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2.彼の家から幼女が出てきた
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爽やかな風が吹き抜ける。
幌を張っただけの乗り合い馬車から周りを見ると、青空の下にのどかな農工地が広がっているのが見える。
そしてさらにその向こう。
石造りの塀で囲われた街がそこにあった。
「この街は昔と変わらないわね」
久しぶりに訪れる故郷を前に、私の胸は珍しく高鳴っていた。
あの約束の日から十六年。
ようやく戻って来ることができた。
商人である両親に連れられて、幼い私はこの街を去った。
どれだけ望もうとも、働くことすらできない幼女が一人街で生きていけるはずもない。
仕方のないことだった。
だが、街を去ったあとも、私は彼との約束を忘れなかった。
いつの日か、再び会えることを夢見て生きてきた。
その日に備えて、私は彼に相応しい人になろうと決意する。
彼のように強い人に。
彼のように優しい人に。
その目標は決して容易なものではなかった。
どれだけ強くなろうとも、どれだけ優しくなろうとも、彼のとなりに立つに相応しい人物にたどり着けた気がしなかった。
しかし、それでも諦めるという選択肢は存在しない。
私は我武者羅に己を鍛え、磨き続けた。
そして十六年。
ようやく私は自分を認めることができた。
いや、正直妥協できるようになったと言った方が正しいかもしれない。
幼かった私も二十二歳となった。
ここからさらに己を高めようとして得られるものと、加齢によって失うものを天秤にかけた結果、そろそろいいだろうということで妥協した。
妥協するなんて彼には申し訳ないが、おそらく今の私が私の人生で最高の状態だ。
優しい彼なら、こんな私でも笑って受け入れてくれるだろう。
そうに違いない。
街に入り馬車を降りた私は、幼き頃の記憶を頼りに彼の家へと向かう。
十六年も経てば、見覚えのない建物もそれなりにあった。
だが、全てが全て変わってしまっているわけでもない。
実際、たどり着いた赤い屋根の家は、記憶通りの場所にあった。
「ようやく彼に会えるのね……」
長いようで、振り返れば一瞬だったようにも思う。
心も鍛えぬいたつもりだったが、彼に会えると思うだけで、浮ついてしまう気持ちを抑えられそうにない。
久しぶりに会う彼はどんな顔をするだろうか。
驚いてくれるだろうか。
それとも、優しく微笑んでくれるだろうか。
結婚を誓い合ったというのに、十六年間も離れ離れだったのだ。
きっと、彼には寂しい思いをさせてしまったことだろう。
でもそんな寂しさも今日でお仕舞いだ。
これからは二人の幸せな結婚生活が待っているのだから。
私が彼の家に近づこうとしたその時だった。
「はやくいこうよ!」
バタンと大きな音を立てながら、玄関の扉が開く。
そして中から、幼女が飛び出してきた。
幌を張っただけの乗り合い馬車から周りを見ると、青空の下にのどかな農工地が広がっているのが見える。
そしてさらにその向こう。
石造りの塀で囲われた街がそこにあった。
「この街は昔と変わらないわね」
久しぶりに訪れる故郷を前に、私の胸は珍しく高鳴っていた。
あの約束の日から十六年。
ようやく戻って来ることができた。
商人である両親に連れられて、幼い私はこの街を去った。
どれだけ望もうとも、働くことすらできない幼女が一人街で生きていけるはずもない。
仕方のないことだった。
だが、街を去ったあとも、私は彼との約束を忘れなかった。
いつの日か、再び会えることを夢見て生きてきた。
その日に備えて、私は彼に相応しい人になろうと決意する。
彼のように強い人に。
彼のように優しい人に。
その目標は決して容易なものではなかった。
どれだけ強くなろうとも、どれだけ優しくなろうとも、彼のとなりに立つに相応しい人物にたどり着けた気がしなかった。
しかし、それでも諦めるという選択肢は存在しない。
私は我武者羅に己を鍛え、磨き続けた。
そして十六年。
ようやく私は自分を認めることができた。
いや、正直妥協できるようになったと言った方が正しいかもしれない。
幼かった私も二十二歳となった。
ここからさらに己を高めようとして得られるものと、加齢によって失うものを天秤にかけた結果、そろそろいいだろうということで妥協した。
妥協するなんて彼には申し訳ないが、おそらく今の私が私の人生で最高の状態だ。
優しい彼なら、こんな私でも笑って受け入れてくれるだろう。
そうに違いない。
街に入り馬車を降りた私は、幼き頃の記憶を頼りに彼の家へと向かう。
十六年も経てば、見覚えのない建物もそれなりにあった。
だが、全てが全て変わってしまっているわけでもない。
実際、たどり着いた赤い屋根の家は、記憶通りの場所にあった。
「ようやく彼に会えるのね……」
長いようで、振り返れば一瞬だったようにも思う。
心も鍛えぬいたつもりだったが、彼に会えると思うだけで、浮ついてしまう気持ちを抑えられそうにない。
久しぶりに会う彼はどんな顔をするだろうか。
驚いてくれるだろうか。
それとも、優しく微笑んでくれるだろうか。
結婚を誓い合ったというのに、十六年間も離れ離れだったのだ。
きっと、彼には寂しい思いをさせてしまったことだろう。
でもそんな寂しさも今日でお仕舞いだ。
これからは二人の幸せな結婚生活が待っているのだから。
私が彼の家に近づこうとしたその時だった。
「はやくいこうよ!」
バタンと大きな音を立てながら、玄関の扉が開く。
そして中から、幼女が飛び出してきた。
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