生贄にされた私が竜王陛下に溺愛されて、陥れた妹たちにざまぁしたら、幸せすぎて困ってます

深山きらら

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第二章 理解への扉

読書家同士

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「お前は……不思議な人間だ」
「よく言われます」
「私の城を、案内してやろう」
「え?」
「退屈だろう。部屋に閉じこもっているだけでは」

 そう言うと、竜王は窓から離れた。しばらくして、扉の外から声が聞こえた。

「入るぞ」

 扉が開くと、そこには――人間の男性が立っていた。

 アリアーナは息を呑んだ。

 年の頃は二十代後半か三十代前半に見える。豊かな黒髪、鋭い眼光、通った鼻筋、引き締まった顎のライン。黒と金の衣装に身を包んだその姿は、まるで闇の王子のようだった。そして何よりも、その瞳。竜王と同じ、黄金の瞳。

「まさか、あなたは……!」
「驚いたか」

 その声は、確かに竜王のものだった。

「竜は、人の姿をとることができる。たまにしかやらないが」

 竜王は――人間の姿で――部屋に入ってきた。その歩き方はひどく自然で、まるで長年人間として生きてきたかのようだった。

「なぜ……」
「お前を案内するのに、竜の姿では不便だ。東棟の廊下を通れない」

 アリアーナは立ち上がった。人間の姿になっても、竜王の威圧感は変わらない。いや、むしろ、この距離で対峙すると、その存在感がより強く感じられた。

「さあ、来い」

 竜王は廊下へと歩き出した。アリアーナはあわててついていく。
 城の内部は、迷路のようだった。長い廊下、無数の部屋、螺旋階段。全てが人間の城の何倍もの規模で作られている。

「ここは図書室だ」

 竜王が、大きな扉を開けた。
 その光景に、アリアーナは言葉を失った。

 天井まで届く書架が、部屋中を埋め尽くしている。いや、部屋というより、広間と呼ぶべき規模だ。何千冊、いや何万冊の本が並んでいる。

 アリアーナの部屋にある本だけでも大変な数だったのに。この図書室の蔵書は、桁外れだ。

「これは……」
「千年の時を経て、私が集めた知識だ」

 竜王は、誇らしげに言った。

「人間の書物だけでなく、竜族の記録、エルフの詩集、ドワーフの技術書。あらゆる種族の知識がここにある」

 アリアーナは、震える足で図書室に入った。本の香りが充満している。それは、彼女にとって最も心地よい香りだった。

「好きなだけ読むがいい」

 竜王は、窓辺に腰掛けた。

「私も、ここで過ごすことが多い」
「あなたも……本を読むのですか?」
「当然だ」

 竜王は、一冊の本を手に取った。

「千年の時は長い。退屈を紛らわすには、知識を得るのが一番だ」

 アリアーナは竜王の隣に座った。もはや、恐怖はまったく感じなかった。この瞬間、竜王は恐ろしい怪物ではなく、ただの読書家に見えた。
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