【完結】望まれなかった代役婚ですが、投資で村を救っていたら旦那様に溺愛されました。

ivy

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第四章 全てを暴いて幸せになります!

84・突然の報告

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 アルヴェリオは、馬車の中から、次第に小さくなっていくライネルの姿を見つめていた。
 それが豆粒ほどになっても、どうしても目を離すことができない。

 そして胸の奥で、ひとつの決心をする。

「……ライネル」

 それはアルヴェリオにとって出来るただ一つのことだった。






「お待ちしておりました。ご案内いたします」

 王城に到着すると、侍従が駆け寄ってきて、深々と頭を下げた。

 アルヴェリオは黙って頷き、そのまま長い廊下を歩き出す。

 どこまでもまっすぐに伸びた回廊。
 それは、この先に待つであろう己の人生を映し出しているかのようで、アルヴェリオの胸に重くのしかかった。

(……何も望んでいない)

 王位も、富も、名誉も。

(ただ、ライネルと共に生きたいだけなのに……)

 その想いが、胸の奥で鈍く疼く。

 アルヴェリオは、生まれて初めて、自分の両親――
 そして王族という血筋そのものを、恨めしく思った。



「よく来たな、アルヴェリオ」

 玉座に座る国王ハーシェルは、久しぶりの再会を心から喜ぶように、満面の笑みを浮かべた。
 高い天井から差し込む光が、王の背後のステンドグラスを照らし、色とりどりの影を床に落としている。

 だが、アルヴェリオの胸中は、その光景を味わう余裕もないほど重かった。

「……お久しゅうございます、陛下」

 深く頭を下げたまま、顔を上げない。

「……以前、私がお前に王位を継いでほしいと話したことを覚えているか?」

「……もちろんでございます」

 その問いが来ることは、分かっていた。

「その件なのだが――」

「お待ちください、陛下」

 アルヴェリオは、王の言葉を遮った。
 静まり返る謁見の間で、その声だけがはっきりと響く。

「ずっと考えておりました。そして、……王位を継ぐ決心をいたしました」

 ハーシェルは、わずかに目を見開く。

「だが、一つだけ。どうしても、お許しいただきたい願いがございます」

 アルヴェリオは、なおも顔を上げない。

「私は、王位を継ぎ国王となっても、決して結婚はいたしません」

 一瞬、空気が止まった。

「……なんだと?」

 ハーシェルは思わず身を乗り出し、アルヴェリオの顔を覗き込む。

「お前には、好いた相手がいたはずだ。その者と共に、この国を支えていくのだと……私は、そう思っていたのだが」

「……私も、そう考えておりました」

 アルヴェリオの声は、低く、しかしはっきりとしていた。

「けれど、彼は首を縦に振りませんでした」

「なぜだ?」

「彼には、彼の生きる場所があったのです。
 私のそばではなく――彼自身が守り、育てると決めた場所が」

「お前は、それで良いのか?」

 しばしの沈黙。

 アルヴェリオは、最後まで顔を上げなかった。

「……はい」

 その答えに、ハーシェルは長く息を吐いた。

「……そうか」

 玉座に深く腰を下ろし、しばらく何も言わずに考え込む。

「アルヴェリオ。正直に話せ。お前は、国王になりたいか?」

「…………はい」

 あまりにも長い間に、ハーシェルは思わず苦笑した。

「彼を失うことになっても?」

「…………はい」

 うつむくアルヴェリオの表情は、ハーシェルからは見えない。
 もし、その目を真正面から見ていれば――
 彼はすべてを悟っていただろう。

「それほどの覚悟があるなら、王位を継ぐがいい」

「……承知しました」

「まあ、生まれてくる子と、王位継承権を巡って争わねばならんがな」

「……はい?」

 その言葉に、アルヴェリオは初めて顔を上げた。

 そして、人の悪い笑みを浮かべる国王と、
 その隣に静かに寄り添う少しふっくらとした皇后の姿を、交互に見つめる。

「……まさか」

「ああ。その、まさかだ。皇后は――身籠っている」

 その一言が、静まり返った謁見の間に落ちた。

 アルヴェリオは、言葉を失ったまま皇后を見る。
 柔らかな微笑みを湛えたその表情は、どこか穏やかで、確かに生命を宿す者の顔だった。 

「お、おめでとうございます。……けれど」

 アルヴェリオは口篭った。つい先日、皇后は子ができない体だと聞いたばかりだったが……。


「……不思議なことに、数か月前のある朝。
 目を覚ますと、急に身体が軽くなっていたのだ。それは、私だけではなかった。
 城に仕える者たち、そして市井の民――
 国中のあちこちで、同じような“奇跡”が起きていた」 

「それは……」

 母竜の加護だ。それがこんなところまで届いていたとは!

「長年患っていた痛みが消え、立ち上がることすら難しかった者が歩き出し、まるで何かが、この国全体を優しく撫でていったかのようだった。それは皇后も例外ではなかった」

「そうでしたか……」

 アルヴェリオは混乱しつつその話を聞いていた。あれほどの覚悟をしたのだ。それも致し方ない。

「医師の話では、滞っていた血の巡りが整い、身体が本来あるべき状態に戻ったのだと言っていた。今後も、問題なく何人でも授かれると太鼓判を押されたよ」

 いい年をして恥ずかしいがな、と笑うハーシェルは今まで見た中でも一番幸せそうだった。

「もちろん、本当にこの国の王になってもいいと決心してくれたのなら、予定通り、王位を譲ろう。だが、そうではないのなら無理をする必要はない……どう考えている?」

「私は……」

 その瞬間、
 アルヴェリオの脳裏に浮かんだのは、ただ一人。

 ――ライネル。

 国王にならなくていいのなら。
 このままずっと、彼と生きていけるのだ。

「……はい」

 声が震えた。

「私は……愛する人と共に生きる未来を選びます」

 ハーシェルは、ふっと目を細めた。

「そうか。無理を言って、すまなかったな」

 そして、深く息を吐く。

「陛下……」

「今まで、苦労して生きてきた者に、さらに重荷を背負わせようとしていた。本当に悪かった」

「いいえ、この度はおめでとうございます」

 アルヴェリオは、王と皇后、二人に深く頭を下げ、心からの祝福の言葉を捧げた。

 胸の内にあるのは、
 抑えきれないほどの喜びと、
 ただ一つの確かな願い。

 ――今すぐ、彼に会いたい。



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