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15.誇り高き獣魔
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「あ、あの。凄腕の冒険者さん」
「俺のこと?」
魔法使いの女がおずおずと口を開く。
対する俺は自分を指さし彼女へ顔を向ける。
「アルトも反省しているみたいだし……獣魔を犠牲にしようとしたことは……」
「君達からも報告してもらいたい。アルトがどれだけ規約に違反していたのかってことを。どうやら、アルトは反省なんかせず、君たちに嘘の証言をさせて何とかしようとでも考えているようだぞ」
かまをかけたつもりがどうやら図星だったよだな。
アルトはあからさまに動揺した様子で、両拳をプルプルと震わせている。
「ほら、全く反省の色がない。そこの三人。必ずちゃんと報告してくれよ」
「は、はい……」
「お、おう……」
「わ、わかった……」
にっこりと微笑むと彼ら三人も分かってくれたようだった。
どうやら彼らは自分の置かれた立場ってものがよくわかっているようだ。
彼らは満身創痍。対するこちらは無傷で元気いっぱい。
もし、もう一体フェイスなんかが出てきたら、彼らにはもう戦う力は残されていないだろう。
となると、俺に護ってもらうしかないってわけだ。
フェイスは追加で二体出現したのだから、更に出てきても不思議じゃあない。
「三人には依頼書にサインをしてもらうぞ。これは依頼だ」
冒険者は依頼を受けるとなれば、自分の持てる力を全て使い依頼を達成しなければならない。
依頼を途中で断ることは可能であるが、受けた依頼をキャンセルすると自分の冒険者ランクに影響を及ぼす。
勝手に依頼を発行してもいいのかって?
答えは否だ。依頼は必ず冒険者ギルドが発行する。
まあ、こいつらに約束を守らせるための詭弁だな、うん。
目的がアルトの従属の権利書をはく奪することだから、マスターも否とは言わないだろ。
マスターの依頼書に追記して、彼らにサインをさせる。
一方で彼らの協力も仰げないと分かったアルトは両膝をつき放心状態になっていた。
「目論見が外れて残念だったな。これからはちゃんと獣魔と信頼関係を結ぶのだな」
「……ぐ、ぐうう」
「出口まで『守ってやる』よ。その前に『従属の権利書』を破り捨てろよ。それが護衛の報酬だ」
「元より、こんなもの要らん!」
アルトは懐から取り出した従属の権利書を勢いよく破り捨て、げしげしと踏みつける。
結局彼からは謝罪の言葉を聞くことはできなかったけど、それでいいと思う。
彼が表面上だけでもしおらしい態度を見せていたら、権利書を破かせはしただろうけどそれ以上のことはしなかったはず。
隠し事ができない単純な奴なんだろうな。だからといってまるで好感を抱かないけどな!
しかしよくもまあ、自分がすげなく扱ったドラゴニュートの前で無警戒に従属の権利書を破いたものだ。
煽ったのは俺だけど、ドラゴニュートの爪が届く位置にいるんだぞ。
悪運が強いというか何というか、ドラゴニュートは彼を手にかけようとはしなかったが。
◇◇◇
ぞろぞろと大所帯で地上に戻ってきた。
疲労困憊だったとはいえ、大きな怪我もなかったアルトたちとここでお別れしても問題ないだろう。
「念のために言っておく。フェイスから助けた報酬は『嘘偽りなく証言する依頼』、ここまでの護衛は『従属の権利書を破く』ことだ」
「あなたがそれでよいのなら私たちには文句はないわ。ねえ、アルト」
魔法使いの女がアルトへ問いかけると、憮然とした顔で頷きを返す。
「やけに物分かりがいいな。もっと俺に噛みついて来るのかと思ったんだが。さっきもあっさりと了承したよな」
「私たちもあなたと同じ冒険者。自分の立場は分かっているつもりよ。あの場でアルトたちが殺され、私が……」
彼女は何を想像しているのか自分の体を抱くようにして顔を真っ赤にする。
何で俺がそんな後味の悪いことをせなならんのだ。誰も見ていないから彼らを抹殺して……なんてことをするくらいなら、最初から助けに入らんわ。
恨みが無いと言えば嘘になる。だけど、ギンロウの強さも見せつけることができたし、アルトも放心状態だしで溜飲は下がった。
「そこは赤くするんじゃなくて、青くなるんじゃないのか」
「え……」
「そんなわけで俺たちは貸し借りなしだ。ここなら危険なモンスターも出ない。だけど、念のため、ゆっくり休んで魔力を回復させてから動くんだな」
「分かっているわよ! 私たちだってあなたほどじゃないけど、弱くはないんだから」
死にそうな目にあったってのに、これだけ元気なら心配ないだろ。
彼らはこれからもきっと冒険者を続けていく。今後は無謀な依頼を無理やり受けることがないことを願う。
「俺たちは街に戻る。それじゃあな。ドラゴニュート。君はどうする?」
大人しくついてきたドラゴニュートの首を撫で、微笑みかける。
彼もまた擦り傷はあるが、大きな怪我はしていない。
すると意外にも、ドラゴニュートはアルトの後ろで座り込む。
「お前……」
俺もドラゴニュートの行動には驚いたけど、アルトの動揺は尋常じゃなかった。
望外の出来事過ぎて、彼はドラゴニュートの方へ体を向け茫然と立ち尽くしたままぼんやりとドラゴニュートを見つめるばかり。
『グルルル』
喉を鳴らし、立ち上がったドラゴニュートはアルトの膝へ自分の頭を擦り付ける。
「アルト、ドラゴニュートはお前の事を主人として認めているみたいだぞ。竜族は強き者に従うと聞く」
「従属の権利書が無くとも……ついてくるというのか……」
「そうだよ。本来、従属の権利書なんてドラゴニュートみたいな知性の高い獣魔には必要ないものなんだ。お互いに認め合えば、従属の権利書を使うよりお互いに強くなれる。そんなもんなんだよ」
「悔しいが、お前は俺より強い。そんなお前が言うのだから、それこそ真実なのだろうな……」
「アルト」
ドラゴニュートが彼の心を動かしたんだ。
と思って感動していたんだが……。
「例え真実だとしても俺はお前を認めたわけじゃない! このドラゴニュートと歩み、以前の俺より強くなったのなら、少しは認めてやらんでもない」
「何だよそれ……。魔法使いさん」
「テレーゼよ」
「アルトがドラゴニュートをどう扱っているのかちゃんと見ていてくれよ。今後も粗雑に扱うようなら、今度こそ彼のブレスが後ろから君たちを襲う」
「……そうね……」
さああっと青ざめる魔法使いの女ことテレーゼ。
今度こそ彼らから背を向け、ヒラヒラと手を振り歩き始める。
歩き始めて五分ほど。
隣を歩くロッソがふと歩みを止める。
「どうした? 食べ物はこの辺にはないぞ」
『最後まで締まらなかったナ。ノエル』
「そうかな。俺的にはカッコよく決めたつもりだったんだけど」
『リュックにファイアバードが乗ったままだゾ』
「あ、ずっと乗ったままだったから……」
「くあー」
自分に注目されたと思ったのか、ファイアバードが間抜けな鳴き声をあげた。
そうなんだ。結局、ファイアバードだけじゃなく遺跡の地下で出会ったイエロースライムまでもしっかりとついてきているのだ。
動物はいくらでも大歓迎だから、別についてきても構わない。
餌代がかさみそうだけど……そこはまあ、飼い主として頑張りどころだ。
「それにしても」
『ン?』
「今度こそベッドで眠ろうな」
『オレはフルーツが食べたイ』
「あはは。いつもそれだな、ロッソは」
後ろ手を組もうとしたらファイアバードに引っかかって、結局、手を元の位置に戻す。
ロッソの言う通りだ。締まらないなあ俺って。
「わおおおん」
「よおおっし、ギンロウ、そこの丘まで競争だ!」
気持ちよさげに吠えたギンロウに向け、そう叫びながら駆けだす俺たちであった。
「俺のこと?」
魔法使いの女がおずおずと口を開く。
対する俺は自分を指さし彼女へ顔を向ける。
「アルトも反省しているみたいだし……獣魔を犠牲にしようとしたことは……」
「君達からも報告してもらいたい。アルトがどれだけ規約に違反していたのかってことを。どうやら、アルトは反省なんかせず、君たちに嘘の証言をさせて何とかしようとでも考えているようだぞ」
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アルトはあからさまに動揺した様子で、両拳をプルプルと震わせている。
「ほら、全く反省の色がない。そこの三人。必ずちゃんと報告してくれよ」
「は、はい……」
「お、おう……」
「わ、わかった……」
にっこりと微笑むと彼ら三人も分かってくれたようだった。
どうやら彼らは自分の置かれた立場ってものがよくわかっているようだ。
彼らは満身創痍。対するこちらは無傷で元気いっぱい。
もし、もう一体フェイスなんかが出てきたら、彼らにはもう戦う力は残されていないだろう。
となると、俺に護ってもらうしかないってわけだ。
フェイスは追加で二体出現したのだから、更に出てきても不思議じゃあない。
「三人には依頼書にサインをしてもらうぞ。これは依頼だ」
冒険者は依頼を受けるとなれば、自分の持てる力を全て使い依頼を達成しなければならない。
依頼を途中で断ることは可能であるが、受けた依頼をキャンセルすると自分の冒険者ランクに影響を及ぼす。
勝手に依頼を発行してもいいのかって?
答えは否だ。依頼は必ず冒険者ギルドが発行する。
まあ、こいつらに約束を守らせるための詭弁だな、うん。
目的がアルトの従属の権利書をはく奪することだから、マスターも否とは言わないだろ。
マスターの依頼書に追記して、彼らにサインをさせる。
一方で彼らの協力も仰げないと分かったアルトは両膝をつき放心状態になっていた。
「目論見が外れて残念だったな。これからはちゃんと獣魔と信頼関係を結ぶのだな」
「……ぐ、ぐうう」
「出口まで『守ってやる』よ。その前に『従属の権利書』を破り捨てろよ。それが護衛の報酬だ」
「元より、こんなもの要らん!」
アルトは懐から取り出した従属の権利書を勢いよく破り捨て、げしげしと踏みつける。
結局彼からは謝罪の言葉を聞くことはできなかったけど、それでいいと思う。
彼が表面上だけでもしおらしい態度を見せていたら、権利書を破かせはしただろうけどそれ以上のことはしなかったはず。
隠し事ができない単純な奴なんだろうな。だからといってまるで好感を抱かないけどな!
しかしよくもまあ、自分がすげなく扱ったドラゴニュートの前で無警戒に従属の権利書を破いたものだ。
煽ったのは俺だけど、ドラゴニュートの爪が届く位置にいるんだぞ。
悪運が強いというか何というか、ドラゴニュートは彼を手にかけようとはしなかったが。
◇◇◇
ぞろぞろと大所帯で地上に戻ってきた。
疲労困憊だったとはいえ、大きな怪我もなかったアルトたちとここでお別れしても問題ないだろう。
「念のために言っておく。フェイスから助けた報酬は『嘘偽りなく証言する依頼』、ここまでの護衛は『従属の権利書を破く』ことだ」
「あなたがそれでよいのなら私たちには文句はないわ。ねえ、アルト」
魔法使いの女がアルトへ問いかけると、憮然とした顔で頷きを返す。
「やけに物分かりがいいな。もっと俺に噛みついて来るのかと思ったんだが。さっきもあっさりと了承したよな」
「私たちもあなたと同じ冒険者。自分の立場は分かっているつもりよ。あの場でアルトたちが殺され、私が……」
彼女は何を想像しているのか自分の体を抱くようにして顔を真っ赤にする。
何で俺がそんな後味の悪いことをせなならんのだ。誰も見ていないから彼らを抹殺して……なんてことをするくらいなら、最初から助けに入らんわ。
恨みが無いと言えば嘘になる。だけど、ギンロウの強さも見せつけることができたし、アルトも放心状態だしで溜飲は下がった。
「そこは赤くするんじゃなくて、青くなるんじゃないのか」
「え……」
「そんなわけで俺たちは貸し借りなしだ。ここなら危険なモンスターも出ない。だけど、念のため、ゆっくり休んで魔力を回復させてから動くんだな」
「分かっているわよ! 私たちだってあなたほどじゃないけど、弱くはないんだから」
死にそうな目にあったってのに、これだけ元気なら心配ないだろ。
彼らはこれからもきっと冒険者を続けていく。今後は無謀な依頼を無理やり受けることがないことを願う。
「俺たちは街に戻る。それじゃあな。ドラゴニュート。君はどうする?」
大人しくついてきたドラゴニュートの首を撫で、微笑みかける。
彼もまた擦り傷はあるが、大きな怪我はしていない。
すると意外にも、ドラゴニュートはアルトの後ろで座り込む。
「お前……」
俺もドラゴニュートの行動には驚いたけど、アルトの動揺は尋常じゃなかった。
望外の出来事過ぎて、彼はドラゴニュートの方へ体を向け茫然と立ち尽くしたままぼんやりとドラゴニュートを見つめるばかり。
『グルルル』
喉を鳴らし、立ち上がったドラゴニュートはアルトの膝へ自分の頭を擦り付ける。
「アルト、ドラゴニュートはお前の事を主人として認めているみたいだぞ。竜族は強き者に従うと聞く」
「従属の権利書が無くとも……ついてくるというのか……」
「そうだよ。本来、従属の権利書なんてドラゴニュートみたいな知性の高い獣魔には必要ないものなんだ。お互いに認め合えば、従属の権利書を使うよりお互いに強くなれる。そんなもんなんだよ」
「悔しいが、お前は俺より強い。そんなお前が言うのだから、それこそ真実なのだろうな……」
「アルト」
ドラゴニュートが彼の心を動かしたんだ。
と思って感動していたんだが……。
「例え真実だとしても俺はお前を認めたわけじゃない! このドラゴニュートと歩み、以前の俺より強くなったのなら、少しは認めてやらんでもない」
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「テレーゼよ」
「アルトがドラゴニュートをどう扱っているのかちゃんと見ていてくれよ。今後も粗雑に扱うようなら、今度こそ彼のブレスが後ろから君たちを襲う」
「……そうね……」
さああっと青ざめる魔法使いの女ことテレーゼ。
今度こそ彼らから背を向け、ヒラヒラと手を振り歩き始める。
歩き始めて五分ほど。
隣を歩くロッソがふと歩みを止める。
「どうした? 食べ物はこの辺にはないぞ」
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「そうかな。俺的にはカッコよく決めたつもりだったんだけど」
『リュックにファイアバードが乗ったままだゾ』
「あ、ずっと乗ったままだったから……」
「くあー」
自分に注目されたと思ったのか、ファイアバードが間抜けな鳴き声をあげた。
そうなんだ。結局、ファイアバードだけじゃなく遺跡の地下で出会ったイエロースライムまでもしっかりとついてきているのだ。
動物はいくらでも大歓迎だから、別についてきても構わない。
餌代がかさみそうだけど……そこはまあ、飼い主として頑張りどころだ。
「それにしても」
『ン?』
「今度こそベッドで眠ろうな」
『オレはフルーツが食べたイ』
「あはは。いつもそれだな、ロッソは」
後ろ手を組もうとしたらファイアバードに引っかかって、結局、手を元の位置に戻す。
ロッソの言う通りだ。締まらないなあ俺って。
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