる。
「そうよ。アルヴェリオ様のところに行くの」
「なんですって?ダメに決まってるでしょう。迷惑をかけないで」
マルゲリータの言葉に、ペンネはむっとして声を荒らげた。
「アルヴェリオ様に迷惑なんてかけてないわ!私はただ、おそばにいたいだけなの!」
「それがご迷惑だと言ってるのよ。アルヴェリオ様が屋敷に人が来るのを好まないのは知ってるでしょう」
「お姉さまは黙っていて!私の恋を邪魔するのは許さないわ!」
ペンネはそう叫ぶと、馬車に向かって駆け出した。
(お姉さまは何もわかってない。私がどれだけ長い間、あの人に恋をしてきたか)
馬車の窓から流れる景色を見ながら、ペンネは初めてアルヴェリオに会った日のことを思い出していた。
──それは自分がまだ子供だった頃。
親戚筋にあたるバロウズ男爵が突然養子を迎えた。
妻を亡くした後、どれだけ勧められても後妻を取らず、ただ仕事に邁進していた男爵が、「息子だ」と紹介したのがアルヴェリオだった。
「はじめまして」
そう言って差し出された手は、今まで見たどんな少年よりも美しく、高貴だった。
その瞬間、ペンネは一目惚れしてしまったのだ。
アルヴェリオは同年代の少年とは違い、無意味に騒いだり、女の子をからかったりもしない。
だが大人しいわけでもなく、頭の回転が速く、剣の腕も優れていた。どれほど努力して彼があの品格を身につけているのかは一目でわかった。
それなのに、いつの間にか彼のそばには、あの平民の少年がいた。
「……アルヴェリオ様にベタベタして。本当に許せない」
アルヴェリオは、基本的に誰の訪問も好まない。
どうしてもという時は、先に用件を書いた手紙を送り、返事をもらってからでなければ会ってさえもらえない。
だからこそ姉のマルゲリータは「絶対に行ってはダメ」と言い続けてきた。
しかしペンネは確信していた。
自分は別だ。
幼い頃からの従姉妹なのだから、邪険になどされるはずがない──と。
(お姉さまが勝手なことを言ってるだけ。アルヴェリオ様だって寂しいに決まってる。だからあんな子についよそ見したのよ。この機会に正式に私との結婚をお父様に申し出てもらおう。きっと私の言うことを聞いてくれるわ)
ペンネの頭には、夢のような結婚生活が広がっていく。
そんな甘い想像を抱いたまま男爵邸に着き、馬車を降りたペンネを迎えたのは──アシュレイだった。
「どのようなご用件で?」
「えっ、その……」
目の前に立つ男を見て、ペンネは言葉を失った。
今まで見たこともないほど整った顔。
物腰は上品で、上質な衣をまとい、冷たい目で自分を見下ろしている。
「アルヴェリオ様は?あなた、誰?」
驚くあまり礼儀も吹き飛び、子供のような態度で問いただす。
「アルヴェリオ様なら、今日は仕事で外出しております。……ご挨拶が遅れました。私はアシュレイ・グランチェスター。侯爵家からバロウズ男爵家に嫁いで参りました」
「え……?」
ペンネは耳を疑った。
さっきの舞踏会にいた少年ではない。
そして今、「アルヴェリオと結婚した」と言った。
「そんなわけないわ!何も聞いてない! 私は従姉妹よ?!黙って結婚なんてするはずない!それにアルヴェリオと結婚するのは私なの!」
ペンネが叫んだ瞬間、アシュレイの瞳はさらに冷たく光った。
「あー、勘違いしてる?馬鹿な女だね」
「な、なんですって?!」
あまりの態度の変化に、ペンネは怒りで震えた。
「アルヴェリオ様がお前みたいなブス相手にするわけないだろ。鏡見てみろよ。俺に勝てるところが一つでもあるか?それに礼儀作法も知らない。その程度でよく彼に近づけたね」
次々と浴びせられる罵倒。
ペンネは言い返すことができなかった。
アシュレイの言葉は──悔しいけれど、すべて正論だった。
何も言い返せず、悔しさに涙が出てきた。
「ほら、そうやってすぐ泣く。言いたいことがあるなら言えよ。ないならさっさと帰れ」
アシュレイは、そう言うと踵を返して屋敷のドアを閉めた。
「待ちなさいよ!」
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