転生『悪役』公爵令嬢はやり直し人生で楽隠居を目指す

RINFAM

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年金手帳を胸に

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「リュオディス様……あの、今回の退位の件…」
「ああ。もう話は聞いてる?実はそうなんだ」
 突然の再会に驚いたものの、やはり気になることは気になる。
 という訳でズバリと質問を口にすると、リュオディス様は照れ臭そうに頭を掻いて笑った。
「王位は弟と……その妻であるキャスリーナ妃に譲渡したんだ」
「妻……キャスリーナ妃……えっ、でも、彼女はリュオディス様の…」

 あの日、彼は私と婚約破棄し、神女であるキャスリーナ嬢を選んだ。
 私は自分が考えていたよりも、そのことがショックで。
 傷付いて。泣いて。落ち込んで。
 ようやく気持ちを切り替えて、お1人様生活を楽しもうと思い直した。

 正直に言ったら10年経った今も、彼のことが忘れられずにいたのだけど。

 おかしなものだよね。
 婚約破棄は元々私自身が望んできたことのはずなのに。

 だから今もお1人様で。恋人を作ろうとも考えてなかった。
 『愛猫』のタマと、『友人』のミィナと、町で知り合った人々と、のんびりまったり暮らしていこうと。

 田舎の生活で時を経てようやく心の整理もつき、リュオディス様とキャスリーナ嬢のことを、心から祝福しようと思っていたのに。
「ごめん。あの時……下手な演技でアウラを泣かせてしまって」
「あ……いえ……ていうか演技だったの…」
 これまでの記憶を辿った私の表情を見てのことか、リュオディス様は本当に申し訳なさそうに謝ってくれた。
 聞けば彼としても私をあそこまで哀しませることになるとは、思っていなかった事態であったらしい。
「俺はてっきり、隠居生活が早まって喜んでくれるとばかり…」
「あ~……あはは……」

 まあ確かにそれはある。
 実際、隠居生活は嬉しかった。
 王子に振られたことに、あれほどのショックを受けたのは、私にしても想定外だったのだ。

 というか、ん??ちょっと待って。一瞬スルーしかけたけど『あの時の…』って、婚約破棄を告げられた時のことだよね?アレが演技って、は??、どういうこと??

 さっぱり意味が解らない。つまり私は騙されてたってこと??

 えっ、なんか腹立ってきたんだけど??

「本当にごめん。騙すようなことになってしまったけど、君には自由に暮らして欲しかったから」
「自由にって……」
「俺には国王となってやり遂げたいことがあった。だからその目的を達成するまで、キャスリーナ嬢に協力を仰ぎ、婚約者として側に居て貰っていた。そうして目的を達したあとは、弟が成人し、立派に王位を継げるようになるのを待っていたんだ」
「ふうん…キャスリーナ嬢と…ね」
 成し遂げたいこと??そのために私と婚約破棄して、キャスリーナ嬢と協力って…なんなのそれ。
「あ。ち、違うよ!?言っておくけど俺は、彼女とはなにもないから。ほんとだから!?」
「へ~……」
 じろっと睨み付けると、リュオディス様は慌てて関係を否定した。
 まあ、嘘ではないと思う。勘だけど。
 ていうか私に関係疑われたからって、そんな慌てること無いのに。なんで??必死過ぎない??
「だって君は華やかな貴族生活より、素朴で穏やかな生活をしたいと…ずっとそう願っていたから」
「え………」
「えっ。違うの??アウラは将来、隠居して、引きこもりお一人様生活したいって、聞いてたけど…?」
「……………あ…あはは」
 うーん。やっぱり全部知られてた。うぬう。

 ミィナから実は私にはずっと王家の隠れ護衛が付いていた、と、前に聞いたことがあるんだけど…まさかこんな些細なことまで筒抜けだったとは思わなかった。

「俺が達成したかったことも、実は、君の願いに関することなんだよ」
「…………は?」
 どういうこと??私のまったり生活のために、リュオディス様がやり遂げたかったこと??
 なんのことだかホントにさっぱりわからない。
 困惑しきった私の前で、リュオディス様は突然、跪いてポケットから何かを取り出すそぶりを見せた。
「……………ッッ!!」
 あっ。これ、知ってる!!
 ドラマとかでよく見たあれだ。
 スッと指輪出して、プロポーズするやつ。
 えっ。まさかまさか。
 そんな、嘘でしょ!?
「リュオディス様……ッ!?」
 目の前の現実が信じられなくて、気恥ずかしさMAXで、顔に血が集まる感じがして慌てていると、
「………………ん?」
「遅くなったけど…これは君のものだよ」
 渡されたのは指輪じゃなくて、掌より少し大きいくらいの小さな冊子。
 
 指輪じゃないし!!??
 プロポーズじゃなかった!?

「えっ…あの………これ……」
 勘違いが恥ずかしくて焦るが、手渡された冊子を見て時が止まる。
「……年金……手帳…??……は?」
「待たせたよね。やっと出来たんだ」
「……………はあ?」
 目が点になった。
 出来たって。
 は??
 なにが??
「年金制度だよ。キャスリーナ嬢と協力して、一から制度を構築したんだ」
「…………はい!?」
 作った!?年金制度を!?この世界で??
 マジか。
「詳しいことは省くけど……将来的に破綻することのないよう、キャスリーナ嬢と一緒に考えて、この春からやっと施行にこぎつけたんだ」
「ええ…………」
 嘘みたいな話だけど。と、目をぱちくりさせる。
 そんな私を見詰めながらリュオディス様は、ポケットからもう一つ何かを取り出した。
「この10年…ずっと決めていたんだ。この年金手帳と共に、君に結婚を申し込むって」
 その手に握られていたのは、今度こそ間違いなく指輪。
 なんなの、それ。
 おかしいんだけど。
 年金手帳と指輪でプロポーズって。
「アウローラ。俺と結婚してください」
 クソ真面目な顔でリュオディス様は、私に指輪のケースを差し出してきた。

 なんなの。この状況?

 シリアスで感動的な場面のはずなのに、私の手の中の年金手帳が邪魔してる。

 ──でも
「……………はい!」
 これってなんだか、とっても私らしいわ。
 大声で笑いそうになりながらも私は、彼からの思いを込めた、10年越しの求婚を受け入れたのだった。
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感想 4

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みんなの感想(4件)

ともこ
2025.10.24 ともこ

㊗️小説版📖完結🎉🎊おめでとうございます
出来れば、番外編をお願いします🙏✨
殿下視点でのお話は如何でしょうか?
漫画版の双子が気になって仕方ないんです
是非とも検討お願いしますm(_ _)m

2025.10.28 RINFAM

ともこさん、連コメありがとうです!!
殿下視点というのも面白いですね!?

解除
秋桜
2023.11.28 秋桜

攻略対象を売るヒロインて…初めて見たわ。

2023.11.28 RINFAM

自分が一番可愛いですからね!!!!
メイン攻略対象以外はどうでも良いのかも知れません(笑)

解除
黒幸
2022.11.18 黒幸

電源入れて10分でぶん投げたクソゲーだった乙女ゲー。
どんな内容だったんでしょうね、テキストが滅茶苦茶頭おかしいのとか、ADVだとたまにあるんですよね。
選択肢で選んだのでサイコな発言をする主人公みたいな……。
9割引きなら、ネタとしてクソゲー動画を投稿しますでバズった……りはしないですよね🤔

未来の宰相候補の頭も盛大にバグっているようですし、アウローラの楽隠居計画はすごく大変そうで展開が楽しみです。

2022.11.18 RINFAM

感想ありがとうございます!!
そうなんです。稀にクソゲーだけど1周回って逆に面白いとかもありますけど(笑)テキストがメチャクチャだと脳内に入ってこないんですよね!😊
色々とバグったキャラクター相手だと、アウローラさんの隠居生活は、なかなかに難しそうです!!
亀のように遅い更新ですが、頂いた感想を励みに頑張りますので、どうぞよろしくお願いします!

解除

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