【完結】婚約破棄された令嬢ですが、冷たい官僚様に溺愛されています

深山きらら

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香りの罠-裏切りの夜会

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 王都の夜会場《クリスタルホール》は、まばゆい光に包まれていた。
 貴族も商人も入り混じり、ワインと音楽、そして噂話が渦を巻く。

「これが……王都最大の夜会……」
 イザベラは小さく息を呑んだ。
 淡い藤色のドレス。首元に、カイルが贈ってくれた小さな香水瓶を下げている。

 今日は新製品「月のしずく」の発表会。
 王都商会の名誉と、彼女の未来を懸けた大舞台。

 だが、胸の奥ではどこか不安が疼いていた。
 昨日から、カイルの姿を見ていない。
 “行くな”とあれほど言われた夜会に、彼女は――自らの意志で来たのだ。

(私はもう守られるだけの令嬢じゃない。
 私が創り上げた香りを、誰にも汚させないわ)



 会場の片隅。
 バルト侯爵がグラスを傾けながら笑っていた。

「見ろ。あの娘、まるで自ら罠に飛び込んでくるようだ」

 背後には、ディートリヒ――
 あの密輸商人がいた。牢から逃れ、今は侯爵に仕えている。

「ご命令通り、香料に“例の添加剤”を混ぜておきました。
 嗅いだ者は、軽い幻覚症状を……」
「結構。あの香りが広まれば、あの娘の商会は“危険物扱い”で潰れる」

 バルトの唇が歪む。
「その混乱の中で、フェルナーの信用も失墜する――見ものだ」



 壇上に立つイザベラ。
 音楽が止まり、視線が一斉に彼女に注がれる。

「本日、皆さまにご紹介いたしますのは――
 “月のしずく”。夜に咲く花をモチーフにした香りです」

 彼女が瓶の蓋を外すと、やわらかな香気が会場に広がった。
 人々がうっとりと目を閉じる。
 しかし――次の瞬間、ざわめきが起こった。

「……目が、くらむ……?」
「頭が、重い……!」

 人々が次々に倒れ始めた。
 悲鳴が響き渡る。

「まさか……!」
 イザベラの手から瓶が落ち、ガラスが砕け散る。

 その時、会場の扉が激しく開いた。

「離れろ!」

 黒い外套を翻し、カイルが飛び込んできた。
 瞬時に状況を見極め、イザベラの腕を引く。

「毒が混ぜられてる! 外へ出るんだ!」
「毒……? でも、私の香水にそんな――」
「君のじゃない! バルトの仕業だ!」

 彼は外套を彼女の肩に掛け、煙が立ちこめる会場を駆け抜けた。
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