7 / 7
【王子視点】怒りと絶望
しおりを挟む「またか!またフェリシアの話題ばかりではないか!」
俺は王宮の執務室で苛立ちを露わにした。即位して数週間。王になったはずなのに、状況は悪くなるばかりだ。リリアーナは俺の隣で肩を震わせている。
「で、ですが、殿下…いえ、陛下。皆、ヴァレンシュタイン公爵家の話ばかりで…」
リリアーナの声が小さくなる。分かっている、分かっているさ!
俺が婚約破棄をしたのだから、フェリシアは悲嘆に暮れ、公爵家も力を失うはずだった。
そうすれば、リリアーナのような純粋な心を持つ者が、この国の王妃として迎えられ、皆が俺たちを称賛するはずだったのだ。
だが、現実は真逆だ。
「なぜだ!なぜフェリシアは、いまだに輝きを放っているのだ!?あの冷たい女が!」
俺の頭の中は、あの女への疑問符でいっぱいだった。
婚約破棄から一週間で、国内外から求婚状が殺到したと聞いた時、俺は最初信じられなかった。なぜあの冷徹なフェリシアに求婚がくるのだ。婚約破棄された傷ものだぞ。
まぁ、腐ってもあいつは公爵家。どうせ下心のある連中が、ヴァレンシュタイン家の後ろ盾を狙っているだけだろうと高を括っていた。
だが、あの女がレヴィアタン公爵家の次男、アルフォンスを婿に迎えると発表した時は、さすがに衝撃だった。あのレヴィアタン公爵家だぞ?しかも婿入りとは。
これでは、権力が集中しすぎるのは目に見えているではないか。
それからの日々は、悪夢のようだった。フェリシアはヴァレンシュタイン公爵夫人として、社交界で圧倒的な存在感を示し始めた。
貴族たちは皆、彼女の顔色を伺っていると聞く。俺が主催する公式行事には誰も来ないのに、フェリシア主催の夜会は連日大盛況だという。
「王家が弱体化した今、この国の未来は、私たち貴族が担うべきですわ」
そんな言葉が、彼女の口から出たと報告を受けた時は、怒りで机を叩き割るところだった。反逆ではないか!
だが、王命で武力に訴えたとて、レヴィアタン公爵家がフェリシア側についている以上下手すれば本当に反逆を起こされる可能性もある。
なんとか王家寄りの貴族をまとめようとしても、初めは「公爵家の権力を分散させるべきです!」と息巻いていた貴族達も、なぜか公爵家と寝返っていく。
何をしても、彼女の勢いは止まらない。それどころか、飢饉への対策を無能な大臣達が怠ったせいで国内は不安定だというのに、彼女が介入した領地では経済が活性化し、民の生活が改善されているという噂まで耳にした。
信じられるか?俺が王になったばかりだというのに!
安定する策があるなら俺に献上すべきだろう。まさか自分の手柄として見せびらかすとは。
「フェリシア!貴様、一体何を企んでいる!?この国の政治を混乱させる気か!」
耐えかねた俺は、ついにフェリシアを王宮に呼び出した。リリアーナが俺の隣で怯えている。
フェリシアは、俺たちの前で静かに微笑んだ。その隣には、あのアルフォンスが控えている。相変わらず、何を考えているか分からない男だ。だが、その視線は、俺たちの無力さを静かに見据えているように感じられた。
「何を仰いますの、陛下。わたくしはただ、この国の未来を案じ、貴族として当然の責務を果たしているだけですわ」
「責務だと!?貴様がしていることは、王権への反逆ではないか!」
俺は怒鳴りつけた。だが、フェリシアは涼しい顔だ。
「反逆……?いいえ、滅相もない。わたくしはただ、この国に必要な改革を推し進めているだけ。陛下が王位に就かれてから、この国の財政は悪化の一途を辿り、民も貴族も疲弊しております。これでは、国が滅びてしまいますわ」
俺は何も言い返せなかった。事実、財政は逼迫し、民の不満も募っているのは分かっていた。だが、それは全て、フェリシアのせいに違いない!
「黙れ!貴様は私を貶めようとしているだけだ!」
フェリシアは、まるで愚かな子供を見るような目で俺を見つめた。
「貶める?いいえ。わたくしはただ、事実を申し上げているだけですわ。殿下は、ご自身の生まれ持った権力を理解せず、権力をより拡大できる婚約を無為にされた。そしてリリアーナ様は、その美貌と才覚を利用する術を知らなかった。それだけの話ですわ」
彼女の言葉が、俺の胸に突き刺さる。リリアーナは涙を流しながらその場に座り込んだ。
俺たちは、「真実の愛」を手に入れたはずだった。俺は、この国をより良い方向に導くために、冷酷なフェリシアではなく、リリアーナを選んだのだ。それなのに、なぜ、全てが裏目に出る?
「結局のところ、生まれ持った権力と美貌、そしてそれを活用することがどれほど重要だったか。今、身をもって実感していらっしゃるのではないでしょうか、陛下」
フェリシアの冷たい笑みが、王宮の空気を凍りつかせた。俺は顔を真っ赤にして震え、何も言えなかった。
アルフォンスは、何も言わず、ただ静かに俺とリリアーナを見据えていた。その視線が、俺のプライドを粉々に打ち砕くかのようだった。
なぜだ?なぜ俺が、こんな惨めな思いをしなければならない?俺は、この国の王なのに!俺は、ただリリアーナと幸せになりたかっただけだ。フェリシアが、あの冷酷な女が、全てを台無しにしたのだ!
もはや、この国はフェリシアの手中にあった。俺とリリアーナは、ただのお飾りに過ぎず、二度と、権力を取り戻すことはできないかもしれない。この虚しい王冠を、俺はいつまで被り続けなければならないのか。
いや、いつか必ず、フェリシアから全てを取り戻してやる!俺のプライドが、そう叫んでいる。
57
この作品の感想を投稿する
みんなの感想(1件)
あなたにおすすめの小説
死に物狂いで支えた公爵家から捨てられたので、回帰後は全財産を盗んで消えてあげます 〜今さら「戻れ」と言われても、私は隣国の皇太子妃ですので〜
しょくぱん
恋愛
「お前のような無能、我が公爵家の恥だ!」
公爵家の長女エルゼは、放蕩者の父や無能な弟に代わり、寝る間も惜しんで領地経営と外交を支えてきた。しかし家族は彼女の功績を奪った挙句、政治犯の濡れ衣を着せて彼女を処刑した。
死の間際、エルゼは誓う。 「もし次があるのなら――二度と、あいつらのために働かない」
目覚めると、そこは処刑の二年前。 再び「仕事」を押し付けようとする厚顔無恥な家族に対し、エルゼは優雅に微笑んだ。
「ええ、承知いたしました。ただし、これからは**『代金』**をいただきますわ」
隠し金庫の鍵、領地の権利書、優秀な人材、そして莫大な隠し資産――。 エルゼは公爵家のすべてを自分名義に書き換え、着々と「もぬけの殻」にしていく。
そんな彼女の前に、隣国の冷徹な皇太子シオンが現れ、驚くべき提案を持ちかけてきて……?
「君のような恐ろしい女性を、独り占めしたくなった」
資産を奪い尽くして亡命した令嬢と、彼女を溺愛する皇太子。 一方、すべてを失った公爵家が泣きついてくるが、もう遅い。 あなたの家の金庫も、土地も、働く人間も――すべて私のものですから。
◆◆◆浪費家呼ばわりされた宮廷調香師ですが、私の香りを理解してくれる方と歩みます◆◆◆
ささい
恋愛
婚約者のジュリアンは、私の仕事を一度も認めてくれなかった。
「高価な香料ばかり使う浪費家」「誰にでも代わりが務まる仕事」――四年間、蔑まれ続けた。
でも、私の作る香りは王妃陛下や兵士たち、貧しい人々の心を癒してきた。
夜会で「香料の匂いが染みついた女」と罵られた時、私は決めた。
この場で婚約を解消しようと。
すると彼は修道院送り。一方、私は首席調香師に任命された。
そして、私の仕事を心から尊敬してくれる優しい薬師と出会う。
「俺、これからもあなたの仕事、一番近くで応援したいです」
私は今、自分の価値を理解してくれる人と、新しい道を歩み始める。
ざまあしっかり目に書きました。修道院行きです( ^^) _旦~~
※小説家になろうにも投稿しております
『悪役令嬢は、二度目の人生で無言を貫く。~処刑回避のために黙っていただけなのに、なぜか冷徹宰相様から「君こそ運命の人だ」と溺愛さています~』
放浪人
恋愛
「もう、余計なことは喋りません(処刑されたくないので!)」
王太子の婚約者エリスは、無実の罪を着せられた際、必死に弁解しようと叫び散らした結果「見苦しい」と断罪され、処刑されてしまった。 死に戻った彼女は悟る。「口は災いの元。二度目の人生は、何があっても口を閉ざして生き延びよう」と。
しかし、断罪の場で恐怖のあまり沈黙を貫いた結果、その姿は「弁解せず耐え忍ぶ高潔な令嬢」として称賛されてしまう。 さらに、人間嫌いの冷徹宰相クラウスに「私の静寂を理解する唯一の女性」と盛大な勘違いをされ、求婚されてしまい……!?
「君の沈黙は、愛の肯定だね?」(違います、怖くて固まっているだけです!) 「この国の危機を、一目で見抜くとは」(ただ臭かったから鼻を押さえただけです!)
怯えて黙っているだけの元悪役令嬢と、彼女の沈黙を「深遠な知性」と解釈して溺愛する最強宰相。 転生ヒロインの妨害も、隣国の陰謀も、全て「無言」で解決(?)していく、すれ違いロマンティック・コメディ! 最後はちゃんと言葉で愛を伝えて、最高のハッピーエンドを迎えます。
愛に代えて鮮やかな花を
ono
恋愛
公爵令嬢エリシア・グローヴナーは、舞踏会の場で王太子アリステアより婚約破棄を言い渡される。
彼の隣には無垢な平民の娘、エヴァンジェリンがいた。
王太子の真実の愛を前にしてエリシアの苦い復讐が叶うまで。
※ハッピーエンドですが、スカッとはしません。
婚約破棄された令嬢は、ざまぁの先で国を動かす ――元王太子の後悔が届かないほど、私は前へ進みます』
ふわふわ
恋愛
名門アーデン公爵家の令嬢ロザリーは、
王太子エドワードの婚約者として完璧に役目を果たしてきた――はずだった。
しかし彼女に返ってきたのは、
「聖女」と名乗る平民の少女に心酔した王太子からの一方的な婚約破棄。
感情論と神託に振り回され、
これまでロザリーが支えてきた国政はたちまち混乱していく。
けれど、ロザリーは泣かない。縋らない。復讐に溺れもしない。
「では、私は“必要な場所”へ行きますわ」
冷静に、淡々と、
彼女は“正しい判断”と“責任の取り方”だけで評価を積み上げ、
やがて王太子すら手を出せない国政の中枢へ――。
感情で選んだ王太子は静かに失墜し、
理性で積み上げた令嬢は、誰にも代替できない存在になる。
これは、
怒鳴らない、晒さない、断罪しない。
それでも確実に差がついていく、**強くて静かな「ざまぁ」**の物語。
婚約破棄の先に待っていたのは、
恋愛の勝利ではなく、
「私がいなくても国が回る」ほどの完成された未来だった。
――ざまぁの、そのさらに先へ進む令嬢の物語。
悪役令嬢に相応しいエンディング
無色
恋愛
月の光のように美しく気高い、公爵令嬢ルナティア=ミューラー。
ある日彼女は卒業パーティーで、王子アイベックに国外追放を告げられる。
さらには平民上がりの令嬢ナージャと婚約を宣言した。
ナージャはルナティアの悪い評判をアイベックに吹聴し、彼女を貶めたのだ。
だが彼らは愚かにも知らなかった。
ルナティアには、ミューラー家には、貴族の令嬢たちしか知らない裏の顔があるということを。
そして、待ち受けるエンディングを。
遊び人の令嬢が目を付けたのは、私の真面目な婚約者でした
おいどん
恋愛
子爵家の令嬢エリーネと伯爵家の次男のノルトが婚約を結んだのは、半年前だった。
真面目で優秀なノルトに相応しい婚約者であろうとするものの、エリーネには自信がなかった。
ある日、遊び人と噂の令嬢べルティーナとノルトが共にいるところを見てしまう。
「真面目クンは壁さえ破っちゃえばこっちのもんだからね〜」
「きっと、彼女の美しさに嫉妬しているのだわ…」
「…今度は、ちゃんと言葉にするから」
これぞほんとの悪役令嬢サマ!?〜掃討はすみやかに〜
黒鴉そら
ファンタジー
貴族の中の貴族と呼ばれるレイス家の令嬢、エリザベス。彼女は第一王子であるクリスの婚約者である。
ある時、クリス王子は平民の女生徒であるルナと仲良くなる。ルナは玉の輿を狙い、王子へ豊満な胸を当て、可愛らしい顔で誘惑する。エリザベスとクリス王子の仲を引き裂き、自分こそが王妃になるのだと企んでいたが……エリザベス様はそう簡単に平民にやられるような性格をしていなかった。
座右の銘は”先手必勝”の悪役令嬢サマ!
前・中・後編の短編です。今日中に全話投稿します。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。
このユーザをミュートしますか?
※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。
プライドだけじゃ、取り戻せないんじゃないかな。陛下。有能な家臣もクビにしちゃったしね。まじめに仕事してた人ほど裏切られたと思って怒ってるよ、きっと。
せめて国民たちが平穏に過ごせるよう、がんばってください。