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第六章 陰謀
作戦会議
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数日後の夜。王都のヴァルモント家のタウンハウスで、アレクシスは執事のセバスチャンと作戦会議を開いていた。
アレクシスは機嫌が悪かった。
「悪魔公爵は結婚してから丸くなった」ともっぱらの評判だったのに――周囲を威圧するような鋭いまなざしが復活している。
フォンティーヌ伯爵の告発があって以来、エリアナがやつれてしまったのが原因だった。
最近のエリアナは食欲がない。顔色も悪く、ふさぎ込んで、物思いにふけっていることが多い。
けれども、アレクシスに接するときは、無理をして笑ってみせる。
夫に心配をかけたくない、という彼女の気持ちが伝わってくる。そんなところが、いじらしく、愛おしい。
エリアナを苦しめる奴は許さない。なんとしてでも叩きつぶす。
アレクシスは怒りと戦意に燃え立っていたのだ。
「王宮で、フォンティーヌ伯爵の提出した証拠品を確認してきました。衛兵の立ち合いの下ですが」
と、セバスチャンが言った。
「帳簿と木箱に刻まれていたヴァルモント家の紋章や封蝋はすべて、偽造ですね。よくできていますが、間違いありません。見る者が見れば、本物との違いがわかるはずです」
「契約書の用紙はどうだ? 我が家の紋章が、透かしに入っていた――」
「あれは、どうやら本物です。確認しましたところ、半年ほど前、本家の屋敷に泥棒が入ったんだそうです。金目の物を何も盗まれなかったので、アレクシス様には報告をしなかったようなのですが……そのときに、ヴァルモント家の専用の用紙を盗んだのでしょうね。屋敷の者も、まさかそんな物が盗まれるとは思わず、確認を怠ったようです」
アレクシスはおざなりにうなずいた。
ヴァルモント領の屋敷の使用人たちを責める気にはなれなかった。羊皮紙が数枚盗まれたぐらいでは、気づかないのが当たり前だ。泥棒を報告しなかった彼らに落ち度はない。
「専門家に鑑定させて、鑑定状を陛下に提出しましょうか。帳簿と木箱の紋章は偽物である、と」
「いや……おそらく、フォンティーヌ側も、『紋章は本物である』という鑑定状を提出してくるだろう。専門家の鑑定といっても、主観的なものだからな。絶対ではない。水掛け論に終わるだけだ」
アレクシスは目を光らせた。
「契約書と帳簿の内容は、よく見たか?」
「はい。一ページ残らず」
「私も一度だけ見てきたが……契約書の細かい規定、帳簿の数字の動き……すべてが、完全に辻褄が合っている。帳簿に書かれた送料や手数料などはすべて相場通りだし……私を陥れるために一からこしらえた偽物だとは考えにくい」
「つまり……あれは、本物の不正取引の証拠だということですか? 名義をヴァルモント家に書き換えただけの?」
「おそらく、な。ロベール・フォンティーヌは禁制品を国外に売りさばいて莫大な富を築いてきた、ということだろう。彼の代になってから、フォンティーヌ家が急に豊かになったのも、それが理由か……」
アレクシスの顔が、完全に「恐ろしい悪魔公爵」のものに戻っていた。
領民に対して思いやりがある。弱い者に対して優しい。心の底では愛を欲している。それも、確かに、彼の一面だ。
しかし同時に――敵に対しては冷酷、非情、無慈悲。アレクシスはそんな一面も持ち合わせていた。
大切なものを脅かす敵には、どんな手段でも使う。
悪魔と呼ばれようが、かまわない。
「セバスチャン。軍を動かすぞ」
主の言葉に、セバスチャンは驚いた顔も見せずにうなずいた。
「久しぶりでございますね。して、どちらへ」
「南方だ」
アレクシスは機嫌が悪かった。
「悪魔公爵は結婚してから丸くなった」ともっぱらの評判だったのに――周囲を威圧するような鋭いまなざしが復活している。
フォンティーヌ伯爵の告発があって以来、エリアナがやつれてしまったのが原因だった。
最近のエリアナは食欲がない。顔色も悪く、ふさぎ込んで、物思いにふけっていることが多い。
けれども、アレクシスに接するときは、無理をして笑ってみせる。
夫に心配をかけたくない、という彼女の気持ちが伝わってくる。そんなところが、いじらしく、愛おしい。
エリアナを苦しめる奴は許さない。なんとしてでも叩きつぶす。
アレクシスは怒りと戦意に燃え立っていたのだ。
「王宮で、フォンティーヌ伯爵の提出した証拠品を確認してきました。衛兵の立ち合いの下ですが」
と、セバスチャンが言った。
「帳簿と木箱に刻まれていたヴァルモント家の紋章や封蝋はすべて、偽造ですね。よくできていますが、間違いありません。見る者が見れば、本物との違いがわかるはずです」
「契約書の用紙はどうだ? 我が家の紋章が、透かしに入っていた――」
「あれは、どうやら本物です。確認しましたところ、半年ほど前、本家の屋敷に泥棒が入ったんだそうです。金目の物を何も盗まれなかったので、アレクシス様には報告をしなかったようなのですが……そのときに、ヴァルモント家の専用の用紙を盗んだのでしょうね。屋敷の者も、まさかそんな物が盗まれるとは思わず、確認を怠ったようです」
アレクシスはおざなりにうなずいた。
ヴァルモント領の屋敷の使用人たちを責める気にはなれなかった。羊皮紙が数枚盗まれたぐらいでは、気づかないのが当たり前だ。泥棒を報告しなかった彼らに落ち度はない。
「専門家に鑑定させて、鑑定状を陛下に提出しましょうか。帳簿と木箱の紋章は偽物である、と」
「いや……おそらく、フォンティーヌ側も、『紋章は本物である』という鑑定状を提出してくるだろう。専門家の鑑定といっても、主観的なものだからな。絶対ではない。水掛け論に終わるだけだ」
アレクシスは目を光らせた。
「契約書と帳簿の内容は、よく見たか?」
「はい。一ページ残らず」
「私も一度だけ見てきたが……契約書の細かい規定、帳簿の数字の動き……すべてが、完全に辻褄が合っている。帳簿に書かれた送料や手数料などはすべて相場通りだし……私を陥れるために一からこしらえた偽物だとは考えにくい」
「つまり……あれは、本物の不正取引の証拠だということですか? 名義をヴァルモント家に書き換えただけの?」
「おそらく、な。ロベール・フォンティーヌは禁制品を国外に売りさばいて莫大な富を築いてきた、ということだろう。彼の代になってから、フォンティーヌ家が急に豊かになったのも、それが理由か……」
アレクシスの顔が、完全に「恐ろしい悪魔公爵」のものに戻っていた。
領民に対して思いやりがある。弱い者に対して優しい。心の底では愛を欲している。それも、確かに、彼の一面だ。
しかし同時に――敵に対しては冷酷、非情、無慈悲。アレクシスはそんな一面も持ち合わせていた。
大切なものを脅かす敵には、どんな手段でも使う。
悪魔と呼ばれようが、かまわない。
「セバスチャン。軍を動かすぞ」
主の言葉に、セバスチャンは驚いた顔も見せずにうなずいた。
「久しぶりでございますね。して、どちらへ」
「南方だ」
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