魔物の装蹄師はモフモフに囲まれて暮らしたい ~捨てられた狼を育てたら最強のフェンリルに。それでも俺は甘やかします~

うみ

文字の大きさ
15 / 39

15.誇り高き獣魔

しおりを挟む
「あ、あの。凄腕の冒険者さん」
「俺のこと?」

 魔法使いの女がおずおずと口を開く。
 対する俺は自分を指さし彼女へ顔を向ける。

「アルトも反省しているみたいだし……獣魔を犠牲にしようとしたことは……」
「君達からも報告してもらいたい。アルトがどれだけ規約に違反していたのかってことを。どうやら、アルトは反省なんかせず、君たちに嘘の証言をさせて何とかしようとでも考えているようだぞ」

 かまをかけたつもりがどうやら図星だったよだな。
 アルトはあからさまに動揺した様子で、両拳をプルプルと震わせている。
 
「ほら、全く反省の色がない。そこの三人。必ずちゃんと報告してくれよ」
「は、はい……」
「お、おう……」
「わ、わかった……」

 にっこりと微笑むと彼ら三人も分かってくれたようだった。
 どうやら彼らは自分の置かれた立場ってものがよくわかっているようだ。
 彼らは満身創痍。対するこちらは無傷で元気いっぱい。
 もし、もう一体フェイスなんかが出てきたら、彼らにはもう戦う力は残されていないだろう。
 となると、俺に護ってもらうしかないってわけだ。
 フェイスは追加で二体出現したのだから、更に出てきても不思議じゃあない。
 
「三人には依頼書にサインをしてもらうぞ。これは依頼だ」

 冒険者は依頼を受けるとなれば、自分の持てる力を全て使い依頼を達成しなければならない。
 依頼を途中で断ることは可能であるが、受けた依頼をキャンセルすると自分の冒険者ランクに影響を及ぼす。
 勝手に依頼を発行してもいいのかって? 
 答えは否だ。依頼は必ず冒険者ギルドが発行する。
 まあ、こいつらに約束を守らせるための詭弁だな、うん。
 目的がアルトの従属の権利書をはく奪することだから、マスターも否とは言わないだろ。
 マスターの依頼書に追記して、彼らにサインをさせる。
 
 一方で彼らの協力も仰げないと分かったアルトは両膝をつき放心状態になっていた。

「目論見が外れて残念だったな。これからはちゃんと獣魔と信頼関係を結ぶのだな」
「……ぐ、ぐうう」
「出口まで『守ってやる』よ。その前に『従属の権利書』を破り捨てろよ。それが護衛の報酬だ」
「元より、こんなもの要らん!」

 アルトは懐から取り出した従属の権利書を勢いよく破り捨て、げしげしと踏みつける。
 結局彼からは謝罪の言葉を聞くことはできなかったけど、それでいいと思う。
 彼が表面上だけでもしおらしい態度を見せていたら、権利書を破かせはしただろうけどそれ以上のことはしなかったはず。
 隠し事ができない単純な奴なんだろうな。だからといってまるで好感を抱かないけどな!
 
 しかしよくもまあ、自分がすげなく扱ったドラゴニュートの前で無警戒に従属の権利書を破いたものだ。
 煽ったのは俺だけど、ドラゴニュートの爪が届く位置にいるんだぞ。
 悪運が強いというか何というか、ドラゴニュートは彼を手にかけようとはしなかったが。
 
 ◇◇◇
 
 ぞろぞろと大所帯で地上に戻ってきた。
 疲労困憊だったとはいえ、大きな怪我もなかったアルトたちとここでお別れしても問題ないだろう。
 
「念のために言っておく。フェイスから助けた報酬は『嘘偽りなく証言する依頼』、ここまでの護衛は『従属の権利書を破く』ことだ」
「あなたがそれでよいのなら私たちには文句はないわ。ねえ、アルト」

 魔法使いの女がアルトへ問いかけると、憮然とした顔で頷きを返す。

「やけに物分かりがいいな。もっと俺に噛みついて来るのかと思ったんだが。さっきもあっさりと了承したよな」
「私たちもあなたと同じ冒険者。自分の立場は分かっているつもりよ。あの場でアルトたちが殺され、私が……」

 彼女は何を想像しているのか自分の体を抱くようにして顔を真っ赤にする。
 何で俺がそんな後味の悪いことをせなならんのだ。誰も見ていないから彼らを抹殺して……なんてことをするくらいなら、最初から助けに入らんわ。
 恨みが無いと言えば嘘になる。だけど、ギンロウの強さも見せつけることができたし、アルトも放心状態だしで溜飲は下がった。

「そこは赤くするんじゃなくて、青くなるんじゃないのか」
「え……」
「そんなわけで俺たちは貸し借りなしだ。ここなら危険なモンスターも出ない。だけど、念のため、ゆっくり休んで魔力を回復させてから動くんだな」
「分かっているわよ! 私たちだってあなたほどじゃないけど、弱くはないんだから」

 死にそうな目にあったってのに、これだけ元気なら心配ないだろ。
 彼らはこれからもきっと冒険者を続けていく。今後は無謀な依頼を無理やり受けることがないことを願う。
 
「俺たちは街に戻る。それじゃあな。ドラゴニュート。君はどうする?」

 大人しくついてきたドラゴニュートの首を撫で、微笑みかける。
 彼もまた擦り傷はあるが、大きな怪我はしていない。
 すると意外にも、ドラゴニュートはアルトの後ろで座り込む。
 
「お前……」
 
 俺もドラゴニュートの行動には驚いたけど、アルトの動揺は尋常じゃなかった。
 望外の出来事過ぎて、彼はドラゴニュートの方へ体を向け茫然と立ち尽くしたままぼんやりとドラゴニュートを見つめるばかり。

『グルルル』

 喉を鳴らし、立ち上がったドラゴニュートはアルトの膝へ自分の頭を擦り付ける。

「アルト、ドラゴニュートはお前の事を主人として認めているみたいだぞ。竜族は強き者に従うと聞く」
「従属の権利書が無くとも……ついてくるというのか……」
「そうだよ。本来、従属の権利書なんてドラゴニュートみたいな知性の高い獣魔には必要ないものなんだ。お互いに認め合えば、従属の権利書を使うよりお互いに強くなれる。そんなもんなんだよ」
「悔しいが、お前は俺より強い。そんなお前が言うのだから、それこそ真実なのだろうな……」
「アルト」

 ドラゴニュートが彼の心を動かしたんだ。
 と思って感動していたんだが……。
 
「例え真実だとしても俺はお前を認めたわけじゃない! このドラゴニュートと歩み、以前の俺より強くなったのなら、少しは認めてやらんでもない」
「何だよそれ……。魔法使いさん」
「テレーゼよ」
「アルトがドラゴニュートをどう扱っているのかちゃんと見ていてくれよ。今後も粗雑に扱うようなら、今度こそ彼のブレスが後ろから君たちを襲う」
「……そうね……」

 さああっと青ざめる魔法使いの女ことテレーゼ。
 今度こそ彼らから背を向け、ヒラヒラと手を振り歩き始める。
 
 歩き始めて五分ほど。
 隣を歩くロッソがふと歩みを止める。
 
「どうした? 食べ物はこの辺にはないぞ」 
『最後まで締まらなかったナ。ノエル』
「そうかな。俺的にはカッコよく決めたつもりだったんだけど」
『リュックにファイアバードが乗ったままだゾ』
「あ、ずっと乗ったままだったから……」
「くあー」

 自分に注目されたと思ったのか、ファイアバードが間抜けな鳴き声をあげた。
 そうなんだ。結局、ファイアバードだけじゃなく遺跡の地下で出会ったイエロースライムまでもしっかりとついてきているのだ。
 動物はいくらでも大歓迎だから、別についてきても構わない。
 餌代がかさみそうだけど……そこはまあ、飼い主として頑張りどころだ。
 
「それにしても」
『ン?』
「今度こそベッドで眠ろうな」
『オレはフルーツが食べたイ』
「あはは。いつもそれだな、ロッソは」

 後ろ手を組もうとしたらファイアバードに引っかかって、結局、手を元の位置に戻す。
 ロッソの言う通りだ。締まらないなあ俺って。
 
「わおおおん」
「よおおっし、ギンロウ、そこの丘まで競争だ!」

 気持ちよさげに吠えたギンロウに向け、そう叫びながら駆けだす俺たちであった。
しおりを挟む
感想 62

あなたにおすすめの小説

転生能無し少女のゆるっとチートな異世界交流

犬社護
ファンタジー
10歳の祝福の儀で、イリア・ランスロット伯爵令嬢は、神様からギフトを貰えなかった。その日以降、家族から【能無し・役立たず】と罵られる日々が続くも、彼女はめげることなく、3年間懸命に努力し続ける。 しかし、13歳の誕生日を迎えても、取得魔法は1個、スキルに至ってはゼロという始末。 遂に我慢の限界を超えた家族から、王都追放処分を受けてしまう。 彼女は悲しみに暮れるも一念発起し、家族から最後の餞別として貰ったお金を使い、隣国行きの列車に乗るも、今度は山間部での落雷による脱線事故が起きてしまい、その衝撃で車外へ放り出され、列車もろとも崖下へと転落していく。 転落中、彼女は前世日本人-七瀬彩奈で、12歳で水難事故に巻き込まれ死んでしまったことを思い出し、現世13歳までの記憶が走馬灯として駆け巡りながら、絶望の淵に達したところで気絶してしまう。 そんな窮地のところをランクS冒険者ベイツに助けられると、神様からギフト《異世界交流》とスキル《アニマルセラピー》を貰っていることに気づかされ、そこから神鳥ルウリと知り合い、日本の家族とも交流できたことで、人生の転機を迎えることとなる。 人は、娯楽で癒されます。 動物や従魔たちには、何もありません。 私が異世界にいる家族と交流して、動物や従魔たちに癒しを与えましょう!

神獣転生のはずが半神半人になれたので世界を歩き回って第二人生を楽しみます~

御峰。
ファンタジー
不遇な職場で働いていた神楽湊はリフレッシュのため山に登ったのだが、石に躓いてしまい転げ落ちて異世界転生を果たす事となった。 異世界転生を果たした神楽湊だったが…………朱雀の卵!? どうやら神獣に生まれ変わったようだ……。 前世で人だった記憶があり、新しい人生も人として行きたいと願った湊は、進化の選択肢から『半神半人(デミゴット)』を選択する。 神獣朱雀エインフェリアの息子として生まれた湊は、名前アルマを与えられ、妹クレアと弟ルークとともに育つ事となる。 朱雀との生活を楽しんでいたアルマだったが、母エインフェリアの死と「世界を見て回ってほしい」という頼みにより、妹弟と共に旅に出る事を決意する。 そうしてアルマは新しい第二の人生を歩き始めたのである。 究極スキル『道しるべ』を使い、地図を埋めつつ、色んな種族の街に行っては美味しいモノを食べたり、時には自然から採れたての素材で料理をしたりと自由を満喫しながらも、色んな事件に巻き込まれていくのであった。

不倫されて離婚した社畜OLが幼女転生して聖女になりましたが、王国が揉めてて大事にしてもらえないので好きに生きます

天田れおぽん
ファンタジー
 ブラック企業に勤める社畜OL沙羅(サラ)は、結婚したものの不倫されて離婚した。スッキリした気分で明るい未来に期待を馳せるも、公園から飛び出てきた子どもを助けたことで、弱っていた心臓が止まってしまい死亡。同情した女神が、黒髪黒目中肉中背バツイチの沙羅を、銀髪碧眼3歳児の聖女として異世界へと転生させてくれた。  ところが王国内で聖女の処遇で揉めていて、転生先は草原だった。  サラは女神がくれた山盛りてんこ盛りのスキルを使い、異世界で知り合ったモフモフたちと暮らし始める―――― ※第16話 あつまれ聖獣の森 6 が抜けていましたので2025/07/30に追加しました。

もふもふと始めるゴミ拾いの旅〜何故か最強もふもふ達がお世話されに来ちゃいます〜

双葉 鳴
ファンタジー
「ゴミしか拾えん役立たずなど我が家にはふさわしくない! 勘当だ!」 授かったスキルがゴミ拾いだったがために、実家から勘当されてしまったルーク。 途方に暮れた時、声をかけてくれたのはひと足先に冒険者になって実家に仕送りしていた長兄アスターだった。 ルークはアスターのパーティで世話になりながら自分のスキルに何ができるか少しづつ理解していく。 駆け出し冒険者として少しづつ認められていくルーク。 しかしクエストの帰り、討伐対象のハンターラビットとボアが縄張り争いをしてる場面に遭遇。 毛色の違うハンターラビットに自分を重ねるルークだったが、兄アスターから引き止められてギルドに報告しに行くのだった。 翌朝死体が運び込まれ、素材が剥ぎ取られるハンターラビット。 使われなくなった肉片をかき集めてお墓を作ると、ルークはハンターラビットの魂を拾ってしまい……変身できるようになってしまった! 一方で死んだハンターラビットの帰りを待つもう一匹のハンターラビットの助けを求める声を聞いてしまったルークは、その子を助け出す為兄の言いつけを破って街から抜け出した。 その先で助け出したはいいものの、すっかり懐かれてしまう。 この日よりルークは人間とモンスターの二足の草鞋を履く生活を送ることになった。 次から次に集まるモンスターは最強種ばかり。 悪の研究所から逃げ出してきたツインヘッドベヒーモスや、捕らえられてきたところを逃げ出してきたシルバーフォックス(のちの九尾の狐)、フェニックスやら可愛い猫ちゃんまで。 ルークは新しい仲間を募り、一緒にお世話するブリーダーズのリーダーとしてお世話道を極める旅に出るのだった! <第一部:疫病編> 一章【完結】ゴミ拾いと冒険者生活:5/20〜5/24 二章【完結】ゴミ拾いともふもふ生活:5/25〜5/29 三章【完結】ゴミ拾いともふもふ融合:5/29〜5/31 四章【完結】ゴミ拾いと流行り病:6/1〜6/4 五章【完結】ゴミ拾いともふもふファミリー:6/4〜6/8 六章【完結】もふもふファミリーと闘技大会(道中):6/8〜6/11 七章【完結】もふもふファミリーと闘技大会(本編):6/12〜6/18

聖女として召還されたのにフェンリルをテイムしたら追放されましたー腹いせに快適すぎる森に引きこもって我慢していた事色々好き放題してやります!

ふぃえま
ファンタジー
「勝手に呼び出して無茶振りしたくせに自分達に都合の悪い聖獣がでたら責任追及とか狡すぎません? せめて裏で良いから謝罪の一言くらいあるはずですよね?」 不況の中、なんとか内定をもぎ取った会社にやっと慣れたと思ったら異世界召還されて勝手に聖女にされました、佐藤です。いや、元佐藤か。 実は今日、なんか国を守る聖獣を召還せよって言われたからやったらフェンリルが出ました。 あんまりこういうの詳しくないけど確か超強いやつですよね? なのに周りの反応は正反対! なんかめっちゃ裏切り者とか怒鳴られてロープグルグル巻きにされました。 勝手にこっちに連れて来たりただでさえ難しい聖獣召喚にケチつけたり……なんかもうこの人たち助けなくてもバチ当たりませんよね?

転生してチートを手に入れました!!生まれた時から精霊王に囲まれてます…やだ

如月花恋
ファンタジー
…目の前がめっちゃ明るくなったと思ったら今度は…真っ白? 「え~…大丈夫?」 …大丈夫じゃないです というかあなた誰? 「神。ごめんね~?合コンしてたら死んじゃってた~」 …合…コン 私の死因…神様の合コン… …かない 「てことで…好きな所に転生していいよ!!」 好きな所…転生 じゃ異世界で 「異世界ってそんな子供みたいな…」 子供だし 小2 「まっいっか。分かった。知り合いのところ送るね」 よろです 魔法使えるところがいいな 「更に注文!?」 …神様のせいで死んだのに… 「あぁ!!分かりました!!」 やたね 「君…結構策士だな」 そう? 作戦とかは楽しいけど… 「う~ん…だったらあそこでも大丈夫かな。ちょうど人が足りないって言ってたし」 …あそこ? 「…うん。君ならやれるよ。頑張って」 …んな他人事みたいな… 「あ。爵位は結構高めだからね」 しゃくい…? 「じゃ!!」 え? ちょ…しゃくいの説明ぃぃぃぃ!!

悪役令嬢に転生したので、ゲームを無視して自由に生きる。私にしか使えない植物を操る魔法で、食べ物の心配は無いのでスローライフを満喫します。

向原 行人
ファンタジー
死にかけた拍子に前世の記憶が蘇り……どハマりしていた恋愛ゲーム『ときめきメイト』の世界に居ると気付く。 それだけならまだしも、私の名前がルーシーって、思いっきり悪役令嬢じゃない! しかもルーシーは魔法学園卒業後に、誰とも結ばれる事なく、辺境に飛ばされて孤独な上に苦労する事が分かっている。 ……あ、だったら、辺境に飛ばされた後、苦労せずに生きていけるスキルを学園に居る内に習得しておけば良いじゃない。 魔法学園で起こる恋愛イベントを全て無視して、生きていく為のスキルを習得して……と思ったら、いきなりゲームに無かった魔法が使えるようになってしまった。 木から木へと瞬間移動出来るようになったので、学園に通いながら、辺境に飛ばされた後のスローライフの練習をしていたんだけど……自由なスローライフが楽し過ぎるっ! ※第○話:主人公視点  挿話○:タイトルに書かれたキャラの視点  となります。

【完結】転生したら最強の魔法使いでした~元ブラック企業OLの異世界無双~

きゅちゃん
ファンタジー
過労死寸前のブラック企業OL・田中美咲(28歳)が、残業中に倒れて異世界に転生。転生先では「セリア・アルクライト」という名前で、なんと世界最強クラスの魔法使いとして生まれ変わる。 前世で我慢し続けた鬱憤を晴らすかのように、理不尽な権力者たちを魔法でバッサバッサと成敗し、困っている人々を助けていく。持ち前の社会人経験と常識、そして圧倒的な魔法力で、この世界の様々な問題を解決していく痛快ストーリー。

処理中です...