【完結】望まれなかった代役婚ですが、投資で村を救っていたら旦那様に溺愛されました。

ivy

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第三章 貴方となら何でも出来る気がしました

61・手負の獣

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「行くぞ、ライネル!」

 フェルナンドが椅子ごと吹っ飛ばされるのを横目に、アルヴェリオはライネルの手を強くつかんだ。

「でも!!」

「ブラウンなら大丈夫だ」

「……!はい!」

(そうだ。この前もブラウンさんがフェルナンドを追い払ってくれた。アルヴェリオ様の言葉を信じよう!)

 ライネルは手を引かれるまま廊下を歩き、重厚な扉の前まで辿り着いた。

「……アルヴェリオ様、この部屋は?」

「施設長の部屋だ」

「なるほど……え?!だめです!また捕まります!しかも今度はアルヴェリオ様も!」

「大丈夫だ。任せろ」

「……でも!」

 ライネルの制止を聞く気はないらしく、
 アルヴェリオは怒りに歪んだ顔で、ノックすらせず扉を開け放った。

(アルヴェリオ様がご乱心だよ!ブラウンさん、こっちも助けて!!)

 だが、ライネルの悲痛な願いは、無機質な石壁に吸い込まれていった。

「アルヴェリオ様……?」

 仕方なく後を追って部屋に入ると、
 フェルナンドがいる部屋にライネルを押し込んだ張本人――調整官(施設長)がいた。

「……これはこれは。反逆罪の被疑者を勝手に解き放つとは。ずいぶん思い切った真似をされますな、バロウズ男爵様」

 施設長は椅子に深く腰掛け、余裕の笑みを浮かべていた。

「この調整所は王都法務局の監督下。勝手な行動をされては困るのですが……その責任、お取りになれるのですかな?」

 アルヴェリオは黙したまま男へ歩を進める。
 ライネルの鼓動は不安で跳ね上がるが、ひとまずアルヴェリオを信じて後ろに控えた。

「私は、違法拘束を解いただけだ」

 施設長の笑みが一瞬で固まった。

「……違法、ですと?」

「反逆罪の起訴そのものは認める。アシュレイが審査会の裏を取って書類を通したのだろう。そこは争わないので裁判は受けよう。もちろん無罪だがな。だが――」

 アルヴェリオは、机の上の“拘束台帳”へ視線を滑らせる。

「やはり思った通り、“拘束命令書”に司法府の印が一つも無いな」

 施設長の肩がピクリと震える。
 慌てて開きっぱなしの台帳を閉じて引き出しに押し込んだ。

「隠しても無駄だ。拘束するには最低でも“事前通達”と“審査局の承認印”が必要だ。お前も知っているだろう?」

 施設長は何かを言おうと口を開くが、結局何も言えずそのまま閉じた。
 部屋の中には沈黙だけが重苦しく落ちて行く。

「貴様の飼い主は事を急ぎ過ぎたな。らしくないヘマだ」

 施設長の顔色が失せた。

「そ、それは……緊急事態だったので後で……」

「それなら“口頭伝達記録”があるはず。提出できるならどうぞ?」

「……っ」

 アルヴェリオの声は淡々としているのに、相手を逃さない迫力があった。

「このままだと、違法拘束はお前一人の独断、ということになりそうだが……いいのか?」

「し、しかしっ!何があろうと被疑者を連れ出すことは許されない……!!」

「いや、許される。そもそも“存在しない命令”だった。ここには誰も来ていない。そうだな?」

 その美しい顔に微笑を浮かべてアルヴェリオは施設長を見下ろした。

「事が済めば、お前は全責任を負わされ処刑されるだろう。……哀れなものだ。そんな相手に魂を売るとは」

 施設長は青ざめ、椅子ごと沈み込んだ。

 アルヴェリオは背後のライネルに視線をやり、ゆっくりと告げる。

「裁判の準備を進めろ。最短でだ。それとライネルはこちらで保護する。異存はないな?」

 施設長は力無く頭を下げ、頷く。


(す、すごい……!アルヴェリオ様!こんな短時間によくそんなことまで……)

 ライネルがアルヴェリオを尊敬の眼差しで見つめると、彼はふっと優しい笑みを浮かべ、ライネルを見つめ返した。

「では、ブラウンの様子を見に行くか」

「は、はいっ!」

(まずい、見惚れてしまった。変な顔してなかったかな……)

 火照る頬を押さえながら、ライネルは慌ててアルヴェリオの後を追った。



 ◆◆◇◆◆



「立て」

 ブラウンの声に、フェルナンドは呻きながらも立ち上がり、即座に手にしていた鞭を振り下ろした。

「おわっ!てめぇ、あぶねぇだろ!」

 ブラウンは紙一重でかわし、床に刻まれた深い溝を睨む。

「……そんな物騒な玩具で、あの子を殴るつもりだったのかよ」

「アシュレイ様の命令だ」

 フェルナンドの目は感情が欠け、ただ従う兵器のようだった。

(こういう奴が一番厄介なんだよな)

 次の一撃。
 鞭が斜めに走り、ブラウンの頬をかすめる。

「チッ!」

 ブラウンが距離を詰めると、フェルナンドは鞭を投げ捨てて組み伏せようと飛び込んで来た。

「甘いな!」

 ブラウンは体を逸らしてその腕を掴み、そのまま肘を逆方向へ折り曲げた。

「ぐあっ!!」

 バキッ、と生々しい音が響く。

 フェルナンドは飛び退くが、右腕はもうぶらりと垂れ下がるだけだ。

「もう戦えねぇだろ。引け」

 フェルナンドは歯噛みし、悔しさに震える。

「……もうわかってんだろ?お前は捨て駒なんだよ。どれだけ尽くしても、あいつはお前を見ちゃいねぇ」

「……それでも……アシュレイ様は俺の全てだ……邪魔するな……!ライネルは……連れて行く……!」

 フェルナンドは左手で懐に隠し持っていたナイフを取り出した。

「まだやる気かよ?いい加減目ぇ覚ませ!」

 ブラウンはそう怒鳴り、フェルナンドに蹴りを放つ。
 それは鈍い音とともに左足首に直撃し、フェルナンドは倒れ込む。

「これで立つことも追うこともできねえ。二度とそのツラ見せんな。次は容赦しねぇぞ」

 フェルナンドは息を荒げながらも睨み返すが、もう動けない。

「……っ……!」

「生かしてやるだけありがたいと思え。
 ……アシュレイが本当にお前を大事に思うなら、こんな無茶な命令出すわけねぇ。お前も気づいてんだろ?」

 フェルナンドは傷ついた獣のような目でブラウンを見た。

「そんじゃ、俺はもう行くな。あいつらも戻って来たし」

 開け放たれたドアの向こうから歩いてくる二人を見て、ブラウンは言った。


 その時。

「……まて」

「なんだ?まだやる気か?お前が何をしようがアシュレイは必ずぶっ潰すからな」

 だが、その言葉にも、もうフェルナンドは何も言わなかった。そして震える左手で懐から小さな鍵を取り出し、ブラウンへ投げる。

 金属が床に転がり、かすかな音を響かせる。

「……なんだこれ。どこの鍵だ?」

「……さあな」

「変な奴だな。まあいいや。貰っとく」

 ブラウンはそれを拾い上げ、ポケットにしまい、二人の元に歩き出した。
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