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第四章 全てを暴いて幸せになります!
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アルヴェリオの真剣な顔に、ライネルは思わず背筋を伸ばした。
「まず俺の生い立ちだが、父はアルクスという。現陛下の弟だった」
「現陛下の……弟?」
「ああ」
「つまり、アルヴェリオ様のお父様は王弟殿下……」
「そうなるな」
なんてことだ。確かに、実家では「高貴な身分だ」と持てはやされていた。けれど、まさか王族だなんて。
「陛下と父は腹違いではあったが、とても仲のいい兄弟だった。だがある日、父は誘拐されて行方不明になった。……まあ、陛下の母である皇后の仕業だったんだがな」
「ひどい……!」
「ああ。だが父は支援者のおかげで生き延びて、没落貴族だった母と出会い、俺が生まれた」
「それで市井での暮らしを知ってたんですね……」
「そうだ。……そして、ここからが将来の話だ」
「……波瀾万丈すぎる人生を語るには、端折りすぎじゃないですか?」
(僕なら涙ながらに一晩は話せる。なんて強い人なんだろう)
「まあ、済んだことはもういいんだ。いい両親だったしな。……先日、陛下にお会いしてきた」
「……はい」
何を告げられるのか分からず、ライネルはぎゅっと身構えた。
「陛下は俺に、王位を継いでほしいと仰っている」
「え……」
「知っての通り、お二人に子供はいない。そうなると、王位継承権としては俺が一番だ」
理屈は分かる。けれど、それはつまり――平民の自分は、こうして向き合って話すことすら許されなくなる、ということだ。
視界が暗くなる。
「……そうでしたか。おめでとうございます。短い間でしたが、大変お世話になりました。どうぞ末永くお元気で……」
「待て。話を最後まで聞いてくれ。俺はライネルと離れるつもりなど、まったくない」
「それじゃあ、どうするんですか?」
アルヴェリオは国王になる。――この国で一番尊く、一番偉い人に。
(もう二度と会えないかもしれない)
そう思うだけで、目の奥が熱くなる。
「ライネルが嫌なら、俺は王位を継がない。そして、この村で一緒に暮らしていく」
「……そんなこと、できないでしょう。王命なんですから」
「そんな大層なものじゃない。……それに、もし後を継ぐとしても、王妃になるのはライネルだ」
「ふえっ?!」
(……王妃?僕が?後継も産めないのに?)
「陛下も色々と考えてくれている。ライネルを皇后陛下の実家の養子にしてはどうか、と仰っていた」
「……養子」
それなら家柄の釣り合いは取れるだろう。だが――。
「……少し、考えさせてください」
「分かった」
アルヴェリオが部屋を出ていく気配を背中に感じた途端、ライネルは力が抜けたようにベッドへ腰を下ろした。
「僕が皇后陛下に……?罪を犯して、取り潰しになる家門の僕が……?」
周囲の貴族たちの反発は強いに違いない。それで国政が揺らげばどうなる。場合によっては、一致団結して謀反を起こされる可能性だってある。
それに何より、ライネルはこの村が好きだった。
この村でアルヴェリオと、仕事をして、笑って、泣いて。そんなふうに生きていけると信じていた。
「僕の好きになった人は、とんでもない人だったんだな……」
ライネルは、ベッドに腰掛けたまま膝の上に置いた手を見つめる。
小さな傷。
指の腹に残る、仕事を手伝って革や木を触り続けたせいでできた硬さ。
(……王妃)
その言葉を、頭の中で転がしてみる。
何度も、何度も。
「似合わないな」
小さく呟いて、苦笑した。
窓を開けると、夜の村の空気が流れ込んでくる。
土と木と、ほんのりとした煙の匂い。
遠くで誰かが笑っている声がした。
——この匂いが、好きだ。
気づけば、自然と外へ足が向いていた。
夜更けだというのに、鍛冶場には明かりが灯っている。
昼に仕上がらなかった仕事を、若い職人が黙々と続けていた。
「……あれ?ライネル?」
声をかけると、相手は驚いたように顔を上げる。
「こんな時間まで仕事ですか?」
「明日、納品なんで。間に合わせないと」
ゲンゲツは笑って火に向き直った。
余計な言葉はない。
けれど、その背中は職人のプライドを背負い、凛としている。
(僕も、同じだったな)
最初は必死に前世の記憶を引っ張り出して、この世界でどう生かせるかを考え続けた。
万年赤字と言われ続けていたこの村を救いたい。
職人たちが誇りを持ってのびのびと仕事が出来るようにしたい。
そう思いながら。
株式化は定着し始めて、貴族の間でも話題だと聞いた。
これを応用して他のことも出来ないかと、若い商人や実業家が相談に来ることも増えたのだ。
けれど、まだまだこれからだ。まだ手を離す段階じゃない。
鍛冶屋を出て道を進むと、今度は倉庫の前でアノマリーの父が宝石を削っている。
「こんな時間まで大変ですね」
「おう。せっかくうちの株を買ってくれた人に儲けさせてやりてぇからな」
そう言いながらも、顔は楽しそうだ。
「前はよ、こんな悩み方しなかったんだがな」
「……後悔してますか?」
「いや?そんなのしてるわけないだろ」
カツンと原石を割ると、目の覚めるような美しい宝石が姿を現す。
「この村の皆んなが先のことを考えるようになったって証拠だろ」
その言葉が、胸に残った。
“先のこと”。
王位。
王妃。
国。
それらは確かに大きい。
けれど——
ライネルは、村の外れにある小さな畑に足を向けた。
夜露に濡れた葉が、月明かりに静かに揺れている。
ここを畑にしようと提案したのは自分だ。
「……すっかりきれいになったわねぇ」
背後から声がして、振り向く。
昼間よく顔を合わせる老女だった。
「前は石だらけでね。誰も手をつけなかったのよ。でもライネルの提案で……サキモノ?だったかしら?売れることが決まってるなら作らなきゃ!って。若い子達のやる気が桁違いよ」
「……良かったです」
——作物を育てることも、村を育てることも、きっと同じなのだ。
多分、それは国も同じで。
ただ、規模が違うだけ。
(……でも僕は)
ここで必要とされたい。
……自分はそれでいいと思った。
(アルヴェリオ様)
あなたは、国を背負える人だ。
でも——
(でも僕は、この村を背負いたい)
誰かの“上”に立つのではなく、
誰かの“隣”に立つ生き方。
ライネルは、静かに息を吸った。
「……決めた」
声に出すと、不思議と心が軽くなる。
選ぶのは、恐ろしい。
でも、選ばないままでは、何も守れない。
明日、きちんと話そう。
逃げずに。
泣かずに。
この村で生きる人間として。
「まず俺の生い立ちだが、父はアルクスという。現陛下の弟だった」
「現陛下の……弟?」
「ああ」
「つまり、アルヴェリオ様のお父様は王弟殿下……」
「そうなるな」
なんてことだ。確かに、実家では「高貴な身分だ」と持てはやされていた。けれど、まさか王族だなんて。
「陛下と父は腹違いではあったが、とても仲のいい兄弟だった。だがある日、父は誘拐されて行方不明になった。……まあ、陛下の母である皇后の仕業だったんだがな」
「ひどい……!」
「ああ。だが父は支援者のおかげで生き延びて、没落貴族だった母と出会い、俺が生まれた」
「それで市井での暮らしを知ってたんですね……」
「そうだ。……そして、ここからが将来の話だ」
「……波瀾万丈すぎる人生を語るには、端折りすぎじゃないですか?」
(僕なら涙ながらに一晩は話せる。なんて強い人なんだろう)
「まあ、済んだことはもういいんだ。いい両親だったしな。……先日、陛下にお会いしてきた」
「……はい」
何を告げられるのか分からず、ライネルはぎゅっと身構えた。
「陛下は俺に、王位を継いでほしいと仰っている」
「え……」
「知っての通り、お二人に子供はいない。そうなると、王位継承権としては俺が一番だ」
理屈は分かる。けれど、それはつまり――平民の自分は、こうして向き合って話すことすら許されなくなる、ということだ。
視界が暗くなる。
「……そうでしたか。おめでとうございます。短い間でしたが、大変お世話になりました。どうぞ末永くお元気で……」
「待て。話を最後まで聞いてくれ。俺はライネルと離れるつもりなど、まったくない」
「それじゃあ、どうするんですか?」
アルヴェリオは国王になる。――この国で一番尊く、一番偉い人に。
(もう二度と会えないかもしれない)
そう思うだけで、目の奥が熱くなる。
「ライネルが嫌なら、俺は王位を継がない。そして、この村で一緒に暮らしていく」
「……そんなこと、できないでしょう。王命なんですから」
「そんな大層なものじゃない。……それに、もし後を継ぐとしても、王妃になるのはライネルだ」
「ふえっ?!」
(……王妃?僕が?後継も産めないのに?)
「陛下も色々と考えてくれている。ライネルを皇后陛下の実家の養子にしてはどうか、と仰っていた」
「……養子」
それなら家柄の釣り合いは取れるだろう。だが――。
「……少し、考えさせてください」
「分かった」
アルヴェリオが部屋を出ていく気配を背中に感じた途端、ライネルは力が抜けたようにベッドへ腰を下ろした。
「僕が皇后陛下に……?罪を犯して、取り潰しになる家門の僕が……?」
周囲の貴族たちの反発は強いに違いない。それで国政が揺らげばどうなる。場合によっては、一致団結して謀反を起こされる可能性だってある。
それに何より、ライネルはこの村が好きだった。
この村でアルヴェリオと、仕事をして、笑って、泣いて。そんなふうに生きていけると信じていた。
「僕の好きになった人は、とんでもない人だったんだな……」
ライネルは、ベッドに腰掛けたまま膝の上に置いた手を見つめる。
小さな傷。
指の腹に残る、仕事を手伝って革や木を触り続けたせいでできた硬さ。
(……王妃)
その言葉を、頭の中で転がしてみる。
何度も、何度も。
「似合わないな」
小さく呟いて、苦笑した。
窓を開けると、夜の村の空気が流れ込んでくる。
土と木と、ほんのりとした煙の匂い。
遠くで誰かが笑っている声がした。
——この匂いが、好きだ。
気づけば、自然と外へ足が向いていた。
夜更けだというのに、鍛冶場には明かりが灯っている。
昼に仕上がらなかった仕事を、若い職人が黙々と続けていた。
「……あれ?ライネル?」
声をかけると、相手は驚いたように顔を上げる。
「こんな時間まで仕事ですか?」
「明日、納品なんで。間に合わせないと」
ゲンゲツは笑って火に向き直った。
余計な言葉はない。
けれど、その背中は職人のプライドを背負い、凛としている。
(僕も、同じだったな)
最初は必死に前世の記憶を引っ張り出して、この世界でどう生かせるかを考え続けた。
万年赤字と言われ続けていたこの村を救いたい。
職人たちが誇りを持ってのびのびと仕事が出来るようにしたい。
そう思いながら。
株式化は定着し始めて、貴族の間でも話題だと聞いた。
これを応用して他のことも出来ないかと、若い商人や実業家が相談に来ることも増えたのだ。
けれど、まだまだこれからだ。まだ手を離す段階じゃない。
鍛冶屋を出て道を進むと、今度は倉庫の前でアノマリーの父が宝石を削っている。
「こんな時間まで大変ですね」
「おう。せっかくうちの株を買ってくれた人に儲けさせてやりてぇからな」
そう言いながらも、顔は楽しそうだ。
「前はよ、こんな悩み方しなかったんだがな」
「……後悔してますか?」
「いや?そんなのしてるわけないだろ」
カツンと原石を割ると、目の覚めるような美しい宝石が姿を現す。
「この村の皆んなが先のことを考えるようになったって証拠だろ」
その言葉が、胸に残った。
“先のこと”。
王位。
王妃。
国。
それらは確かに大きい。
けれど——
ライネルは、村の外れにある小さな畑に足を向けた。
夜露に濡れた葉が、月明かりに静かに揺れている。
ここを畑にしようと提案したのは自分だ。
「……すっかりきれいになったわねぇ」
背後から声がして、振り向く。
昼間よく顔を合わせる老女だった。
「前は石だらけでね。誰も手をつけなかったのよ。でもライネルの提案で……サキモノ?だったかしら?売れることが決まってるなら作らなきゃ!って。若い子達のやる気が桁違いよ」
「……良かったです」
——作物を育てることも、村を育てることも、きっと同じなのだ。
多分、それは国も同じで。
ただ、規模が違うだけ。
(……でも僕は)
ここで必要とされたい。
……自分はそれでいいと思った。
(アルヴェリオ様)
あなたは、国を背負える人だ。
でも——
(でも僕は、この村を背負いたい)
誰かの“上”に立つのではなく、
誰かの“隣”に立つ生き方。
ライネルは、静かに息を吸った。
「……決めた」
声に出すと、不思議と心が軽くなる。
選ぶのは、恐ろしい。
でも、選ばないままでは、何も守れない。
明日、きちんと話そう。
逃げずに。
泣かずに。
この村で生きる人間として。
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