【完結】ぎゅって抱っこして

かずえ

文字の大きさ
60 / 252

60 ◇そういうこと

しおりを挟む
「ただいまー。晃、いる? いっちゃんも。遅くなってごめんね」

 晃は、母の声に、はっと顔を上げた。肩に重みを感じて目を向けると、一太の寝顔が見える。晃が動いたことで一太の体がぐらりと揺れたので、慌ててそっと膝の上に頭を移動させた。
 そこまで動かしても一太は起きることなく、晃の膝に頭を乗せて寝息を立てている。楽な体勢になったからか、良い夢でも見ているのか、くふと笑い声のようなものが聞こえた。晃は驚き、まじまじと一太の顔を覗き込んだ。可愛い寝顔に、寝起きでぼんやりとしていた晃もまた、ほわりと笑顔をこぼす。

「ちょっと、晃、いるの?」
 
 母が、大荷物を抱えて扉を開けて、あら、と口を閉じる。

「しー」
「ごめん」

 声を潜めた母が、二人を見比べて笑顔を見せる。

「それじゃ手伝ってって言えないわね」
「ちょっと動けない」
「はいはい」

 重たそうな買い物袋を机に置いて、にこにこと笑いながら寄ってくる母へ、晃は渋面を向けた。この体勢では逃げられない。

「よく寝てる。可愛い」
「うん」

 母の興味が一太に向いていたのでほっとした。

「何してたの?」

 聞かれて、寝てても落とさなかった手の中の携帯電話を握り直す。そうだ。馬鹿みたいにたくさん撮ってきた写真を二人で眺めていたのだった。晃は、そのまま持ち上げた携帯電話を構えて、一太の寝顔を画面に捉えた。思わず笑みをこぼしながら、シャッターを押す。カシャという音が大きく響いて、わ、うるさかったかな、起きないかな、とはらはらしながら寝顔の写真を確認した。上手く撮れていて、満足して携帯電話を置く。
 顔を上げると、母の驚いた顔が目に入って、はたと母の存在を思い出した。

「あ、ああ、えーと」
「あなた、そんな顔するのね」

 どんな顔だよ、と思ったが賢く口を噤んだ。

「いっちゃんと仲良くできて、本当に良かったわ」
「あ、うん」

 よく分からないが、仲は良いと思うので素直に頷く。

「遊んできたの?」

 そう言いながら母は、荷物の所へ戻って手早く買ったものを取り出し始めた。

「あ、うん。周遊バスに乗って」
「あら、いいじゃない」
「うん」

 くだらない、と思っていた観光場所も、一太と巡ったらとても楽しかった。こんなとこ、誰が来るんだ? と思ったこともあったけれど、それなりに人もいて、笑って挨拶をした。皆、楽しそうに、連れあってきた人と案内板を読んだり写真を撮ったりしていた。
 そういうことか、と分かった日だった。
 一太と行くから楽しいのだ。行く場所は、きっとどこでもいい。一太と行くなら、どんな場所も楽しいに違いない。
 そういうことなのだ。
 晃は、一太もそうだといいな、と思いながら、毎日のシャンプーとリンスでかなり柔らかくなった一太の髪をそっと撫でた。
しおりを挟む
感想 682

あなたにおすすめの小説

【完結・BL】俺をフッた初恋相手が、転勤して上司になったんだが?【先輩×後輩】

彩華
BL
『俺、そんな目でお前のこと見れない』 高校一年の冬。俺の初恋は、見事に玉砕した。 その後、俺は見事にDTのまま。あっという間に25になり。何の変化もないまま、ごくごくありふれたサラリーマンになった俺。 そんな俺の前に、運命の悪戯か。再び初恋相手は現れて────!?

【完結】君を上手に振る方法

社菘
BL
「んー、じゃあ俺と付き合う?」 「………はいっ?」 ひょんなことから、入学して早々距離感バグな見知らぬ先輩にそう言われた。 スクールカーストの上位というより、もはや王座にいるような学園のアイドルは『告白を断る理由が面倒だから、付き合っている人がほしい』のだそう。 お互いに利害が一致していたので、付き合ってみたのだが―― 「……だめだ。僕、先輩のことを本気で……」 偽物の恋人から始まった不思議な関係。 デートはしたことないのに、キスだけが上手くなる。 この関係って、一体なに? 「……宇佐美くん。俺のこと、上手に振ってね」 年下うさぎ顔純粋男子(高1)×精神的優位美人男子(高3)の甘酸っぱくじれったい、少しだけ切ない恋の話。 ✧毎日2回更新中!ボーナスタイムに更新予定✧ ✧お気に入り登録・各話♡・エール📣作者大歓喜します✧

前世が教師だった少年は辺境で愛される

結衣可
BL
雪深い帝国北端の地で、傷つき行き倒れていた少年ミカを拾ったのは、寡黙な辺境伯ダリウスだった。妻を亡くし、幼い息子リアムと静かに暮らしていた彼は、ミカの知識と優しさに驚きつつも、次第にその穏やかな笑顔に心を癒されていく。 ミカは実は異世界からの転生者。前世の記憶を抱え、この世界でどう生きるべきか迷っていたが、リアムの教育係として過ごすうちに、“誰かに必要とされる”温もりを思い出していく。 雪の館で共に過ごす日々は、やがてお互いにとってかけがえのない時間となり、新しい日々へと続いていく――。

【WEB版】監視が厳しすぎた嫁入り生活から解放されました~冷徹無慈悲と呼ばれた隻眼の伯爵様と呪いの首輪~【BL・オメガバース】

古森きり
BL
【書籍化決定しました!】 詳細が決まりましたら改めてお知らせにあがります! たくさんの閲覧、お気に入り、しおり、感想ありがとうございました! アルファポリス様の規約に従い発売日にURL登録に変更、こちらは引き下げ削除させていただきます。 政略結婚で嫁いだ先は、女狂いの伯爵家。 男のΩである僕には一切興味を示さず、しかし不貞をさせまいと常に監視される生活。 自分ではどうすることもできない生活に疲れ果てて諦めた時、夫の不正が暴かれて失脚した。 行く当てがなくなった僕を保護してくれたのは、元夫が口を開けば罵っていた政敵ヘルムート・カウフマン。 冷徹無慈悲と呼び声高い彼だが、共に食事を摂ってくれたりやりたいことを応援してくれたり、決して冷たいだけの人ではなさそうで――。 カクヨムに書き溜め。 小説家になろう、アルファポリス、BLoveにそのうち掲載します。

本気になった幼なじみがメロすぎます!

文月あお
BL
同じマンションに住む年下の幼なじみ・玲央は、イケメンで、生意気だけど根はいいやつだし、とてもモテる。 俺は失恋するたびに「玲央みたいな男に生まれたかったなぁ」なんて思う。 いいなぁ玲央は。きっと俺より経験豊富なんだろうな――と、つい出来心で聞いてしまったんだ。 「やっぱ唇ってさ、やわらけーの?」 その軽率な質問が、俺と玲央の幼なじみライフを、まるっと変えてしまった。 「忘れないでよ、今日のこと」 「唯くんは俺の隣しかだめだから」 「なんで邪魔してたか、わかんねーの?」 俺と玲央は幼なじみで。男同士で。生まれたときからずっと一緒で。 俺の恋の相手は女の子のはずだし、玲央の恋の相手は、もっと素敵な人であるはずなのに。 「素数でも数えてなきゃ、俺はふつーにこうなんだよ、唯くんといたら」 そんな必死な顔で迫ってくんなよ……メロすぎんだろーが……! 【攻め】倉田玲央(高一)×【受け】五十嵐唯(高三)

転生DKは、オーガさんのお気に入り~姉の婚約者に嫁ぐことになったんだが、こんなに溺愛されるとは聞いてない!~

トモモト ヨシユキ
BL
魔物の国との和議の証に結ばれた公爵家同士の婚約。だが、婚約することになった姉が拒んだため6男のシャル(俺)が代わりに婚約することになった。 突然、オーガ(鬼)の嫁になることがきまった俺は、ショックで前世を思い出す。 有名進学校に通うDKだった俺は、前世の知識と根性で自分の身を守るための剣と魔法の鍛練を始める。 約束の10年後。 俺は、人類最強の魔法剣士になっていた。 どこからでもかかってこいや! と思っていたら、婚約者のオーガ公爵は、全くの塩対応で。 そんなある日、魔王国のバーティーで絡んできた魔物を俺は、こてんぱんにのしてやったんだが、それ以来、旦那様の様子が変? 急に花とか贈ってきたり、デートに誘われたり。 慣れない溺愛にこっちまで調子が狂うし! このまま、俺は、絆されてしまうのか!? カイタ、エブリスタにも掲載しています。

【完結】獣王の番

なの
BL
獣王国の若き王ライオネルは、和平の証として差し出されたΩの少年ユリアンを「番など認めぬ」と冷酷に拒絶する。 虐げられながらも、ユリアンは決してその誇りを失わなかった。 しかし暴走する獣の血を鎮められるのは、そのユリアンただ一人――。 やがて明かされる予言、「真の獣王は唯一の番と結ばれるとき、国を救う」 拒絶から始まった二人の関係は、やがて国を救う愛へと変わっていく。 冷徹な獣王と運命のΩの、拒絶から始まる、運命の溺愛ファンタジー!

【完結】好きな人の待ち受け画像は僕ではありませんでした

鳥居之イチ
BL
———————————————————— 受:久遠 酵汰《くおん こうた》 攻:金城 桜花《かねしろ おうか》 ———————————————————— あることがきっかけで好きな人である金城の待ち受け画像を見てしまった久遠。 その待ち受け画像は久遠ではなく、クラスの別の男子でした。 上北学園高等学校では、今SNSを中心に広がっているお呪いがある。 それは消しゴムに好きな人の前を書いて、使い切ると両想いになれるというお呪いの現代版。 お呪いのルールはたったの二つ。  ■待ち受けを好きな人の写真にして3ヶ月間好きな人にそのことをバレてはいけないこと。  ■待ち受けにする写真は自分しか持っていない写真であること。 つまりそれは、金城は久遠ではなく、そのクラスの別の男子のことが好きであることを意味していた。 久遠は落ち込むも、金城のためにできることを考えた結果、 金城が金城の待ち受けと付き合えるように、協力を持ちかけることになるが… ———————————————————— この作品は他サイトでも投稿しております。

処理中です...