大きくなったら結婚しようと誓った幼馴染が幸せな家庭を築いていた

黒うさぎ

文字の大きさ
2 / 12

2.彼の家から幼女が出てきた

しおりを挟む
 爽やかな風が吹き抜ける。
 幌を張っただけの乗り合い馬車から周りを見ると、青空の下にのどかな農工地が広がっているのが見える。
 そしてさらにその向こう。
 石造りの塀で囲われた街がそこにあった。

「この街は昔と変わらないわね」

 久しぶりに訪れる故郷を前に、私の胸は珍しく高鳴っていた。
 あの約束の日から十六年。
 ようやく戻って来ることができた。

 商人である両親に連れられて、幼い私はこの街を去った。
 どれだけ望もうとも、働くことすらできない幼女が一人街で生きていけるはずもない。
 仕方のないことだった。

 だが、街を去ったあとも、私は彼との約束を忘れなかった。
 いつの日か、再び会えることを夢見て生きてきた。

 その日に備えて、私は彼に相応しい人になろうと決意する。
 彼のように強い人に。
 彼のように優しい人に。

 その目標は決して容易なものではなかった。
 どれだけ強くなろうとも、どれだけ優しくなろうとも、彼のとなりに立つに相応しい人物にたどり着けた気がしなかった。
 しかし、それでも諦めるという選択肢は存在しない。
 私は我武者羅に己を鍛え、磨き続けた。

 そして十六年。
 ようやく私は自分を認めることができた。
 いや、正直妥協できるようになったと言った方が正しいかもしれない。

 幼かった私も二十二歳となった。
 ここからさらに己を高めようとして得られるものと、加齢によって失うものを天秤にかけた結果、そろそろいいだろうということで妥協した。

 妥協するなんて彼には申し訳ないが、おそらく今の私が私の人生で最高の状態だ。
 優しい彼なら、こんな私でも笑って受け入れてくれるだろう。
 そうに違いない。

 街に入り馬車を降りた私は、幼き頃の記憶を頼りに彼の家へと向かう。
 十六年も経てば、見覚えのない建物もそれなりにあった。
 だが、全てが全て変わってしまっているわけでもない。

 実際、たどり着いた赤い屋根の家は、記憶通りの場所にあった。

「ようやく彼に会えるのね……」

 長いようで、振り返れば一瞬だったようにも思う。
 心も鍛えぬいたつもりだったが、彼に会えると思うだけで、浮ついてしまう気持ちを抑えられそうにない。
 
 久しぶりに会う彼はどんな顔をするだろうか。
 驚いてくれるだろうか。
 それとも、優しく微笑んでくれるだろうか。

 結婚を誓い合ったというのに、十六年間も離れ離れだったのだ。
 きっと、彼には寂しい思いをさせてしまったことだろう。
 でもそんな寂しさも今日でお仕舞いだ。
 これからは二人の幸せな結婚生活が待っているのだから。

 私が彼の家に近づこうとしたその時だった。

「はやくいこうよ!」

 バタンと大きな音を立てながら、玄関の扉が開く。
 そして中から、幼女が飛び出してきた。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

元妻からの手紙

きんのたまご
恋愛
家族との幸せな日常を過ごす私にある日別れた元妻から一通の手紙が届く。

幼馴染が夫を奪った後に時間が戻ったので、婚約を破棄します

天宮有
恋愛
バハムス王子の婚約者になった私ルーミエは、様々な問題を魔法で解決していた。 結婚式で起きた問題を解決した際に、私は全ての魔力を失ってしまう。 中断していた結婚式が再開すると「魔力のない者とは関わりたくない」とバハムスが言い出す。 そしてバハムスは、幼馴染のメリタを妻にしていた。 これはメリタの計画で、私からバハムスを奪うことに成功する。 私は城から追い出されると、今まで力になってくれた魔法使いのジトアがやって来る。 ずっと好きだったと告白されて、私のために時間を戻す魔法を編み出したようだ。 ジトアの魔法により時間を戻すことに成功して、私がバハムスの妻になってない時だった。 幼馴染と婚約者の本心を知ったから、私は婚約を破棄します。

じゃない方の私が何故かヤンデレ騎士団長に囚われたのですが

カレイ
恋愛
 天使な妹。それに纏わりつく金魚のフンがこの私。  両親も妹にしか関心がなく兄からも無視される毎日だけれど、私は別に自分を慕ってくれる妹がいればそれで良かった。  でもある時、私に嫉妬する兄や婚約者に嵌められて、婚約破棄された上、実家を追い出されてしまう。しかしそのことを聞きつけた騎士団長が何故か私の前に現れた。 「ずっと好きでした、もう我慢しません!あぁ、貴方の匂いだけで私は……」  そうして、何故か最強騎士団長に囚われました。

人生の全てを捨てた王太子妃

八つ刻
恋愛
突然王太子妃になれと告げられてから三年あまりが過ぎた。 傍目からは“幸せな王太子妃”に見える私。 だけど本当は・・・ 受け入れているけど、受け入れられない王太子妃と彼女を取り巻く人々の話。 ※※※幸せな話とは言い難いです※※※ タグをよく見て読んでください。ハッピーエンドが好みの方(一方通行の愛が駄目な方も)はブラウザバックをお勧めします。 ※本編六話+番外編六話の全十二話。 ※番外編の王太子視点はヤンデレ注意報が発令されています。

騎士の元に届いた最愛の貴族令嬢からの最後の手紙

刻芦葉
恋愛
ミュルンハルト王国騎士団長であるアルヴィスには忘れられない女性がいる。 それはまだ若い頃に付き合っていた貴族令嬢のことだ。 政略結婚で隣国へと嫁いでしまった彼女のことを忘れられなくて今も独り身でいる。 そんな中で彼女から最後に送られた手紙を読み返した。 その手紙の意味をアルヴィスは今も知らない。

行ってらっしゃい旦那様、たくさんの幸せをもらった私は今度はあなたの幸せを願います

木蓮
恋愛
サティアは夫ルースと家族として穏やかに愛を育んでいたが彼は事故にあい行方不明になる。半年後帰って来たルースはすべての記憶を失っていた。 サティアは新しい記憶を得て変わったルースに愛する家族がいることを知り、愛しい夫との大切な思い出を抱えて彼を送り出す。 記憶を失くしたことで生きる道が変わった夫婦の別れと旅立ちのお話。

【完結】お父様に愛されなかった私を叔父様が連れ出してくれました。~お母様からお父様への最後のラブレター~

山葵
恋愛
「エリミヤ。私の所に来るかい?」 母の弟であるバンス子爵の言葉に私は泣きながら頷いた。 愛人宅に住み屋敷に帰らない父。 生前母は、そんな父と結婚出来て幸せだったと言った。 私には母の言葉が理解出来なかった。

私を追い出した結果、飼っていた聖獣は誰にも懐かないようです

天宮有
恋愛
 子供の頃、男爵令嬢の私アミリア・ファグトは助けた小犬が聖獣と判明して、飼うことが決まる。  数年後――成長した聖獣は家を守ってくれて、私に一番懐いていた。  そんな私を妬んだ姉ラミダは「聖獣は私が拾って一番懐いている」と吹聴していたようで、姉は侯爵令息ケドスの婚約者になる。  どうやらラミダは聖獣が一番懐いていた私が邪魔なようで、追い出そうと目論んでいたようだ。  家族とゲドスはラミダの嘘を信じて、私を蔑み追い出そうとしていた。

処理中です...