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第84話 感謝感謝
しおりを挟むピクニックを終え、聖なる森から帰還してから数日後の朝。
ルーテはウムブラにある魔導研究所の第二セクターへやって来ていた。
ここは収容施設のようになっていて、檻の向こう側に火山の環境が再現されている。
「……ホットだぜ。俺はクールな方が好きなんだがな」
「暑い」
この場所の管理を任されているのは、特訓の末、人間形態に戻る術を身に付けたノックスと、暑すぎて死にそうなスクイードだ。
「それでは、第三セクターの方に移動しますか?」
「いや、いい。あっちはあっちでクール過ぎるからな。死んじまうぜ」
「漆黒の移動希望」
ルーテ達はそんな会話をしながら整備された通路を進んで行き、第二セクターの最奥に設置されている『ベヒーモスの檻』の前までやって来る。
その中には、友情の首輪で身動きを封じられた状態のベヒーモスが閉じ込められていた。
彼の胴体には、オトヒメが開発させられた様々な器具が取り付けられている。
「ぐあああああああああッ! やめてくれええええええッ!」
そしてベヒーモスは、檻の両脇に取り付けられた回転する刃によって、絶えず胴体の肉を削り取られていた。
「やめろッ! 今すぐやめさせろオオオオッ!」
削り取られた肉片は、そのままベルトコンベアで何処かへと輸送されていく。
ベヒーモスの肉が再生したら、回転する刃によって即座に切り落とされる。
この繰り返しによって、ルーテは美味しいベヒーモスの肉片を大量生産することが可能となっていた。
第二セクター、『ベヒーモス工場』が完成したのである。
ちなみに、ベヒーモスからは肉だけでなく美味しいミルクも手に入る。
それらも同様に、チューブを通じて何処かへ輸送されていた。
「やめろおおおおおッ! それは……それは我が子に与える為のものだッ! 貴様のような下等生物ごときが――ぐあああああッ!」
ここで生産されるものは、『ベヒーモスの肉』と『ベヒーモスのミルク』そして『ベヒーモスの角』の三つだ。
「良心が痛みますが……生きるということは命を食べるということなのですよね。だからこそ、いただかれる命に感謝しなければいけない。……先生は、僕にそう教えてくれました」
「ああ、そうだな。弱肉強食ってやつだ」
「それに、生命の雫をたっぷり飲んで育ったベヒーモスさまのお肉を食べれば、食事効果で先生もきっと良くなるはずです!」
「聖職者も肉を食う……ってわけか」
ルーテとノックスの会話は、一切噛み合っていない。
「だから……ありがとうございますベヒーモスさま! これから、あなたのお肉とミルクを毎日感謝していただきます!」
「漆黒の感謝」
ぼそりと呟くスクイード。
「あああああああああああああああッ!」
ルーテから最悪の宣告をされたベヒーモスは、絶叫した。
*
その後、ルーテは第三セクターの様子を見に来る。
ここでは氷河の環境が再現されていて、修復した強化ガラスによって作られた水槽が幾つも設置されていた。
「おはよう……ェヌせでィクんエチーぁふおュく……」
「ご機嫌よう、ルーテ様……今日もクソ良い天気ですわね……」
管理を担当しているのは、疲れた様子のジェリーとトワイライトだ。
「案内をお願いします!」
「うん……」
「分かりましたわ……」
ルーテにお願いされた二人は、暗い顔で俯いた。
――このセクターの最奥には、『リヴァイアサンの水槽』が置かれている。
そしてその中には、ベヒーモスと同じような状態のリヴァイアサンが封じ込められているのだ。
「ああああああああああああッ!」
通路を進んでリヴァイアサンの水槽に近づくと、悲痛な叫び声が聞こえて来る。
「うぅ……」
「気を確かにしてくださいまし、ジェリー。きっとこれは、ルーテ様が罪深き私たちに与えて下さった罰なのです。……命の……大切さを知るための……!」
「ぜ、絶対違うよぉ……」
水槽から顔を背けて、互いに慰め合うジェリーとトワイライト。
一方ルーテは、ゆっくりと水槽の前へ歩み寄っていく。
「やめてええええええええええッ! かえしてッ! かえしてえええええッ! ああああああああッ!」
第三セクター、『リヴァイアサン工場』では、『リヴァイアサンの切り身』と『リヴァイアサンの卵』、そして『リヴァイアサンの鱗』が生産されている。
その為、リヴァイアサンは毎日大量に生まれる我が子の卵を、全て取り上げられてしまうのだ。
ルーテは、そんなリヴァイアサンに向かって、深々と頭を下げる。
「……ありがとうございます、リヴァイアサンさま!」
「ふ、ふざけるなあああああッ! 私の……私の子を返せえええええッ!」
「………………」
「な、何故黙るのですッ?!」
「僕はそれでも……先生やみんなと美味しいものを食べて……食事効果で強くなりたいです!」
「ま、まさか! そんな……! いやあああああああああッ!」
ルーテの言動から我が子達の末路を悟ったリヴァイアサンは、絶望し慟哭した。
「だから……あなたのお肉と卵を、毎日感謝していただきますね!」
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