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第一章
柔らかな絶望のなかで②
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今年で七年目になる。大学を一年の六月に中退してからというもの、俺はひきこもりになった。むしろそれまでなっていなかったことに自分でも驚く。それはなにも、高校までの人生が順調にいっていたからということではない。高校までは事実上の義務教育であり、「とりあえず卒業するもの」とされているから、俺のような人間でもなんとなく、川流れのように進んでいけただけだった。
ところが、川が「たまり」に辿り着き、これ以上先に進めなくなって仕方なく地面に足をつけたとき、途端にどこへ向かえばいいのか分からなくなった。
足跡はいくつかある。だけど、どの道に進めばいいのか分からない。とりあえず一番広い道を選んで歩いてみるも、石に躓いて転んだ時、もう一度歩き出すための気力が湧かなかった。
疲れた。こんなにくたびれてまでこの先を進むことに意味はあるのだろうか。あの「たまり」はまだ近くにあるのだから、あそこに戻ってプカプカと浮かんでいるほうが楽なんじゃないか。そして俺は行き止まりの「たまり」で延々と浮かび続けることを選んだ。
それなら肩身が狭いのは当然だろう。
しかし俺は、それでも働こうとはしない。肩身の狭さを感じることと働くこと、その二つを天秤に掛けると、まだ前者に傾く。それほどまでに俺が働くことを拒むのは多分、失敗をしたくないからだと思う。
会社勤めとなれば、遅刻欠勤はもちろん、仕事でミスをすれば上司に叱られる。そんな日々がずっと続く。俺は働くことそのものというより、失敗することが嫌なのだ。失敗して、人から否定されるのが怖いのだ。
どれだけ優秀な人間でも一度や二度の失敗は誰だってするものだろうが、普通なら失敗しても深刻に捉えることなく立ち直ることができるだろう。だが俺の場合、そもそも失敗を経験したくないのだ。失敗するくらいなら最初から挑戦したくない。そういう種類の人間なのだ。
失敗してはいけないというプレッシャーを感じながら毎日会社に通い、働くなどとてもできない。絶対に押しつぶされてしまう。働いたことはないが想像はできるし、想像するだけで恐ろしくて吐き気がする。だから俺は逃げ続ける。いや、逃げ続けるしかないのだ。これ以上傷つかないために。
だが、現実問題として、このひきこもりの生活をいつまでも続けてはいられない。親もいずれいなくなり、誰も守ってはくれない吹きさらしの現実に、俺はいずれ晒されることになる。いずれ毎日のように食べている蕎麦すら食べられなくなるだろう。
そんないつか必ず来るであろう日のことを考えると気が狂いそうになる。暗い未来のことなんか考えたくない。今はじりじりと残された時間を為す術もなく食い潰していくしかなかった。
蕎麦が食べられなくなるその日まで。
ところが、川が「たまり」に辿り着き、これ以上先に進めなくなって仕方なく地面に足をつけたとき、途端にどこへ向かえばいいのか分からなくなった。
足跡はいくつかある。だけど、どの道に進めばいいのか分からない。とりあえず一番広い道を選んで歩いてみるも、石に躓いて転んだ時、もう一度歩き出すための気力が湧かなかった。
疲れた。こんなにくたびれてまでこの先を進むことに意味はあるのだろうか。あの「たまり」はまだ近くにあるのだから、あそこに戻ってプカプカと浮かんでいるほうが楽なんじゃないか。そして俺は行き止まりの「たまり」で延々と浮かび続けることを選んだ。
それなら肩身が狭いのは当然だろう。
しかし俺は、それでも働こうとはしない。肩身の狭さを感じることと働くこと、その二つを天秤に掛けると、まだ前者に傾く。それほどまでに俺が働くことを拒むのは多分、失敗をしたくないからだと思う。
会社勤めとなれば、遅刻欠勤はもちろん、仕事でミスをすれば上司に叱られる。そんな日々がずっと続く。俺は働くことそのものというより、失敗することが嫌なのだ。失敗して、人から否定されるのが怖いのだ。
どれだけ優秀な人間でも一度や二度の失敗は誰だってするものだろうが、普通なら失敗しても深刻に捉えることなく立ち直ることができるだろう。だが俺の場合、そもそも失敗を経験したくないのだ。失敗するくらいなら最初から挑戦したくない。そういう種類の人間なのだ。
失敗してはいけないというプレッシャーを感じながら毎日会社に通い、働くなどとてもできない。絶対に押しつぶされてしまう。働いたことはないが想像はできるし、想像するだけで恐ろしくて吐き気がする。だから俺は逃げ続ける。いや、逃げ続けるしかないのだ。これ以上傷つかないために。
だが、現実問題として、このひきこもりの生活をいつまでも続けてはいられない。親もいずれいなくなり、誰も守ってはくれない吹きさらしの現実に、俺はいずれ晒されることになる。いずれ毎日のように食べている蕎麦すら食べられなくなるだろう。
そんないつか必ず来るであろう日のことを考えると気が狂いそうになる。暗い未来のことなんか考えたくない。今はじりじりと残された時間を為す術もなく食い潰していくしかなかった。
蕎麦が食べられなくなるその日まで。
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