【完結】望まれなかった代役婚ですが、投資で村を救っていたら旦那様に溺愛されました。

ivy

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第三章 貴方となら何でも出来る気がしました

60・それぞれの思い

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 その動きだけで、ライネルの全身が凍りつく。

「……どうした?声も出ないほど恐ろしいか」

 フェルナンドの声は穏やかで、それがむしろ不気味な雰囲気を醸し出した。

(逃げられない……!)

 ライネルは息を呑んだ。

 鉄扉の前に立つ兵士。
 部屋の奥で鞭を握るフェルナンド。

 ──逃げ道は完全に閉ざされていた。


 ◇◇◇



 ライネルが連れ去られてから、職人村の中央広場には、大勢の人が集まっていた。
 不安に沈む空気の中、真っ先に声を上げたのはショーだった。

「……罪状を聞いたら、“謀反”だって」

 その言葉に、工房主たちが一斉にざわつく。

「そんな馬鹿な話あるか!あの子がそんな真似するわけないだろ!」
「証拠はあるんだろうな?!」
「そうだ!陰謀に決まってる!あの子が悪さなんてするわけねえ!」
「早く助けてやらねぇと……!」

 怒りと動揺が混じった声が次々と広場に溢れる。

 アノマリーもその手に握られた宝石を齧ることも忘れ、大人に混じって不安に顔を曇らせていた。

 そんな中、タイミングが良いのか悪いのか、馬車から降りてきたのはブラウンだ。
 呑気な顔でお土産をぶら下げ、皆に向かって手を振る。

「よーう。商会の件、全部うまく──」

「ブラウン!!!」

 レバレンが鬼の形相で走り寄り、胸ぐらを掴んだ。

「何で今まで帰ってこなかったのよ!ライネルが……ライネルが捕まったのよ!!」

「…………は?」

 ブラウンの顔が見る見るうちに凍りついた。
 ショーが肩に手を置き、短く説明すると、
 ブラウンは拳をぎゅっと固く握りしめた。

「……クソッ。あの野郎……!」

 村人たちが一人、また一人とブラウンの周りに集まる。

「どうすれば助けられるんだ」
「裁判って金がかかるんだろ?なら工房の売り上げを出す!」
「うちの小物も全部売上げを寄付するよ!」
「うちも!あの子には助けられたから……!」

「みんな……本気か?相手は貴族たちだぞ」

「相手が誰だろうと関係ねぇよ」

 オイショが低い声で言った。

「ライネルはわしらに希望をくれたんだ。今度はこっちが助ける番だろ」

 アノマリーも、きゅっと拳を握りしめた。

「僕……計算以外もやります!なんでもします!」

 その姿に、ブラウンは深く息を吸った。
 そして、強く地面を踏みしめる。

「……みんな。気持ちはありがたい。ほんとに嬉しい。でも、今動けるのは俺だけだ」

 レバレンが不安そうに眉を寄せる。

「ブラウン……どこへ行くの?」

「──アルヴェリオ様のところだ」

 村人たちが息を呑む。

 ブラウンの目は真っ直ぐで、一切の迷いがなかった。

「アイツなら、どんな手使ってでもライネルを救うだろう。ただ、それには助けが必要だ」

 ショーがうなずく。

「頼む……ライネルを助けてくれ」

「任せろ!」

 ブラウンは馬に飛び乗り、手綱を強く握った。そして再び王都へ向けて駆けていった。




 ◆◆◆◆◆



「アシュレイ様、すべて順調に進んでおります」

「ご苦労。だが油断しないように」

「はい」

 秘書が部屋を出ると、アシュレイは手元の書類を楽しそうに眺めた。

「やっとライネルが戻って来た。早速結婚の手続きをしなければ」

 目の前のカップからは芳しい香りが立ち昇る。アシュレイはそれを一口飲んで窓の外を見た。

「それにしてもいい相手が見つかってよかった。傷だらけのままでも……いや、傷ついている方が興奮するなんてとんだ変態だが、政治能力は確かだ。あいつなら侯爵家を盛り立ててくれるだろう」

 ライネルの結婚相手を探すのは一苦労だった。何しろ侯爵家を継ぐ入婿だ。性格や性癖はどうあれ、頭が良く自分に忠誠を誓うものでなくてはならない。

「今頃ライネルは逆らう気も起きないほど痛めつけられているだろう。どうせなら精神も壊されて人形みたいになればいい。その方が扱いやすいからな」

 アシュレイの瞳に残酷な光が宿る。

 彼にとってはこの世の中で自分より大切なものはないのだ。

「ああ、フェルナンドの報告が楽しみだ。すべて俺の思い通りに上手くいく。後は……アルヴェリオだけだ」

 目の前のカップに注がれた琥珀がゆらりと揺れた。ライネルの瞳の色と同じそれを、アシュレイは一気に飲み干した。





 ◇◇◇◇


 その頃、アルヴェリオはようやく辿り着いた調整所の前で、兵士たちと言い争いをしていた。

「退けろと言っている!無実の人間を拘束してどうするつもりだ!」

「無実かどうかは裁判でわかります。ここは司法府の管轄、貴族であれ法の前には平等です。特別扱いはできません」

「ぐっ……!!」

 確かに兵士の言う通り、たとえ国王であっても正当な理由なく司法府には逆らえない。
 だが、こうしている間にもライネルがどんな目に遭わされているか……そう考えたアルヴェリオの右手が腰の剣にかかった。──その時、

「アルヴェリオ様!」

「ブラウン!」

 馬の嘶きと共に現れたのはブラウンだ。颯爽とその鞍から飛び降りて、兵士たちに向かい合う。
 その手には大きな袋を抱えていた。

「ブラウン……それはなんだ?」

 アルヴェリオの問いに、ブラウンはうっすらと笑った。


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