姉妹同然に育った幼馴染に裏切られて悪役令嬢にされた私、地方領主の嫁からやり直します

しろいるか

文字の大きさ
11 / 11

その結末

しおりを挟む
 ――地下牢。
 あの日から三日後、ようやく体調が整った私はエレナのもとへ訪れていた。地下の岩盤を雑にくりぬいただけの牢獄は、臭い上に妙に湿気ていて、足を踏み入れるだけで劣悪な環境だと思い知った。

 エレナはそんな牢獄の最奥にいた。

 乏しい蝋燭の灯りに照らされたエレナは、すっかり汚れ、やつれていた。
 思わず胸が痛む。
 確かに彼女の行為は許されない。でも、私は彼女とは姉妹同然に育った幼馴染なのだ。裏切られ、蔑まれ、バカにされてきたけれど、まだ一欠けらの情は残っていた。もしエレナが改心してくれれば――。

 そんな望みを持って、面会に来た。

「何? 堕ちた私を笑いに来たの? 趣味悪いわね。さすが悪役令嬢」
「いきなりご挨拶ね。精神的に病んでいるのは分かるけれど、もう少し敬意を持ちなさい、エレナ。仮にも侯爵家で教育を受けたものでしょう」
「はぁ? 何ほざいてるんだか。あんなの苦痛でしかなかったわ。言っとくけど、私はあんたのこと、ただの一度も姉と思ったことはないんだから! 大体偉そうだったのよ、いつもいつも私の隣で、主人公ぶって、姫みたいに振舞って!」

 とても女性の出すダミ声ではなかった。それに、凄惨極まりない目つきも。

「私は前世で苦しんでいたの。そして、このゲームの世界に転生してきた。やった、私も報われると思ったわ。でも何のことはない。ただのモブ、否、ガイド役のわき役でしかなかった。そんなのありえない。なんで私は転生者なのに主人公じゃないのよ。って。だから、私は決めたの」

 酷薄で、黒い笑顔が浮かぶ。私は、いったい何を見ているのだろう。この娘は誰だ。エレナじゃない。

「主人公であるあんたに成り代わって、幸せになってやるって。どんなことをしてでも。目論見は成功したわ。私は王子の妃になった。でも――ひっくり返された。ありえないじゃない。どうして私がこんな目にあってるのよ!」

 声を震わせ、エレナは盲目的に自分の被害を叫ぶ。
 ああ、この娘に、私はもう映っていないのだわ。

「……ここはゲームの世界じゃないわ」
「はぁ? うるさいわね! 私の中じゃゲームだったのよ! くそ、こんなゲームオーバー、聞いたこともないわ!」

 私は悟る。
 彼女に更正は望めない。彼女は、生きている世界が違うのだ。
 私の中で全部が冷え切っていく。たった一欠けらの情さえも。

「どうして私がここに来たと思う?」

 私は静かに告げる。
 エレナの凄まじい怒りの目線を真っ向から見返す。

「もし貴女が心から反省していたら、私は助命嘆願するつもりだったのよ」
「……っ! はぁ? 何それ、何よそれ! どこまでも上から目線ね! ふざけんじゃないわよ、だったら助けなさいよ、今すぐに! あんた、私のことを妹と思ってるんじゃなかったの!?」
「ええ、ついさっきまではね」

 私は突き放すように言って、踵を返した。

「さようなら。エレナ」

 淡々と告げると、耳に入れたくないような罵詈雑言の嵐がやってきた。

 それから数日後。
 王族への造反と不敬罪を問われた彼女は、即日で死刑を言い渡される。

 処刑方法は、スキャヒズム。

 たっぷりのはちみつや砂糖、脂まみれの食事で三カ月かけてまるまると太らせた後、全身にはちみつを塗られた状態でボートに縛り付けられ、不衛生な沼に流される。
 そんな状態で継続的に大量のはちみつと牛乳を飲ませ続ければ、ボートは数日のうちに排泄物でまみれ、沈没していく。さらに虫がわき、人間は食われていく、という最悪の処刑方法だった。
 あまりにも醜い最期は、誰も目にしない。朽ち果てるまで放置されてしまうからだ。
 エレナらしい処刑方法ともいえた。

 ◇ ◇ ◇

 そして私は、辺境伯の妻として領地に帰っていた。
 侯爵家の娘として復帰し、名誉貴族として王族にも名を連ねたのだが、私もエドモントも王室へは入らなかった。

 私にはやるべきことがある。

 それは、薬草の育成だ。色々なプラントを耕し、人々を助ける。目下のところ、薬草を大量生産して価格を下げ、庶民でも楽に手が伸ばせるようにするのが目標だ。
 エドモントも、グスタフ様も同意してくれた。
 こんな願いを叶えてくれるなんて、私は本当に恵まれている。

 確かに人生は狂わされた。

 しかし、今となっては構わない。
 私は今の人生が幸せだ。最高に満たされている。強くたくましく、優しいエドモントと、その家族。時々遊びにくるグスタフ様。第一王子も、便宜を図ってくれるし、贈り物もしてくれる。そして、素直で慕ってくれる領民たち。

 みんなが宝物だ。

 そうそう。
 私にはもうすぐ子どもが生まれる。エドモントの子どもだ。きっとかわいいよね。
 子供達には伝えるつもりだ。
 決して人を貶めてはならないこと。そして、愛するという本当の意味を。



 ◇◇◇

 ご愛読ありがとうございました!
 hotランキングランクインありがとうございます。
 次回作は「義妹からの嫌がらせで悪役令嬢に仕立て上げられそうになった挙句、旦那からモラハラ受けたのでブチギレます。~姫鬼神の夫婦改善&王国再建記~」です。
 新作として投稿いたしましたので、ぜひこちらもお願いします。
 コメディ×スッキリ痛快爽快×ベタ甘要素!
 です!
 勢いのある面白い作品ですので、よろしければ!
しおりを挟む
感想 6

この作品の感想を投稿する

みんなの感想(6件)

たまご
2025.01.03 たまご

主人公の父親は厳しく育てたのに、娘の状況に疑問を持つことなく調査せずに娘を切り捨てるし。
周囲の人間もそう。証拠や事実確認をすることなく、エレナの演技だけで王族に嫁ぐ娘を断罪したわけで。
上には無能しかいないのかな?と思いました。
これなら、詐欺師だけで国を乗っ取れそうですね。

解除
千夜歌
2021.10.17 千夜歌

素敵なお話ありがとうございます。

すんばらしぃ~( 〃▽〃)
悪意を描写で表現している点は、精神衛生的な問題で悪意が苦手な私には大変有り難く権力を持つ者に正義を貫く信念も心地好い感想になりました。
他の作品も大好きです。
これからのご活躍も楽しみにお待ち申し上げます。

主人公の家格が最終話で侯爵になっていますが、降爵されましたか?

後、志強く?高くでは無いでしょうか?
目指すものとしては高くと表現すべきだと思いますが高い目標を目指す想いとして強くと表現?
気高くで高いを使ったから強くと表現された?
少し引っ掛かりましたので、宜しければ作者様のお心を教えていただければ幸いです。

2021.10.17 しろいるか

感想ありがとうございます。

悪意の描写は本来とても得意なんですが、あまり強く出過ぎるとアクが強いのでセーブしている面があります。心地よくなれたようで良かったです。

家格は普通に誤字です。また修正させていただきますね。

志強く、は、志(こころ)強く、という表現の方です。より強く、を意識しております。
わりと造語が多いので、そういう部分もお楽しみいただければ嬉しいです。

解除
佐々木 玲
2021.04.23 佐々木 玲

『天罰』にて

自分自身のことを「国王陛下」とは言いません。
「陛下」とは尊称ですので、他者に対して使います。
この場面であれば、陛下は一人称(我、余、私など)を使うべきだと思います。
例えば「(我の)国王としての権限をもって」など。


読むかどうかを判断するため興味を引かれた数話を読んだところで、これ(国王陛下)に引っ掛かりました。
でも面白いことは面白かったので、これから最初から読んでみようと思ってます。

2021.04.23 しろいるか

ご指摘ありがとうございます!

修正させていただきました!

ダイジェストに近いですが、そのぶん濃縮されておりますのでお楽しみいただければ幸いです。ありがとうございます!

解除

あなたにおすすめの小説

地味で器量の悪い公爵令嬢は政略結婚を拒んでいたのだが

克全
恋愛
「アルファポリス」「カクヨム」「小説家になろう」に同時投稿しています。 心優しいエヴァンズ公爵家の長女アマーリエは自ら王太子との婚約を辞退した。幼馴染でもある王太子の「ブスの癖に図々しく何時までも婚約者の座にいるんじゃない、絶世の美女である妹に婚約者の座を譲れ」という雄弁な視線に耐えられなかったのだ。それにアマーリエにも自覚があった。自分が社交界で悪口陰口を言われるほどブスであることを。だから王太子との婚約を辞退してからは、壁の花に徹していた。エヴァンズ公爵家てもつながりが欲しい貴族家からの政略結婚の申し込みも断り続けていた。このまま静かに領地に籠って暮らしていこうと思っていた。それなのに、常勝無敗、騎士の中の騎士と称えられる王弟で大将軍でもあるアラステアから結婚を申し込まれたのだ。

【完結】悪女を押し付けられていた第一王女は、愛する公爵に処刑されて幸せを得る

甘海そら
恋愛
第一王女、メアリ・ブラントは悪女だった。 家族から、あらゆる悪事の責任を押し付けられればそうなった。 国王の政務の怠慢。 母と妹の浪費。 兄の女癖の悪さによる乱行。 王家の汚点の全てを押し付けられてきた。 そんな彼女はついに望むのだった。 「どうか死なせて」 応える者は確かにあった。 「メアリ・ブラント。貴様の罪、もはや死をもって以外あがなうことは出来んぞ」 幼年からの想い人であるキシオン・シュラネス。 公爵にして法務卿である彼に死を請われればメアリは笑みを浮かべる。 そして、3日後。 彼女は処刑された。

せっかく家の借金を返したのに、妹に婚約者を奪われて追放されました。でも、気にしなくていいみたいです。私には頼れる公爵様がいらっしゃいますから

甘海そら
恋愛
ヤルス伯爵家の長女、セリアには商才があった。 であれば、ヤルス家の借金を見事に返済し、いよいよ婚礼を間近にする。 だが、 「セリア。君には悪いと思っているが、私は運命の人を見つけたのだよ」  婚約者であるはずのクワイフからそう告げられる。  そのクワイフの隣には、妹であるヨカが目を細めて笑っていた。    気がつけば、セリアは全てを失っていた。  今までの功績は何故か妹のものになり、婚約者もまた妹のものとなった。  さらには、あらぬ悪名を着せられ、屋敷から追放される憂き目にも会う。  失意のどん底に陥ることになる。  ただ、そんな時だった。  セリアの目の前に、かつての親友が現れた。    大国シュリナの雄。  ユーガルド公爵家が当主、ケネス・トルゴー。  彼が仏頂面で手を差し伸べてくれば、彼女の運命は大きく変化していく。

はじめまして婚約者様  婚約解消はそちらからお願いします

蒼あかり
恋愛
リサには産まれた時からの婚約者タイラーがいる。祖父たちの願いで実現したこの婚約だが、十六になるまで一度も会ったことが無い。出した手紙にも、一度として返事が来たことも無い。それでもリサは手紙を出し続けた。そんな時、タイラーの祖父が亡くなり、この婚約を解消しようと模索するのだが......。 すぐに読める短編です。暇つぶしにどうぞ。 ※恋愛色は強くないですが、カテゴリーがわかりませんでした。ごめんなさい。

【完結】大好きな彼が妹と結婚する……と思ったら?

江崎美彩
恋愛
誰にでも愛される可愛い妹としっかり者の姉である私。 大好きな従兄弟と人気のカフェに並んでいたら、いつも通り気ままに振る舞う妹の後ろ姿を見ながら彼が「結婚したいと思ってる」って呟いて…… さっくり読める短編です。 異世界もののつもりで書いてますが、あまり異世界感はありません。

病弱を演じる妹に婚約者を奪われましたが、大嫌いだったので大助かりです

克全
恋愛
「アルファポリス」「カクヨム」「小説家になろう」「ノベルバ」に同時投稿しています。 『病弱を演じて私から全てを奪う妹よ、全て奪った後で梯子を外してあげます』 メイトランド公爵家の長女キャメロンはずっと不当な扱いを受け続けていた。天性の悪女である妹のブリトニーが病弱を演じて、両親や周りの者を味方につけて、姉キャメロンが受けるはずのモノを全て奪っていた。それはメイトランド公爵家のなかだけでなく、社交界でも同じような状況だった。生まれて直ぐにキャメロンはオーガスト第一王子と婚約していたが、ブリトニーがオーガスト第一王子を誘惑してキャメロンとの婚約を破棄させようとしたいた。だがキャメロンはその機会を捉えて復讐を断行した。

聖女で美人の姉と妹に婚約者の王子と幼馴染をとられて婚約破棄「辛い」私だけが恋愛できず仲間外れの毎日

佐藤 美奈
恋愛
「好きな人ができたから別れたいんだ」 「相手はフローラお姉様ですよね?」 「その通りだ」 「わかりました。今までありがとう」 公爵令嬢アメリア・ヴァレンシュタインは婚約者のクロフォード・シュヴァインシュタイガー王子に呼び出されて婚約破棄を言い渡された。アメリアは全く感情が乱されることなく婚約破棄を受け入れた。 アメリアは婚約破棄されることを分かっていた。なので動揺することはなかったが心に悔しさだけが残る。 三姉妹の次女として生まれ内気でおとなしい性格のアメリアは、気が強く図々しい性格の聖女である姉のフローラと妹のエリザベスに婚約者と幼馴染をとられてしまう。 信頼していた婚約者と幼馴染は性格に問題のある姉と妹と肉体関係を持って、アメリアに冷たい態度をとるようになる。アメリアだけが恋愛できず仲間外れにされる辛い毎日を過ごすことになった―― 閲覧注意

伯爵令嬢が婚約破棄され、兄の騎士団長が激怒した。

克全
恋愛
「カクヨム」と「小説家になろう」にも投稿しています。

処理中です...
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。

このユーザをミュートしますか?

※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。