37 / 117
第32話 ご褒美
しおりを挟む目を覚ますと、ルーテは見知らぬ部屋のベッドに寝かされていた。
(これは……『高級なベッド』と『安眠枕』……!)
しかし、寝具系のアイテムがどちらも高価で希少な代物だったので、普通の部屋でないことだけは理解する。
(この眠り心地……圧倒的な格差を感じます……! 『軋むベッド』と『ボロボロの枕』とは大違いですね……誘惑に抗《あらが》えません!)
流れるように二度寝しようとするルーテだったが、ベッドの脇にイリアが眠っているのを見て思いとどまった。
「……イリア。……そんなところで寝ると風邪を引いてしまいますよ? 風邪状態になると行動する度にHPが1ずつ減ってしまう上に、全能力にマイナスの補正がかかってしまいます。――ですから起きてください」
イリアの体をゆすり、どうにか起きてもらおうとするルーテ。
「う……ん……? どうしたのルーテ……まだ眠いわ……?」
「起きてくださいイリア。……それか、どうせ眠るならこのベッドを使ってください。普段よりも魔力が大きく上昇するはずです!」
「うーん……」
返事をしながら目を開いたイリアは、ルーテの顔を見て驚きの表情を浮かべる。
「ルーテ……! 気が付いたのね!」
そして、目を潤ませながら言った。
「はい。…………僕はそんなに長い間眠っていたんですか?」
「……いいえ。ここに運び込まれてからそれほど時間は経っていないわ。……安静にしていればすぐに目を覚ますって、お医者の人が言っていたから……私も安心して眠ってしまったみたい」
「なるほど、イリアには迷惑をかけてしまいましたね」
その言葉に対し、イリアは首を振る。
「ルーテが無事なら……それでいいの」
「僕のことは心配しないでください。――そうだ、良いことを思いつきました! これからは更に耐久力を上げつつ、痛みに対する耐性を付けるため、毎日頭を石にぶつけて鍛えることにします!」
「絶対にやめて」
イリアは食い気味に言い放った。
「え……」
「やめなさい」
「……じょ、冗談です」
八割くらい本気だったが、イリアを怒らせないように慌てて訂正するルーテ。
「あの、そういえばミネルヴァは……?」
それから、とっさに話題を変えて無かったことにした。
「あの子は……恩人であるという立場を利用してご馳走を食べさせてもらっているわ……」
「…………どういうことですか?」
「ええと……順番に説明するわね。ここは、あなたが助けた女の子……セレストのお家なの」
――イリアの話によると、セレストの父親は大富豪で、それに目を付けた例の三人組が身代金目的で彼女を誘拐したそうだ。
そして、セレストの引き渡し場所として指定されていたのがゴーレム狩りをした廃坑の奥であり、ルーテ達は衛兵が到着するより先に盗賊達を蹴散らしてしまったらしい。
「だからその……セレストのお父さんは私達にすごく感謝していたわ。……ルーテが目覚めたらぜひお礼がしたいって」
「そうですか。僕としては――」
その時、部屋の扉が勢いよく開いた。
「ルーテさまっ!」
中へ入って来たのは、寝巻き姿のセレストだ。
「良かった……目を覚ましたのね! ルーテさまぁっ!」
両手を広げてルーテのベッドに飛び込もうとするセレストだったが、その前にイリアが立ち塞がる。
「……待ちなさい」
「な、何よ……!」
思わず後ずさるセレスト。
「ルーテ――いいえ、るーちゃんは頭に怪我をしているから、安静に過ごす必要があるの。おかしな真似をしないで」
「……ふん! ルーテさまのことをそんな風に呼ぶなんて……親しさアピールのつもり?」
「私にとってるーちゃんは大切な家族よ。どんな呼び方をしたって良いでしょう?」
「…………。そうね! あんたの言う通りだわ!」
睨み合いながらも納得するセレスト。
「あの、僕としてはどちらの呼び方も抵抗があるので、普通にルーテと呼んで欲しいのですが……」
ルーテの声は、二人に届いていなかった。
「…………こほん。と、とにかく、安静にする必要があるなら、私も手短に済ませるとしましょう。おかしなことはしないわ」
「分かってくれれば良いの」
そう言って引き下がるイリア。
「……あなたにも感謝しているのよ? ありがとう、イリア」
「…………わ、私は別に……」
セレストはイリアの肩に手を置いて軽く微笑んだ後、ルーテの前に歩み出て跪いた。
「助けてくれてありがとう、ルーテさま」
一呼吸置いて、さらに続ける。
「……ちゃんとお礼がしたかったの。――パパにはもう寝ろって言われたけど、抜け出して来ちゃった」
「ええと……わざわざありがとうございます」
「……じゃあ、ご褒美あげるから顔を少し近づけて?」
「………………はい? こうですか?」
「そしたら横を向いて」
「あの、僕の顔に何か――」
「ちゅ」
刹那、セレストはルーテの頬に口づけした。
「きゃあああっ?!」
その瞬間、イリアは悲鳴を上げて両手で顔を覆う。
「おやすみ、ルーテさま。――また明日ねっ!」
セレストは最後にそう言い残し、逃げるように部屋を出て行くのだった。
「……あ! あぁ……!」
「……落ち着いてくださいイリア」
「で、ででででもっ!」
「セレストさんはああいう人なのでしょう」
イリアのことを宥めつつ、開けっ放しの扉へ目をやるルーテ。
「満足なのです……! ところで、悲鳴が聞こえたですが……何事ですかイリア?」
するとそこには、ご馳走を振る舞われてお腹いっぱいで戻って来たミネルヴァが立っていた。
「……あ、おはようですママ!」
「おはようございますミネルヴァ」
ルーテは挨拶を返した後、続ける。
「――二人とも聞いてください……。僕、思い出したことがあるんです」
「い、いいいっ、今のき、キッスでっ?!」
「違います」
0
あなたにおすすめの小説
ダンジョンでオーブを拾って『』を手に入れた。代償は体で払います
とみっしぇる
ファンタジー
スキルなし、魔力なし、1000人に1人の劣等人。
食っていくのがギリギリの冒険者ユリナは同じ境遇の友達3人と、先輩冒険者ジュリアから率のいい仕事に誘われる。それが罠と気づいたときには、絶対絶命のピンチに陥っていた。
もうあとがない。そのとき起死回生のスキルオーブを手に入れたはずなのにオーブは無反応。『』の中には何が入るのだ。
ギリギリの状況でユリアは瀕死の仲間のために叫ぶ。
ユリナはスキルを手に入れ、ささやかな幸せを手に入れられるのだろうか。
【完結】妖精を十年間放置していた為SSSランクになっていて、何でもあり状態で助かります
すみ 小桜(sumitan)
ファンタジー
《ファンタジー小説大賞エントリー作品》五歳の時に両親を失い施設に預けられたスラゼは、十五歳の時に王国騎士団の魔導士によって、見えていた妖精の声が聞こえる様になった。
なんと十年間放置していたせいでSSSランクになった名をラスと言う妖精だった!
冒険者になったスラゼは、施設で一緒だった仲間レンカとサツナと共に冒険者協会で借りたミニリアカーを引いて旅立つ。
ラスは、リアカーやスラゼのナイフにも加護を与え、軽くしたりのこぎりとして使えるようにしてくれた。そこでスラゼは、得意なDIYでリアカーの改造、テーブルやイス、入れ物などを作って冒険を快適に変えていく。
そして何故か三人は、可愛いモモンガ風モンスターの加護まで貰うのだった。
【完結】元ゼネコンなおっさん大賢者の、スローなもふもふ秘密基地ライフ(神獣付き)~異世界の大賢者になったのになぜか土方ばかりしてるんだがぁ?
嘉神かろ
ファンタジー
【Hotランキング3位】
ゼネコンで働くアラフォーのおっさん、多田野雄三は、ある日気がつくと、異世界にいた。
見覚えのあるその世界は、雄三が大学時代にやり込んだVR型MMOアクションRPGの世界で、当時のキャラの能力をそのまま使えるらしい。
大賢者という最高位職にある彼のやりたいことは、ただ一つ。スローライフ!
神獣たちや気がついたらできていた弟子たちと共に、おっさんは異世界で好き勝手に暮らす。
「なんだか妙に忙しい気もするねぇ。まあ、楽しいからいいんだけど」
俺の好きな人は勇者の母で俺の姉さん! パーティ追放から始まる新しい生活
石のやっさん
ファンタジー
主人公のリヒトは勇者パーティを追放されるが別に気にも留めていなかった。
ハーレムパーティ状態だったので元から時期が来たら自分から出て行く予定だったし、三人の幼馴染は確かに可愛いが、リヒトにとって恋愛対象にどうしても見られなかったからだ。
だから、ただ見せつけられても困るだけだった。
何故ならリヒトの好きなタイプの女性は…大人の女性だったから。
この作品の主人公は転生者ですが、精神的に大人なだけでチートは知識も含んでありません。
勿論ヒロインもチートはありません。
他のライトノベルや漫画じゃ主人公にはなれない、背景に居るような主人公やヒロインが、楽しく暮すような話です。
1~2話は何時もの使いまわし。
亀更新になるかも知れません。
他の作品を書く段階で、考えてついたヒロインをメインに純愛で書いていこうと思います。
A級パーティから追放された俺はギルド職員になって安定した生活を手に入れる
国光
ファンタジー
A級パーティの裏方として全てを支えてきたリオン・アルディス。しかし、リーダーで幼馴染のカイルに「お荷物」として追放されてしまう。失意の中で再会したギルド受付嬢・エリナ・ランフォードに導かれ、リオンはギルド職員として新たな道を歩み始める。
持ち前の数字感覚と管理能力で次々と問題を解決し、ギルド内で頭角を現していくリオン。一方、彼を失った元パーティは内部崩壊の道を辿っていく――。
これは、支えることに誇りを持った男が、自らの価値を証明し、安定した未来を掴み取る物語。
レベル1の時から育ててきたパーティメンバーに裏切られて捨てられたが、俺はソロの方が本気出せるので問題はない
あつ犬
ファンタジー
王国最強のパーティメンバーを鍛え上げた、アサシンのアルマ・アルザラットはある日追放され、貯蓄もすべて奪われてしまう。 そんな折り、とある剣士の少女に助けを請われる。「パーティメンバーを助けてくれ」! 彼の人生が、動き出す。
【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。
三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎
長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!?
しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。
ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。
といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。
とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない!
フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!
最上級のパーティで最底辺の扱いを受けていたDランク錬金術師は新パーティで成り上がるようです(完)
みかん畑
ファンタジー
最上級のパーティで『荷物持ち』と嘲笑されていた僕は、パーティからクビを宣告されて抜けることにした。
在籍中は僕が色々肩代わりしてたけど、僕を荷物持ち扱いするくらい優秀な仲間たちなので、抜けても問題はないと思ってます。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる