【完結】望まれなかった代役婚ですが、投資で村を救っていたら旦那様に溺愛されました。

ivy

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第四章 全てを暴いて幸せになります!

80・別れの言葉をあなたに

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 その日の夜、夕食を終えたあと、ライネルはアルヴェリオを散歩に誘った。

 村を見渡せる高台へ登り、二人並んで地面に腰を下ろす。
 沈黙が、静かに二人を包み込んだ。

「……ライネル」

 不安を含んだ声で口火を切ったのは、アルヴェリオだった。

「アルヴェリオ様。僕は、この村で生きていきます」

「……そうか。それなら俺も……」

「いえ」

 ライネルは、まっすぐにアルヴェリオを見つめた。
 その瞳には、揺るぎない決意が宿っている。

「アルヴェリオ様は、王都に戻ってください」

「……どうしてだ」

 そう尋ねながらも、本当は理由など分かっていた。
 それでもアルヴェリオは、苦しそうに顔を歪める。

「あなたは、この国に必要な人です」

「……だが、俺にとって一番大切なのは――」

「アルヴェリオ様」

 凛とした声に、アルヴェリオは息を呑んだ。
 ライネルは村を見下ろしたまま、静かに言葉を紡ぐ。

「裁判の時、もしアルヴェリオ様が平民だったら、僕はなすすべもなく、アシュレイに罪を着せられたまま処刑されていたでしょう。
 アルヴェリオ様は、正義感の強い方です。だからこそ、そんな方が“力”を持つべきだと、僕は思います」

「ライネル……」

 それきり、二人は言葉を失くしたように黙り込んだ。
 田舎特有の、緑の匂いを含んだ風が、そっと二人の心を撫でていく。

「……ご活躍をお祈りしております。……皇太子殿下」

 深々と頭を下げたライネルに、アルヴェリオはたまらず声を上げた。

「ライネル!きっと、一緒にいられる方法があるはずだ。それを探していこう」

「いいえ、アルヴェリオ様。それはできません」

「どうしてだ? ライネルは、俺が嫌いになったのか?」

「……いいえ。愛しています。だからこそ、アルヴェリオ様が誰かの夫になり、父になっていく姿を見たくないのです」

 その言葉は、鋭い刃となってアルヴェリオの胸を貫いた。

「そんな相手を作るつもりはない!」

 そう言い切りながらも、現実が甘くないことは分かっている。
 国王がいつまでも伴侶を持たず、独りでいられるはずがない。
 場合によっては、他国から政略結婚の話が持ち込まれ、断ることで戦争に発展する可能性すらある。

 それでも――。



 ライネルにはアルヴェリオの気持ちが痛いほど分かっていた。
 けれど、不思議なほど心は凪いでいる。

 自分は、この人を幸せにしたい。
 ならば、この村を発展させることで、それは十分に叶うのではないか。
 そう思えたからだ。

「早めに王都へお戻りください。それまでは、誠心誠意おもてなしいたします」

 他人行儀なその言葉に、アルヴェリオはライネルの本気を悟った。
 だが、そんな彼にかける言葉が見つからない。

 目を背け続けてきたが、国のため、そして優しい伯父のためを思えば、自分が後を継ぐことが最善だと分かっていた。





 二人は、静かに村を見下ろす。

 立ち並ぶ家々からは温かな灯りが漏れ、
 夕餉の支度をしているのか、煙突から細い煙が立ち上っていた。

 その幸せそうな情景は、本来なら喜ばしいはずなのに。
 今のアルヴェリオにとっては、ただ眩しいだけのものだった。




 夜風が冷たくなった頃、ライネルはどこからか、自分を呼ぶ声に気づいた。

「え? ブラウンさん?」

 声の主はまさにその人で、息を切らせながらこちらへ駆けてくるところだった。

「こんなところにいたんですね。探しましたよ!」

「何かあったんですか?」

 尋常ではないブラウンの様子に、ライネルの胸に嫌な予感が走る。

「アノマリーが倒れた! 呼吸をしていないんだ!」

「えっ……!どうして?」

「原因は分からない。いつものように、ゼンバさんが宝石を磨くところを見ていたと思ったら、急に意識を失った。
 ……アルヴェリオ様、俺は医者を呼びに行きます。ライネルと一緒に、先に様子を見ていてください!」

「ああ、分かった!」

 そう言うなり、ブラウンは来た道をものすごい勢いで引き返していく。
 アルヴェリオとライネルも、全力でアノマリーの家――宝石工房へと向かった。






「アノマリー!!」

 工房に併設された自宅の寝室で、アノマリーはベッドの上に静かに横たわっていた。
 ライネルが慌てて口元に手を当てる。

 ――呼吸をしていない。

「心臓マッサージをしないと!」

 ライネルはアノマリーの体に馬乗りになり、薄く小さな胸に両手のひらを重ねた。

「……あれ?動いてる」

「なんだって?!」

 涙で顔をぐしゃぐしゃにしたゼンバが、はっとしたように声を上げる。

「息が止まってるのに、心臓が動いてるなんて……」

「心臓が動いてるってことは、まだ生きてるってことだよな?!ライネル!」

「そ、そうだと思います。でも、倒れた原因は何か分かりますか?宝石を喉に詰まらせたとか……」

「いや、最近は宝石を食べていなかった」

「え?あんなに一日中、カリカリさせていた子が?」

「ああ。アルヴェリオ様にルビーを貰ってから、他の宝石は一切食ってない」

「……そうですか」

 それなら、一体原因は何なのだろう。

 ライネルはベッドから降り、アノマリーの顔を覗き込む。

 白い肌はさらに青白くなり、銀色の髪は、いつも以上にきらきらと淡く光っていた。
 けれど、長いまつげは一本も揺れることなく、ただ深く眠っているように見えるその姿は、かえって皆の不安を煽る。

「医者はまだか?!」

 家の外では、異変を察した村人たちが集まり、懸命に部屋を温めたり、水で濡らした布をアノマリーの額に当てたりと、看病に余念がない。

 だが、アノマリーは何の反応も示さず、
 ただ静かに、目の前に横たわっているだけだった。

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