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第85話 食育と教育
しおりを挟むベヒーモスとリヴァイアサンに感謝し、工場を出たルーテは、メインセクターで全体の管理を任されているオトヒメと遭遇する。
「おお、戻って来たかルーテ」
上半身を獣のような体毛に覆われ、下半身には海洋生物の触手が蠢いていたはずのオトヒメは、なぜか人の姿に戻っていた。
彼女は、ルーテが捕獲したベヒーモスとリヴァイアサンを解析することで、半獣人化と半魚人化の制御を完璧にすることができるようになったのである。
その為、現在のオトヒメにとって、ルーテは自身を呪いから救い出してくれた恩人だ。
「……それで、わらわが開発した装置はどうじゃった?」
「いい感じです!」
「そ、そうか……お主が喜んでくれて……わらわも嬉しい……」
自身が行っていた研究のさらに上を行く極悪非道な装置を開発してしまった罪悪感と、ルーテに褒められた嬉しさが混じり合い、複雑な表情をするオトヒメ。
「工場の様子は分かったので、僕はそろそろ帰りますね」
「も、もう帰ってしまうのか? もっとゆっくり……わらわを……その、好きなだけモフモフしていっても良いのだぞ?」
オトヒメは、全身を獣人化させてルーテを引き留めようとする。
「それとも……お主はヌメヌメと睦《むつ》み合う方が好きか……?」
今度は全身から触手を生やし、それをうねうねと動かしながらルーテに接近するオトヒメ。
「好きな事ですか……? 僕はレベルアップする瞬間が好きです!」
「そんな…………」
その後ルーテは、工場で生産した食材を必要な分だけ持ち帰った。
*
――翌朝。
「ただいま帰りました!」
魔物サンドバッグ道場で、心行くまで久々のレベル上げを楽しんだルーテは、晴れやかな気持ちで孤児院へ帰還する。
現在、道場に収容されているのはサメとホワイトの二体だけだ。
(回転率が悪くなってしまいましたね。由々しき事態です……!)
ルーテはそう思っている。
「お帰りなさい、ルーテ。ちょうど朝ご飯ができたところよ」
するとその時、エプロン姿のイリアが食堂から出てきて出迎えてくれた。
「昨日は買い出しに行ってくれてありがとう。まさか、ルーテがちゃんと食べ物を買って帰ってくるとは思わなかったわ」
そう言ってほほ笑むイリア。
「そのくらいしか出来なくて心苦しいです。ですので、ぜひ僕を料理当番に――」
「絶対にやめて」
「あぅ…………」
いつになく真剣な表情で拒否され、ルーテは悲しい気持ちになった。
「せっかく料理スキルを習得したのに……」
彼は、剣術の鍛錬を続けた結果達人の領域に足を踏み入れた明丸と、類い稀なる魔術の才能を持つイリアによる、鉄壁の防御を突破しなければ、台所の中に足を踏み入れることすらできない。
買い出しを任されただけでも奇跡だった。
「ルーテは配膳をお願い」
「…………分かりました!」
気を取り直し、元気よく返事をするルーテ。
――ちなみに、本日の朝食のメニューは、焼きリヴァイアサンおにぎり、リヴァイアサンの卵焼き、ベヒーモスソーセージ、ベヒーモスミルクである。
良質な食材を使って作られた料理は、いつも以上に美味しかったため、孤児院の子供達は喜んでそれらを食べた。
「お前、料理は全然ダメなのに食材を見る目はあるんだな! 見直したぞ!」
隣に座っていたマルスは、大喜びでルーテの背中を叩く。
「ボクも見直したよ! 料理は絶対にしてほしくないけど、買い出しなら毎日していいよ!」と、正面に座るゾラが言った。
「ありがとうございます……っ!」
かくして、ルーテはその目利き能力を認められ、毎日の買い出しを担当することになったのである。
――しかし、皆が大喜びする中、ルーテは一人だけ大粒の涙を流していた。
「僕に食べられてくれて……ありがとうございます……っ! 命をいただくというのは……こういうことなのですね……先生……っ! ぐすっ……ひっぐ……!」
食材に感謝し、今まで何気なく食べて来た料理を、一口一口噛みしめるルーテ。
「思えば、食事とレベル上げは……よく似ています。大切なのは……命をいただいて、自分の血肉や経験値とすることに対する……感謝の心……!」
彼は命と向き合っているのだ。
「食事も経験値も、残さずいただかないといけません……っ!」
「るーちゃん……少し変よ。……もしかして、また頭打った……?」
その様子を見て心配になったイリアは、ルーテのそばに駆け寄り、優しく頭を撫でる。
「心配するだけ無駄だよ! だって、ルーテは元から変だしね!」
すると、ゾラがベヒーモスミルクを飲み干しながら言った。
「もしかしたら、頭打った方がまともになるかも! あはははは!」
「……………………」
「ま、ボクは変なルーテの方が笑えるから好きだけどね!」
「……………………」
イリアの視線に気づかず、元気にはしゃぐゾラ。
「ねえ、ゾラ。今日は私とたくさんお話ししましょう?」
「………………え?」
「あなたに教えてあげたいことが、いっぱいできたの」
「ひっ……!」
――その後、ゾラは忽然と姿を消した。
夕食時に発見された際は、とても「良い子」に教育されていたそうだ。
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