【完結】冷遇され続けた私、悪魔公爵と結婚して社交界の花形になりました~妹と継母の陰謀は全てお見通しです~

深山きらら

文字の大きさ
35 / 46
第六章 陰謀

審問の日

しおりを挟む
 約二月後。審問会の日が来た。
 王宮の大広間には、多くの貴族が集まっていた。
 ヴァルモント家とフォンティーヌ家の対立は、社交界の大きな関心事となっていたのだ。

 エリアナとアレクシスと執事セバスチャン。そして、ロベール、マルグリット、リリアーナのフォンティーヌ一家が、王の前に顔を揃えた。

 エリアナは、アレクシスが何をしようとしているのかわからず、不安に胸を高鳴らせていた。
 自分としては、ただ夫の無実を信じるしかない。真実が明らかになると信じるのだ。

「では、ヴァルモント公爵、弁明を聞こう」

 王が言った。
 アレクシスは、一歩前に出た。

「陛下、私は証拠を提出いたします」

 アレクシスは、専門家による鑑定状を提出した。不正取引の証拠となる帳簿や木箱に刻まれていたヴァルモント家の紋章は、偽造である、という鑑定状だ。

 案の定、ロベールは、「紋章は本物である」という別の専門家の鑑定状を提出してきた。

 アレクシスの予想通りの展開だった。水掛け論だ。何一つ、前へは進まない。


 停滞した雰囲気を打ち払うように、アレクシスは宣言した。

「本日は証人を呼んでおります。ようやく間に合ったようですので……これから証言させたいと思います。ご紹介しましょう。南方貿易ギルド代表のマルコ・エステバンです」

 ヴァルモント家の兵士に左右を囲まれて、大広間に入ってきたのは――でっぷりと太った初老の男だ。その顔には、人を支配するのに慣れた者の傲慢さが貼りついている。数えきれないほどの宝石を縫い取った、きらきら輝く豪華なローブをまとっている。
 しかし、右足に分厚く包帯を巻いており、松葉杖をついて歩いている。ひどく歩きにくそうだ。

 
 大広間を埋め尽くした貴族たちが、ざわめいた。

 ほとんどの貴族にとって、「マルコ・エステバン」という名前は何の意味も持たない。
 しかし、南方に縁のある貴族や、手広く商売をやっている貴族などは、「エステバンだって!? まさか」と顔色を変えていた。

 そして、ロベール・フォンティーヌは、真っ青になって震え始めた。


 エステバンは南方貿易を取りしきる、大物中の大物だ。
 その財と権力は、貴族にひけをとらない。国の南部に、エステバンが支配する独立国家があるみたいなものだ。
 金にあかせて腕利きの傭兵を雇い、強大な軍事力も備えている。

 本来なら――王の前に引きずり出されるような人間ではないのだ。決して。


「この『南海諸島航路における特別物資供給契約書』に署名したのは、おまえだな?」

 アレクシスが尋ねる。
 エステバンはうなずいた。アレクシスを見る彼の目には、怯えの色がある。

「私は、執事に、こんな契約書に署名させた覚えはないのだが?」
と、アレクシス。

「この契約書は偽物です。二、三か月ほど前、フォンティーヌ伯爵が訪ねてきて、『ヴァルモント公爵を陥れたいから、偽の証拠を作るのに協力してくれ』と言うので……金をもらって、これに署名しました」
と、エステバン。

 室内に激しいどよめきが湧き起こった。

 エリアナはあっけにとられていた。
 とっさに、継母と妹に目をやる。
 リリアーナとマルグリットは抱き合って震えていた。たぶん、二人は、何かを知っているのだ。

 アレクシスはさらに質問を重ねた。

「おまえはなぜ、フォンティーヌ伯爵に協力した? 理由は金だけか?」

「フォンティーヌ様は長年のお得意様ですからね。多少の便宜も図らなくちゃなりません。……この契約書に書かれている『特別物資の供給』は、本当は、うちとフォンティーヌ様との取引なんでさぁ。フォンティーヌ様は、特級魔導触媒など、この国では禁制扱いされている商品を、うちに卸してくださっています。もう二十年近くになりますかね」

 やけを起こしたかのように、エステバンはべらべらと喋った。

 ロベールは動揺のあまり、何も言えないでいる。
 アレクシスは執事のセバスチャンに合図をし、書類を王の前に持っていかせた。

「フォンティーヌ伯爵とエステバンとの取引関係を示す物証もあります。本物の供給契約書に、エステバン側の帳簿。それから……この二十年間に伯爵がエステバンに送った書状です。すべて伯爵の筆跡であり、署名もあります。エステバンは、いざというとき脅しに使えるよう、こういったものをすべて保管していたのです」

 証拠品を眺める王の顔が、見る見る険しくなっていった。

 しかし、アレクシスの追及は、まだ終わらなかった。

「それだけではありません。フォンティーヌ伯爵は、こんなものまでエステバンに卸していたのです」

 大広間の扉が開いた。ヴァルモント家の従者たちが、重そうな木箱を運び込んできた。
 木箱に刻まれているのは、フォンティーヌ家の紋章だ。

 王の前で、箱の蓋が外された。
 中にびっしり詰まっているのは、不吉な赤い光を放つ鉱石だ。

「これはっ……アポカリサイト」
「さすがは陛下。一目で見分けられるとは」
「わからぬはずがあろうか。これぞ『最悪の禁制品』。古代魔導兵器を動かすことのできる、超・特殊鉱石……!」

 室内に、悲鳴に近いどよめきが起こった。
 王は激しい怒りの表情でロベールを睨みつけた。

「こんな危険な物まで他国に売っていたのか!? 戦争の火種になるぞ!? 汝は、我が国を滅ぼすつもりか!?」

「ち……ちが、ちが、違いますっ! わたくしはそんなっ……!」

 ロベールは目に見えてがたがたと震えていた。

「信じてください、陛下! 私はアポカリサイトのことなど知りません!」

 ロベールは取り乱し、腹の底から絶叫した。必死だった。
 ――というのは、彼は、アポカリサイトのことを何も知らなかったからだ。

「確かに私は、禁制品の取引に携わっておりました。このエステバンを通して禁制品を国外に売り、金儲けをしておりました。ですがっ、断じてっ、アポカリサイトを売ったことはございません! こんな危険な物! 不正な金儲けは、平和あってのものです。平和でなければ、贅沢も楽しめないのですから。戦いの火種になるようなものを売るなんて、そんな、そんな愚かなことをするはずがございません!」

「だが、証拠がある。この木箱に刻まれた紋章は、フォンティーヌ家のものだ。それに、貴殿とエステバンとの、署名入りの売買契約書もここに……」

 アレクシスの言葉をさえぎって、ロベールはわめき散らした。

「証拠が何だ! 紋章が何だ! そんなもの、いくらでも偽造できる! 署名や契約書を偽造するなんて簡単なことだ! そんなもので、この私を……!」

 ロベールは、ふと口をつぐんだ。我に返ったのだ。

 彼の叫んだ言葉の意味が、室内の人々の脳に染みわたるまで、少し時間がかかった。
 室内のどよめきの質が、変わり始めた。

「語るに落ちる、とは、このことですな」

とアレクシスは静かに言った。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

婚約者に値踏みされ続けた文官、堪忍袋の緒が切れたのでお別れしました。私は、私を尊重してくれる人を大切にします!

ささい
恋愛
王城で文官として働くリディア・フィアモントは、冷たい婚約者に評価されず疲弊していた。三度目の「婚約解消してもいい」の言葉に、ついに決断する。自由を得た彼女は、日々の書類仕事に誇りを取り戻し、誰かに頼られることの喜びを実感する。王城の仕事を支えつつ、自分らしい生活と自立を歩み始める物語。 ざまあは後悔する系( ^^) _旦~~ 小説家になろうにも投稿しております。

【完結】妹に存在を奪われた令嬢は知らない 〜彼女が刺繍に託した「たすけて」に、彼が気付いてくれていたことを〜

桜野なつみ
恋愛
存在を消された伯爵家の長女・ビオラ。声を失った彼女が、唯一想いを託せたのは針と糸だった。 白いビオラの刺繍に縫い込まれた「たすけて」の影文字。 それを見つけたのは、彼女の母の刺繍に人生を変えられた青年だった──。 言葉を失った少女と、針の声を聴く男が紡ぐ、静かな愛の物語。

これって私の断罪じゃなくて公開プロポーズですか!?

桃瀬ももな
恋愛
「カタリーナ・フォン・シュバルツ! 貴様との婚約を破棄し、国外追放に処す!」 卒業パーティーの最中、第一王子アルフォンスから非情な宣告を突きつけられた公爵令嬢カタリーナ。 生まれつきの鋭い目つきと、緊張すると顔が強張る不器用さゆえに「悪役令嬢」として孤立していた彼女は、ついに訪れた「お決まりの断罪劇」に絶望……するかと思いきや。 (……あれ? 殿下、いま小さく「よっしゃあ!」ってガッツポーズしませんでした!?)

幼馴染みの婚約者が「学生時代は愛する恋人と過ごさせてくれ」と言ってきたので、秒で婚約解消を宣言した令嬢の前世が、社畜のおっさんだった件。

灯乃
ファンタジー
子爵家の総領娘である令嬢の前に、巨乳美少女と腕を組んだ婚約者がやってきた。 曰く、「学生時代くらいは、心から愛する恋人と自由に過ごしたい。それくらい、黙って許容しろ」と。 婚約者を甘やかし過ぎていたことに気付いた彼女は、その場で婚約解消を宣言する。 前半はたぶん普通の令嬢もの、後半はおっさんコメディーです。

婚約者を譲れと姉に「お願い」されました。代わりに軍人侯爵との結婚を押し付けられましたが、私は形だけの妻のようです。

ナナカ
恋愛
メリオス伯爵の次女エレナは、幼い頃から姉アルチーナに振り回されてきた。そんな姉に婚約者ロエルを譲れと言われる。さらに自分の代わりに結婚しろとまで言い出した。結婚相手は貴族たちが成り上がりと侮蔑する軍人侯爵。伯爵家との縁組が目的だからか、エレナに入れ替わった結婚も承諾する。 こうして、ほとんど顔を合わせることない別居生活が始まった。冷め切った関係になるかと思われたが、年の離れた侯爵はエレナに丁寧に接してくれるし、意外に優しい人。エレナも数少ない会話の機会が楽しみになっていく。 (本編、番外編、完結しました)

侯爵令嬢はざまぁ展開より溺愛ルートを選びたい

花月
恋愛
内気なソフィア=ドレスデン侯爵令嬢の婚約者は美貌のナイジェル=エヴァンス公爵閣下だったが、王宮の中庭で美しいセリーヌ嬢を抱きしめているところに遭遇してしまう。 ナイジェル様から婚約破棄を告げられた瞬間、大聖堂の鐘の音と共に身体に異変が――。 あら?目の前にいるのはわたし…?「お前は誰だ!?」叫んだわたしの姿の中身は一体…? ま、まさかのナイジェル様?何故こんな展開になってしまったの?? そして婚約破棄はどうなるの??? ほんの数時間の魔法――一夜だけの入れ替わりに色々詰め込んだ、ちぐはぐラブコメ。

【完結】悪女を押し付けられていた第一王女は、愛する公爵に処刑されて幸せを得る

甘海そら
恋愛
第一王女、メアリ・ブラントは悪女だった。 家族から、あらゆる悪事の責任を押し付けられればそうなった。 国王の政務の怠慢。 母と妹の浪費。 兄の女癖の悪さによる乱行。 王家の汚点の全てを押し付けられてきた。 そんな彼女はついに望むのだった。 「どうか死なせて」 応える者は確かにあった。 「メアリ・ブラント。貴様の罪、もはや死をもって以外あがなうことは出来んぞ」 幼年からの想い人であるキシオン・シュラネス。 公爵にして法務卿である彼に死を請われればメアリは笑みを浮かべる。 そして、3日後。 彼女は処刑された。

妃殿下、私の婚約者から手を引いてくれませんか?

ハートリオ
恋愛
茶髪茶目のポッチャリ令嬢ロサ。 イケメン達を翻弄するも無自覚。 ロサには人に言えない、言いたくない秘密があってイケメンどころではないのだ。 そんなロサ、長年の婚約者が婚約を解消しようとしているらしいと聞かされ… 剣、馬車、ドレスのヨーロッパ風異世界です。 御脱字、申し訳ございません。 1話が長めだと思われるかもしれませんが会話が多いので読みやすいのではないかと思います。 楽しんでいただけたら嬉しいです。 よろしくお願いいたします。

処理中です...