生贄にされた私が竜王陛下に溺愛されて、陥れた妹たちにざまぁしたら、幸せすぎて困ってます

深山きらら

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第二章 理解への扉

新たな生活の始まり

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 朝の光が、窓から差し込んできたとき、アリアーナは自分がどこにいるのかわからなかった。
 豪華な天蓋。異様に高い位置にある、見慣れない天井。そして、部屋中に漂う古い羊皮紙の香り。

 ああ、そうだった。
 自分は今、竜の城にいる。

 生贄にされて人生を終えるはずが、すばらしい書庫のある城へ連れてこられて、自由に本を読める身分になった、なんて。
 あまりにも都合の良い展開で。
 死に際に見る幻なのではないかとも思ったが。

 どうやら――これは現実らしい。
 心地よいシーツの感触も、古書の香りも、すべて本物だ。

 アリアーナはベッドから起き上がり、窓へと向かった。カーテンを開けると、息を呑むような光景が広がっていた。

 城は、雲海の上に浮かんでいた。

 空は透き通った青。鳥が一羽、城の周囲を旋回している。
 いや、よく見るとあれは鳥ではない。小さな竜だった。翼を広げても馬ほどの大きさしかない。竜王ザイフリートに比べれば、子供のようなものだ。


 コンコンと、扉をノックする音がした。

 少し驚いて、アリアーナは振り返った。
 昨夜この部屋に入るのに使った、竜のサイズの巨大な扉のちょうど反対側の壁に、人間サイズの木製の扉があった。ノックの音はそちらから聞こえたようだ。

「はい」

 アリアーナが答えると、扉が開いた。

 そこに立っていたのは――竜ではなく、人間だった。
 年老いた女性。灰色の髪を後ろで束ね、質素だが清潔な服を着ている。優しい目をしていた。

「おはようございます、お嬢様。私はクロエと申します。竜王様に仕えて、三十年になります」
「人間……なのですか?」

 アリアーナは驚きを隠せなかった。

「ええ。驚かれるのも無理はありません」

 クロエは微笑んだ。

「私もかつて、生贄として捧げられた者です」
「え……」
「竜王様は、我々を殺したりなさいません。むしろ、この城で保護してくださる。ここには、私のように竜王様に仕えることを選んだ者が何人かおります」

 クロエは銀の盆を持って入ってきた。その上には、朝食が乗っている。焼きたてのパン、チーズ、果物、そして温かいスープ。

「お腹が空いているでしょう。どうぞ、召し上がってください」

 アリアーナは、勧められるがままにテーブルに着いた。確かに空腹だった。昨夜は何も食べていない。

「竜王様は、どちらに?」
「城の最上階におられます。竜王様は、日が昇ると必ずそこで瞑想なさるのです」
「瞑想……」
「ええ。竜とは、魔力と共に生きる存在。毎日、自然の魔力を取り込まねばならないのです」

 アリアーナは、スープを一口飲んだ。驚くほど美味しかった。野菜の甘みが口の中に広がる。

「クロエさん、私は……これから、どうすればいいのでしょう」
「お好きになさってください」

 クロエは優しく言った。

「竜王様は、生贄に自由を与えてくださいます。城の中を自由に歩き、好きな本を読み、好きなことをして過ごせばよいのです。ただ一つだけ、竜王様の許可なく城の外へ出てはいけません」

「わかりました」

 朝食を終えると、アリアーナは部屋の書架へと向かった。
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