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第一章
柔らかな絶望のなかで③
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鍵の開く音がして玄関の扉が開け放たれた。階段を上ってくる音が聞こえ、襖が軽く叩かれた。一体何の用事だろうか、俺は襖から背を向けたまま興味なさげな、心底気の抜けた返事をする。すると帰宅した母親が襖を開けて無感動な声音でこう言った。
「葉書が来ているよ」
葉書? 俺宛てに郵便が届くことなど滅多にない。振り返ると、母親は既に出ていっていた。そして畳の上に葉書らしきものが置いてあった。一体誰がこんなものを寄越してきたのだろうか。頭上に疑問符を浮かべながら葉書を手に取った。そこには次のようなことが書かれていた。
『○△市立東中学校 平成××年度卒業生 同窓会のお知らせ』
同窓会? 中学の、同窓会だって? 何かの冗談だろう? 成人式の時ですら役所以外からはどこからも何の知らせも来なかったのに、今更何だっていうんだ。困惑を隠せないが、一応続きを読むことにした。
『拝啓 時下ますますのご清祥をお慶び申し上げます。さて、来年をもって平成××年度第××期卒業生は、卒業から十年目を迎えます。そこで、この度、下記の日程にて同窓会を開催する運びとなりました。ご多忙中とは存じますが、しばし日々の雑事を忘れ、楽しいひと時を過ごしたいと思います。皆様お誘い合わせの上、ご来会いただけますようよろしくお願い申し上げます。 敬具』
なんとも堅苦しい文章だ。どうせネットから引っ張ってきたテンプレートをそのまま使っているだけなのだろうが、仰々しいことこの上ない。これは俺が働いたことがないからそう思うのかもしれない。
しかし、なんだかこのような定型的な文章を見ると嘘っぽく思えてしまう。形だけかしこまっていてもなんの気持ちも伝わってはこないからだ。こんなものは機械的に卒業生全員に送付しただけの、温もりのない事務的な文字列に過ぎない。
しかし、それよりも、ほんの一瞬ではあるが俺はあることを期待してしまった。押し入れから中学の卒業アルバムを取り出す。三年三組のページを開くと、自分の写真そっちのけで俺は一人の少女の写真を見つめた。
“佐波美月”
この、どこか虚ろな目で微笑んでいる少女に、俺はかつて思いを寄せていた。
しかし、美月には大きな謎があった。三年の修学旅行を最後に彼女は学校に来なくなったのだ。三年生になってから美月はたびたび学校を休んでいたからそれと関係があるのかもしれないが、本当のところは今でも分からない。
美月には話しておきたいことがあった。それを言えずじまいになってしまったことを中学卒業以来、俺は悔やんでいた。だからこの同窓会は俺にとって唯一ともいえる美月と繋がれるかもしれないチャンスだった。同窓会が開かれるのは七月。約二か月後だった。
しかし、俺はそこまで考えて思考を遮る。これは中学の同窓会だ。わざわざ思い出すまでもない、中学時代は俺にとっての墓場なのだ。なぜなら、俺は中学時代に一度死んだからだ。
今ここにいる俺は亡霊であり、怨霊として生きているに過ぎない。自分を殺した連中の顔を見に行くのは虫唾が走る。次々に憎たらしい顔が脳裏に浮かびあがり、フラッシュバックのように忌まわしい記憶が蘇った。
「クソったれ!」
俺は衝動的な怒りに任せて葉書を両手でクシャクシャに丸め、ゴミ箱に投げ捨てた。思わず声を荒げてしまうも、日頃殆ど声を出さないからかすれた声が虚しく部屋に散った。
気分が悪い。万年床に入り、頭から布団を被った。そして目を硬く瞑り、記憶の嵐が過ぎ去るまで布団の中でうずくまった。
「葉書が来ているよ」
葉書? 俺宛てに郵便が届くことなど滅多にない。振り返ると、母親は既に出ていっていた。そして畳の上に葉書らしきものが置いてあった。一体誰がこんなものを寄越してきたのだろうか。頭上に疑問符を浮かべながら葉書を手に取った。そこには次のようなことが書かれていた。
『○△市立東中学校 平成××年度卒業生 同窓会のお知らせ』
同窓会? 中学の、同窓会だって? 何かの冗談だろう? 成人式の時ですら役所以外からはどこからも何の知らせも来なかったのに、今更何だっていうんだ。困惑を隠せないが、一応続きを読むことにした。
『拝啓 時下ますますのご清祥をお慶び申し上げます。さて、来年をもって平成××年度第××期卒業生は、卒業から十年目を迎えます。そこで、この度、下記の日程にて同窓会を開催する運びとなりました。ご多忙中とは存じますが、しばし日々の雑事を忘れ、楽しいひと時を過ごしたいと思います。皆様お誘い合わせの上、ご来会いただけますようよろしくお願い申し上げます。 敬具』
なんとも堅苦しい文章だ。どうせネットから引っ張ってきたテンプレートをそのまま使っているだけなのだろうが、仰々しいことこの上ない。これは俺が働いたことがないからそう思うのかもしれない。
しかし、なんだかこのような定型的な文章を見ると嘘っぽく思えてしまう。形だけかしこまっていてもなんの気持ちも伝わってはこないからだ。こんなものは機械的に卒業生全員に送付しただけの、温もりのない事務的な文字列に過ぎない。
しかし、それよりも、ほんの一瞬ではあるが俺はあることを期待してしまった。押し入れから中学の卒業アルバムを取り出す。三年三組のページを開くと、自分の写真そっちのけで俺は一人の少女の写真を見つめた。
“佐波美月”
この、どこか虚ろな目で微笑んでいる少女に、俺はかつて思いを寄せていた。
しかし、美月には大きな謎があった。三年の修学旅行を最後に彼女は学校に来なくなったのだ。三年生になってから美月はたびたび学校を休んでいたからそれと関係があるのかもしれないが、本当のところは今でも分からない。
美月には話しておきたいことがあった。それを言えずじまいになってしまったことを中学卒業以来、俺は悔やんでいた。だからこの同窓会は俺にとって唯一ともいえる美月と繋がれるかもしれないチャンスだった。同窓会が開かれるのは七月。約二か月後だった。
しかし、俺はそこまで考えて思考を遮る。これは中学の同窓会だ。わざわざ思い出すまでもない、中学時代は俺にとっての墓場なのだ。なぜなら、俺は中学時代に一度死んだからだ。
今ここにいる俺は亡霊であり、怨霊として生きているに過ぎない。自分を殺した連中の顔を見に行くのは虫唾が走る。次々に憎たらしい顔が脳裏に浮かびあがり、フラッシュバックのように忌まわしい記憶が蘇った。
「クソったれ!」
俺は衝動的な怒りに任せて葉書を両手でクシャクシャに丸め、ゴミ箱に投げ捨てた。思わず声を荒げてしまうも、日頃殆ど声を出さないからかすれた声が虚しく部屋に散った。
気分が悪い。万年床に入り、頭から布団を被った。そして目を硬く瞑り、記憶の嵐が過ぎ去るまで布団の中でうずくまった。
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