転生『悪役』公爵令嬢はやり直し人生で楽隠居を目指す

RINFAM

文字の大きさ
42 / 43

再会

しおりを挟む
「私…王都へ行くわ」
「お嬢様…!?」
 気になって仕方がない。いや、知らずにはいられない。
 いったいリュオディス様に何があったのか。
 何故、まだお若いのに、国王の座を退いたのか。
 何もかも分からないまま、ここでじっとなんてしていられなかったのだ。
「では私もお供します。身支度、お手伝いしますね」
「うん。ありがとう」
 ではさっそく…と、テーブルから立ち上がった、その時──

「にゃん」
「…………えっ、タマ?」
 椅子から立ち上がった途端、私の服の裾をタマが掴んできた。
 そしてタマは『着いてこい』とばかりに、家の外へ向かって歩き始めたのだ。
「着いて来いって……こと?」
 不思議に思いつつタマの後姿を見ていると、タマは振り向いてコクコクと頷くそぶりを見せる。なにかしら??と思いつつ、私はとりあえず着いて行ってみることにした。
「にゃん!」
 私が着いてくるのを目にすると、タマは嬉しそうに一声鳴いて、トコトコと歩いて菜園の方へ向かった。

「タマ……どこまで行くの?」
 タマは後ろも見ずに歩き続け、ほんのつい先刻、畑作業をしていた場所まで私を案内してくれた。そしてそこで私はようやく、タマが私をここへ連れてこようとした理由に気付かされたのだった。
「や……野菜泥棒!!??」
 誰も居ないはずの私の菜園に、ウロウロと動く人影があったのだ。

 赦すまじ野菜泥棒!!

 私はとっさに近くに置いてあった鍬を持ち、誰何するためにじりじりと人影に近づいた。
 遠目には解らなかったが近づいてみて相手が男だと解る。男は植えてある野菜の苗をじっと眺めたり、そっと葉を触ったりしていた。まだ実もついてないのに何を見てるんだろ??と、少し不思議に思うが警戒は解かない。
「この野菜泥棒!!私の菜園で何してるの!!」
 鍬の攻撃範囲まで近づいた私は、す~っと息を吸うと威嚇のために大声を上げた。
 テンパっていたせいか、私の背後でタマがぶんぶん首を振りながら、必死にスカートの裾を引っ張っていることにも気付かなかった。いやだって泥棒とか初めてて、心臓バクバクで緊張してたんだもん。仕方ないよね??
「アウラ!!」
「………へ?」
 私は鍬を振り上げたまま固まってしまった。
 何故なら振り向いた野菜泥棒が、単なる野菜泥棒じゃなかった、というか……いやあの、なんでここに貴男が??と思うような、あまりにも意外過ぎる人物で。
「リュオディス陛下……じゃなくて殿下…じゃなくて…えええ!?」
「元気そうだね。久しぶり、アウラ」
 それはこっちの台詞なんだけど。

 えっ。
 ついさっきミィナから退位したって聞いたばかりで。
 だからなにか体の不調とかあるんじゃないかって、すごく心配してて。

 全然、元気そうなんですけど!?

「あの…え??……ど、どうしてここに…」
「驚かせようと思って黙って来たんだけど…驚かせすぎちゃったかな?」
 リュオディス殿下…いや、陛下…ううっ、なんて呼んで良いか解らないから、リュオディス様で良いか??──は私が振り上げた鍬をチラ見し、くすりと苦笑いを浮かべた。
「あ……あはは…」
 その視線に気付いた私は、そっと鍬を下して背後に隠す。
「変わらないね、アウラ。嬉しいよ」
「リュオディス様も、お変わりなく…」
 10年ぶりの再会。
 もちろん年月の分は年を取っているが、私もリュオディス様もまだ20代だから、そこまで容姿に変化はない──と思う。たぶん。いや、貴族として暮らしていた頃より、日焼けしちゃったかもだけど。
しおりを挟む
感想 4

あなたにおすすめの小説

【完結】断罪された悪役令嬢は、本気で生きることにした

きゅちゃん
ファンタジー
帝国随一の名門、ロゼンクロイツ家の令嬢ベルティア・フォン・ロゼンクロイツは、突如として公の場で婚約者であるクレイン王太子から一方的に婚約破棄を宣告される。その理由は、彼女が平民出身の少女エリーゼをいじめていたという濡れ衣。真実はエリーゼこそが王太子の心を奪うために画策した罠だったにも関わらず、ベルティアは悪役令嬢として断罪され、社交界からの追放と学院退学の処分を受ける。 全てを失ったベルティアだが、彼女は諦めない。これまで家の期待に応えるため「完璧な令嬢」として生きてきた彼女だが、今度は自分自身のために生きると決意する。軍事貴族の嫡男ヴァルター・フォン・クリムゾンをはじめとする協力者たちと共に、彼女は自らの名誉回復と真実の解明に挑む。 その過程で、ベルティアは王太子の裏の顔や、エリーゼの正体、そして帝国に忍び寄る陰謀に気づいていく。かつては社交界のスキルだけを磨いてきた彼女だが、今度は魔法や剣術など実戦的な力も身につけながら、自らの道を切り開いていく。 失われた名誉、隠された真実、そして予期せぬ恋。断罪された「悪役令嬢」が、自分の物語を自らの手で紡いでいく、爽快復讐ファンタジー。

【完結】追放された子爵令嬢は実力で這い上がる〜家に帰ってこい?いえ、そんなのお断りです〜

Nekoyama
ファンタジー
魔法が優れた強い者が家督を継ぐ。そんな実力主義の子爵家の養女に入って4年、マリーナは魔法もマナーも勉学も頑張り、貴族令嬢にふさわしい教養を身に付けた。来年に魔法学園への入学をひかえ、期待に胸を膨らませていた矢先、家を追放されてしまう。放り出されたマリーナは怒りを胸に立ち上がり、幸せを掴んでいく。

【完結】悪役令嬢に転生したけど、王太子妃にならない方が幸せじゃない?

みちこ
ファンタジー
12歳の時に前世の記憶を思い出し、自分が悪役令嬢なのに気が付いた主人公。 ずっと王太子に片思いしていて、将来は王太子妃になることしか頭になかった主人公だけど、前世の記憶を思い出したことで、王太子の何が良かったのか疑問に思うようになる 色々としがらみがある王太子妃になるより、このまま公爵家の娘として暮らす方が幸せだと気が付く

悪役令嬢がヒロインからのハラスメントにビンタをぶちかますまで。

倉桐ぱきぽ
恋愛
乙女ゲームの悪役令嬢に転生した私は、ざまぁ回避のため、まじめに生きていた。 でも、ヒロイン(転生者)がひどい!   彼女の嘘を信じた推しから嫌われるし。無実の罪を着せられるし。そのうえ「ちゃんと悪役やりなさい」⁉ シナリオ通りに進めたいヒロインからのハラスメントは、もう、うんざり! 私は私の望むままに生きます!! 本編+番外編3作で、40000文字くらいです。 ⚠途中、視点が変わります。サブタイトルをご覧下さい。

婚約破棄のその場で転生前の記憶が戻り、悪役令嬢として反撃開始いたします

タマ マコト
ファンタジー
革命前夜の王国で、公爵令嬢レティシアは盛大な舞踏会の場で王太子アルマンから一方的に婚約を破棄され、社交界の嘲笑の的になる。その瞬間、彼女は“日本の歴史オタク女子大生”だった前世の記憶を思い出し、この国が数年後に血塗れの革命で滅びる未来を知ってしまう。 悪役令嬢として嫌われ、切り捨てられた自分の立場と、公爵家の権力・財力を「運命改変の武器」にすると決めたレティシアは、貧民街への支援や貴族の不正調査をひそかに始める。その過程で、冷静で改革派の第二王子シャルルと出会い、互いに利害と興味を抱きながら、“歴史に逆らう悪役令嬢”として静かな反撃をスタートさせていく。

【完結】あなたの思い違いではありませんの?

綾雅(りょうが)今年は7冊!
ファンタジー
複数の物語の登場人物が、一つの世界に混在しているなんて?! 「カレンデュラ・デルフィニューム! 貴様との婚約を破棄する」 お決まりの婚約破棄を叫ぶ王太子ローランドは、その晩、ただの王子に降格された。聖女ビオラの腰を抱き寄せるが、彼女は隙を見て逃げ出す。 婚約者ではないカレンデュラに一刀両断され、ローランド王子はうろたえた。近くにいたご令嬢に「お前か」と叫ぶも人違い、目立つ赤いドレスのご令嬢に絡むも、またもや否定される。呆れ返る周囲の貴族の冷たい視線の中で、当事者四人はお互いを認識した。  転生組と転移組、四人はそれぞれに前世の知識を持っている。全員が違う物語の世界だと思い込んだリクニス国の命運はいかに?!  ハッピーエンド確定、すれ違いと勘違い、複数の物語が交錯する。 【同時掲載】小説家になろう、アルファポリス、カクヨム、エブリスタ 2024/11/19……完結 2024/08/13……エブリスタ ファンタジー 1位 2024/08/13……アルファポリス 女性向けHOT 36位 2024/08/12……連載開始

一家処刑?!まっぴらごめんですわ!!~悪役令嬢(予定)の娘といじわる(予定)な継母と馬鹿(現在進行形)な夫

むぎてん
ファンタジー
夫が隠し子のチェルシーを引き取った日。「お花畑のチェルシー」という前世で読んだ小説の中に転生していると気付いた妻マーサ。 この物語、主人公のチェルシーは悪役令嬢だ。 最後は華麗な「ざまあ」の末に一家全員の処刑で幕を閉じるバッドエンド‥‥‥なんて、まっぴら御免ですわ!絶対に阻止して幸せになって見せましょう!! 悪役令嬢(予定)の娘と、意地悪(予定)な継母と、馬鹿(現在進行形)な夫。3人の登場人物がそれぞれの愛の形、家族の形を確認し幸せになるお話です。

笑顔が苦手な元公爵令嬢ですが、路地裏のパン屋さんで人生やり直し中です。~「悪役」なんて、もう言わせない!~

虹湖🌈
ファンタジー
不器用だっていいじゃない。焼きたてのパンがあればきっと明日は笑えるから 「悪役令嬢」と蔑まれ、婚約者にも捨てられた公爵令嬢フィオナ。彼女の唯一の慰めは、前世でパン職人だった頃の淡い記憶。居場所を失くした彼女が選んだのは、華やかな貴族社会とは無縁の、小さなパン屋を開くことだった。 人付き合いは苦手、笑顔もぎこちない。おまけにパン作りは素人も同然。 「私に、できるのだろうか……」 それでも、彼女が心を込めて焼き上げるパンは、なぜか人の心を惹きつける。幼馴染のツッコミ、忠実な執事のサポート、そしてパンの師匠との出会い。少しずつ開いていくフィオナの心と、広がっていく温かい人の輪。 これは、どん底から立ち上がり、自分の「好き」を信じて一歩ずつ前に進む少女の物語。彼女の焼くパンのように、優しくて、ちょっぴり切なくて、心がじんわり温かくなるお話です。読後、きっとあなたも誰かのために何かを作りたくなるはず。

処理中です...