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第四章 全てを暴いて幸せになります!
82・守護者
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その瞬間、アノマリーがベッドの上で小さく身じろぎをした。
「……う、ん……」
「アノマリー!」
ライネルが駆け寄ると、銀色の睫毛が震え、ゆっくりとその瞳が開く。
「……ライネルさん?」
まだ眠たげな声。けれど、確かに意識は戻っている。
「よかった……!」
安堵で力が抜け、ライネルは思わず膝をつく。その視線の先で、アノマリーはふと窓の方を見た。
月光を背に佇む巨大な影。
その姿を認めた瞬間、アノマリーの表情が、驚きから、戸惑い、そして――懐かしさへと変わっていく。
「……おかあ、さん……?」
竜は、ゆっくりと首を垂れた。
『ああ。ようやく会えた』
その声は、先ほどよりもずっと柔らかく、深い慈しみに満ちていた。
『探していた。長い間ずっと』
アノマリーは、胸元をぎゅっと掴む。
「……夢じゃ、ないんだね」
竜は、静かに語りかける。
『幼いお前を、背から落としてしまったのは、未熟だった私の過ちだ。探そうにも、人間の匂いに包まれていたお前を、私は探し出すことが出来なかった』
「おかあさん……」
『お前は人に拾われ、愛され、ここまで育った……人間よ、感謝する』
アノマリーは、しばらく黙り込んだまま、竜を見上げていた。
やがて、小さな声で問いかける。
「……一緒に、行こうって言いに来たの?」
『そうだ』
竜は、はっきりと答えた。
『お前は、これから変化する。人の姿のままではいられない』
アノマリーは、唇を噛みしめた。
「……でも」
小さな手が、布団を強く握る。
「ぼく、ここが好きだよ。ゼンバ父さんも、ゴバ母さんも、おにいちゃんも、おねえちゃんも……」
視線を巡らせ、最後にライネルを見る。
「ライネルさんやみんなも」
竜は、黙ってその言葉を聞いていた。
「ぼく、ここに残る。ここで生きていきたい。だめ?」
『……それは、竜としての道を選ばぬということか?』
「ううん」
アノマリーは、首を横に振った。
「ぼくは、竜だよ。だから……ここを守れるでしょ』
その言葉に、竜の瞳がわずかに見開かれる。
「……おかあさん」
アノマリーは、真っ直ぐに竜を見据えた。
「ぼく、この村の守護竜になる」
しばし、沈黙が流れた。
やがて、竜は低く息を吐く。
『……かつて、この国にも竜はいた』
その声には、かすかな苦味が滲んでいた。
『だが、当時の王室には、あまりにも愚かで、欲深い者がいた。竜の力を利用し、支配しようとしたのだ』
「王室……」
アルヴェリオは顔を歪める。
『それに呆れ、この地を去った。守護を、放棄したのだ』
その言葉に、ライネルは一歩前へ出た。
「……もう、その者はいません」
竜の視線が、ライネルに向く。
「今は違います。今は、とても優しく、立派な王様が、この国を治めています」
アルヴェリオが、静かに頷いた。
「俺が保証する。この国は、もう過ちを繰り返さない」
竜は、二人を見比べるようにして、しばらく考え込んだ。
そして――ゆっくりと、首を垂れる。
『……そうか。人は、変われるのだな』
竜は、再びアノマリーへと向き直る。
『竜として、ここに残る覚悟があるのだな?』
アノマリーは、迷わなかった。
「うん。大事な人たちを守る」
幼いながらも、はっきりと力強く頷く。
「ぼくは、ここを守る。ここで生きる」
竜は、深く、深く息を吐いた。
『……分かった……。お前は私の誇りだ』
月光の中、竜の鱗が静かに輝く。
『この地は、再び竜に守られる』
竜は、そっと翼を広げた。
その途端、ひんやりと爽やかな風が吹き荒れ、村中を駆け巡る。
それは人々の体の奥まで入り込み、一服の清涼剤のように重しを取り除く。
『もう行く。いつか……また会おう。なんせ竜は長生きだから』
「……うん」
アノマリーは、髪を揺らして頷く。そして母竜に手を振った。
竜の影が夜空へと溶けていくのを、誰もが黙って見送った。
そして、部屋に残ったのは――
静かな夜と、幸福な未来だった。
◇◇◆◆◇◇
翌朝、ライネルたちが目を覚ますと、ベッドの上には小さな竜が眠っていた。
白銀の鱗に美しい宝石眼。
確かにアノマリーの面影を残すその竜は、ライネルを見ると、小さく「きゅう」と鳴いた。
「アノマリー……」
竜は可愛い。それに加護を受けられるのならこれ以上の幸運はないだろう。
だが……
「もう、人間の姿のアノマリーには会えないのかな……」
「……寂しいのか?」
椅子で眠っていたアルヴェリオがそう聞く。
「……少し。でもアノマリーはここにいます。たとて会話ができなくでも心で通じ合えるでしょう」
「喋れます」
「「え?」」
ベットを見ると、そこにいたのはいつも見ていた馴染みのある姿のアノマリーだ。
「アノマリー!!」
嬉しさのあまりライネルは、アノマリーに抱きついて頬擦りをする。
「よかった!アノマリー!……でも凄いね。どっちにもなれるんだ?」
「はい。アルヴェリオ様に貰った宝石のおかげです」
そう言って、アノマリーは手のひらを二人に向けて開く。
そこにあったのはあの日、アルヴェリオが渡したルビーだったが、更に大きくなり結晶の中ではマグマのように赤い渦がぐるぐると回っている。
「これは竜の宝と呼ばれる宝石です。竜は宝石が大好きなんですが、その中でも特に気に入った物に竜の気を吹き込むんです」
「……それが?」
「はい」
そんな凄い物だったなんて。
ライネルはアルヴェリオを見ると、彼は肩をすくめ、自分は知らなかったと答えた。
「まあ、王室の秘宝らしいから。父の形見なんだ」
「形見?!」
「……う、ん……」
「アノマリー!」
ライネルが駆け寄ると、銀色の睫毛が震え、ゆっくりとその瞳が開く。
「……ライネルさん?」
まだ眠たげな声。けれど、確かに意識は戻っている。
「よかった……!」
安堵で力が抜け、ライネルは思わず膝をつく。その視線の先で、アノマリーはふと窓の方を見た。
月光を背に佇む巨大な影。
その姿を認めた瞬間、アノマリーの表情が、驚きから、戸惑い、そして――懐かしさへと変わっていく。
「……おかあ、さん……?」
竜は、ゆっくりと首を垂れた。
『ああ。ようやく会えた』
その声は、先ほどよりもずっと柔らかく、深い慈しみに満ちていた。
『探していた。長い間ずっと』
アノマリーは、胸元をぎゅっと掴む。
「……夢じゃ、ないんだね」
竜は、静かに語りかける。
『幼いお前を、背から落としてしまったのは、未熟だった私の過ちだ。探そうにも、人間の匂いに包まれていたお前を、私は探し出すことが出来なかった』
「おかあさん……」
『お前は人に拾われ、愛され、ここまで育った……人間よ、感謝する』
アノマリーは、しばらく黙り込んだまま、竜を見上げていた。
やがて、小さな声で問いかける。
「……一緒に、行こうって言いに来たの?」
『そうだ』
竜は、はっきりと答えた。
『お前は、これから変化する。人の姿のままではいられない』
アノマリーは、唇を噛みしめた。
「……でも」
小さな手が、布団を強く握る。
「ぼく、ここが好きだよ。ゼンバ父さんも、ゴバ母さんも、おにいちゃんも、おねえちゃんも……」
視線を巡らせ、最後にライネルを見る。
「ライネルさんやみんなも」
竜は、黙ってその言葉を聞いていた。
「ぼく、ここに残る。ここで生きていきたい。だめ?」
『……それは、竜としての道を選ばぬということか?』
「ううん」
アノマリーは、首を横に振った。
「ぼくは、竜だよ。だから……ここを守れるでしょ』
その言葉に、竜の瞳がわずかに見開かれる。
「……おかあさん」
アノマリーは、真っ直ぐに竜を見据えた。
「ぼく、この村の守護竜になる」
しばし、沈黙が流れた。
やがて、竜は低く息を吐く。
『……かつて、この国にも竜はいた』
その声には、かすかな苦味が滲んでいた。
『だが、当時の王室には、あまりにも愚かで、欲深い者がいた。竜の力を利用し、支配しようとしたのだ』
「王室……」
アルヴェリオは顔を歪める。
『それに呆れ、この地を去った。守護を、放棄したのだ』
その言葉に、ライネルは一歩前へ出た。
「……もう、その者はいません」
竜の視線が、ライネルに向く。
「今は違います。今は、とても優しく、立派な王様が、この国を治めています」
アルヴェリオが、静かに頷いた。
「俺が保証する。この国は、もう過ちを繰り返さない」
竜は、二人を見比べるようにして、しばらく考え込んだ。
そして――ゆっくりと、首を垂れる。
『……そうか。人は、変われるのだな』
竜は、再びアノマリーへと向き直る。
『竜として、ここに残る覚悟があるのだな?』
アノマリーは、迷わなかった。
「うん。大事な人たちを守る」
幼いながらも、はっきりと力強く頷く。
「ぼくは、ここを守る。ここで生きる」
竜は、深く、深く息を吐いた。
『……分かった……。お前は私の誇りだ』
月光の中、竜の鱗が静かに輝く。
『この地は、再び竜に守られる』
竜は、そっと翼を広げた。
その途端、ひんやりと爽やかな風が吹き荒れ、村中を駆け巡る。
それは人々の体の奥まで入り込み、一服の清涼剤のように重しを取り除く。
『もう行く。いつか……また会おう。なんせ竜は長生きだから』
「……うん」
アノマリーは、髪を揺らして頷く。そして母竜に手を振った。
竜の影が夜空へと溶けていくのを、誰もが黙って見送った。
そして、部屋に残ったのは――
静かな夜と、幸福な未来だった。
◇◇◆◆◇◇
翌朝、ライネルたちが目を覚ますと、ベッドの上には小さな竜が眠っていた。
白銀の鱗に美しい宝石眼。
確かにアノマリーの面影を残すその竜は、ライネルを見ると、小さく「きゅう」と鳴いた。
「アノマリー……」
竜は可愛い。それに加護を受けられるのならこれ以上の幸運はないだろう。
だが……
「もう、人間の姿のアノマリーには会えないのかな……」
「……寂しいのか?」
椅子で眠っていたアルヴェリオがそう聞く。
「……少し。でもアノマリーはここにいます。たとて会話ができなくでも心で通じ合えるでしょう」
「喋れます」
「「え?」」
ベットを見ると、そこにいたのはいつも見ていた馴染みのある姿のアノマリーだ。
「アノマリー!!」
嬉しさのあまりライネルは、アノマリーに抱きついて頬擦りをする。
「よかった!アノマリー!……でも凄いね。どっちにもなれるんだ?」
「はい。アルヴェリオ様に貰った宝石のおかげです」
そう言って、アノマリーは手のひらを二人に向けて開く。
そこにあったのはあの日、アルヴェリオが渡したルビーだったが、更に大きくなり結晶の中ではマグマのように赤い渦がぐるぐると回っている。
「これは竜の宝と呼ばれる宝石です。竜は宝石が大好きなんですが、その中でも特に気に入った物に竜の気を吹き込むんです」
「……それが?」
「はい」
そんな凄い物だったなんて。
ライネルはアルヴェリオを見ると、彼は肩をすくめ、自分は知らなかったと答えた。
「まあ、王室の秘宝らしいから。父の形見なんだ」
「形見?!」
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