【完結】婚約破棄された令嬢ですが、冷たい官僚様に溺愛されています

深山きらら

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月下の告白

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(『守る』……。それは、私を『対等に見ていない』ということ?)

 彼女はゆっくりと首を振る。

「カイル。私は、守られるだけの存在ではありません」
「そんなことは――」
「あるのよ。あなたはいつも、一人で背負おうとする」

 イザベラは一歩、彼に近づいた。
 瞳をまっすぐに見据え、言葉を紡ぐ。

「私はあなたの隣に立ちたい。
 “守られる”んじゃなく、“共に戦う”婚約者でいたいの」

 カイルは言葉を失い、ただ見つめ返した。
 その強い瞳に、心が揺さぶられる。

 沈黙。
 そして、彼は小さく笑った。

「……やっぱり、放っておけない女だな」
「それ、前にも言いましたね」
「ああ。あの時より、今の方がずっと困ってる」

 そう言って、カイルは歩み寄った。
 イザベラとの距離が、息一つ分。

「……俺は、君を利用するつもりなんてなかった。
 でも……今は、ただの契約以上に、
 君を――」

 言葉が喉で止まる。
 イザベラは、そっとその唇に指を置いた。

「言わないで。……今はまだ、聞けません」

 その瞳に宿る想いは、拒絶ではなく、戸惑いと優しさだった。

   ◇

 その夜更け。
 カイルが去ったあと、イザベラは一人、店のバルコニーに立っていた。
 月が、静かに街を照らしている。

(カイル……あなたが抱えている秘密、きっとそれは私に関わること)

 胸の奥で疼く感情。
 恐怖ではなく、決意だった。

(私はもう、逃げない。
 あなたの真実に、きっと辿り着いてみせる)

 そう心に誓った時、
 遠くの屋根の上で、何かが光った。

 闇の中、銀色の刃が一瞬だけ月光を反射する。

 ――誰かが、彼女を狙っていた。

   ◇

 翌朝。
 カイルの部屋に急報が届いた。

「報告です! ヘルヴィッツ商会の前で不審者が――」
「何だと!?」

 カイルは椅子を倒す勢いで立ち上がった。
 その顔には、もはや冷静さの欠片もない。

「……くそ。やっぱり動いたか、バルト!」

 外套を羽織り、剣を腰に下げる。
 その瞳は、初めて“官僚”ではなく“男”のものになっていた。

   ◇

 香水店の前。
 朝靄の中で、イザベラは静かに立っていた。
 不審な影はすでに消えた。
 けれど、地面にはナイフが一本落ちている。

 カイルが駆け寄る。
「イザベラ!」
「カイル……大丈夫です。怪我はありません」

 その言葉を聞いて、彼は思わず彼女を抱きしめた。

「……無事でよかった……!」

 その声は震えていた。
 イザベラは驚きながらも、彼の背に手を回した。

「心配、してくださったのですね」
「当たり前だ……! もし君に何かあったら、俺は……」

 カイルは言葉を詰まらせた。
 その震える声が、イザベラの心を強く打つ。

 静かな時間が流れる。
 風が二人の髪を揺らす。

 そして――
 カイルは、彼女の耳元で囁いた。

「……俺は、もう君を“契約”の相手だなんて思えない」

 イザベラの瞳が揺れた。
 頬が熱くなる。

「……それは、告白ですか?」
「たぶん、そうだ」

 わずかに笑う声。
 そして、月明かりのような優しさを帯びた眼差し。

 二人の距離が、もう一度、息の届くほどに近づく。
 だがその瞬間――
 遠くで、馬車の車輪が激しく鳴った。

「バルト侯爵の使いだ!」

 兵士の声が響き、二人は同時に振り向いた。
 陰謀は、もう静かには進まない。
 恋と戦いが、同時に動き始めたのだ。
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