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【リリアーナ視点】虚しい王妃
しおりを挟むリリアーナは、床に座り込んだまま、ただ震えていた。目の前には、かつて「真実の愛」を誓い合ったはずの殿下。
しかし、彼の瞳には、もはや以前のような輝きも、リリアーナへの庇護欲も感じられない。
あるのは、焦燥と、そしてフェリシア様への底知れない恐怖だけ。
「なぜ……なぜなの……?」
掠れた声が喉から漏れる。自分は、殿下から愛され、寵愛され、この国の王妃として迎えられるはずだった。あの冷酷なフェリシアは、失意の底に沈み、二度と日の目を見ることはないと、そう信じていたのに。
シャンデリアの輝きが、かつては温かい光だったはずなのに、今はまるで嘲笑うかのように冷たく感じられる。舞踏会で、殿下に手を引かれ、皆の羨望の眼差しを浴びたあの日のこと。その光景は、今や遠い幻のようだ。
フェリシアが言った言葉が、頭の中で何度も繰り返される。
「ご自身の生まれ持った権力を理解せず、権力をより拡大できる婚約を無為にされた。そしてリリアーナ様は、その美貌と才覚を利用する術を知らなかった。それだけの話ですわ」
その通りだった。
自分は、ただ殿下の庇護のもとで、可憐な存在として愛されることだけを望んだ。自分の美貌が、王子の心を掴むための道具であり、それ以上の意味を持たないと信じていた。才覚など、あればいい、くらいにしか考えていなかった。
一方、フェリシアは違った。彼女は、与えられたすべてを、自らの意志で最大限に活用した。家格、美貌、そして冷徹な頭脳。それら全てを、自らの目的のために、惜しみなく使った。
「わたくしとの婚約を破棄した代償、それだけは、覚悟なさいますよう」
あの時のフェリシア様の言葉が、今、現実となって目の前に突きつけられている。代償。その重みが、今になって初めて、リリアーナの心を締め付ける。
王宮は、もはや私たちのものではない。貴族たちはフェリシア様の言葉に耳を傾け、民衆はフェリシア様の政策を支持している。私たちは、この玉座の上で、ただ飾りとして座っているだけ。
殿下の震える肩を見つめながら、リリアーナは絶望に打ちひしがれた。
「真実の愛」など、一体何だったのだろう。それは、フェリシア様が言う通り、私たちにとっては何の力も生み出さない、空虚なものだったのだろうか。
外からは、公爵邸の夜会の賑やかな声が聞こえてくる。そこには、この国の真の権力者がいる。
そして、私たちに残されたのは、何も響かない、この静かな王宮だけ。
リリアーナの心に、後悔の念が深く刻まれた。あの時、もし、あの言葉を聞いていれば。あの冷たい瞳の奥に隠された、真意に気づいていれば。
だが、もう遅い。全ては、フェリシア様の手のひらの上で転がされている。
私たちは、彼女の復讐の舞台の上で、ただ踊らされているだけの存在なのだ。
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