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しおりを挟む昼間のどきどきを引き摺ったまま治療の時間は過ぎ、あっという間に一日の業務が終わった。
気もそぞろながらいつもより早く終わってしまった。
もしかしたらアーノルドが終了と共に話をしに来てくれるかもと思っていたのだが、団長ともなると忙しくて中々時間が取れないのだろう。
教会の門の前には誰もおらず、少し待ってみたがやはり来ず、私は一人帰路についた。
その途中。
(!団長だ!)
愛しの姿を見つけてすぐに駆け寄ろうとしたのだが、彼が一人ではない事に気付き足を止める。
(リーア?)
アーノルドと一緒にいたのはリーアだった。
リーアも恐らく部屋に戻る途中なのだろう。
でもどうしてアーノルドと?
周りには他に誰もいない。
いつもならリーアは誰かしら伴って帰ってきているのに、今日は一人なのだろうか。
いや、こうしてアーノルドと一緒にいるのだから一人ではない。
では、今日はアーノルドがリーアのお迎えを志願したのだろうか。
それともたまたまそこで出会っただけ?
なんとなく二人一緒の所に声を掛けるのは躊躇われて、つい足を止めたまま二人を見つめる。
すると、アーノルドが何かを言い、リーアが驚いたかのように口に両手を当てた。
アーノルドの手には花束。
リーアがそれを受け取り、まじまじと見つめている。
(まさか……)
アーノルドの表情は遠目でも赤く、照れているようで、その瞳はいつになく緊張しているようにも見えるが隠しきれない愛しさが浮かんでいる。
(嘘、そんな……)
目の前の光景に対する答えはただ一つ。
(リーアが、団長の想い人?)
その答えに行き着くまでに時間はかからなかった。
団員の間でも噂になっていたアーノルドの想い人。
『素晴らしい人』
確かにリーアならば誰よりも『素晴らしい人』だろう。
(ははっ、はははっ、敵うはずがない)
リーア相手に私が、どう考えたって勝ち目なんてない。
みんなに認められている聖女で、みんなが敬って、それでいて可愛くて綺麗で性格も良くて、儚そうに見えて芯はしっかりしているし優しくて頼り甲斐もあって、こんなに良い女二人といないというくらいの最上の人だ。
そうか、アーノルドが私を庇ってくれていたのはリーアが好きだからか。
好きな人の仲間ならば優しくするのは当然だ。
さっきのパーティーの話題の時も、リーアのパートナーが誰なのか探りをいれようとしていたのだろうか。
とっくに失恋していたけれど、勘違いしなくて良かった。
万が一、億にひとつでも実はアーノルドは私の事を、なんて思わなくて良かった。
なんて思っている時点でほんの少しは期待していたくせに、言い訳じみた事を考えてしまう。
でもどうするんだろう。
リーアは私がアーノルドを好きだと知っている。
そのアーノルドから誘われて、リーアが受け入れるとは思えない。
それにリーアの相手は例の大型犬騎士に決まっていたはず。
アーノルドは断られるだろう。
『お互い相手のいない者同士、失恋した者同士一緒に出ませんか?あははー』
なんて、弱みにつけ込んで誘ってしまおうかしら。
いやいやそんなの惨めすぎる。
けれどアーノルドならばきっと内心虚しいと思いながらも頷いてくれるだろう。
百パーセント同情でしかないけれど、仕方がないなと受け入れてくれるはず。
(一度だけでも団長にエスコートされて、一曲だけでも踊れるのなら……)
それも良いかもしれない。
どんなに惨めでも虚しくても例え一瞬で夢が終わってしまうとしてもそうしたいと心が叫んでいる。
けれど、でも。
ああもう、こんな時に限って普段は仕事をしていないプライドというものが邪魔をする。
どうせなら私が良いからと誘われて参加したい。
他の人を想っている人と一緒になんていけない、だなんて。
アーノルドがそう言ってくれる可能性はなく、私を良いと言ってくれる人なんていないのはわかりきっているのにそんな事を望んでしまう。
(バカ、本当にバカ)
こんな事ならさっさと告白してすっぱりと振られてしまった方がマシだったかもしれない。
それでもうじうじとずっとアーノルドを見つめ続けるに決まっているんだけれど、今みたいに想いも告げずに影でこっそりと大好きなあの人と大好きな親友の姿を覗き見て勝手に傷付くよりもそちらの方がまだ良かったと思う。
でもでもだっていやいやと考えが纏まらない。
はあ、どんな顔でリーアに会えば良いんだろう。
リーアが断るのはわかっているけれど、確実に嫉妬しているような嫌な表情を浮かべてしまう自信がある。
狡い、リーアは何でも持ってるくせに、色んな人から想いを寄せられているくせにアーノルドの心まで、とリーアは悪くないのに醜い感情を押し付けてしまいそうだ。
(どこかで頭を冷やしてから戻らないと)
アーノルドに誘われている所見ちゃった、隅に置けないんだからもう!
リーアが好きなら私なんて眼中にあるはずないよね!
そう茶化せるくらいの気持ちにならないととてもじゃないけどリーアと顔を合わせられない。
こんな時はお祈りだ。
祈ろう。
祈って頭を空にするんだ。
大丈夫、私は仮にも『聖女』なんだから。
祈るのは得意だ。
祈って頭を空っぽにするのも大得意。
よし、それが良い。
そうしよう。
リーア達がその場から動き出すのをただただ見つめ、ついさっき出たばかりの教会へ逆戻りしようとしたその時。
「こんな所にいたのか」
「!」
突然声を掛けられた。
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