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第八章 薔薇は夜明けに
思い出の刺繍
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二人が庭園を歩いていると、ローズが駆け寄ってきた。
「お母様 !」
「ローズ、こちらはリリアーナ叔母様よ」
「こんにちは !」
ローズは、人懐っこく笑った。
リリアーナは、姪を見て、目を潤ませた。
「なんて、可愛らしい……」
「抱いてみますか?」
エリアナが尋ねると、リリアーナはためらいながらも頷いた。
ローズを抱き上げると、リリアーナの涙が再びあふれた。
「温かい……」
「愛されて育っている子供は、こうなるのよ」
エリアナは、優しく言った。
「あなたも、いつかそういう子供を持てるわ」
リリアーナは、何も言えなかった。
ただ、涙を流すだけだった。
その日、リリアーナはヴァルモント家で一夜を過ごした。
夕食の席で、アレクシスも彼女と穏やかに話した。
「リリアーナ。君が変わったことは、分かる」
「公爵、本当に申し訳ございませんでした……」
「過去のことだ。これからを、どう生きるかが大切だ」
アレクシスの言葉に、リリアーナは深く頭を垂れた。
翌朝、リリアーナを乗せた馬車が去っていくのを、エリアナは見送った。胸に温かいものが残っている。
「これで、本当にすべてが終わったな」
アレクシスが、隣に立った。
「はい。すべての因縁が、解けました」
エリアナは、アレクシスの手を握った。
「これから先は、ただ幸せだけがあります」
二人は、城内へと戻った。
子供たちの笑い声が聞こえてくる。それは、何よりも美しい音楽だった。
数年が過ぎた。
ローズは五歳になり、アランは三歳になった。
二人とも、元気に育っていた。
エリアナは、領地の慈善活動をさらに拡大していた。
学校は三つに増え、孤児院も立派な施設になった。
「ヴァルモント公爵夫人は、この地域の希望の光だ」
人々は、そう言った。
「あの方のおかげで、多くの子供たちが教育を受けられる」
エリアナの評判は、国中に広まっていた。
王からも、感謝状が贈られた。
「ヴァルモント公爵夫人、あなたの慈善活動は、国の模範となっている」
でも、エリアナにとって最も大切なのは、家族だった。
毎晩、子供たちに本を読み聞かせる。
アレクシスと共に、子供たちの成長を見守る。
それが、何よりも幸せだった。
ある日、エリアナは城の屋根裏部屋を整理していた。
古い箱を開けると、そこには——昔、フォンティーヌ家で作った刺繍があった。
薔薇の刺繍。
母と一緒に作った、思い出の品。
エリアナは、それをそっと手に取った。
あの頃の自分は、こんなにも小さく、弱々しかった。
でも、今は違う。
強く、美しく、自信に満ちている。
「見つけた?」
アレクシスが、階段を上ってきた。
「ええ。昔の思い出の品を、ね」
エリアナは、刺繍を夫に見せた。
「これは……」
「母と作った薔薇の刺繍です。わたくしの、数少ない幸せな思い出」
アレクシスは、刺繍を見つめた。
「美しい。君の技術は、本物だったんだな」
「あの頃は、誰にも見せる機会がありませんでした。でも今は……」
エリアナは、微笑んだ。
「ローズに、教えてあげられます」
「そうだな。母から娘へ、技術と愛情が受け継がれていく」
二人は、屋根裏部屋の窓から外を見た。
庭園では、ローズとアランが遊んでいる。マルタが優しく見守っている。
「わたくしたち、本当に幸せですね」
エリアナが、囁いた。
「ああ。これ以上の幸せは、ないだろう」
アレクシスは、エリアナを抱き寄せた。
「君と出会えて、私は人生で初めて、本当の幸せを知った」
「わたくしもです」
エリアナは、アレクシスの胸に顔を埋めた。
「あなたがいなければ、わたくしは今でも、暗闇の中にいたでしょう」
「いや、君は自分の力で光を見つけただろう。私は、ただ手を差し伸べただけだ」
「それでも、あなたがいてくれたから」
二人は、口づけを交わした。
長く、深く、愛情を込めて。
何年経っても、二人の愛は変わらなかった。
むしろ、深まっていくばかりだった。
「お母様 !」
「ローズ、こちらはリリアーナ叔母様よ」
「こんにちは !」
ローズは、人懐っこく笑った。
リリアーナは、姪を見て、目を潤ませた。
「なんて、可愛らしい……」
「抱いてみますか?」
エリアナが尋ねると、リリアーナはためらいながらも頷いた。
ローズを抱き上げると、リリアーナの涙が再びあふれた。
「温かい……」
「愛されて育っている子供は、こうなるのよ」
エリアナは、優しく言った。
「あなたも、いつかそういう子供を持てるわ」
リリアーナは、何も言えなかった。
ただ、涙を流すだけだった。
その日、リリアーナはヴァルモント家で一夜を過ごした。
夕食の席で、アレクシスも彼女と穏やかに話した。
「リリアーナ。君が変わったことは、分かる」
「公爵、本当に申し訳ございませんでした……」
「過去のことだ。これからを、どう生きるかが大切だ」
アレクシスの言葉に、リリアーナは深く頭を垂れた。
翌朝、リリアーナを乗せた馬車が去っていくのを、エリアナは見送った。胸に温かいものが残っている。
「これで、本当にすべてが終わったな」
アレクシスが、隣に立った。
「はい。すべての因縁が、解けました」
エリアナは、アレクシスの手を握った。
「これから先は、ただ幸せだけがあります」
二人は、城内へと戻った。
子供たちの笑い声が聞こえてくる。それは、何よりも美しい音楽だった。
数年が過ぎた。
ローズは五歳になり、アランは三歳になった。
二人とも、元気に育っていた。
エリアナは、領地の慈善活動をさらに拡大していた。
学校は三つに増え、孤児院も立派な施設になった。
「ヴァルモント公爵夫人は、この地域の希望の光だ」
人々は、そう言った。
「あの方のおかげで、多くの子供たちが教育を受けられる」
エリアナの評判は、国中に広まっていた。
王からも、感謝状が贈られた。
「ヴァルモント公爵夫人、あなたの慈善活動は、国の模範となっている」
でも、エリアナにとって最も大切なのは、家族だった。
毎晩、子供たちに本を読み聞かせる。
アレクシスと共に、子供たちの成長を見守る。
それが、何よりも幸せだった。
ある日、エリアナは城の屋根裏部屋を整理していた。
古い箱を開けると、そこには——昔、フォンティーヌ家で作った刺繍があった。
薔薇の刺繍。
母と一緒に作った、思い出の品。
エリアナは、それをそっと手に取った。
あの頃の自分は、こんなにも小さく、弱々しかった。
でも、今は違う。
強く、美しく、自信に満ちている。
「見つけた?」
アレクシスが、階段を上ってきた。
「ええ。昔の思い出の品を、ね」
エリアナは、刺繍を夫に見せた。
「これは……」
「母と作った薔薇の刺繍です。わたくしの、数少ない幸せな思い出」
アレクシスは、刺繍を見つめた。
「美しい。君の技術は、本物だったんだな」
「あの頃は、誰にも見せる機会がありませんでした。でも今は……」
エリアナは、微笑んだ。
「ローズに、教えてあげられます」
「そうだな。母から娘へ、技術と愛情が受け継がれていく」
二人は、屋根裏部屋の窓から外を見た。
庭園では、ローズとアランが遊んでいる。マルタが優しく見守っている。
「わたくしたち、本当に幸せですね」
エリアナが、囁いた。
「ああ。これ以上の幸せは、ないだろう」
アレクシスは、エリアナを抱き寄せた。
「君と出会えて、私は人生で初めて、本当の幸せを知った」
「わたくしもです」
エリアナは、アレクシスの胸に顔を埋めた。
「あなたがいなければ、わたくしは今でも、暗闇の中にいたでしょう」
「いや、君は自分の力で光を見つけただろう。私は、ただ手を差し伸べただけだ」
「それでも、あなたがいてくれたから」
二人は、口づけを交わした。
長く、深く、愛情を込めて。
何年経っても、二人の愛は変わらなかった。
むしろ、深まっていくばかりだった。
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