【奨励賞】花屋の花子さん

●やきいもほくほく●

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第三章 青紫色のアジサイ(前編)

①⑥ 消えた友だち

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キシキシと鳴る床、汚れた壁。
今日は雨が降っているからか、空も暗くて以前よりももっと不気味に見えた。
夏希ちゃんや凛々ちゃんと来た時よりも足元は真っ黒だ。
しかし冬馬くんは初めて来たはずなのにどんどんと前に進んでいく。

「冬馬くんは怖くないの?」
「普通に怖いけど」
「え……!?」

わたしはびっくりしながら階段を登っている途中で足を止めてしまった。
冬馬くんが淡々と怖いと言っていることにびっくりしていた。
怖がっている表情も行動もなくて、いつも通りに見えたから。

「行こう、小春」
「……うん」

冬馬くんのこと小さい頃から知っているつもりだった。
でも、やっぱり言葉にしてもらわないとわからないこともあると思った。
こうして聞かなければ冬馬くんの気持ちはわからなかったと思う。
いつの間にか三階のトイレに到着することができた。
女子トイレの前はいつもよりも薄暗くて不気味に感じる。
木でできた押し戸はいつもより湿気を吸って重たく感じた。

冬馬くんがガタガタと押し戸を開ける。
薄ピンクのタイルがしきつめられている三階の女子トイレ。
トイレの個室の扉はいつも通り閉まっていた。
わたしは花子さんがいるのかもしれないと嬉しくなった。
冬馬くんは腕時計を確認している。
そして時間になったのか、本を片手にトントンと三番目のトイレの個室の扉を三回ノックする。

「花子さん、いらっしゃいますか?」

冬馬くんの問いかけるけど、その場はシンとしている。
花子さんからの返事がくることはない。
冬馬くんは小さくため息を吐き出すと後ろを振り向いた。

「すまない、小春。今日、花子さんは気分じゃないみたいだ」
「そ、そうなのかな」

真剣な顔でそう言った冬馬くん。
ここまで来ることはできたけど、やっぱり花子さんには会えなかったと残念な気持ちになる。

「行こう、小春。ここに長居してはよくない」
「うん、そうだね」

冬馬くんの言葉に頷いてから、女子トイレの外に出ようとした時だった。

『……いらっしゃっい』

ゾワリと体に鳥肌が立つような声が聞こえた。
どうやら冬馬くんも聞こえたみたいで、わたしを見ながら驚いている。

個室の扉が開くキィ……という音。
もしかしたら花子さんかもしれない。
わたしが振り向こうとした時だった。

『あとで、一緒に遊びましょうね?』

そんな声と共に三番目の個室の扉がパタリと閉じてしまったのだ。
わたしが不思議に思いながら首を傾げる。

「今、花子さんの声が聞こえたような。ねぇ、冬馬く……」

わたしは驚きすぎて動けなかった。
隣にいるはずの冬馬くんが……姿を消したからだ。

「うそっ……冬馬くん!? 冬馬くんどこに行ったの?」

名前を呼んだとしても当たり前だけど冬馬くんの返事はない。
わたしは冬馬くんが女子トイレの外にいるかもしれないと、押し戸を開けた。
けれど誰もいなくて、廊下まで出て名前を呼んでみるけど冬馬くんからの返事はない。

暗闇に包まれた校舎内は雨音が響いていて、かなり不気味に思えた。
わたしは両腕で自分を抱きしめた。
呼んでも誰もいない。
真っ暗な中に一人だけ取り残されてしまった。
恐怖にガタガタと歯が震えてしまう。

「こわい……でも冬馬くんがっ」

冬馬くんはもっと怖い思いをしているかもしれない。
わたしは冬馬くんがいなくなった女子トイレをもう一度探そうと、押し戸を開けた時だった。

「小春、一体どこに行っていたんだ?」
「……冬馬、くん?」
「急にいなくなったから心配したんだぞ」

それはこっちのセリフだと言いたくなったけど、冬馬くんとまた会えたことが嬉しかった。
わたしは思わず冬馬くんに抱きついて鼻を啜っていると……。

『ウフフ……この子、小春の彼氏?』
「──キャアアアアアッ!」

冬馬くんの背中、わたしに向き合うように現れた花子さん。
花子さんの顔が目の前にあってわたしは悲鳴をあげてしまった。
冬馬くんは耳元で叫ばれたからか、わたしと離れて耳を押さえている。

「冬馬くん、ごめんね……!」
「いや、大丈夫だ」
『あいかわらず、小春の悲鳴は最高ね』
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