【完結】望まれなかった代役婚ですが、投資で村を救っていたら旦那様に溺愛されました。

ivy

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第三章 貴方となら何でも出来る気がしました

61・救いの神

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「アルヴェリオ様、世の中ってのは綺麗事だけじゃ通らないんですよ」

「……は?」

 ブラウンは肩をすくめると、兵士たちに向かって陽気に手を振った。

「よぉ、みんな!いつもお疲れさん!」

「……誰であろうと、この扉は開けられませんよ!」

 若い兵士が緊張した声で言う。ブラウンはにっこり笑った。

「わかってるよ。真面目だなぁ。……ところで兄ちゃん、その訛り、北の方だろ?懐かしいなぁ。俺も昔ちょっと住んでた」

「本当ですか?」

「ああ。今でもニシンのスープが恋しくてなぁ」

 その一言で兵士の顔がふっと緩んだ。

「……僕も、です。もう長く帰れてません」

「だろ?ほら、これ。差し入れだ。みんなで飲めよ」

 ブラウンは袋からいくつものポットを取り出した。蓋を開けると、魚介の香りが漂う。

「……え?まさか本当にニシンのスープ……?」

「ああ。冷えるだろ?あったまれ」

 兵士たちの喉が、ごくりと鳴った。
 冷たい風にのって漂う温かい香りが、緊張で強張っていた空気が少しずつほぐれていった。

「……俺たちの立場では、これを受け取るわけには……」

 年長の兵士が言いかけたが、ブラウンは軽く笑って制した。

「わかってるよ。賄賂じゃねえ。ただの差し入れだ。あんたたち、ここ何時間も持ち場を離れられないんだろ?」

 青年たちは互いに目を見合わせた。その表情にほんの僅かな迷いが走る。
 ブラウンはその一瞬を見逃さなかった。

「それにさ……」

 そう言って、周囲に聞こえないよう声を落とす。兵士たちが自然と身を寄せた。

「さっき連れてこられた子供、震えてなかったか?あんなちびっ子が反逆なんて、無理があるだろ」

 若い兵士の肩がぴくりと揺れる。

「……それは……」

 ブラウンはさらに畳みかけるように声を重ねる。

「兄ちゃん、あんたら長年兵士をやってんだろ?自分の勘を信じろよ。あの子は何もしてねぇよ。これは陰謀だ」

 若い兵士の目が大きく見開かれた。
 ブラウンはその反応を確認し、少しだけ声を和らげる。

「なぁ、無理やりあの子を連れて帰ろうなんて思っちゃいない。ただ、施設長に用があるんだ」

「それは……」

 若い兵士は、ぐっと唇を噛んだ。
 揺れ動く瞳が、迷いと決意の境界線をさまよう。
 その様子を見ていた年上の男が、黙ってブラウンの前に立った。

 そして。

 ——カシャン。

 明るい音を立てて扉は開かれる。

「兵士長……」

 若い兵士が出した声は、咎めるというより称賛に近い。その証拠に他の兵士たちも視線を逸らし黙ってスープを飲み出した。

「……あの子は田舎にいる弟に似てるんです」

 ブラウンは兵士の肩をぽん、と軽く叩き、にっこり笑った。

「ありがとな、兄ちゃん。恩に着る」

 重い扉がゆっくりと開き、冷えた空気が流れ出す。

 この奥に、ライネルがいるのだ。
 二人は冷たい石の床を駆け出した。



 ◇◇◆◆◇◇


「逃げ足だけは、天下一品だな」

 フェルナンドが苛立ったように、手にしていた鞭で強く床を打った。
 鋭い音が部屋の中に響き、床がかすかに抉れる。

「……そんなもので、僕を叩いたら結婚どころの話じゃないよ!」

 逃げ回ったせいで息を切らせたライネルが、フェルナンドを睨む。

「そんなことは心配しなくていい。お前はただこれからの人生を、アシュレイ様の言いなりになると誓うだけでいいんだ」

「……絶対に嫌だ!」

「黙れ!誰にもアシュレイ様の邪魔はさせない!」

 いつの間にか、部屋の隅に追い詰められていたライネルの上に、九尾の狐が降り下ろされる。

(あぁもうだめだ!)

 一打ちで肉が避けてしまいそうなその勢いにライネルは頭を庇い目を閉じた。

 ───だが、覚悟していた衝撃は、いつまでたってもやって来ない。

「ライネル」

「え?!」

 ここで聞こえるはずのない声に、ライネルが目を開けると、アルヴェリオがライネルを庇うようにフェルナンドの前に立ち塞がっていた。

「どうしてこんなところに?!」

 久しぶりに会えた嬉しさよりも、立場的にここにいてはいけないと思う心配が先に立つ。

「お前を迎えに」

「ダ……ダメですよ!そんな事したらアルヴェリオ様まで捕まってしまいます!」

「分かってる。ちゃんと考えてるさ。けれどこんな横暴は許せない」

「……アルヴェリオ様」

「……タダで済むと思うなよ」

 アルヴェリオ越しにライネルを睨むフェルナンド。
 彼の持つ鞭はブラウンにしっかりと掴まれ、その機能を失っている。

「こっちのセリフだフェルナンド。この前の怪我で懲りたと思ったら、まだ足りなかったんだな」

 ブラウンの低い声に、フェルナンドは一瞬怯む。そのタイミングを逃す事なく、ブラウンの拳がフェルナンドの頬にめり込んだ。
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