【完結】「婚約を破棄する!」から始まる話は大抵名作だと聞いたので書いてみたら現実に婚約破棄されたんだが

ivy

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お話の結末は

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朝目覚めると部屋中花のいい香りがした。
俺の大好きな薔薇の匂い。
鮮やかな赤を纏った大ぶりの花弁が朝露に煌めき俺は目を見開く。

「これは誰が?」
「庭師ですよ。でも咲く手前まで育てたのは私です」

面白く無さそうにツンとしているサイモンが子供っぽくて笑ってしまう。

「じゃあサイモンも庭師の素質あるんだね」
「当然です。けれど私の仕事はユビイ様に快適な毎日を送って頂く事ですから庭にばかり構っていられない、それだけの事です」
「うん。そうだね」

俺は笑いながらその一本を手に取り水を含んだベルベットにそっと口付けた。


次の締め切りまでまだ余裕があるが今日は小説を最後まで描き上げよう。
しばらく迷っていた青年の恋の行方。
彼の気持ちが決まりそうだ。



カリカリとペンが紙の上を走る音だけが部屋に響く。食事も取らずただひたすら紡ぐ文字は愛する人への手紙だ。
青年から相手へ。
相手から青年への愛。
二人の気持ちが寄り添い合う場面を一心不乱に書き続ける。

物語の中の二人はこれから素晴らしいハッピーエンドを迎える。

俺はどうだろう。


俺の物語は俺が進めなきゃいけない。
逃げずにちゃんと。
一人ではなく愛する人と一緒に。










「ユビイ様~!いい加減お食事なさって下さい!」
普段執事のお手本のような立ち居振る舞いのサイモンがあり得ないほど情け無い声で扉の向こうから声を掛けてくる。
その様子から察するにずっと気にしてくれていたんだろう。集中し過ぎて何も聞こえなかった事を申し訳なく思う。

「サイモンごめんね」

ドアを開けて彼を招き入れると端正な顔立ちが面白い程崩れている。

「ユビイ様!酷いです。絶対入るななんて言って閉じこもるなんて!私がどれほど心配をしたか分かりますか?!」
「本当にごめん。落ち着いたらちゃんと話すね。それよりお腹すいたー」
「はい!すぐご用意します!」

珍しいサイモンの小走りを横目に見ながら俺は庭に出た。
篭っている間に1日が終わってしまったようでそろそろ日も傾き始めている。
丁寧に植え替えされた花壇の向こうで庭師がせっせと薔薇の葉を剪定していた。

やるべき事をしよう。
後悔しないように。

俺は庭師に近づいてそっと隣に腰を下ろした。

「!!」

俺に気付いて慌てて距離を取り帽子を目深に被った男に声を上げて笑ってしまった。

「なにしてるんです?王弟殿下」
「!!き、気付いて?」
「もしかしてと思い来てみましたがやっぱり」

ご丁寧に顔を布で隠しているが美しいアメジストの瞳が夕陽に煌めいている。

「結婚したら毎朝ユビイが目覚めた時一番最初に目に入る場所に朝露のついた薔薇を捧げよう。あなたは俺にそう言ってくれましたよね」
「・・覚えていたのか」
「勿論です」
「そうか」
「ご丁寧にサイモンにまで嘘ついて。何が有名な庭師で顔に怪我ですって?挙げ句喋れないとか設定練り過ぎじゃないですか?それなのに薔薇なんて持って来るから」
「・・あんな昔のことユビイが覚えてるとは思わなかったんだ」

正体がバレてしまったのにちょっと嬉しそうだ。

「この場所は誰に聞いたんです?」
「セインだ。だが彼を責めないでくれ。俺が無理矢理聞き出した。その時全て話したんだ。彼にとても怒られたよユビイがどんな思いで妃殿下教育をこなしたか分かってないと。」

怒られたって・・。
セインの奴、殿下に対してこんなに落ち込むほど酷い怒り方を?一歩間違ったら不敬罪で投獄だぞ。

「どうしても顔が見たかった。ユビイを傷付けた俺にそんな権利はないと分かっていても」
「それで庭師?」
「ユビイの元気な姿を遠くからでも見たくて」

何してるんだこの人。
忙しい政務の合間に足繁くこんな田舎まで。
馬鹿馬鹿し過ぎて涙が出た。

「気は済みましたか?」

俺の言葉にアリーはびくりと肩を震わせた。

「でも折角なので弁解の余地だけは与えます」
「本当に?」
「薔薇のお礼です」

アリーなら居場所が分かれば人を使って簡単に俺を拉致出来ただろう。だがそれをせずに自ら身分を隠して屋敷に通っていたのだ。気持ちが無ければ出来るはずない。そう信じたい。

「話して下さい」
「うん。実は・・・」


そして俺は事の一部始終をアリーの口から聞いた。それからとても反省している事、良ければ戻って欲しい事なんかを切々と訴えられる。

俺が妃殿下教育を頑張れば頑張るほどアリーに寂しい思いをさせてたなんて夢にも思わなかった。その挙げ句にセインとの恋愛疑惑。昔の俺たちなら喧嘩腰で相手に問い詰めただろう。大人になってそんな簡単な事も出来なくなっていた。
不安も不満もちゃんとお互い話していればここまで大ごとにはならなかったのに。

「良かった。セインと恋仲じゃなくて」
「俺も。婚約破棄が芝居で良かったと思います。ものすごく悲しかった。あなたの隣に違う人がいる日が来るなんて夢にも思わなかったから」
「本当に浅はかだった。すまない」

俺たちは見つめ合いどちらからともなく笑う。


「それにしてもあの小説も良くないと思う。その通りしたら上手く言うと思うだろ?」
「小説のせいにする気?」
「だってあんなに人気なんだから」
「あんなの読むんだ」
「まあ・・面白かったし・・」
「あれ書いてるの俺」
「え」
「俺が書いたの」
「え??え?なに?ほんとに?すごいな!本当に言ってる?みんなに言ってもいいか?」
「なんで?やだよ」

くすくす笑う俺に信じられないと焦るアリー。いつの間にか子供の頃に戻ったようだ。

あれが芝居だったなら彼と離れる理由はない。いや、芝居で本当に良かった。そう思うとアリーへの怒りなんてすっと消えてしまった。

「城に帰ります」
「ほんとに?!」
「うん。だっていつまでも王弟殿下を独身にしておけないし」
「ユビイ。許してくれるのか?」
「今回だけです。二度と嘘はつかないで」
「分かった」

「・・ところでユビイ」
「何です?」
「あの小説は・・その。最後は誰と・・」
もじもじしながらそんな事を言うアリーはなんだか可愛い。

「最後は陛下とハッピーエンドです」
「本当か!良かったー!」

アリーはそう言うと強い力で俺を抱きしめた。
大人になってからこんな風に触れ合うのは初めてだ。
きゅうと抱き返したらアリーの腕が緩み顎をそっと掴まれた。
されるがままに上を向いた頬にアリーの柔らかい唇が触れる。くすぐったくて笑う俺をその腕に閉じ込めて離れては触れ、触れては離れるキスを顔中に降らせるアリー。
そしてついにその唇が俺の唇に触れた。
思った以上に暖かく柔らかい感触に心が震える。

「ユビイ愛してる。結婚して欲しい」

アリー本人からの初めてのプロポーズを俺は泣き笑いで受け入れた。

揺れる花壇の薔薇たちに祝福されながら。









それからしばらくして俺たちは正式に結婚した。
そして俺の書いてた小説は空前のベストセラーとなり俺はこの国きっての人気作家になった。
ドキドキハラハラの展開だが最後は必ず幸せになる所がいいと大評判で理解者が増えて俺も嬉しい限りだ。
勿論正体は明かしてないけれど。

アリーはと言うと兄王より街から程近い場所に領地を賜り毎日管理に忙しい。
俺も常に同行しているが小説のネタ集めが本当の目的なのは内緒だ。

喧嘩もするし言いたい事も言い合う俺たちは貴族らしくない所がいいと市民に人気?らしく街を歩けば皆に声を掛けられるのでとても賑やかな暮らしをしている。
多分これを幸せと言うんだろうな。
もちろん側にはサイモンがいて事あるごとに俺の世話を過剰に焼きたがりアリーに煙たがられていた。
彼の主君至上主義の世話好きは過去にちょっと悲しい出来事があったからだと涙ながらに告白されたのでそれもいつか本に残したいと思う。
皆それぞれ色々な問題を抱え解決したり引き摺ったり。それでも毎日を必死で生きてる。

俺たち二人の物語はお約束通り「末長く幸せに暮らしました」で締めくくられるが物語が終わってずっと先もこの幸せが続くようにお互い分かり合う努力を忘れずに生きていきたい。
まあ色々あったがひとまず「めでたしめでたし」って事で。
俺たちの物語を読んでくれた皆にも幸せのお裾分けが届くよう祈りながらこの話は完結にしたいと思う。








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