【完結】望まれなかった代役婚ですが、投資で村を救っていたら旦那様に溺愛されました。

ivy

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第四章 全てを暴いて幸せになります!

79・選択

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 アルヴェリオの真剣な顔に、ライネルは思わず背筋を伸ばした。

「まず俺の生い立ちだが、父はアルクスという。現陛下の弟だった」

「現陛下の……弟?」

「ああ」

「つまり、アルヴェリオ様のお父様は王弟殿下……」

「そうなるな」

 なんてことだ。確かに、実家では「高貴な身分だ」と持てはやされていた。けれど、まさか王族だなんて。

「陛下と父は腹違いではあったが、とても仲のいい兄弟だった。だがある日、父は誘拐されて行方不明になった。……まあ、陛下の母である皇后の仕業だったんだがな」

「ひどい……!」

「ああ。だが父は支援者のおかげで生き延びて、没落貴族だった母と出会い、俺が生まれた」

「それで市井での暮らしを知ってたんですね……」

「そうだ。……そして、ここからが将来の話だ」

「……波瀾万丈すぎる人生を語るには、端折りすぎじゃないですか?」

(僕なら涙ながらに一晩は話せる。なんて強い人なんだろう)

「まあ、済んだことはもういいんだ。いい両親だったしな。……先日、陛下にお会いしてきた」

「……はい」

 何を告げられるのか分からず、ライネルはぎゅっと身構えた。

「陛下は俺に、王位を継いでほしいと仰っている」

「え……」

「知っての通り、お二人に子供はいない。そうなると、王位継承権としては俺が一番だ」

 理屈は分かる。けれど、それはつまり――平民の自分は、こうして向き合って話すことすら許されなくなる、ということだ。

 視界が暗くなる。

「……そうでしたか。おめでとうございます。短い間でしたが、大変お世話になりました。どうぞ末永くお元気で……」

「待て。話を最後まで聞いてくれ。俺はライネルと離れるつもりなど、まったくない」

「それじゃあ、どうするんですか?」

 アルヴェリオは国王になる。――この国で一番尊く、一番偉い人に。

(もう二度と会えないかもしれない)

 そう思うだけで、目の奥が熱くなる。

「ライネルが嫌なら、俺は王位を継がない。そして、この村で一緒に暮らしていく」

「……そんなこと、できないでしょう。王命なんですから」

「そんな大層なものじゃない。……それに、もし後を継ぐとしても、王妃になるのはライネルだ」

「ふえっ?!」

(……王妃?僕が?後継も産めないのに?)

「陛下も色々と考えてくれている。ライネルを皇后陛下の実家の養子にしてはどうか、と仰っていた」

「……養子」

 それなら家柄の釣り合いは取れるだろう。だが――。

「……少し、考えさせてください」

「分かった」

 アルヴェリオが部屋を出ていく気配を背中に感じた途端、ライネルは力が抜けたようにベッドへ腰を下ろした。

「僕が皇后陛下に……?罪を犯して、取り潰しになる家門の僕が……?」

 周囲の貴族たちの反発は強いに違いない。それで国政が揺らげばどうなる。場合によっては、一致団結して謀反を起こされる可能性だってある。

 それに何より、ライネルはこの村が好きだった。
 この村でアルヴェリオと、仕事をして、笑って、泣いて。そんなふうに生きていけると信じていた。

「僕の好きになった人は、とんでもない人だったんだな……」

 ライネルは、ベッドに腰掛けたまま膝の上に置いた手を見つめる。
 小さな傷。
 指の腹に残る、仕事を手伝って革や木を触り続けたせいでできた硬さ。

(……王妃)

 その言葉を、頭の中で転がしてみる。
 何度も、何度も。

「似合わないな」

 小さく呟いて、苦笑した。

 窓を開けると、夜の村の空気が流れ込んでくる。
 土と木と、ほんのりとした煙の匂い。
 遠くで誰かが笑っている声がした。

 ——この匂いが、好きだ。

 気づけば、自然と外へ足が向いていた。

 夜更けだというのに、鍛冶場には明かりが灯っている。
 昼に仕上がらなかった仕事を、若い職人が黙々と続けていた。

「……あれ?ライネル?」

 声をかけると、相手は驚いたように顔を上げる。

「こんな時間まで仕事ですか?」

「明日、納品なんで。間に合わせないと」

 ゲンゲツは笑って火に向き直った。

 余計な言葉はない。
 けれど、その背中は職人のプライドを背負い、凛としている。

(僕も、同じだったな)

 最初は必死に前世の記憶を引っ張り出して、この世界でどう生かせるかを考え続けた。
 万年赤字と言われ続けていたこの村を救いたい。
 職人たちが誇りを持ってのびのびと仕事が出来るようにしたい。
 そう思いながら。

 株式化は定着し始めて、貴族の間でも話題だと聞いた。
 これを応用して他のことも出来ないかと、若い商人や実業家が相談に来ることも増えたのだ。

 けれど、まだまだこれからだ。まだ手を離す段階じゃない。




 鍛冶屋を出て道を進むと、今度は倉庫の前でアノマリーの父が宝石を削っている。

「こんな時間まで大変ですね」

「おう。せっかくうちの株を買ってくれた人に儲けさせてやりてぇからな」

 そう言いながらも、顔は楽しそうだ。

「前はよ、こんな悩み方しなかったんだがな」

「……後悔してますか?」

「いや?そんなのしてるわけないだろ」

 カツンと原石を割ると、目の覚めるような美しい宝石が姿を現す。

「この村の皆んなが先のことを考えるようになったって証拠だろ」

 その言葉が、胸に残った。

 “先のこと”。

 王位。
 王妃。
 国。

 それらは確かに大きい。
 けれど——

 ライネルは、村の外れにある小さな畑に足を向けた。
 夜露に濡れた葉が、月明かりに静かに揺れている。

 ここを畑にしようと提案したのは自分だ。

「……すっかりきれいになったわねぇ」

 背後から声がして、振り向く。

 昼間よく顔を合わせる老女だった。

「前は石だらけでね。誰も手をつけなかったのよ。でもライネルの提案で……サキモノ?だったかしら?売れることが決まってるなら作らなきゃ!って。若い子達のやる気が桁違いよ」

「……良かったです」

 ——作物を育てることも、村を育てることも、きっと同じなのだ。
 多分、それは国も同じで。

 ただ、規模が違うだけ。

(……でも僕は)

 ここで必要とされたい。
 ……自分はそれでいいと思った。

(アルヴェリオ様)

 あなたは、国を背負える人だ。
 でも——

(でも僕は、この村を背負いたい)

 誰かの“上”に立つのではなく、
 誰かの“隣”に立つ生き方。

 ライネルは、静かに息を吸った。

「……決めた」

 声に出すと、不思議と心が軽くなる。

 選ぶのは、恐ろしい。
 でも、選ばないままでは、何も守れない。

 明日、きちんと話そう。
 逃げずに。
 泣かずに。

 この村で生きる人間として。
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