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二章 サバイバル生活
①⑨
しおりを挟むメラメラと燃える復讐心。
それを隠しながら島民の前では笑顔で彼をいなすしかない。
何故ならメイジーがガブリエーレに反抗すれば反逆者として島民たちの敵になってしまう可能性があるからだ。
そしてある程度の信頼を得たのか、ガブリエーレに食事を運ぶ時はメイジーに任せきりで高確率で島民がついてこない。
その時に嫌味を言い返すのである。
もちろん島民たちには聞こえないように小声で。
ガブリエーレは不機嫌そうだが、相手にするのが面倒なのか大抵無視である。
メイジーは今日も料理を並べながら、ガブリエーレに言い返していた。
「神様なら少しはみんなに優しくしたらどう? もちろんわたしにもねっ」
『はぁ……それが言葉を通じるようにしてやった恩人に対する態度か?』
「言葉を通じるようにしてくれたのは感謝してるわ。でもそれとこれとは別でしょう?」
『ったく……俺にこんな軽口を聞いて生きているやつはお前が初めてだ』
「……物騒なこと言わないでよ」
「本当のことだ」
そう言いつつもガブリエーレはメイジーは言葉を理解する能力を取り上げられることはないし、島民たちにメイジーを殺すように命令するわけでもない。
(この人が何を考えているのか、さっぱりわからないわ)
ただメイジーが必死に生活する様子を見ては、楽しそうにニヤニヤしていたり、一日中海を眺めているだけ。
ガブリエーレの寝顔や休んでいるところをメイジーは見たことがなかった。
そんなところもまた人間離れして見えてしまう。
それとなく彼のことを聞いてもはぐらされるだけで何も答えてはくれない。
ガブリエーレとの間にはいつまで経っても見えない壁がある。
この島で生活して二週間が経とうとしているが、そこの距離だけは何も変わらない。
メイジーがそう思っていると、ガブリエーレから飛ぶ『さっさと味見しろ』の声。
ガブリエーレに供え物として運ばれる料理。
彼が食べなかった分は島民たちでわけて食べるのだ。
しかし彼は今まで食べやすくカットされたフルーツくらいしか口にしなかったらしい。
たしかに王女として育ったメイジーからすると、彼らが食べているものの味付けは独特で食べたことがないものばかりだ。
主食はシンプルで茹でた芋を粉砕してお湯を加えながら練ったもの。
味は少し塩味がするだけでほとんど無味。
はんぺんや蒸しパンのようなふっくらとしてものから、作る人によっては餅のようになることもある。
この芋で作られたパンに合わせるのは、ほとんどがスープ。
たまに鳥肉やもっとたまに小動物の肉を使ったスープもあるが、海に囲まれた島なのでほとんどが魚。
魚は頭から尻尾までまるごと使われる。
ぶつ切りに切られた野菜と豪快に煮込まれていた。
島民たちは肉に焦がれている。
日によって味が違い、酸っぱいような甘いような塩辛いような……説明が難しい味だ。
一言で言えば刺激が強い。
見たことのない香辛料は、前世のメイジーですら嗅ぎ慣れずに咳き込んでしまうほどに辛味が強いものもあった。
毎日、グツグツと音を立てる大鍋。
料理番をしている時、ドロリとこぼれ落ちる魚の目玉に震えてしまった。
そのせいかガブリエーレは一週間、フルーツしか口にしていなかったようだ。
島民たちもメイジーを生け贄にしたのも、そういった経緯があるらしい。
つまり供え物をほとんど食べないガブリエーレは人を食べるのかもしれないと思ったということだろう。
島民たちは仲間を守ろうとしてメイジーを差し出したのだ。
仲間意識が強く、助け合っている姿を見ているとそうする理由も頷ける。
過酷な環境だからこそ、だろう。
ちなみにガブリエーレが最初、メイジーを見殺しにしようとしたのも空腹で機嫌が悪かったのだと聞いて愕然とした。
そしてメイジーが生け贄になった二週間前のあの日。
メイジーがすごい勢いで貪るように食べていたことで、今まで耐えていた食欲が触発されたらしい。
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