10 / 15
月下の告白
しおりを挟む
(『守る』……。それは、私を『対等に見ていない』ということ?)
彼女はゆっくりと首を振る。
「カイル。私は、守られるだけの存在ではありません」
「そんなことは――」
「あるのよ。あなたはいつも、一人で背負おうとする」
イザベラは一歩、彼に近づいた。
瞳をまっすぐに見据え、言葉を紡ぐ。
「私はあなたの隣に立ちたい。
“守られる”んじゃなく、“共に戦う”婚約者でいたいの」
カイルは言葉を失い、ただ見つめ返した。
その強い瞳に、心が揺さぶられる。
沈黙。
そして、彼は小さく笑った。
「……やっぱり、放っておけない女だな」
「それ、前にも言いましたね」
「ああ。あの時より、今の方がずっと困ってる」
そう言って、カイルは歩み寄った。
イザベラとの距離が、息一つ分。
「……俺は、君を利用するつもりなんてなかった。
でも……今は、ただの契約以上に、
君を――」
言葉が喉で止まる。
イザベラは、そっとその唇に指を置いた。
「言わないで。……今はまだ、聞けません」
その瞳に宿る想いは、拒絶ではなく、戸惑いと優しさだった。
◇
その夜更け。
カイルが去ったあと、イザベラは一人、店のバルコニーに立っていた。
月が、静かに街を照らしている。
(カイル……あなたが抱えている秘密、きっとそれは私に関わること)
胸の奥で疼く感情。
恐怖ではなく、決意だった。
(私はもう、逃げない。
あなたの真実に、きっと辿り着いてみせる)
そう心に誓った時、
遠くの屋根の上で、何かが光った。
闇の中、銀色の刃が一瞬だけ月光を反射する。
――誰かが、彼女を狙っていた。
◇
翌朝。
カイルの部屋に急報が届いた。
「報告です! ヘルヴィッツ商会の前で不審者が――」
「何だと!?」
カイルは椅子を倒す勢いで立ち上がった。
その顔には、もはや冷静さの欠片もない。
「……くそ。やっぱり動いたか、バルト!」
外套を羽織り、剣を腰に下げる。
その瞳は、初めて“官僚”ではなく“男”のものになっていた。
◇
香水店の前。
朝靄の中で、イザベラは静かに立っていた。
不審な影はすでに消えた。
けれど、地面にはナイフが一本落ちている。
カイルが駆け寄る。
「イザベラ!」
「カイル……大丈夫です。怪我はありません」
その言葉を聞いて、彼は思わず彼女を抱きしめた。
「……無事でよかった……!」
その声は震えていた。
イザベラは驚きながらも、彼の背に手を回した。
「心配、してくださったのですね」
「当たり前だ……! もし君に何かあったら、俺は……」
カイルは言葉を詰まらせた。
その震える声が、イザベラの心を強く打つ。
静かな時間が流れる。
風が二人の髪を揺らす。
そして――
カイルは、彼女の耳元で囁いた。
「……俺は、もう君を“契約”の相手だなんて思えない」
イザベラの瞳が揺れた。
頬が熱くなる。
「……それは、告白ですか?」
「たぶん、そうだ」
わずかに笑う声。
そして、月明かりのような優しさを帯びた眼差し。
二人の距離が、もう一度、息の届くほどに近づく。
だがその瞬間――
遠くで、馬車の車輪が激しく鳴った。
「バルト侯爵の使いだ!」
兵士の声が響き、二人は同時に振り向いた。
陰謀は、もう静かには進まない。
恋と戦いが、同時に動き始めたのだ。
彼女はゆっくりと首を振る。
「カイル。私は、守られるだけの存在ではありません」
「そんなことは――」
「あるのよ。あなたはいつも、一人で背負おうとする」
イザベラは一歩、彼に近づいた。
瞳をまっすぐに見据え、言葉を紡ぐ。
「私はあなたの隣に立ちたい。
“守られる”んじゃなく、“共に戦う”婚約者でいたいの」
カイルは言葉を失い、ただ見つめ返した。
その強い瞳に、心が揺さぶられる。
沈黙。
そして、彼は小さく笑った。
「……やっぱり、放っておけない女だな」
「それ、前にも言いましたね」
「ああ。あの時より、今の方がずっと困ってる」
そう言って、カイルは歩み寄った。
イザベラとの距離が、息一つ分。
「……俺は、君を利用するつもりなんてなかった。
でも……今は、ただの契約以上に、
君を――」
言葉が喉で止まる。
イザベラは、そっとその唇に指を置いた。
「言わないで。……今はまだ、聞けません」
その瞳に宿る想いは、拒絶ではなく、戸惑いと優しさだった。
◇
その夜更け。
カイルが去ったあと、イザベラは一人、店のバルコニーに立っていた。
月が、静かに街を照らしている。
(カイル……あなたが抱えている秘密、きっとそれは私に関わること)
胸の奥で疼く感情。
恐怖ではなく、決意だった。
(私はもう、逃げない。
あなたの真実に、きっと辿り着いてみせる)
そう心に誓った時、
遠くの屋根の上で、何かが光った。
闇の中、銀色の刃が一瞬だけ月光を反射する。
――誰かが、彼女を狙っていた。
◇
翌朝。
カイルの部屋に急報が届いた。
「報告です! ヘルヴィッツ商会の前で不審者が――」
「何だと!?」
カイルは椅子を倒す勢いで立ち上がった。
その顔には、もはや冷静さの欠片もない。
「……くそ。やっぱり動いたか、バルト!」
外套を羽織り、剣を腰に下げる。
その瞳は、初めて“官僚”ではなく“男”のものになっていた。
◇
香水店の前。
朝靄の中で、イザベラは静かに立っていた。
不審な影はすでに消えた。
けれど、地面にはナイフが一本落ちている。
カイルが駆け寄る。
「イザベラ!」
「カイル……大丈夫です。怪我はありません」
その言葉を聞いて、彼は思わず彼女を抱きしめた。
「……無事でよかった……!」
その声は震えていた。
イザベラは驚きながらも、彼の背に手を回した。
「心配、してくださったのですね」
「当たり前だ……! もし君に何かあったら、俺は……」
カイルは言葉を詰まらせた。
その震える声が、イザベラの心を強く打つ。
静かな時間が流れる。
風が二人の髪を揺らす。
そして――
カイルは、彼女の耳元で囁いた。
「……俺は、もう君を“契約”の相手だなんて思えない」
イザベラの瞳が揺れた。
頬が熱くなる。
「……それは、告白ですか?」
「たぶん、そうだ」
わずかに笑う声。
そして、月明かりのような優しさを帯びた眼差し。
二人の距離が、もう一度、息の届くほどに近づく。
だがその瞬間――
遠くで、馬車の車輪が激しく鳴った。
「バルト侯爵の使いだ!」
兵士の声が響き、二人は同時に振り向いた。
陰謀は、もう静かには進まない。
恋と戦いが、同時に動き始めたのだ。
11
あなたにおすすめの小説
黒眼帯の氷結辺境伯は冷遇された令嬢を一生涯かけて愛したい
鳥花風星
恋愛
「これは情けでもなんでもなく、俺の本心だ。君を一生涯かけて守り愛したい」
五歳で両親を亡くし身寄りのなかったソフィアは父親の同僚であるエルガン子爵の家に引き取られるが、義父母と義姉に冷遇されずっと侍女のように扱われていた。
とある日、義父に頬を打たれながら「何も質問するな、行けばわかる」と言われ行かせられたシャルフ辺境伯の家。そこにはフードを深く被り黒い眼帯をした氷の瞳の力をもつ男がいた。
その片目で見たものを凍らせてしまう氷結辺境伯と、家族に冷遇され続けながらも純粋でひたむきな令嬢が心を通わす王道ラブファンタジー。
婚約破棄された令嬢は、“神の寵愛”で皇帝に溺愛される 〜私を笑った全員、ひざまずけ〜
夜桜
恋愛
「お前のような女と結婚するくらいなら、平民の娘を選ぶ!」
婚約者である第一王子・レオンに公衆の面前で婚約破棄を宣言された侯爵令嬢セレナ。
彼女は涙を見せず、静かに笑った。
──なぜなら、彼女の中には“神の声”が響いていたから。
「そなたに、我が祝福を授けよう」
神より授かった“聖なる加護”によって、セレナは瞬く間に癒しと浄化の力を得る。
だがその力を恐れた王国は、彼女を「魔女」と呼び追放した。
──そして半年後。
隣国の皇帝・ユリウスが病に倒れ、どんな祈りも届かぬ中、
ただ一人セレナの手だけが彼の命を繋ぎ止めた。
「……この命、お前に捧げよう」
「私を嘲った者たちが、どうなるか見ていなさい」
かつて彼女を追放した王国が、今や彼女に跪く。
──これは、“神に選ばれた令嬢”の華麗なるざまぁと、
“氷の皇帝”の甘すぎる寵愛の物語。
白い結婚を捨てた王妃は、もう二度と振り向かない ――愛さぬと言った王子が全てを失うまで』
鍛高譚
恋愛
「私は王妃を愛さない。彼女とは白い結婚を誓う」
華やかな王宮の大聖堂で交わされたのは、愛の誓いではなく、冷たい拒絶の言葉だった。
王子アルフォンスの婚姻相手として選ばれたレイチェル・ウィンザー。しかし彼女は、王妃としての立場を与えられながらも、夫からも宮廷からも冷遇され、孤独な日々を強いられる。王の寵愛はすべて聖女ミレイユに注がれ、王宮の権力は彼女の手に落ちていった。侮蔑と屈辱に耐える中、レイチェルは誇りを失わず、密かに反撃の機会をうかがう。
そんな折、隣国の公爵アレクサンダーが彼女の前に現れる。「君の目はまだ死んでいないな」――その言葉に、彼女の中で何かが目覚める。彼はレイチェルに自由と新たな未来を提示し、密かに王宮からの脱出を計画する。
レイチェルが去ったことで、王宮は急速に崩壊していく。聖女ミレイユの策略が暴かれ、アルフォンスは自らの過ちに気づくも、時すでに遅し。彼が頼るべき王妃は、もはや遠く、隣国で新たな人生を歩んでいた。
「お願いだ……戻ってきてくれ……」
王国を失い、誇りを失い、全てを失った王子の懇願に、レイチェルはただ冷たく微笑む。
「もう遅いわ」
愛のない結婚を捨て、誇り高き未来へと進む王妃のざまぁ劇。
裏切りと策略が渦巻く宮廷で、彼女は己の運命を切り開く。
これは、偽りの婚姻から真の誓いへと至る、誇り高き王妃の物語。
捨てられ令嬢は騎士団長に拾われ、いつのまにか国を救って溺愛されてました ~「地味で役立たず」と婚約破棄された私が、最強騎士様の唯一無二の光に
放浪人
恋愛
伯爵令嬢エレオノーラは、婚約者であるアルフォンス王子から「地味で役立たず」と罵られ、夜会の中、一方的に婚約破棄を告げられる。新たな婚約者として紹介されたのは、王子の寵愛を受ける派手好きな公爵令嬢だった。
絶望と屈辱の中、エレオノーラを庇ったのは、王宮騎士団長カイウス・ヴァレリアス。彼は冷静沈着で近寄りがたいと噂されるが、エレオノーラの隠れた才能と優しさを見抜いていた。
実家からも冷遇され、辺境の叔母の元へ身を寄せたエレオノーラは、そこで薬草の知識を活かし、村人たちの信頼を得ていく。偶然(?)辺境を訪れていたカイウスとの距離も縮まり、二人は次第に惹かれ合う。
しかし、元婚約者の横暴や隣国との戦争の危機が、二人の穏やかな日々を脅かす。エレオノーラはカイウスと共に困難に立ち向かい、その過程で自身の真の力に目覚めていく。
魔力ゼロと捨てられた私を、王子がなぜか離してくれません ――無自覚聖女の王宮生活――
ムラサメ
恋愛
伯爵家で使用人同然に扱われてきた少女、エリナ。
魔力も才能もないとされ、義妹アリシアの影で静かに生きていた。
ある日、王国第一王子カイルの視察で運命が動き出す。
誰も気づかなかった“違和感”に、彼だけが目を留めて――。
【完結】傷跡に咲く薔薇の令嬢は、辺境伯の優しい手に救われる。
朝日みらい
恋愛
セリーヌ・アルヴィスは完璧な貴婦人として社交界で輝いていたが、ある晩、馬車で帰宅途中に盗賊に襲われ、顔に深い傷を負う。
傷が癒えた後、婚約者アルトゥールに再会するも、彼は彼女の外見の変化を理由に婚約を破棄する。
家族も彼女を冷遇し、かつての華やかな生活は一転し、孤独と疎外感に包まれる。
最終的に、家族に決められた新たな婚約相手は、社交界で「醜い」と噂されるラウル・ヴァレールだった―――。
【完結】恵まれ転生ヒロインと思いきや、好色王に嫁がされることに。嫌すぎて足を踏みつけてやったら、反乱を起こした王太子になぜか求婚されました。
美杉日和。(旧美杉。)
恋愛
結婚式直前に婚約者にお金を持ち逃げされ、失意のうちに巻き込まれ事故で異世界転生をする。
異世界で今までにない優しさや温かさ、贅沢なものに囲まれ第二王女として何不自由ない生活を送ってきた。
しかし自国が戦争に負け、相手国の60過ぎの王へ貢物として第13番目の王妃として嫁ぐことが決められてしまう。
そしてその王からの注文で、持ち物は小さな衣装ケース一つ、見送りも、侍女も護衛騎士も付けてもらえず馬車で嫁ぎ先へ。
サレ女の次は好色王の貢物?
冗談じゃない。絶対に嫌! そんなのの花嫁になるくらいなら、もう一度転生したいとばかりに、好色王と対峙する。
その時兵を連れた王太子が現れて――
オッドアイの伯爵令嬢、姉の代わりに嫁ぐことになる~私の結婚相手は、青血閣下と言われている恐ろしい公爵様。でも実は、とっても優しいお方でした~
夏芽空
恋愛
両親から虐げられている伯爵令嬢のアリシア。
ある日、父から契約結婚をしろと言い渡される。
嫁ぎ先は、病死してしまった姉が嫁ぐ予定の公爵家だった。
早い話が、姉の代わりに嫁いでこい、とそういうことだ。
結婚相手のルシルは、人格に難があるともっぱらの噂。
他人に対してどこまでも厳しく、これまでに心を壊された人間が大勢いるとか。
赤い血が通っているとは思えない冷酷非道なその所業から、青血閣下、という悪名がついている。
そんな恐ろしい相手と契約結婚することになってしまったアリシア。
でも実際の彼は、聞いていた噂とは全然違う優しい人物だった。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる