姉妹同然に育った幼馴染に裏切られて悪役令嬢にされた私、地方領主の嫁からやり直します

しろいるか

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作戦

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「エレナを追放……」

 声にして、私はどういう意味かを悟った。
 これは復讐なのだ。
 私は迷ってしまった。エレナ。妹のようで、幼馴染で、ずっと心を許してきた友。でも、彼女からすれば違ったのだろうか。
 色んな思い出がよみがえってきて、頭が混乱してきてしまった。

「我が王国の長い歴史の間、転生者は何度も観測しています。彼らは奇跡的な行動によって、悪とされた歴史を塗り替えてきました。多くは腐敗した貴族や下賤な連中を成敗し、そしてその立場を入れ替わる形で手にしてきました。なんども王家の血にも入ろうとした節があります。しかし、そのほとんどが失敗に終わっています」
「失敗?」
「転生者たちは、我々の運命を決定付ける重要な場面においては天賦としかいいようのないセンスを発揮し、転生者にとって最良の選択をします。それを繰り返し、最後は素晴らしい地位に落ち着くのですが、そこから先、ほとんど凋落してしまっています」

 エドモントは顎を撫でながら眉根を寄せる。

「大抵は貴族、または王家としての振る舞いに綻びが生じ、生活にやっていけなくなるのです。衛生観念、そもそもの価値観、人生観、使命感など。貴族としての態度もそうですね。上に立つ者のそれではなくなってしまうのです。それらが綻びとなり、気を触れてしまうか、何かを策謀して追い出されるか、ともあれ、我々に悪影響を及ぼしてしまうのです」

 不思議だ、と言いつつも、エドモントは小さいため息をついた。

「これには理由があると我々は推察しました。貴族としての心得や、根本的な礼儀作法、そして生活に対する理解等が欠如しているからです。少しの間であれば付け焼刃でもどうにかなるし、寛容なものなら多少の蛮行は許すでしょう。しかし、それで克服できるものではないのです」
「……そうか、転生者は転生する前の記憶があって、生活や人生における価値観など、すべてが前の記憶が基盤になっているのね」
「おっしゃる通りです」

 エドモントは大きく頷いてから、空を見上げた。青々として清清しい。

「我々にとっての常識は彼らからすれば非常識で、ありえないこと。その逆もまた叱り。我々の当たり前、生まれた頃から染み付いてきたものがないのです」
「だから、うまくいかなくなる」
「しかしながら、エレナに関しては事情が異なります。彼女は小さい頃から貴族、それも公爵家の一人としてちゃんとした教育を受けています。すなわち、その生まれた頃から染み付いているのです。貴族としての振る舞いも、何もかも」
「その上で、転生する前の記憶を保持しているとすれば……」
「彼女にとって、王家に取り入ることは目的で、たった一つのゴールで、通過点でしかない。これから先、何をするかまったく分かりません」

 エドモントは明確な拒否を示していた。
 私も同じ意見だ。得たいのしれない何かが身体に入ってくる気さえした。

「もっとも、彼女が正当な行為で立場を示し、その地位を手にしたのであれば文句はありませんが……小さい頃から姉妹同然に育ってきた貴女に毒まで盛っているとなれば、卑劣も極まります」

 エレナの素性に関しては、かなり調べ上げているらしい。
 おそらく妙な接近をされた頃から気をつけていたのだろう。エドモントは地方の子爵の息子とは思えない程に聡明だった。それこそ、第一王子なんかよりもよっぽど頭がキレる。

「ですので、お辛いとは思いますが、どうかお話していただけませんか」
「お話? 王家であったやり取りということですか」
「はい」

 エドモントの朱色の瞳が燃え上がっていた。
 火傷しそうなくらいの義憤だった。どこまでも真っ直ぐな彼。

 私は、彼を信じて良いのだろうか。

 エドモントは私の逡巡を感じたか、じっと待つ姿勢を見せる。
 ここでの暮らしは気に入っている。何より、彼らは誠実だった。王家から落ちてきた私を、彼らの生活で可能な範囲でもてなしてくれている。包み隠さず、慈しみを与えてくれる。
 毒を盛られたと見抜き、解毒してくれたのも、そしてそれを今、このタイミングで教えてくれたのも、全部私に気を使ってのことだ。

 だからこそ、私は確かめなければならなかった。

「それは、王家に不届きものが入ろうとしているから成敗したい、という願いからきているものですか?」

 もしそうであれば、私は道具だ。彼の義憤からくる怒りをかなえるためだけに助け出された、つじつまあわせだ。

「いいえ」

 エドモントはハッキリと否定してから、美しい所作で片膝をつくと私の手をとって静かに口付けをした。
 やわらかい唇の感触に、私の胸がときめく。
 エドモントは私を見上げてくる。

「私、いえ、俺が世界一愛する女性に、このような仕打ちをしたあの女が許せないのです」

 めらめらと燃えるような瞳で見据えられ、私は涙が止まらなかった。
 そうだ。そうだった。
 エドモントはたった今くれたのだ。何よりも私が欲しかったものを。押さえ込んでいたけれど、胸の奥で渦巻いていたものを。

「エドモント……」
「俺は一目みた時から、アリスタ。貴女のことを愛してしまった。どうしようもないくらいに惚れてしまった。でも手が届かない存在になってしまって、幸せになるのであればと諦めたのに……貴女は非道な手段で不幸になってしまった」

 それが許せなかった、と、エドモントは悔しそうに言ってから、また顔を上げる。

「だから、俺が助けるって決めて、こうしてここまで来ていただいたんです」
「そう、だったんですか……」
「今は貴女に俺を愛するなんてことは出来ないかもしれない。それだけ傷ついたのです。ですから、俺を愛せるように、まずは整えます。時間をかけて。ですから、そのために、俺に話してくれませんか」
「……分かりました」

 熱い訴えを受けて、私は小さく頷いてから話し出した。
 王家にやってきた、あの日からのことを。
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