魔物の装蹄師はモフモフに囲まれて暮らしたい ~捨てられた狼を育てたら最強のフェンリルに。それでも俺は甘やかします~

うみ

文字の大きさ
17 / 39

17.バナナの皮

しおりを挟む
 街の入り口までラズライトたちと一緒に移動して、ここで行き先が異なるため別れることにした。
 彼らはまず武器の修理に向かうそうだ。石のことしか考えていないようなラズライトと言えども、やはり冒険者なんだなと改めて思う。
 冒険者とは自分の体が資本の肉体労働者だ。商売道具が傷んだままでいては、命に係わることもある。
 ん、でも、次の冒険にまでに武器のメンテナンスすればいいわけで、うん。まず「鍛冶屋に向かう」ことは、ロンゴロンゴの意思だな。
 一緒に冒険するなら、余暇を楽しむ前に次の冒険への準備を完了させておけってわけだ。
 無骨なしっかり者のリザードマンがいれば、彼女も安心して洞窟探検に行くことができる。いい相棒じゃないか。
 じゃあ、ロンゴロンゴは何でラズライトと一緒にいるんだろう? 面と向かって聞くのは憚られるけど、聞いてみたくはある。
 チャンスがあれば、聞いてみようっと。といっても、次に会うのはいつのことか分からないけどね。
 
「いや、近くラズにはお礼をしなきゃな」
『欲しいのカ?』 
 
 定位置のリュックの上でバナナを食べ終わり、名残惜しく皮の裏側に長い舌を伸ばすロッソである。
 
「皮しか残ってないじゃないか」
『リュックに入れておク』

 皮をどうしろってんだよ。
 あとでコッソリ捨てておくか。
 ロッソがラズライトのことをバナナと言ったことを覚えているだろうか?
 彼女の好物はバナナで、常に携帯している。アマランタは港街だけに、遠い地域からいろんな物が入ってくる。
 その一つにバナナがあるわけだけど、結構お高いんだよ。どれくらいかっていうと、同じ大きさの干し肉くらいのお値段なんだ。
 オレンジだと四つか五つ買う事ができるほど。
 ロッソに「じゃあどっちにする」と聞くと、数を選ぶので当然オレンジとなる。
 つまり、彼がバナナを食べるのはラズライトに会った時だけなのだ。彼女は余り物に対する拘りがない(石を除く)ので、ロッソがバナナ好きだと知ると会うたびに彼へバナナを与えてくれる。頂くばかりじゃあれなので、俺は俺で冒険の最中拾った珍しい石なんかがあれば、彼女に渡すことにしているんだ。
 
 ◇◇◇
 
「ノエル!」

 冒険者ギルドに入るなり、奥の受付コーナーからミリアムがパタパタと俺の元へ向かってきた。
 彼女が自分から席を離れるなんて珍しい。
 いつもの口元だけに浮かべる営業スマイルじゃあなく、目元まで細めているのが印象的だった。
 お仕事中はクールなイメージを装っているけど、普段の彼女はそうでもない。
 面と向かって言うとつーんとされるので、お口にチャックを忘れずに、だけどな!
 
「どうした? 出張料の請求は勘弁してくれよ」
「それもいいわね」
「ええー」
「ありがとうね。ノエル。元はと言えば私が」

 恥ずかしいのか顔を逸らし、口を尖らせるミリアム。
 そんな彼女の肩をポンと叩き軽い調子で言葉を返す。

「何だそんなことを気にしてたのか。後をつけるだけだったし」
「もう、何よ。その顔ー!」
「あはは。心配してくれてありがとうな」
「私に触れた分、あとで奢りなさいよ!」

 ふんすと鼻息荒くクルリと向きを変えたミリアムは、俺から背を向けたまま捨て台詞を残す。
 自分で言って照れたんだろう、耳が真っ赤になってるぞ。
 
「あ。ミリアム」
「冒険者さんのご依頼は受付までお越しくださいね」

 つ、冷たい。
 でもま、彼女は彼女で依頼者を待たせているみたいだし、順番が来るまで受付前で待つことにしよう。
 
 ギンロウを連れて順番待ちの席に座る。
 俺が座るのに合わせ、ギンロウが足元に伏せて尻尾をパタパタ振った。
 リュックを脇に降ろし、バナナの皮をリュックから出そうとしたんだけど、見当たらない。

「あれ? ロッソ。バナナの皮は?」
『リュックの中ダ』
「ん、落としたのかな?」

 そんな折、スライムがぽよぽよしている姿が目に留まる。
 スライムはイエローカラーではあるが、向こう側が見えるほど透き通っているんだ。
 頭? といえばいいのか、涙型の頭頂部にバナナのヘタの欠片が浮いている。

「そういうことか。ロッソは知ってたの?」
『ン?』

 この様子だと知らない様子だ。
 スライムはといえばプルルンと体を震わせ、残ったバナナの皮を完全に消化してしまう。
 俺のうろ覚えの知識だと、スライムは色によって好みの食べ物が違うという。
 だけど、このスライム。元々、モンスターの死体に群がっていた一匹だったんだよな。なので、好みは肉系と思っていたんだけど。
 うーん。エルナンに聞けばスライムの詳しい生態について教えてくれるはず。
 何でも食べるからといって食べさせていて、体調不良になっちゃったら飼い主として申し訳ない。
 つんつんと指先でスライムをつっつくと、ぷにゅんとして思いのほか心地よい。
 
「お、おお。ずぶずぶと沈むな。戻すとぷるるんと元に戻る。おもちゃのスライムと違って涙型の基本形を保つようにできているのかな」
「すまんな。待たせてしまって」
「マスター。わざわざ出張ってきて、また何かあったとか?」

 身構える俺に対し、いつの間にか奥から出てきたギルドマスターはガハハと笑ながら俺の背中をバンバンと叩く。

「今回は苦労をかけたな。あいつらはどうなったんだ?」
「怪我をしていて疲労困憊だったけど、命に別状はない。一日休んでから、街に戻って来ると思う」
「そうか。あいつらのことだから、フェイスに出会うまで動かねえだろうし。お前さんが倒してきたのか?」
「まあ、そんなところ。あいつらは連携に難があるな。それが依頼を任せなかった理由だろ?」
「そこまで分かっていたら何も言う事はねえ。その通りだぜ。個々人が俺も俺もでな。それなりの相手なら、まあ、それでもいいんだが」

 白い歯を見せ口の端を親指でグイっとあげるマスター。
 あいつらのことは全てお見通しってわけか。そらそうだよな。分かっていたからこそ、俺に後をつけてくれという緊急依頼を出したわけなのだから。
 
「それで、一応解決したってことで、今回は完了でよいのかな?」
「おう。ミリアムに変わって俺が受付完了にしておくぜ。それと、お前さんのことだ。ミリアムを呼び止めようとしたのは、荷物のことだろ?」
「そそ。置きっぱなしにしていったからさ」

 急を要したとはいえ、エルナンとの話も途中のまま出て行ってしまったからな。

「ちゃんとお前さんの荷物を保管しているぜ。もちろん、保管料は無しで大丈夫だ。俺からお前さんに『今すぐ』って頼んだわけだしな」
「荷物はさ。ほぼ全部モンスター素材なんだよ。買い取ってもらおうと思ってて」

 よかったよかった。ゴミだと判断されて捨てられていないか心配だったんだ。
 ホッと胸を撫でおろす俺の気持ちなど露知らぬマスターは、愉快そうに笑い言葉を続ける。

「そうかそうか。なら、今回の手間賃としてギルドでやっておく。買い取り価格を知らせればいいか?」
「うん。欲しい物があってさ。ルビーも換金しようと思ってたんだよ」
「ほう。何が欲しいんだ?」
「郊外の土地だよ。こいつらだけじゃなくて、馬とかヤギとかも飼いたい」
「牧場を作りたいとか言ってたやつか? 本気でやろうと思ってたのかよ! かああ。てっきり冗談だと思ってたぜ。冒険者は続けるのか?」
「一応続けるつもりでいるよ」

 夢は郊外で俺だけの土地を買い、牧場経営をすることだ。
 経営って言っても畜産で商売をしようというわけじゃあない。俺の個人的趣味――動物たちに囲まれて過ごしたいという欲望を満たすだけのもの。
 なので、生活費は別で調達する必要がある。ギンロウやロッソの運動がてらに素材採集の依頼を受けたりしようと思っているんだ。
 
しおりを挟む
感想 62

あなたにおすすめの小説

転生能無し少女のゆるっとチートな異世界交流

犬社護
ファンタジー
10歳の祝福の儀で、イリア・ランスロット伯爵令嬢は、神様からギフトを貰えなかった。その日以降、家族から【能無し・役立たず】と罵られる日々が続くも、彼女はめげることなく、3年間懸命に努力し続ける。 しかし、13歳の誕生日を迎えても、取得魔法は1個、スキルに至ってはゼロという始末。 遂に我慢の限界を超えた家族から、王都追放処分を受けてしまう。 彼女は悲しみに暮れるも一念発起し、家族から最後の餞別として貰ったお金を使い、隣国行きの列車に乗るも、今度は山間部での落雷による脱線事故が起きてしまい、その衝撃で車外へ放り出され、列車もろとも崖下へと転落していく。 転落中、彼女は前世日本人-七瀬彩奈で、12歳で水難事故に巻き込まれ死んでしまったことを思い出し、現世13歳までの記憶が走馬灯として駆け巡りながら、絶望の淵に達したところで気絶してしまう。 そんな窮地のところをランクS冒険者ベイツに助けられると、神様からギフト《異世界交流》とスキル《アニマルセラピー》を貰っていることに気づかされ、そこから神鳥ルウリと知り合い、日本の家族とも交流できたことで、人生の転機を迎えることとなる。 人は、娯楽で癒されます。 動物や従魔たちには、何もありません。 私が異世界にいる家族と交流して、動物や従魔たちに癒しを与えましょう!

神獣転生のはずが半神半人になれたので世界を歩き回って第二人生を楽しみます~

御峰。
ファンタジー
不遇な職場で働いていた神楽湊はリフレッシュのため山に登ったのだが、石に躓いてしまい転げ落ちて異世界転生を果たす事となった。 異世界転生を果たした神楽湊だったが…………朱雀の卵!? どうやら神獣に生まれ変わったようだ……。 前世で人だった記憶があり、新しい人生も人として行きたいと願った湊は、進化の選択肢から『半神半人(デミゴット)』を選択する。 神獣朱雀エインフェリアの息子として生まれた湊は、名前アルマを与えられ、妹クレアと弟ルークとともに育つ事となる。 朱雀との生活を楽しんでいたアルマだったが、母エインフェリアの死と「世界を見て回ってほしい」という頼みにより、妹弟と共に旅に出る事を決意する。 そうしてアルマは新しい第二の人生を歩き始めたのである。 究極スキル『道しるべ』を使い、地図を埋めつつ、色んな種族の街に行っては美味しいモノを食べたり、時には自然から採れたての素材で料理をしたりと自由を満喫しながらも、色んな事件に巻き込まれていくのであった。

不倫されて離婚した社畜OLが幼女転生して聖女になりましたが、王国が揉めてて大事にしてもらえないので好きに生きます

天田れおぽん
ファンタジー
 ブラック企業に勤める社畜OL沙羅(サラ)は、結婚したものの不倫されて離婚した。スッキリした気分で明るい未来に期待を馳せるも、公園から飛び出てきた子どもを助けたことで、弱っていた心臓が止まってしまい死亡。同情した女神が、黒髪黒目中肉中背バツイチの沙羅を、銀髪碧眼3歳児の聖女として異世界へと転生させてくれた。  ところが王国内で聖女の処遇で揉めていて、転生先は草原だった。  サラは女神がくれた山盛りてんこ盛りのスキルを使い、異世界で知り合ったモフモフたちと暮らし始める―――― ※第16話 あつまれ聖獣の森 6 が抜けていましたので2025/07/30に追加しました。

もふもふと始めるゴミ拾いの旅〜何故か最強もふもふ達がお世話されに来ちゃいます〜

双葉 鳴
ファンタジー
「ゴミしか拾えん役立たずなど我が家にはふさわしくない! 勘当だ!」 授かったスキルがゴミ拾いだったがために、実家から勘当されてしまったルーク。 途方に暮れた時、声をかけてくれたのはひと足先に冒険者になって実家に仕送りしていた長兄アスターだった。 ルークはアスターのパーティで世話になりながら自分のスキルに何ができるか少しづつ理解していく。 駆け出し冒険者として少しづつ認められていくルーク。 しかしクエストの帰り、討伐対象のハンターラビットとボアが縄張り争いをしてる場面に遭遇。 毛色の違うハンターラビットに自分を重ねるルークだったが、兄アスターから引き止められてギルドに報告しに行くのだった。 翌朝死体が運び込まれ、素材が剥ぎ取られるハンターラビット。 使われなくなった肉片をかき集めてお墓を作ると、ルークはハンターラビットの魂を拾ってしまい……変身できるようになってしまった! 一方で死んだハンターラビットの帰りを待つもう一匹のハンターラビットの助けを求める声を聞いてしまったルークは、その子を助け出す為兄の言いつけを破って街から抜け出した。 その先で助け出したはいいものの、すっかり懐かれてしまう。 この日よりルークは人間とモンスターの二足の草鞋を履く生活を送ることになった。 次から次に集まるモンスターは最強種ばかり。 悪の研究所から逃げ出してきたツインヘッドベヒーモスや、捕らえられてきたところを逃げ出してきたシルバーフォックス(のちの九尾の狐)、フェニックスやら可愛い猫ちゃんまで。 ルークは新しい仲間を募り、一緒にお世話するブリーダーズのリーダーとしてお世話道を極める旅に出るのだった! <第一部:疫病編> 一章【完結】ゴミ拾いと冒険者生活:5/20〜5/24 二章【完結】ゴミ拾いともふもふ生活:5/25〜5/29 三章【完結】ゴミ拾いともふもふ融合:5/29〜5/31 四章【完結】ゴミ拾いと流行り病:6/1〜6/4 五章【完結】ゴミ拾いともふもふファミリー:6/4〜6/8 六章【完結】もふもふファミリーと闘技大会(道中):6/8〜6/11 七章【完結】もふもふファミリーと闘技大会(本編):6/12〜6/18

聖女として召還されたのにフェンリルをテイムしたら追放されましたー腹いせに快適すぎる森に引きこもって我慢していた事色々好き放題してやります!

ふぃえま
ファンタジー
「勝手に呼び出して無茶振りしたくせに自分達に都合の悪い聖獣がでたら責任追及とか狡すぎません? せめて裏で良いから謝罪の一言くらいあるはずですよね?」 不況の中、なんとか内定をもぎ取った会社にやっと慣れたと思ったら異世界召還されて勝手に聖女にされました、佐藤です。いや、元佐藤か。 実は今日、なんか国を守る聖獣を召還せよって言われたからやったらフェンリルが出ました。 あんまりこういうの詳しくないけど確か超強いやつですよね? なのに周りの反応は正反対! なんかめっちゃ裏切り者とか怒鳴られてロープグルグル巻きにされました。 勝手にこっちに連れて来たりただでさえ難しい聖獣召喚にケチつけたり……なんかもうこの人たち助けなくてもバチ当たりませんよね?

転生してチートを手に入れました!!生まれた時から精霊王に囲まれてます…やだ

如月花恋
ファンタジー
…目の前がめっちゃ明るくなったと思ったら今度は…真っ白? 「え~…大丈夫?」 …大丈夫じゃないです というかあなた誰? 「神。ごめんね~?合コンしてたら死んじゃってた~」 …合…コン 私の死因…神様の合コン… …かない 「てことで…好きな所に転生していいよ!!」 好きな所…転生 じゃ異世界で 「異世界ってそんな子供みたいな…」 子供だし 小2 「まっいっか。分かった。知り合いのところ送るね」 よろです 魔法使えるところがいいな 「更に注文!?」 …神様のせいで死んだのに… 「あぁ!!分かりました!!」 やたね 「君…結構策士だな」 そう? 作戦とかは楽しいけど… 「う~ん…だったらあそこでも大丈夫かな。ちょうど人が足りないって言ってたし」 …あそこ? 「…うん。君ならやれるよ。頑張って」 …んな他人事みたいな… 「あ。爵位は結構高めだからね」 しゃくい…? 「じゃ!!」 え? ちょ…しゃくいの説明ぃぃぃぃ!!

悪役令嬢に転生したので、ゲームを無視して自由に生きる。私にしか使えない植物を操る魔法で、食べ物の心配は無いのでスローライフを満喫します。

向原 行人
ファンタジー
死にかけた拍子に前世の記憶が蘇り……どハマりしていた恋愛ゲーム『ときめきメイト』の世界に居ると気付く。 それだけならまだしも、私の名前がルーシーって、思いっきり悪役令嬢じゃない! しかもルーシーは魔法学園卒業後に、誰とも結ばれる事なく、辺境に飛ばされて孤独な上に苦労する事が分かっている。 ……あ、だったら、辺境に飛ばされた後、苦労せずに生きていけるスキルを学園に居る内に習得しておけば良いじゃない。 魔法学園で起こる恋愛イベントを全て無視して、生きていく為のスキルを習得して……と思ったら、いきなりゲームに無かった魔法が使えるようになってしまった。 木から木へと瞬間移動出来るようになったので、学園に通いながら、辺境に飛ばされた後のスローライフの練習をしていたんだけど……自由なスローライフが楽し過ぎるっ! ※第○話:主人公視点  挿話○:タイトルに書かれたキャラの視点  となります。

【完結】転生したら最強の魔法使いでした~元ブラック企業OLの異世界無双~

きゅちゃん
ファンタジー
過労死寸前のブラック企業OL・田中美咲(28歳)が、残業中に倒れて異世界に転生。転生先では「セリア・アルクライト」という名前で、なんと世界最強クラスの魔法使いとして生まれ変わる。 前世で我慢し続けた鬱憤を晴らすかのように、理不尽な権力者たちを魔法でバッサバッサと成敗し、困っている人々を助けていく。持ち前の社会人経験と常識、そして圧倒的な魔法力で、この世界の様々な問題を解決していく痛快ストーリー。

処理中です...