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第四章:絶望の淵、再起の誓い
第六話:守るための剣
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老婆の献身的な看病と、静かな村での日々は、さつきの体と心をゆっくりと癒やしていった。
しかし、完全に癒えることはなかった。日差しが差し込む縁側で、ぼんやりと庭を眺めるさつきの心は、未だ厚い氷に閉ざされたままだった。剣を手にすることもなく、ただ日がな一日を過ごす。かつての復讐に燃えていたさつきの姿は、そこにはなかった。
「さつきさん、少しは食べなきゃ」
老婆が、そっと膳を差し出す。粥と、わずかな野草の和え物。素朴な食事だったが、老婆の優しさが滲み出ていた。
「…ありがとう、ございます」
さつきは、か細い声で答える。食欲はなかったが、老婆の気遣いを無下にはできなかった。
「あんたの目、まだ死んだままだね。生きてるってのは、辛いことも多いが、嬉しいことだってあるもんだよ」
老婆は、静かにさつきの隣に腰を下ろした。その言葉は、さつきの心の奥底に、微かな波紋を広げた。嬉しいこと…。そんなもの、今のさつきには想像もできなかった。
「あたしは、あんたのお母さんをよく知ってる。あの子も、あんたと同じように、優しい心を持った人だったよ」
老婆の言葉に、さつきの胸が締め付けられる。母の面影が、脳裏に蘇る。あの穏やかな笑顔。あの温かい手。しかし、それらは全て、炎の中で失われたのだ。
「…私のせいで…皆、傷つきました…」
絞り出すような声で、さつきは呟いた。藤次郎の傷、小夜の不安そうな顔。全て、自分の復讐心が生んだ結果だ。
「そうかい。でもね、あんたが生きてるってことは、まだできることがあるってことだ。諦めちまったら、それこそ何も残らないよ」
老婆の言葉は、まるで石のように重く、さつきの心に響いた。だが、それでも、さつきは剣を握る気にはなれなかった。復讐の虚しさが、あまりにも大きすぎたのだ。
その日の夕刻、村に不穏な空気が流れ始めた。遠くから、馬の蹄の音と、荒々しい男たちの声が聞こえてくる。
「何事だい…!?」
老婆が、慌てて戸口に駆け寄る。さつきも、何かが起きていることを察し、重い体を起こした。
村の入り口に、武装した男たちが現れた。彼らは、黒曜会の配下と思われた。代官の圧政に加担していた悪質な浪人崩れや、周辺の野盗たちが、黒曜会の力を後ろ盾に好き放題暴れ回っているのだ。
「てめぇら!隠し持ってる米を出しやがれ!逆らえばどうなるか、わかってんだろうな!」
男たちは、村人たちを脅し、わずかな蓄えを奪おうとする。怯える村人たちの声。子供たちの泣き声。
さつきは、その光景を呆然と見ていた。自分は、彼らを助けるべきなのだろうか。しかし、剣を握る意味を見失った自分に、何ができるというのか。
「やめてください…!」
老婆が、男たちの前に立ちはだかった。その小さな体は震えていたが、その瞳には、毅然とした光が宿っていた。
「ばあさん、邪魔だ!」
男の一人が、老婆を突き飛ばした。老婆の体が、地面に叩きつけられる。
その瞬間、さつきの心の中で、何かが弾けた。
怒り。それは、復讐の炎とは違う、全く別の感情だった。自分を献身的に看病し、優しく接してくれた老婆が、理不尽な暴力に晒されている。何の罪もない村人たちが、苦しめられている。
「やめろ…!」
さつきの声が、震える。
男たちは、さつきの方を振り向いた。その目には、侮蔑の色が宿っていた。
「なんだ、女か。ひ弱そうな」
男の一人が、下卑た笑みを浮かべながら、さつきに近づいてくる。さつきは、震える手で、帯刀していた己の刀の柄に触れた。
「…何をする…!」
さつきの目に、怒りの炎が宿り始めていた。それは、憎しみではない。ただ、守るための、純粋な怒りだった。
しかし、完全に癒えることはなかった。日差しが差し込む縁側で、ぼんやりと庭を眺めるさつきの心は、未だ厚い氷に閉ざされたままだった。剣を手にすることもなく、ただ日がな一日を過ごす。かつての復讐に燃えていたさつきの姿は、そこにはなかった。
「さつきさん、少しは食べなきゃ」
老婆が、そっと膳を差し出す。粥と、わずかな野草の和え物。素朴な食事だったが、老婆の優しさが滲み出ていた。
「…ありがとう、ございます」
さつきは、か細い声で答える。食欲はなかったが、老婆の気遣いを無下にはできなかった。
「あんたの目、まだ死んだままだね。生きてるってのは、辛いことも多いが、嬉しいことだってあるもんだよ」
老婆は、静かにさつきの隣に腰を下ろした。その言葉は、さつきの心の奥底に、微かな波紋を広げた。嬉しいこと…。そんなもの、今のさつきには想像もできなかった。
「あたしは、あんたのお母さんをよく知ってる。あの子も、あんたと同じように、優しい心を持った人だったよ」
老婆の言葉に、さつきの胸が締め付けられる。母の面影が、脳裏に蘇る。あの穏やかな笑顔。あの温かい手。しかし、それらは全て、炎の中で失われたのだ。
「…私のせいで…皆、傷つきました…」
絞り出すような声で、さつきは呟いた。藤次郎の傷、小夜の不安そうな顔。全て、自分の復讐心が生んだ結果だ。
「そうかい。でもね、あんたが生きてるってことは、まだできることがあるってことだ。諦めちまったら、それこそ何も残らないよ」
老婆の言葉は、まるで石のように重く、さつきの心に響いた。だが、それでも、さつきは剣を握る気にはなれなかった。復讐の虚しさが、あまりにも大きすぎたのだ。
その日の夕刻、村に不穏な空気が流れ始めた。遠くから、馬の蹄の音と、荒々しい男たちの声が聞こえてくる。
「何事だい…!?」
老婆が、慌てて戸口に駆け寄る。さつきも、何かが起きていることを察し、重い体を起こした。
村の入り口に、武装した男たちが現れた。彼らは、黒曜会の配下と思われた。代官の圧政に加担していた悪質な浪人崩れや、周辺の野盗たちが、黒曜会の力を後ろ盾に好き放題暴れ回っているのだ。
「てめぇら!隠し持ってる米を出しやがれ!逆らえばどうなるか、わかってんだろうな!」
男たちは、村人たちを脅し、わずかな蓄えを奪おうとする。怯える村人たちの声。子供たちの泣き声。
さつきは、その光景を呆然と見ていた。自分は、彼らを助けるべきなのだろうか。しかし、剣を握る意味を見失った自分に、何ができるというのか。
「やめてください…!」
老婆が、男たちの前に立ちはだかった。その小さな体は震えていたが、その瞳には、毅然とした光が宿っていた。
「ばあさん、邪魔だ!」
男の一人が、老婆を突き飛ばした。老婆の体が、地面に叩きつけられる。
その瞬間、さつきの心の中で、何かが弾けた。
怒り。それは、復讐の炎とは違う、全く別の感情だった。自分を献身的に看病し、優しく接してくれた老婆が、理不尽な暴力に晒されている。何の罪もない村人たちが、苦しめられている。
「やめろ…!」
さつきの声が、震える。
男たちは、さつきの方を振り向いた。その目には、侮蔑の色が宿っていた。
「なんだ、女か。ひ弱そうな」
男の一人が、下卑た笑みを浮かべながら、さつきに近づいてくる。さつきは、震える手で、帯刀していた己の刀の柄に触れた。
「…何をする…!」
さつきの目に、怒りの炎が宿り始めていた。それは、憎しみではない。ただ、守るための、純粋な怒りだった。
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