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第二章 理解への扉
自由になれる
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アリアーナは胸をときめかせながら書架を見て回った。
無数の本。本当に、さまざまな種類の本があった。竜が読みそうな大きさの本から、人間が読むのにちょうど良い大きさの本、手のひらサイズの小人なら読めそうな本、などなど。それらが、サイズ別に棚を分けて並べられている。
背表紙の素材も、アリアーナが知っている「紙」や「革」だけではない。いったい何なのか想像もできない素材でできている本が多い。
アリアーナが、ちょっとがっかりしたことがあった。
ほとんどの本が、アリアーナの知らない文字で書かれていることだ。
背表紙を見ても、何の本なのかわからない。
アリアーナは自分の国の言葉と、古代語を少し読める。
けれども、ここにある本に書かれている文字は、まったく見たことがないものだった。
それはそうだろう。竜王の蔵書なのだ。
人間界とは異なる世界から集められてきた本ばかりだ。
きっと「妖精の本」なども含まれているのではないか。
しかし、アリアーナはすぐに上機嫌を取り戻した。
アリアーナが「読めそうな」本だけでも、かなりの数があることがわかったからだ。
たぶん、数年は、読む本に困らないだろう。
ふと心惹かれて、ひときわ見事な装丁の本を手に取る。
表紙を、銀色の竜が飛び回っていた。
題名の文字は読めない。いや――そうだろうか。
眺めていると、文字が光り、意味が頭の中に流れ込んでくる。
「竜族の歴史と文化」という題名だとわかった。
魔法の本なのだ。
アリアーナは窓辺の椅子に座り、読み始めた。知らない文字で書かれた本が、すらすら理解できるのは、不思議な体験だった。
竜族は、世界が始まった時からこの地に存在した。彼らは魔法そのものの化身であり、自然の一部である。竜は孤独を好み、めったに群れを作らない。ただ一度だけ、生涯の伴侶を選ぶことがある――。
「面白いか」
突然の声に、アリアーナは本を落としそうになった。
振り向くと、窓の外に巨大な黒竜がいた。竜王ザイフリート。その黄金の瞳が、アリアーナを見つめている。
「は、はい。とても」
アリアーナは本を抱きしめた。
「その本は、私の一族について書かれたものだ。人間が書いたものではない。我々竜が、自らの歴史を記したものだ」
「そうなのですか……」
「お前は、なぜそこまで本を愛する」
竜王の問いに、アリアーナは少し考えた。
「本は……世界への窓だからです」
「窓?」
「私は、ずっと狭い世界で生きてきました。屋敷の中、自分の部屋。外の世界を知ることは許されなかった。でも、本を読めば、どこへでも行けます。過去にも、未来にも。遠い国にも、想像上の世界にも」
アリアーナは、窓の外の竜王を見つめた。
「本は、私を自由にしてくれたのです」
竜王はしばらく黙っていた。その巨大な体が、朝日を浴びて黒く輝いている。
「自由、か」
その声には、何か複雑な感情が込められているようだった。
「お前にとって、自由とは何だ」
「え?」
「お前は今、自由なのか」
アリアーナは、その質問の意味を考えた。
「わかりません」
それが、正直な答えだった。
「でも……以前よりは、自由な気がします」
「なぜだ。お前は私の所有物だ。この城から出ることも許されない」
「それでも」
アリアーナは微笑んだ。
「ここには、誰も私を否定する人がいません。変わり者だと笑う人も、問題児だと決めつける人も。ただ、私のままでいられる」
竜王の目が、わずかに細められた。
無数の本。本当に、さまざまな種類の本があった。竜が読みそうな大きさの本から、人間が読むのにちょうど良い大きさの本、手のひらサイズの小人なら読めそうな本、などなど。それらが、サイズ別に棚を分けて並べられている。
背表紙の素材も、アリアーナが知っている「紙」や「革」だけではない。いったい何なのか想像もできない素材でできている本が多い。
アリアーナが、ちょっとがっかりしたことがあった。
ほとんどの本が、アリアーナの知らない文字で書かれていることだ。
背表紙を見ても、何の本なのかわからない。
アリアーナは自分の国の言葉と、古代語を少し読める。
けれども、ここにある本に書かれている文字は、まったく見たことがないものだった。
それはそうだろう。竜王の蔵書なのだ。
人間界とは異なる世界から集められてきた本ばかりだ。
きっと「妖精の本」なども含まれているのではないか。
しかし、アリアーナはすぐに上機嫌を取り戻した。
アリアーナが「読めそうな」本だけでも、かなりの数があることがわかったからだ。
たぶん、数年は、読む本に困らないだろう。
ふと心惹かれて、ひときわ見事な装丁の本を手に取る。
表紙を、銀色の竜が飛び回っていた。
題名の文字は読めない。いや――そうだろうか。
眺めていると、文字が光り、意味が頭の中に流れ込んでくる。
「竜族の歴史と文化」という題名だとわかった。
魔法の本なのだ。
アリアーナは窓辺の椅子に座り、読み始めた。知らない文字で書かれた本が、すらすら理解できるのは、不思議な体験だった。
竜族は、世界が始まった時からこの地に存在した。彼らは魔法そのものの化身であり、自然の一部である。竜は孤独を好み、めったに群れを作らない。ただ一度だけ、生涯の伴侶を選ぶことがある――。
「面白いか」
突然の声に、アリアーナは本を落としそうになった。
振り向くと、窓の外に巨大な黒竜がいた。竜王ザイフリート。その黄金の瞳が、アリアーナを見つめている。
「は、はい。とても」
アリアーナは本を抱きしめた。
「その本は、私の一族について書かれたものだ。人間が書いたものではない。我々竜が、自らの歴史を記したものだ」
「そうなのですか……」
「お前は、なぜそこまで本を愛する」
竜王の問いに、アリアーナは少し考えた。
「本は……世界への窓だからです」
「窓?」
「私は、ずっと狭い世界で生きてきました。屋敷の中、自分の部屋。外の世界を知ることは許されなかった。でも、本を読めば、どこへでも行けます。過去にも、未来にも。遠い国にも、想像上の世界にも」
アリアーナは、窓の外の竜王を見つめた。
「本は、私を自由にしてくれたのです」
竜王はしばらく黙っていた。その巨大な体が、朝日を浴びて黒く輝いている。
「自由、か」
その声には、何か複雑な感情が込められているようだった。
「お前にとって、自由とは何だ」
「え?」
「お前は今、自由なのか」
アリアーナは、その質問の意味を考えた。
「わかりません」
それが、正直な答えだった。
「でも……以前よりは、自由な気がします」
「なぜだ。お前は私の所有物だ。この城から出ることも許されない」
「それでも」
アリアーナは微笑んだ。
「ここには、誰も私を否定する人がいません。変わり者だと笑う人も、問題児だと決めつける人も。ただ、私のままでいられる」
竜王の目が、わずかに細められた。
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